謎の転校生兄弟(3)


がたがたがた

田舎道を走る若干くたびれた軽トラ。
運転席にはなぜかカンクロウ、助手席には
周りは一面のトウモロコシ畑。
夏の日差しの中、収穫後の葉だけが風にそよいでいる。
なんとも牧歌的なドライブだが、別に の夢の中の光景ではない。

ことの顛末はこうだ。

砂糖を買った翌日の夜。
の携帯が鳴ってカンクロウからのメール着信を告げる。

『綿あめの機械、どうなった(・_・)?』

『あるにはあったんだけど(ーー;)』

すぐ携帯が鳴った。
カンクロウからだ。
ドキドキしながら通話ボタンを押す。

「もしもし、 ・・・」
「で?」

せっかちね、トキメク間もない『じゃん』、と思いつつ返事をする。

「今お祭りのシーズンだからか、めぼしいとこは全部出払ってて、よりによって例のJ/Aにしかなかった」
「でもあったんなら、よかったじゃん。
J/Aのおっさんもトウモロコシの件、悪いと思ったんじゃねえの」
「まあねえ。
ただ、おいてある場所が超町外れで、機械も古くて大型らしいから、どうやって持ってこようか困ってたとこ」
「なんだ、そんなことか」
「そんなこと、って、タクシー使う訳にも行かないじゃない」
「俺が運んでやるよ」
「まさか前みたいにラケットバッグで?」

なんだかカンクロウとしゃべってると、 のキャラもふざけてくる。

、お前な。そうじゃなくて、文明の利器ってもんがあるだろ」
「だって、原チャじゃ絶対無理だよ、大きいっておっちゃんが言ってるもん」
「軽トラがあればいいんだろ」
「そりゃそれが一番いいけど、誰に頼むの?お父さん?」
「誰が。俺が運ぶ、っつっただろ」
「え?だってまだ免許もってないでしょ、高校生なのに」
「フン、実はこの学年2回目なの、俺」
「え?そうなの?」
「まあ、つっこみはなしってことでヨロシク」

別に勉強ができないわけでもないので、意外である。
しかしこれでクラスメートいわくの『なんか老けてる」の謎も解けたと言うもの。

「ま、詳しい事はともかく善は急げ、だ、日もないから明日とりに行こうぜ」
「借りれるの?ほんと??でも、いいの、お休みなのに」
「いいも悪いも、とりに行かないと学祭成立しねえだろ。
軽トラの料金とかは心配しなくっていいぜ、俺って顔が広いから。
それにしても は遠慮しすぎじゃん、みんなにももっと頼めばいいのに」
「だって・・・」

本当は2人でやるはずの係だが、相手の子が全く学校へ来れていないので、ごりおしするわけにもいかず、結局一人でやっているようなものなのだ。

「まあ乗りかかった船だし、俺が手伝うじゃん。
学年途中から来たから何も係とか当たってないしな」
「カンクロウが神様に見える・・・」
「んじゃ、お供え宜しく。明日9時に校門前で待ってるから」

というやり取りがあった結果がこのドライブ。
神様は現役高校生とは思えないほど、軽トラの運転席にハマっている。

「すごい慣れてるね、もうゴールド免許もってるみたい」
あぜ道まがいの田舎の悪路にあわせて、ギアをちゃかちゃかと自在に切り替えるカンクロウを見て感心する
「バカ言うなよ、いくらダブってたってそこまで年食ってねえよ。
で、J/Aの倉庫って、ここらへんでいいのか」
「うん、地図によるとそうみたいよ」
「しっかしこれだけトウモロコシの畑があるのに品薄ねえ」
「ほんとよね〜・・・あ、あれじゃない?おじさんの言ってた建物」
「あ、あれか。ひえ〜、なんともクラッシックな代物じゃん」

