ホワイトデー

「カンクロウってさ、返してくれないよね」
は?という表情。
「俺、 から借りたものなんかあったっけ?」
わかってないのか。
「だ〜か〜ら〜、ホワイトデーじゃない」
ああ、あれ、って顔ね。
「それぐらい知ってるぜ、3/14だろ。次の水曜だっけ」
知ってる、知ってないはこの際関係ない。
重要なのはバレンタインのお礼をする、という意識があるかどうかだっての!
兄弟のこと持ち出されるのってやだろうな、と思いつつ口が滑る。

「アンタの弟は、ちゃんとお返し、してくれてるって聞いたわよ」

その気はないが、って断りつけてらしいけど。
まあ、彼相手に義理チョコ渡す人もいないだろうからそれぐらいする必要もあるでしょうね。
案の定、カンクロウの目が不愉快そうになる。

「同じ兄弟っていってもずいぶんちがいますコト」

自分はすごいブラコンのくせに、他人に弟とくらべられるのは大嫌いなカンクロウ。
でも断られてるのに返事がもらえる彼女達と本命のはずなのに何も返ってこない私、理不尽だという思いがひっかかったままだったから、つい。
初めての時はチョコ渡せただけでも嬉しかったし、一ヶ月も待つ必要なくソッコー返事だったから気にも止めなかったんだけど。

「フン、兄弟は他人の始まり、じゃん」

鼻の上部にシワ登場、目つきがさらに悪くなる。
あ〜あ、やっちゃった、私のドジ。

「さ、悪いけど任務だからもう行くぜ」
「え、もう?まだ時間あるんじゃないの、直行すれば‥‥」
「カラス取りに戻るんだよ。
傀儡なしじゃ任務にいけねえじゃん、民間人の だってそれぐらい分るだろうが」
「ごめん‥‥」

何よ、また傀儡ね!‥‥人外にヤキモチ、悔しくも空しい。
気まずいままお開きになる。

‥‥本当はお返しなんてどうでもいい。
ただ、何かに託してはっきり気持ちを表してもらえる、そのことが羨ましかった。
もちろん嫌いならこうして一緒にいるはずもないのは百も承知。
そして表裏の無いストレートな人柄に惹かれたのも事実。
でもさ、やっぱ、私も所詮凡人だから好きな人からプレゼントもらえたら嬉しいに決まってるじゃない。
バカヤロー!

*****
むなしいだけのホワイトデーにさらばとばかり、無理矢理友達と予定入れたまではよかったけど。
一方的にノロケをきかされるだけだったわ、いっそ家にこもってた方が良かったかな。
戸を開けようとカギを取り出す。

「よう、

ぎょっとして振り向くと「カ」のつくカレシ。
「な、なに?」
「こないだは悪かったじゃん」
カンクロウから差し出されたのは、おおっ、うそでしょ、バラの花束っ!!
意外性ナンバーワンは木の葉の専売特許ってワケでもなかったらしい、などと混乱しつつ思う。
「いつも、サンキューな」
ど、ど、どうしたっての、熱でもあるんじゃないの、カンクロウさん?
お礼の言葉も出てきやしない!
「なんだよ、受け取ってくんなきゃかっこつかねえだろ!?」
「あ、あ、ありがと‥‥」
ぎこちなく渡される花束をこちらもおなじぐらいぎこちなく受け取る。

ビューッ

突然春の突風が吹いて、私もカンクロウもよろめく。
‥‥ん?
ちょっと、ちょっと、ちょっと〜っ!!
コレ、カラスじゃないっ!
今かすかに傀儡音が聞こえたわよっ!
任務なら絶対こんなヘマしないんでしょうけど、純粋にプライベートだから油断したわね〜。
いくら私がしろうとだからって、だてに長年傀儡師のカノジョやってないわよ?!
影分身ならいざ知らず。
‥‥大方照れくさいのと、あんなことの後で顔を合わせにくいから、ってんでしょ。

クスッ

そっちがその気なら、こっちも、ね。

「ありがとう、ものすご〜く嬉しいっ」
思い切り抱きついて唇にキスする。
固まるカラス。
チャクラの糸を通して術者の後悔が伝わってくるよう。
普段の私なら絶対にしないリアクションでお返しよ、しまった、と思ったって遅いんだから!
「上がってく?」
私も人が悪いなあ、相手がカラスとわかったとたん、チョー積極的。
「い、い、いいい、いいっ!
これから任務じゃん、あばよっ」
傀儡のくせに赤面して消えやがった。
‥‥本当に困ったチャンね。
後ろでせっせと操る暇あるなら本人が登場すりゃいいものを。

ビューッ

おっとっと、せっかくのバラ、春の嵐に花びら一枚だってやるもんですか!
ドライフラワーにして永年保存決定よ!
カンクロウが来る度に目に入るように玄関に飾っといてやるわ!
‥‥カラス、ぼっこぼこにされてなきゃいいけど。
するわけないか、命の次に大事な忍具、だもんね〜、フフン。
これに懲りたら次はちゃんとご本尊を拝ませて頂戴ね!

傀儡とカンクロウ本人にちょっぴり敵討ちしたような爽快な気分。
は鼻歌なんぞををうたいつつ、花束を手に部屋へ消えたのでありました。

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