バトル・トラブル・ワンダフフル2


「ほう、きみは傀儡師なのかね、何、あの向かい村のやつらを撒いたんだと。
そりゃ頼もしい、うちの村にもそういう人材がほしいもんじゃなあ」
「もう、おじいちゃんたら、さっきからしゃべりすぎよっ、カンクロウが食べられないじゃない。
気にしないで、いいだけ食べてね、ちょっと、たくさん作り過ぎちゃったみたいだし。」
キョウコ の家につくなり、彼女のじいさんにとっつかまって、ずっと話しかけられっぱなしなので、気を使って キョウコ が口を挟む。
まあ、じいさんが何しゃべろうが、別に俺はいただけるものはいただく主義なので、テキトーに受け答えしながらさっさとカレーを平らげた。
「ああ、うまかった、ごちそうさまでした」
「は、はや~い、さすが、忍者ねえ」
「まあ、いつ飯にありつけるかわかんねえ因果な商売だからな」
「はっはっはっ、面白い男だのう、君は。
カンクロウとかいったな。
どうじゃ、 キョウコ を嫁にもらってくれんか」
あやうく吹き出しそうになる。
な、なんだって?!
「おじいちゃんったら、もう、いい加減にしてよっ、何ばかなこといってんのよっ!!
ごめん、カンクロウ、気にしないでね、おじいちゃん、ちょっと、ぼけてんのよ」
キョウコ があわてて割って入る。
「わしはぼけてなぞおらんぞ、 キョウコ 、昔ならとうに結婚していていい年じゃないか。」
「もう、いったいいつの話よっ、今とじゃ時代が違い過ぎるわよっ」
「そうかのう、人間そう簡単には変わらんと思うがのお~、ほっほっほっ」
じいさんは爪楊枝をつかいつつ一人楽しく笑いながら奥の部屋へと消えて行った。
残された俺と キョウコ は気まずい空気に取り残された。
「あ、あのさ、ごめんね、おじいちゃんって、いっつも、あんな調子なのよ。」
「ま、まあ、ちょっと、びっくりしたけど、別に気にしてないじゃん。
それよか、 キョウコ は‥‥オヤいないのか」
「ん‥‥おじいちゃんとおばあちゃんが育ててくれたの。
ほんの1年ほど前におばあちゃんが亡くなったとこで、おじいちゃん、寂しいんだと思うのよ。
だから、あんなこと、言っちゃって、ごめんね。」
まあ、じいさんの素の性格じゃないかなあと、正直思うんだがそれは黙っとく。
「あ~あ、なんか暑いと思ったら、かぶったまんまだったのね、ハハ、忘れてた。」
「ああ、ほんとじゃん」
家に到着するなり、じいさんのペースに巻き込まれたから、フードとるのも忘れたまんま飯食ってたんだった。
二人揃って頭巾を取る。

