我愛羅の海#1

白くきめ細かい砂がサンダルからこぼれ落ちる。
砂の国のはずれにある海辺に、我愛羅はいた。
散歩ではなく、任務と言う名の清掃作戦を言い付かって。
3兄弟あてに海辺での任務の依頼がきた。
我愛羅が日中海でパトロールなんてごめんだ、と一言言ったら、夜の掃除を割り当てられた。
‥‥まあ、一人で気楽に時をすごせるという意味ではよかった。
我愛羅にかかれば、砂浜のゴミ拾いや整地なんて一瞬で終わってしまう。
砂をもちあげておろせば、布団の上げ下ろしなみの簡単さだ。
あっという間に仕事が終わった後は、長い夜が待っている。
どうせどこにいても不眠症の彼だ。
白い月の光を不規則に散らしながらゆったりと揺れ動く漆黒の海。
明るすぎる月に現実味を失い、まるで作り物みたいにインクブルーの空にぽかんと浮かぶ白い雲。
彼等と一緒に砂浜をさまようのも、また一興。

我愛羅の足音だけが響く浜辺。
目を遣れば、白い月明かりでできた道が海面に続き沖の方まで伸びている。
(‥‥今日は海面を散歩といくか。
砂なら海底にいくらでもある。)
あまり地形を変形させるのも後が面倒なので、観光客がよりつかない険しい岩場近くを選ぶ。
幸か不幸か有名人の我愛羅は日中の海水浴場なんて歩く気がしなかった。
皆の視線を耐えるのがつらいのだ。
こうして、一人夜と過ごす方が性にあっている。
海に足を踏み入れると同時に砂を呼び、足下に小さな足場を作り海面をゆっくりと滑るように移動して行く。
まわりには何もなく、くだけ散る波と夜の闇ばかり。

が、かなり沖の方へ来た時、そこにあった岩山の洞窟のような穴からかすかな話し声が聞こえてきた。
(誰だ、こんな時間に‥‥?)
そっと中の様子を伺う。
幸い今夜はほぼ満月で非常に明るく、普段なら到底見れないであろう洞窟の中も反射でかなりよく見えた。
月光はもともと青白いものだが、そこにいた連中もまけずに蒼白に見えた。
一頭の白いイルカと、傷付いているらしいそれに話しかけて介抱する‥‥やけに色の白い‥‥少年?少女?
短いシルバーヘアでは、ここからではどちらとも判断しかねた。

