謎の転校生兄弟(2)

やだ〜、外した、まずいこと言っちゃったかな、と が後悔していると、カンクロウがあっさり話題転換した。

「じゃ、さっそくスーパー寄ろうぜ」
「え、いいの?いそぐんじゃないの?なんか『ニンム』じゃないの?」
「とうもろこしが手に入らないって話を聞くだけ聞いといてさ、気の毒だな、ハイさいなら、ってのはあんまり薄情ってもんじゃん。
学祭もうすぐだろ?
せめて、何かめぼしい代替え案考えるぐらい手伝うのがクラスメートってもんじゃね〜の」

じ〜ん
うっかり目がうるうるしそうになる。

「・・・ありがと。優しいんだね、カンクロウくんって」

あらら、ずうずうしいはずのカンクロウ氏、こういうのには至って弱いらしい。
顔を赤らめてあさってを向いてしまった。

「そ、そんなにマジで感謝されるようなことじゃねえって。
んで、『くん』はナシな」

ぎくしゃくと2人がしばらく歩いて行くと都合良くスーパーが見えてきた。
カンクロウが指差す。

「ここだろ、安いとこ」

花の男子高生のくせによくご存知で。
まあ、最近は弁当男子などもいるから、不思議でもないか、と は考え直す。
買い物かごを手に、仲よく並んでスーパーへはいる。

・・・・あいにく、ここでもとうもろこしは売り切れ。
J/Aのおじさんが品薄だからと、金につられて(そう決めつけてもいけないが)横流しするのも仕方ないのかもしれない。
だが目前に迫った学園祭実行員としては、おじさんに共感している場合ではない。
なにか違う出し物を考えないと・・・・。
え〜と、え〜と・・・

と、カンクロウが陳列棚を物色しながら提案してきた。

「焼きそばとかは、どう?」
「残念、もう担当クラス決まってるの」
「ちっ、そうだったっけ。じゃあ・・・冷凍パイナップルとか」
「それいい!・・・だけど、うちのクラス遠くから来てる子多いから運ぶのが難しいかも・・・」
「そうだな、それに陳列に氷もいるしな。
とにかく、何か食い物なんだよな、俺たちの学年は」
「そうそう」
「我愛羅たちはお気楽に、なんかの展示だとか言ってたぜ」
「展示の学年もあるからね。
そういえば、どっかのクラスがえらく科学的なテーマ出してくれた、って地学の先生が泣いて喜んでたけど」
「あ、それだよ、それ。
確か砂の中に含まれうる稀少金属の見分け方とかなんとかいうヤツ」
「・・・・すごい固いテーマ。
普通は縁日について、とか、もっと場当たり的なのでごまかすのに」
「まあ我愛羅は砂オタクだからな、言ってみれば」
「え?我愛羅君が提案したの??」
「なんでも全然意見が出ないから、思いつきで提案したら通っちゃったみたいだぜ」
「は〜、思いつくとこがすごい・・・」
「ま、あいつは特別だからな。
それは置いといて、こっちはなんか食い物考えないとな」

そうだった。
何が特別なのか、もうちょっと突っ込みたい気もしたけど、それどころではなかった。

「さすがスーパーは涼しいな。あ、かき氷は?」
「それもとられてるの」
「イカ焼きとかは、高くつくか」
「そうね、予算がね〜」

せっかくカンクロウがいろいろ考えてくれるのだが、なかなかいいのがない。
そんな二人の目の前に出現したのは大安売りの砂糖の山。
自分も何か提案しないと、とあせる は、

「お砂糖かあ・・・べっこうあめとか、どうかな」
「・・・ 、それじゃ小学生の夏休みの自由研究だぜ」
「ははは、そうか」
「あ、でも、べっこうあめね・・・・、いいじゃん!
そっから進化して、ほら、綿あめにしようぜ」
「・・・楽しそうだけど、あれって確か普通の砂糖じゃだめじゃなかったっけ?
縁日でもザラメかなんか使ってるっぽいし」
「大丈夫、我愛羅がいるから、なんとでもなる」
「は?え?我愛羅君が?どうして??」
「いや、それはこっちの話、まあ、まかしときな、なんとかするから」
「え〜、本当に?大丈夫?」

・・・我愛羅君は普通の砂糖から、ザラメとか綿あめをつくれるような、特技というか技術があるのだろうか。
だから特別なの??
さっきも、えらく科学的なテーマを出したりしてたけど・・・。