キョウコ が頭を振った瞬間、栗色の長い髪が波打ってこぼれ落ちた。
無邪気にキラキラ光る黒目がちの大きな茶色の瞳。
ぽわんとした、やわらかそうな桜色の唇。
思わず触りたくなるような、ふっくらした血色のいい頬。
む、むちゃくちゃかわいい、 キョウコ のヤツ。
陰気な黒の衣装でさっぱり見えてなかったじゃん。
森の中でおれにいどむみたいに話しかけてきたヤツと同一人物とは思えない。
赤くなってるのがばれないように顔をそらす。
クマドリしたまんまだし少々薄暗い室内だから、あんまり表情はわからないだろうとは思うが。
「へえ~、カンクロウって、男前なんだあ~」
おい、覗き込むなよっ、ばれるじゃんか、赤面してんのが。
「からかうなよ、クマドリしてるんだし、素顔なんてわかりゃしねえじゃん」
「ふふふ、そんなことないよ?  前言撤回しちゃおかなあ、やっぱ、お嫁さんにもらって~、なんちゃって」
コイツ、実はじいさん似なんじゃないのか‥‥?
「あ、カー子目をあけた! カー子、わかる?
私、 キョウコ だよ」
目をぼんやり開いたカラスにむかって一生懸命はなしかけてる キョウコ 。
ん~、カラスってのは知能は高いんだけど、やっぱ、あんましかわいいとはいいがたい鳥じゃん。
飼ってりゃ情が移って、それなりに可愛いんだろうが‥‥まあ、おれの傀儡も同じことだがよ。
『カ~』
へえ、まるで会話してるみたいじゃん、赤ん坊の時から育ててた、とか言ってたっけ。
なんだか、ちょっとうらやましいような気もする、傀儡は所詮、おれが操ってるだけだもんな。
「よかったあ、気がついて‥‥。
もう心配しなくてもいいよ、カー子、隣村のいじめっこどもは、カンクロウが退治してくれたから。」
そんな、たいそうな‥‥って、隣村のいじめっ子?
「おい、あのカラスどもは隣村のカラスだったのかよ」
「そうよ、まったくあの村の連中ときたら、とことんうちの村と喧嘩する気なのよ、やってらんないわ」
「なあ、なんで、そんなに仲が悪いんだよ。
昔なにかもめたとか」
「‥‥昔は仲良しだったのよ、っていうか、兄弟村だったの、村長がいとこ同士でさ。
うちは養蜂やって生計を立てて、むこう村は隠れ里として生計を立てて。
お互いに必要な時は仕事や人員を交換したりもしてたの。
でも、くだんない事件がもとで仲たがいしちゃったのよ」
「どんな事件?」
「ハチに刺されたの、隣村の村長の跡取り息子が。」
「ハア?そんなことか?」
「それがさ、その人ハチアレルギーだったらしくて、かなりひどいショック症状を起こしたらしいの」
「‥‥運の悪いやつじゃん、でもそんなの、こっちのせいなのかよ?」
「そこよ!だいたいが、刺したハチってのが、ミツバチじゃなくて、スズメバチだったんだから、うちの村とはなんの関係もないのに、誰か、この村同士を仲たがいさせようと企んだらしくて、いつのまにか、うちの村が悪者にされちゃったの」
「それで、こんなに仲悪いのか」
「それだけじゃないの。同じ頃にたちの悪い病気がはやって、それの症状がさっきのアレルギー症状とにてたもんだから、隣村もその流行病にやられてるって、うわさがたっちゃって、仕事の依頼ががくんと減って大変だったのよ。」
「で、それもこの村のせいになったってことじゃん」
「その通り。
それからっていうもの、よるとさわると喧嘩ばかりで、さっきのカラス、覚えてるでしょ。
あんな忍烏まで使って、私たちの姿を見ようものなら、攻撃しかけてくるのよ、たまんないわ。」
おっと、忍烏で思い出した、はやいとこ、クロアリを掃除しなきゃ。

近くの川に案内してもらってゴシゴシやる。
文字どおり、クッソ~じゃん、カラスのフンがこびりつきやがって、クロアリがなかなかきれいになんねえ。
カラスのフンが臭くないのがまだしも不幸中の幸いだな。
「シロアリのままにしといたら~」
のんきに キョウコ がいいやがる。
「冗談じゃねえよ、大切な忍具をよごされたままにしとくわけにはいかねえじゃん」
「ふ~ん、忍者って、大変ね。
隣村の連中も、やっぱり、忍具をこんなふうに大切にしてるのかなあ‥‥」
「そりゃ、そうじゃん。
自分の命を守ってくれる道具なんだからな。
アイツら、地味な忍者だけど、なかなかよく訓練してるみたいじゃん。
普段は農家して、カモフラージュしながら、なんだろ。
たいしたもんだよ」
「そっか‥‥仕事の依頼もぼちぼちきてるみたいだし、いいかげん仲直りしてくれたらいいのに。
仲良しの幼なじみとか、親戚とかいるし、けっこうつながり深いんだもん。
‥‥寂しいよ、本当は」
「交渉とか、しないのか」
「どうも交渉の中心になってる偉いさん連中が仲悪いみたいで、全然進展しないの。
民間ではもううんざり、早く元通りになりゃいいのにって、みんなおもってるんだけどさ」

そりゃ気の毒だな。
がっかりしてる キョウコ をみてるとついおせっかいをやきたくなる。
なにかいい方法はないもんだろうか、って、なんで俺はこんなことに巻き込まれてんだよ。
早く里へもどんなきゃならねえってのに。
でも、いったん話を聞いちまった以上、ハイさいですか、さいなら、とはいかなくなっちまった。

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蛇足的後書:とりあえず少しはドリームっぽくなってきましたでしょうか?
本当の忍者ってのはけっこう地味な仕事してらっしゃたらしいので、そのあたり触れられたらなあなんて思ったり(身の程知らず)。
戦闘シーン、今頃困ってたりします(オイオイ)^^;