「誰だっ?」
声から判断すると少女だ。
我愛羅の気配に気が付くとは、一般人のようだがなかなかカンのいい人物らしい。
「‥‥通りすがりのものだ」
「‥‥こんなとこに通りすがりもへったくれも、ないだろ‥‥あんたって変わってる‥‥」
「‥‥変わってるのはお互い様だ。お前こそ、こんな夜中に何をしている」
「イルカの介抱してんだよ、見りゃ分かるだろ、ケガしてるんだ」
「‥‥ちょっと見せてみろ」
手のひらにチャクラを集める。
我愛羅は特に医療忍術を習ったわけではないが、あのナルトが回復力抜群なのは、九尾を体内に飼ってるからだと気付いてから、タヌキの力を宿主の権利として活用し始めた。
どうせ出て行ってもらえない相手なら利用するまで。
イルカの怪我をしている箇所にそっと手をあてがう。
ヴン、と軽いうなりとともにチャクラが、イルカに注ぎ込まれた。
苦しげだったイルカの息が少し楽になったようだ。
「うわあ、すげえ‥‥あんたって、魔法使い?」
「‥‥非現実的だな。忍者だ」
「ああ、そう。どっちにしろ、すごいな、礼を言うよ‥‥あ、あんた、どっかで見たと思ったら‥‥」
我愛羅も少女が自分たちの宿舎になっている、宿屋の娘だと今さらながら、気が付いた。
宿舎に着いた段階で一応自己紹介はお互いすませていた。
少女の名は 。我愛羅と同じ年頃だったはずだ。
その時は和服姿のはかなげな美少女に見えたのだが、今目の前にいる少女にはその片鱗もうかがえない。
おまけにこの口の聞き方、声は少女だが、どう考えても男のそれではないか。
とか、いったな‥‥普段はカツラでもつけてるのか。コンタクトも。」
「ふん、ばれちゃしょうがないな。
こんな素顔さらしたら、うちの宿は閑古鳥になっちまうから仕方ないだろ。」
我愛羅も色は白い方だが、少女の肌はそれを通り越した透明に限りなく近いほどの白さだ。
その瞳は、色素がほとんどないため、薄紅に見える。
注意しないとどこを見ているのかわからない。
白髪が縁取るその風貌はまるで、かげろうのようだ。
「気持ち悪いとか、言うなよな、好き好んでこうなわけじゃないんだからよ。
‥‥日中は日差しが強すぎて、変装しても出歩くわけにもいかないし、夜が活動時間なんだ。
で、あんたはなんでこんな時間にうろうろしてんだよ」
こんなにポンポン自分に向かってものをいう人物とはめったに出会わない我愛羅は、ちょっと面食らい気味だった。
それに別に気持ち悪いなどと思ってはいなかった。
確かに毛色は変わっているが、それはそれで独特のある種の美しさが感じられたのだ。
が、とりあえず、そのことには触れず、 の質問に答える。
「‥‥掃除だ。浜の」
「掃除ィ?ああ、任務でそれがあたったのか、ごくろうさんなこって。
我愛羅、だっけ?あんたも貧乏くじひいたもんだな〜、ここへくる観光客ももちっとマナーよかったらいいのに。
平気で浜にごみをすてるんだから、なってないよ」
「‥‥別に大変でもないが」
「え?何言ってんだよ、自分が昔やらされてたんだから、どんだけ大変かは知ってるよ」
「だから言っている、別に大変じゃない」
「あ、そう。フン、忍者だと思ってえっらそ〜に!」
(ずいぶん短気な女だな‥‥外見は大人しそうなのに)
言葉でやりあうのは無口な我愛羅にはめんどうだったので、黙ったまま、少し離れてはいたが、浜辺の砂を持ち上げておろす、という技を にみせてやった。
「‥‥‥!!!!」
これにはさすがの も驚いたようで、しばしぼうぜんと浜の方を見ていたが、急にハッとして東の空をみた。
「きゃあ、しまった!もうじき夜が明けちまう!」
「‥‥なんだ、それが何か問題なのか。」
「日光だよ!浜まで岩場を歩いて行ってる間に夜明けになっちゃう!
ごめん、また夜になったら様子見に来る!」
白いイルカをひとなですると、 は外へ飛び出した。
我愛羅もそれに続く。
確かに空はだいぶ明るくなってきていて、いくら少女が通いなれた道とは言え、浜辺まで海水に半分埋もれた岩だらけの道なき道を歩いている間に、夜は明けてしまいそうだった。
我愛羅のことなどすっかり頭から消えてしまっているかのように、大慌てで、海水を盛大に撥ねかしながら走って行く
しばらくその後ろ姿を眺めていた我愛羅だったが、すっと手のひらを立てて砂を呼んだかと思うと、あっというまに のところまで追い付き、後ろから彼女を自らの乗る移動する砂の足場にひっぱりあげた。
「きゃっ、な、何すんだよっ」
「それでは間に合わない‥‥なんのカバーもなしでは色素のないお前は日光でやけどしてしまうのだろう。
送って行く」
「な、なんだ、これっ」
ハイスピードで海面を移動して行く砂のかたまりに はどぎもを抜かれたようだ。
「‥‥なんでもいい、とにかく落ちないように乗ってろ、すぐに着く」
有無をいわせない我愛羅の返事に、さすがの強情っぱりも口をつぐんだ。
滑るように走るように波一つたてずに進んで行く砂の船。
心なしか、はじめは不安そうな表情をあらわにしていた も、その不思議な乗り心地を楽しんでいるかのように見える。
あっという間に浜辺へ到着。
しかし、加速度的に空は白んで行く。
宿まではいくら急いでも10分はかかる。
我愛羅は自分がたすきがけにしている布を取ると、 にさっとかぶせてやった。
「え‥‥」
「これで少しは日光を防げるだろう。さあ、急ぐぞ」
先に立って走り出した我愛羅のあとを今度は が追いかける。
なんとか、本格的な日の出前に、2人は宿へ到着した。

 

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蛇足的後書:カンクロウばかりじゃだめと思って書いてみたものの、難しいお人です。なんせ無口ですから、そこを補う情景や心理描写がいるわけで、私の腕じゃかなり無理があると今更気がつきました。
まあ、あまり期待せずにぼちぼちと。
2004年10月ごろに初稿を書きました。