謎の転校生兄弟 (1)

「ええっ、そんな!」
おじさんだらけのJ/Aの窓口で悲壮な声をあげている女子高生
「毎年おたくの学校がこの時期に買ってくれるから、悪いとは思ったんだけどねえ。
本部からの指示でさ、とりおいた分のトウモロコシを他にまわさなきゃならなかったんだ」

もっと高い値段で買ってくれる客がでたに違いなかった。
・・・・オトナって汚ねえ!
と思いつつ、 はそんなことを、面と向かっていえるような性格ではない。
がっくり肩を落として出て来た。
「どうしよ・・・今からまとまった量買うっていったって、普通の店じゃ予算足りないし。
学祭もうすぐなのに・・・・」

のクラスの出す模擬店の出し物は、校内くじびきで焼きトウモロコシと早くから決まっていた。
そして買い付け先は高校の目と鼻の先にあるJ/Aというのも例年同じ。
あみだで学園祭の実行委員になってしまった は、自分のクジ運のなさをのろいながらも
「ま、毎年同じことやってるんだからなんとかなるでしょ」
と楽天的に構えていたのだが、土壇場になってまさかのフェイント。
やばい、どうしよ、なんか他のもの考えないと・・・でも緊急で決めようっていってもみんなも困るよね・・・
ぶつぶつ言いながら歩いていると誰かが呼んでいるような・・・

「どうしたんだよ サン、シケた顔しちゃってさ」
「あれ、カンクロウくん」

兄弟揃って の通う高校へ編入して来たこの男。
その物怖じしない態度と、厚かましいと紙一重なフレンドリーさであっというまにクラスにとけ込んでしまった。
弟が彼とは毛色の違った結構な美形というのも女子の間では有名になる一因だったようだ。

で、クラスでたいして目立たない にとって、彼、カンクロウ氏は実はちょっと気になる存在。
あんなふうに初対面の人ともおのおじしないで話せたらいいなあ、と憧れにも似た気持ちを持っていた。
けれどいままで話すチャンスもなかったので、こうして向こうから話しかけて来てくれるなんてまったく思いがけない事。
・・・・しかも名指し。

「確かノーキョー行く日なんじゃないの」

へえ、よく知ってるなあ、今日が買い出しの日だってこと。
ちょっとびっくりしつつも、会話が続きそうな感じで嬉しい。

「行ったんだけど・・・・」

話し始めは、そんなこんなでなんとなくうきうき気分の だったが、事情を説明しているうち、
状況の切羽詰まり具合が再認識されてきてだんだんブルーになってきた。

「きったねえな、なめてるじゃん、高校生だと思ってさ」

開口一番カンクロウが憎々しげに言った。
賛同者がいるというのは何事においてもありがたい。
はこの言葉でかなり救われた。

「どーせ、どっかのスーパーの目玉商品かなんかに流れたんじゃねえの、ウチは予算すくねえからな」
「え、予算の事まで知ってるの?カンクロウくんって情報通だね」

転入時にはすでに出し物が決まっていたから、かつ、別に文化祭実行委員でもなんでもないカンクロウが、どうしてそこまで知ってるのかわからず何気なく言う。
いや、それは、とかなんとかカンクロウはちょっと口ごもったあと、続けて

「しかしヤバいな、他のものにするっていったってよ、時間ねえじゃん。
・・・ちょっと今からでも安売りのスーパーよろうぜ」

え?

「もしかしたら、予算に近い額でトウモロコシ売ってるかもしれねえだろ」

なるほど。

「頭いいね〜、カンクロウくんって」

嬉しいのか照れくさいのか、微妙なしかめっ面で彼が首をかきながらいうことには

「あのさ、『くん』ってぬかしてくんねえ?
俺そういうの慣れてないから調子狂っちまう」
「え?あ、そうなの?」
「カンクロウでいいから」
「・・・・はあ」

そのとたん後ろから低い声で

「カンクロウ!」

がぎょっとして振り向くと、どうやらクラスメートが騒いでいた彼の弟のようである。
なるほどなかなかの美男子、しかし兄を呼び捨てにするとは、これいかに。

「なんだよ、お前か」

意外にも兄の方はいたって平気である。
弟に呼び捨てにされて気にならないぐらいだから、クラスメートに「さん」付けされては調子も狂うのかも。
的にはもし自分が弟に呼び捨てされたら、げんこつだな、と思うのだが。

「何油売ってる、今日は夕方から任務だろう」
「わかってるよ、間に合うように行くって。
だいたい、いつも遅れて来るのは我愛羅の方じゃんか」
「フン」

・・・正直、サイズ的には明らかにカンクロウが上だが、態度と口調は弟の方が上(から目線)。
そして、なにやら「任務」とか聞こえて来た気がする。
その隠喩めいた言葉や雰囲気からは、普通の兄弟って感じではない気もしたが、世の中いろいろである。
任務って塾のことなのかな、そういえばアレって、確かに任務だわね。
会話に混ざろうと が一言

「あたしも夕方から任務よ」

急にその場の空気がおかしくなった。
我愛羅がカンクロウの方を睨んで言う。

「・・・報告は?」

慌てたカンクロウが

「いやいや、何かの誤解だって!ありえねえ・・・」
「ありえないのを疑うのが俺たちの仕事じゃないのか」
「それ以前の問題、適性ってもんがねえよ、シノビなんか無理、無理」

シノビ?そんな塾あったっけ?適性検査なんかあるの??

「あの、スイマセン、任務って塾のことじゃないの?」

一気に座がしらけた。

「・・・ああ、そうだ、とは言いがたいな」
「まあいいじゃん、そういうことにしとこうぜ」

は『?』マークを飛ばすしかない。

「・・・カンクロウ、あとは任せたぞ」

弟さんはいきなりすごい競歩で立ち去ってしまった。

 

****つづく***

 

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