我愛羅の海#5

翌朝。
朝食後帰り支度をすませ、宿をあとにしようとする砂3姉弟を、 が息を弾ませて追いかけて来た。
カンクロウとテマリは顔をみあわせて、目くばせする。
「先に行ってるよ。ゆっくり来な。」
「行く先はどうせ我愛羅もわかってるじゃん」
二人は足早に立ち去った。
まだ息を弾ませている をいたわるように、我愛羅は何もいわずに立っている。
ようやく息が整って来た は、開口一番、
「我愛羅さん、誤解しないでね、この私だって、私なの」
と、まるで謎掛けのようなことを言った。
「‥‥どういう意味だ?」
よくわからないといった感じの我愛羅に、 は続ける。
「夜の私は強がりだから、なんだか、昼間の私は本物じゃない、ただのねこかぶりだとかなんとかいうけど、こんな弱気な私だって、私なの。
たとえば、こ、こんな、別れの時には、え、遠慮なく、泣いてしまうような、‥‥情けない役目は、
全部昼間の私、が、引き受けなくちゃならなくって‥‥、そ、そんな姿、見せたくないけど、でも、こんな私も私だって、知っといてほしくって‥‥」
涙がぼろぼろこぼれ落ちるのもかまわず、 は続ける。
「ゆうべはあんな強がりばっかり、言ってたけど、あなたが帰ったら、本当はすごく、悲しい、の‥‥」
思わず目をこすった瞬間に、
「あっ、いたっ」
しゃがみこんで、下をむいてしまった。
コンタクトが落ちたのだとわかった我愛羅は自分もしゃがみこみ、一緒にコンタクトを探してやりながら、
二人の上に砂でガードを作り、日光が差し込まないように影をつくってやった。
「‥‥大丈夫か」
「ええ、ありがとう‥‥我愛羅さんがこんな、ふうに、や、優しいから、嬉しいんだけど、別れるのがつらい‥‥」
顔をあげた の泣き濡れた薄紅の瞳。
夜に見なれた強い光はかげをひそめ、初めて見るやさしい光を宿していた。
「溝がどうのこうのとかって、話をしたけど、その溝に一番苦しんでるのは、わ、私自身なのに‥‥
え、偉そうなこといっちゃって‥‥ごめんなさい‥‥。
大会に付き合ってくれたことも、夕焼けを見せてくれたことも、ずっとずっと忘れない‥‥本当にあ、ありがとう。
みっともないね、こんなに、取り乱しちゃって‥‥笑って見送りたかったんだけど‥‥」
「‥‥また来る」
「‥‥やさしいんですね、我愛羅さんは。
いいんですよ、忙しいのわかってるから‥‥、無理しないで。
そんなこと言って下さるのは嬉しいけど、期待しちゃうと、あとが、つらいから‥‥」
しばらく黙ってコンタクトを探していた我愛羅だったが、目的のものを見つけて、 に手渡すとこう言った。
「‥‥今度は、朝焼けを見せるためにくる」
「え‥‥」
「夕焼けは大丈夫だったんだから、朝焼けも多分見ても平気だろう。
‥‥おれは、昼間の の感想も聞きたい」
「‥‥本当に?」
「ああ。」
「じゃあ、‥‥指切り、して下さい」
「‥‥」
無言で我愛羅は小指を差し出した。
その小指に自分の小指をそっとからめて
「指切りげんまん、うそついたら、針千本飲〜ます‥‥」
呪文をとなえるようにささやく
その子供っぽい、けれど切ない姿に胸がつまった我愛羅は、もう一方の手で、小指をつないだ の手をそっとおさえ、
「俺は、約束はまもる」
と言い添えた。
その我愛羅の瞳をまっすぐに見て、 はやっと、涙目でにっこりした。
「そうですよね、ピクニックにだって時間きっかりに来て下さったんですものね。
信頼して待ってます、私。」
のその目をじっとみながら、
「次の満月の夜に来る。」
と言い切った我愛羅にとまどいを隠せない
「‥‥でも、雨が降るかもしれないですよ」
「降ったら、降った時のことだ。
別に朝焼けは逃げはしない。
その時は、お前と会えればそれでいい」
我愛羅の思いがけない言葉に真っ赤になる
「‥‥我愛羅さんはどっちの に会いたいのかしら‥‥。
きっぱりした か、女々しい か‥‥」
つぶやきを遮るように我愛羅は言う。
「どっちも だ、どちらものお前にもいいところがある。
におれはいろんなことを、教わった。
‥‥次会えるのを楽しみにしてる」
言い残すと、我愛羅は手をそっと離し、 の頬にその手で軽く触れると、かき消すように姿を消したのだった。


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蛇足的後書:短いですねえ、今までに比べると。ここらへんまでは実はサイトオープン前には完成してたんですが、ここからは‥‥
なるようになるさ、です(いい加減)。