バトル・トラブル・ワンダフル 1
風をきりさく音とともに、鎌がうなりをあげてこちらを狙ってくる。
まいったな、鎌ならテマリの専売特許、オレはこういう接近戦は苦手ときてるじゃん。
任務の途中で立ち寄った何の変哲もない農村。
まさかそこが、忍びの里の一つとは。
もちろん砂や木の葉といった大きな隠れ里の比ではないが、なかなかどうして、よく訓練された面々が揃っているようだ。
幻術やなんかを使う高等な忍術使いはいないようだが、地味な道具を使いながら、体を張って攻撃してきやがる。
そこそこ体術でかわすものの、俺は基本的にじかにやりあうのは得意じゃない。
なんとかカラスを使いたいが、距離をとろうにも、多勢に無勢、誰彼順番にむかってきやがる。
ちっ、しかたねえ、チャクラの損を覚悟で影分身で揺動といくか。
多重影分身の術!
4体の分身を作り出し全員がバラバラの方向へ走り出す。
案の定、連中はどれが本物か分からず、統制が乱れ、混乱しながら、好き勝手な方向へ散り散りに分身を追いかけはじめた。
この隙におれのほうも少しでも遠く、やつらから離れなくては。
全速力で森の中へ走り込み、木立から木立へ飛び移る。
影分身の術のもつのは、あと2、3分てとこか。急がないと。
ばしん!
突然頭に衝撃が走り、何かが上から降ってきたとわかる。敵か?
頭巾かぶってて助かったぜ。
いったいなんなんだよ、と落ちてきた物体をつかみあげると‥‥‥
カ、カラス?
誤解してもらっちゃ困る、おれの傀儡は背中にちゃんといる。
これは、正真正銘本物のカラス。
おい、しゃれになんねえぜ、背中にも、頭にもカラスなんて、ごめんじゃん。
が。
すごい殺気を感じて見上げると、うわあ、空一面を覆い隠すかと思えるほどのカラスの軍団!
なんだってんだよ、このカラスのせいかよ? おい、おれがやったんじゃねえよ!!!
コイツが勝手に降ってきたんじゃん!!!
しかし、言葉の通じる相手じゃねえな、ここは一時避難だ。
チャクラの糸で引っ張ってきていたクロアリを呼び寄せ、中に入り込む。
捕獲用の傀儡だが、別に使い道は一通りじゃねえ、必要ならシェルターにすりゃいい。
ちっ、あわてて落ちガラスまでいっしょにいれちまった、まあ、いいだろ、あとでどっかに捨てるさ。
がんがん衝撃を感じる、てことはカラス軍団がクロアリを攻撃してるってことだな。
よ〜し、カラスの毒煙玉をかましてやる、キツツキみたいにクロアリに穴あけんじゃねえよ!!!
シュカッ
かすかな摩擦音のあとは、きゅうに振動がやみ、カラスどものいまいましい鳴き声もぴたりとやんじまった。
今ここでのこのこ出て行ったら、自分で墓穴掘ることになるな、煙の効果が消えるまで我慢我慢、と。
半時もたっただろうか、もう、煙は消えてるはずだ、敵の気配もないし。
クロアリのなかからゴソゴソと這い出る。
あ〜あ、やっぱ、窮屈じゃん、避難場所には便利だがよ。
思いっきりのびをして、確認のために周辺を見回す。
お〜お、カラスの死骸が累々と‥‥‥申し訳ないような気もするけど、自分を守るのが先決だからな。
が。
こ、この、クソガラスどもめ、クロアリがハト糞ならぬカラスの糞だらけで、まっしろじゃねえかっ!!!
さっき感じた衝撃は突かれたからだけじゃなく、上から集中砲火をくらったからなのかよっ!
クロアリじゃなくて、これじゃシロアリじゃん、トホホ‥‥‥
さて、おれの手の中に伸びてるこのカラスだが‥‥‥
ありゃ、なんか足に結び付けてある、てことは忍鳥か。
なんの連絡だろう、と文書を紐解くと‥‥か、買い物リストォ?
にんじんやら、たまねぎやら、八百屋かスーパーの店頭に並ぶ品々の名前の羅列。
いや、まて、ひょっとして、なにかの暗号かも‥‥‥
しかし、どう見ても、やっぱり、カレー用の買い物って感じじゃん。
おいおい、じゃあ、このカラスはだれかのペットで、ひょっとして、野生のカラスどもにやられてたのか?