カンクロウが言うのもそのはずで、およそ取り壊す寸前としか見えない小屋。
・・・・・そして中にあった機械も勝るとも劣らず。
絶句する

「こ、これですか・・・・」
「ま〜ね〜、ここ何年も使ってないからねえ、でも一応動くとは思うけど」

返事をしているのは、例のおやじである。

「おじさん、ちょっと試運転してみてもいい?」

カンクロウはそう言ったかと思うと、古びた機械をさっさと組み立てて、コンセントを差し込んでスイッチオン。

ぶ〜ん

にぶい音をたてるものの、肝心の真ん中部分が回転しない。

「おじさん、だめじゃん。動かねえよ」
「そういわれてもねえ、前は動いたらしいけど、まあ動かないなら仕方ないな、あきらめてくれ」
「そんな〜」

はせっかくここまで来た上に、他の選択肢を今更選べないので、悲壮な声をあげる。

と、カンクロウが眼光鋭くあたりを見回したかと思うと、急に

「おじさん、トイレ貸してね」

いうなり、奥の扉を開けた。

「こら、そこにははいっちゃいかん・・・」
「あ〜っ、トウモロコシじゃん!
ずりいなあ、俺たちに売ってくれないで、こんなとこにかくしてさあ!」
「こ、こら、人聞きの悪い・・・・」

確かにその小部屋にはトウモロコシが山積みである。

「おまけにこんなボロ機械おしつけてごまかそうとするし〜」
「いや、それはそういうわけでは・・・」
「地元の新聞に訴えちゃおうかなあ、高校生の学祭のための品を横流し、とか」
「違う違う、誤解だ、やめてくれ」
「じゃさ、この機械ただで貸してよ。なら黙っとくし」
「・・・・」
「やっぱり電話しよっかな、古い小屋にトウモロコシの在庫を隠蔽って」
「や、やめんか、人聞きの悪い」
「じゃあ貸してよ」
「・・・まったく、今日びの高校生は、大人をゆするようなまねを・・・」
「どうせまともに動かない機械だろ、でもただで貸してくれたら俺が直して返すからさ」
「しょうがないな」
「じゃ、交渉成立じゃん」

ぶつくさいうおじさんをいなして、カンクロウは機械を箱詰めし軽トラに積み込んでしまった。

「じゃあ、また来週に返しにきま〜っす」

車の窓から渋い顔のおじさんに手を振るとさっさとスタート。

「・・・よく、トウモロコシあるなんてわかったね」
「ああ、ニオイがしたからな」
「え?そう?」
「だって見ろよ、あたり一面トウモロコシ畑で葉っぱばっか。
出荷終わって、もう実なんかないはずなのに、なんで新しいトウモロコシのニオイがすんだ、って話だよ」
「はあ」

全くにおいなんか気がつかなかった は頼りない返事しかできない。

「・・・気の抜ける返事じゃん。ま、ともかくただで借りれたしよかった」
「でも、使えない機械だったら意味ないんじゃ・・・」
「ああ、あれは俺が小細工して動かない様にしただけ。
本当は動くぜ」
「ええ〜っ?!」
「まあ、ちょっと調整しないとだめだろうけどな、大丈夫」
「・・・・」
「いいじゃん、 、お前騙されたんだぜ!?
目には目を、なめられたまま引き下がれるか、っての」

あら、敵討ちしてくれたんだ。
ちょっとうれしくもある。

「・・・ありがとう」
「ま〜ね、俺はやられたらやり返す主義だからな」

でも弟に呼び捨てされても、それは気にしない主義なんだ、と心中つっこんでしまう。

「機械は俺が調整して準備の日にもってくるから」
「ほんと?いいの?」
「いいのも何も、俺しかできねえだろ、多分」
「・・・そうね、多分できないね」
「じゃ、きまり」
「・・・なんかカンクロウめっちゃ嬉しそう、めんどくさくないの?」
「ばれたか、俺こういう古い機械大好き」

弟は科学者で、兄貴はエンジニア、かな。
勝手に想像してうれしくなる

「そう言えば携帯もかなりクラッシックだったもんね」
「言ってくれるね、 のも相当だろ」
「だって新しい操作覚えるの面倒なんだもん」
「若いくせにだめじゃん、お嬢さん」
「へへ」

次々とカンクロウの新しい側面が見えて来て、それが楽しくて仕方ない。
いやだった学祭の係、引き受けて得しちゃった・・・。

「じゃ、送ってくじゃん、俺、機械を家にもってくし」
「さんきゅ〜、助かる!本当にカンクロウって神様だね〜、ありがたや〜」
「おだてたってだめだぜ、お供えは貸し、ちゃんと覚えてるからな」
「やだ〜、まだ言ってる〜」

学祭本番まで、あと数日。

 

*****つづく***** 

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