『コスモス』
ネジくん。
お元気ですか。
もうこの世にいないあなたに、お元気ですか、はないとは思うけど。
ネジくんはいっつも修行ばっかりしてて、私の思いなんて伝える間もないままだったなあ。
中忍試験がおわるまでは、特にすごく恐い顔で、とりつくしまもなかったっけ。
でもナルトくんと試合してから、ネジくんはすごく変わったよね。
日向の家の亡霊に取り付かれたみたいだったのが、本来のアナタにもどった、そんな感じだった。
憎しみ一色の生活が、生きていることのへの感謝と喜びをとりもだした、とでも言ったらいいかな。
以前なら絶対見せることのなかった笑顔が、あなたの顔に浮かぶようになったっけ。
びりびりするような、はりつめた空気が姿を消して。
よく空を見上げてたね、本戦前も、そのあとも。
自由に飛ぶ鳥を探して。
白眼の修行だと言ってたけど、それ以外の時も無意識にやってたんだよ
あなたは気付いていたのかどうかわからないけど。
今日の空は、よく晴れて、切ないくらいに青いよ。
高い、高い秋空。
鱗雲もなくて、ただ、青一色。
ツバメたちが去っていった夏を懐かしむようにすいすいと飛び交う。
最後の渡り仕度に忙しいんだろうな。
ネジくんは、もう行ってしまったんだよね。
いつかは、みなが帰る場所へ。
そんなに急がなくてもよかったのに。
今頃、お父様と再会して、喜んでるかもね。
お父様はこんな早くにあなたが来るとは思ってなかっただろうけど。
そちらでも季節は秋ですか。
コスモスは同じように咲いているのかな。
「宇宙」という意味も持つコスモスという言葉は、この可憐な花に似つかわしいのかなあ
なんて、初めてこの言葉の意味をきいたとき思ったけど。
風に揺れているこの花をみていたら、それでもふさわしいのかもしれないと思えてきた。
過ぎ去った激しい季節への追憶を呼び覚ますこの花に。
此処も、彼方も、ともにのみこむ宇宙という言葉は。
まだあなたと同じところへ行けない私は
こうして地面に寝転がってコスモスが揺れているのを見ていることしかできない。
今はただ涙でいがんでいく青空を、コスモスといっしょに眺めているだけ。
いつかは、ネジくんのいる高みへと飛べるのだろうか。
おいてけぼりをくった私が、新たに第一歩を踏み出すには、まだ時間がかかりそうです。