「我愛羅君って、その、科学者志望とか?」

カンクロウが一瞬目を点にして、そのあと吹き出す。

「ぶっ・・・あいつがか?
まあ、その、なんだ、ちがうけど大丈夫、心配すんなって。
後は綿あめを作る機械だな。
どっかから借りれないか、知らねえ?」

笑われてちょっとムッとしたけれど、これだけ請け負うんだから大丈夫なんだろう。
J/Aのおっさんよりも、この風変わりな転校生の方がずっと信用できそう、と感じる

「綿あめなら、子ども会とか、自治会とかで夏祭りすると必ずやってるから
きっとどこかで機械も借りられると思う。
聞いてみる」
「そうか?まあ、決まらなかったら、こっちも動くから連絡くれよ」

カンクロウがポケットから携帯を取り出した。

「ほら」
「え?」
「メルアド。赤外線で送るから」
「あ、は、はい」

おたおたと携帯を引っ張り出す。

「心配すんなよ、嫌がらせメールとか送んねえからさ、ははは」
「そんなこと、思ってないよ〜!!」

ピピッ

「ほい、終了」
「ありがとう」

でもでも、綿菓子の機械が借りれなかったら心当たりをあたるって・・・普通、公共団体ぐらいしか持ってないでしょうに。
それとも・・・ひょっとして、本格的な縁日のテキ屋さんに知り合いでも居るのだろうか?
なんとなくカンクロウの風貌からは、ない話でもなさそうだ。

きっとまたしても怪訝な顔をしていたのだろう。

「そう、俺って実はヤの人に知り合いいるんだぜ」
「げっ・・・」
「冗談だよ、それともそんなヤカラに見える?」
「い、いや、そんなことは・・ない・・・けども・・・」
「ははは、 って顔に考えてる事そのまんま出るから楽しいじゃん」

さりげに呼び捨て、「さん」抜きにドキッとする。
きっと彼は、自分も相手も「くん」とか「さん」とかなし、と簡単に考えているだけなんだろうけど。
・・・弟からも呼び捨てごめん、だもんね。

「え、えっと、お砂糖どうやって運ぼうかな」
「トウモロコシは、いつもはどうしてたんだよ」
「確かJ/Aで置いといてくれて、前日の準備の日に学校へ運んできてくれてたみたい」
「そんなら、ここだって大量に買えば、砂糖ぐらい運んでくれるんじゃねえの」

甘かった。
たかが砂糖10キロばかりと割り箸をたくさん買ったぐらいでは、安さが売りのスーパーではサービスできないらしい。

「ちぇ、ケチじゃん、まあいいや、俺が運ぶし」
「え?でもけっこう重いよ・・・」
「大丈夫、大丈夫」

心配する を尻目に、カンクロウは通学鞄から特大ラケットバッグを取り出し、ぽんぽん放り込むと軽々と担いでしまった。

「え〜、すご・・・重くないの?」
「こんなの慣れてるから平気じゃん」

しかしどうしてラケットバッグが入っているのだろうか。
しかも、空で。
慣れてるって、どうして?

「カンクロウく・・カンクロウ・・って、テニス部だったっけ?」
「あ、これ?まあ、その、なんだ、いろいろあってさ、いるんだよ」

いまいちはっきりしない答えが返ってきた。
ま、いいか、せっかく運んでくれるんだし。

「重たいもの、ごめんね」
「気にしなくていいぜ、これぐらいなんともないって」

まんざらうそでもなさそうだ。
学校へ向かう足取りは、さっきとまったく変わらない早さなのだから。
・・・それどころか、今の方がバランスよく歩いてるような気もする。

・・・ワンゲルだっけ?
それとも男子ってこんなもんなの?

の疑問はそのままに、カンクロウはさっさと学校の倉庫へ砂糖を運んでしまった。

「よっしゃ、これでOKっと。
あとで綿あめの機械どうなったか、またメールしてくれよな」
「う、うん。今日は本当にありがとう、すんごく助かった」
「気にすんなって。じゃな、お互い『ニンム』がんばろうぜ」

ニヤっと笑うカンクロウ。
ちょっとどぎまぎしながらも、さっきの会話のドジをさりげなくフォローしてくれたのが嬉しくって、 も笑顔で答える。

「ニンム、ね、OK」
「じゃ、またな」

カンクロウはからになったラケットバッグを鞄に押し込むと、まるで忍者みたいに素早く走り去っていった。

*****つづく***** 

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