「ちょっと、あんた!」
威勢のいい声に振り向くと‥‥な、なんなんだ、おれと同じような黒子の衣装を着た野郎がこっちをにらみつけてる。
「あたしのカー子になにしたのよっ」
カー子‥‥ひでえネーミングじゃん‥‥しかも、女かよ?
「なんにもしてねえよ。コイツが勝手に落ちてきたんじゃん。
俺の頭に激突しやがったんだ、他のカラス野郎から助けてやったんだから、怒られるなんて心外だな。
逆に礼の一つも聞かせてもらいたいくらいじゃん。」
こっちも、コイツを睨み付けて言い返す。
下に折り重なってるカラスどもの死骸に気が付いたソイツはびっくりした顔をしたあと、俺の方を見て、さっきまでの威勢はどこへやら、申し訳なさいっぱいの声で謝った。
「ごめんなさい、てっきり、カー子をいじめてるヤツかと思っちゃって‥‥」
「おまえのカラスなのか」
「そう。赤ん坊のときから育ててるから、もう野生に返しそびれちゃって」
「ふ〜ん、温室育ちってわけか。そういや、かなりいびられたんだろうな」
手の中で傷だらけになったカラスを見遣る。
「カー子、カー子、しっかりしてよ」
半泣きになりながら、俺から受け取ったカラスによびかけてる。
「まあ、ちょっと、回復には時間がかかるかもしんないし、つれて帰ってやりな」
「うん。‥‥コイツらから、カー子を守ってくれたのよね、ありがとう」
「礼なんかいいじゃん、偶然だったんだし」
しかし、あのリストは何だったんだろう‥‥気になる。
「なあ、あの、足につけてたのは、何だったんだよ。
悪いけど、一応見せてもらったんじゃん、どう見ても買い物リストだったけどなあ」
「ああ、あれね。何も役に立たないペットだと、家で肩身狭いから、せめて伝書烏くらいには育て上げようと思って、訓練中なの。」
「で、なんで買い物リストになんの」
「だって、他に思い付かなかったんだもん。今日はカレーにするつもりだったし。
ゆくゆくは、リスト持って飛んでって、買い物してきてくれたらいいなあ、なんてさ」
カラスににんじんとイモとタマネギ運ばす気かよ、ちょっと気の毒じゃん。
「ま、じゃあ、俺行くわ」
言ったとたん、さっきのカレーという言葉に腹の虫がでかい音で反応しやがった。
カー子の主人がちょっと笑いながら言う。
「おなか、減ってるんじゃないの。よかったら、うちでカレー食べてってよ。
カー子助けてくれたお礼に。」
「ありがたい申し出だけどよ、俺、なんか知らないけど、この森のむこうの村のやつらに追われてんだよ。
お前まで巻き添えくわせちゃわりいじゃん」
「大丈夫よ、あそこの村のことならよく知ってる。
多分、あなたのその格好がまずかったんだわ」
「そういえば、お前も俺と似たような衣装きてるな」
「うちの村の衣装なの。で、もう分かったと思うけど、隣村とうちの村は犬猿の仲、ってわけ。
あなたはその巻き添えくっちゃったのね。
途中で説明するわ、さ、行こ、行こ。」
村の衣装? 傀儡師の巣窟なのか?
いやいや、傀儡師だけが黒装束着てるって決まりはまるでないわけだし、いったい、どういう村なんだ。
好奇心も手伝って、引っ張っていかれるままに彼女の村へと進んだ。
道すがら聞いたところによると、カー子の主人の名前は
、なんでも村は養蜂をやってるらしい。
なるほど、それで、このずきんつきの衣装なのか。
おれのと違って、たしかに
のそれにはハチ除けのネットもついていた。
しかし、なんで忍者の村と、養蜂の村が仲たがいしてるんだろうな、まあ、おいおいわかるだろう。
おれも傀儡を2体も引き連れてる都合上、通り一遍の自己紹介はしといた。
傀儡師で忍者だってことと、名前ぐらいだが。
それ以上は
の家についたとたんに飛び出してきたやけに元気なじいさんに遮られて無理だった。
蛇足的後書:ええっ、3回しか名前変換がない、これでもドリームといえるのかコレ!?
すいません、2以降はもっと出番ありますんで‥‥導入ということでご勘弁を。
カンクロウの戦闘ものって書いたことないんで、書いてみよっかな〜、と無謀にも始めました。
タイトルからして行き詰まることほぼ確実の自爆シリーズです、ごゆるりとおつきあい下さいませm(__)m