サプライズ

ミシッ‥‥

いやな音を立ててくずれる足下。
そのかすかな気配に反応して、彼女の方を4つの目が向く。
とっさに の手は印を結んでいた。

誕生日だからびっくりさせてやろ!
と計画をねっていたら、任務でいなくなってしまったカンクロウ。
学生に成りすましとある学校内の様子をさぐるという、
いたって簡単なDランク任務。
どうやら公然と休みをとりにくい彼らの任務という名目の息抜きらしい。
‥‥なによ、一言位ことわっておいてくれてもいいじゃない?!
任務がいつはいるかなんて前もってわからないのは だって百も承知だ。
でも、よりによってこのタイミング、
はどうしても納得がいかずこっそり彼らの様子を伺いにきていたのだが。

あ〜あ‥‥
足場の板が割れて、道路脇の溝に腰まで浸かってしまった‥‥
自分のどんくささにげんなりした の目の前に現れたのは巨大なカンクロウの手のひら。
「ギャ〜ッ!!(部分倍化?!)」
叫んだけれど、 の耳に聞こえたのは黄色いネコの声だった。
「こらこら、暴れんなって!
どんくさい奴だな、ドブにはまるなんてよ〜」
「カンクロウ、そんなノラネコ放っておけ」
え‥‥あたし猫になってんのか。
そういえばさっき、とっさに印を結んだっけ。
でも、『そんなノラネコ』といわれ何かむかつかなくもない。
「‥‥どうせ長くいないのにかえって可哀相だろうが」
ああ、我愛羅はやっぱホントはやさしいんだわ、と勝手にほろり、都合のいいネコである。
「まあいいだろ、今日だけさ。
ケガしてるみたいだから、コイツ」
「‥‥どれ」

うおっ、カンクロウと我愛羅のドアップ!
動揺した は、つまみ上げられたままつい手を振り回す。
ガリッ
「いてっ!」
えっ、きゃあ〜っ、ごめん、カンクロウ!
ニャーニャーニャー
「いってって、このやろ、思い切りひっかきやがって!」
ほっぺたをおさえるカンクロウ。
「ぷっ、ざまあないな。
しかしクマドリを描く手間がへったんじゃないか」
「バカいうなよ!クマドリは芸術だぜ」
「‥‥フン、オレは『芸術』とかいう言葉は好かん、先に行ってるぞ」
急に不機嫌になった我愛羅はカンクロウとネコの を残し、たったか先に行ってしまった。

「ありゃりゃ、余計なこと言っちまったな‥‥お前のせいだぞ、コラ」
をつついて睨みつけるカンクロウ。
「知らないわよ!あんたが無神経だからよ」
はこういってやったつもりだが、みゃあみゃあという言葉にしかならない。
「へっ、何言ってんだか。
まあいいや、大人しくしてりゃすぐそのケガ、手当てしてやるからさ」

なによ、ケガケガってこれぐらい大したことない‥‥
見て仰天。
足がふともものあたりでざっくり切れている。
人間なら少しのケガですんだものをへたに化けたせいで大けがになってしまった。
は一気に体から力が抜けてしまい、
カンクロウに首根っこをつかまれたままぶら〜んとなる。
「おいおい、大丈夫かよ」
逆らう気力も失せてカンクロウの腕の中で、じっと運ばれるまま。

「よっしゃ、これでいいだろ」
さすがテーピングのプロ、猫に小判ならぬ包帯なんて、
巻く機会もそうそうないだろうに、さささっと処置してしまった。
「ありがと‥‥」
みゃ〜
なんか情けない声ではあるが一応礼を言う
「お前いちいちリアクションがおもしれえなあ」
あきれたような、楽しんでるような様子のカンクロウ。

ふんだ、アンタがつれないからこんな目にあうのよ、
とやつ当たり気味に顔をもたげる
ここはワンルームに毛がはえた程度のマンション。
任務が終わるまでの砂兄弟の仮住まいといったところか。
帰宅して着替えた彼らの制服がカーテンレールにひっかけたハンガーにぶら下がっている。
ふ〜ん‥‥忍び装束と全然違うからなんか新鮮だわ‥
きちんとかけられた少し小さめの制服と、いい加減にかけてあるやや大きめな制服と。
どっちがだれのか一目瞭然でおかしい。
見ればカンクロウのネクタイはわっかになったまま。
どうせ一度ほどいたら結び方わかんないんでしょ、
チャクラならすぐほどいたりつなげたりできるのにね。

が興味本位でちろちろと様子を伺っていると、奥の方から我愛羅の声がした。
「おい、カンクロウ、風呂わいたぞ」
「ああ、お前先に入れよ」
「なんだ、珍しい」
「おれ、コイツついでに洗うから」
え?コイツって?アタシですか?ちょっ‥‥
「こらこら、何処行く気だよ、そんなケガしてんだから
今日のところはおとなしくしてろって!」
フギャ〜ッ(離してよっ!)
またしても大騒ぎである。
「よっぽど水が嫌いなんだな。
だけどドブにおちたそのままでここに置いとく訳にいかねえだろ、
クサイんじゃん、観念しな!」
もとより手負いのネコと大の男では勝負になるはずも無く。

ザバ〜ッ
頭から湯をかけられてぬれねずみならぬ濡れ猫
すぐそばにカンクロウの気配を感じるものの、
さすがに目をあける勇気はない。
その様子を見てさらに面白がるカンクロウ。
「なに固まってんだよ、変な猫だな」
変でわるうございましたね、花も恥じらう乙女をこんなザツに扱いやがって、
と睨みつけたいがそうもいかない。
しかし、しかしである、こんなチャンスもそうない気がする‥‥ど〜しよ‥‥
誘惑が勝った。
チロリ
‥‥なんだ、一人のくせにちゃんとタオルまいてるじゃん、
あんたこそヘンな奴よ!?
さすがあの暑苦しい衣装を夏でも着てるだけのことはあるわね。
シャンプーが目に入りそうになり、あわててまた目を閉じる。

風呂あがりにフテ寝してたらいい御飯のにおいがして来た。
ほ〜、自炊ですか。
エプロンまいた兄弟のうしろ姿はなんかほほえましい。
くんくん
どうやらこれは和食ね、渋いなあ、きっと今日は我愛羅の当番なのね。
カンクロウならどうせハンバーグかカレーだもん、
オカアサンヤスメ、ね。
「おい、カンクロウ、ネコにもちゃんと飯をやれ」
こんなネコライフも悪くないな、なんて思ってたら
の目の前にとん、と『ねこまんま』が置かれる。
「ほら、食うじゃん、腹減ってるだろ」
え〜‥‥どうせならあんた達と同じものがいいな‥‥
は椅子に上がり込んで机の上を覗く。
「‥‥確かに面白い猫だな」
我愛羅がまじまじと を見る。
‥‥気がつかれたかしら‥‥一応変化だけは上手なんだけど‥‥
ごまかすべく顔を洗う仕草などしてみる。
「‥‥フン、ネコ飯はいやか」
「生意気な猫だな〜、人間みたいじゃん」
ぎょっ
慌てて下に降りる。
ネコを飼い慣れてないことが丸バレの熱々のねこまんま。
しかし は熱いものは熱く、冷たいものは冷たく頂く方なので
ありがたく頂戴することにする。
‥‥まあキャットフードでなくてよかった。

食後は一応勉強等している、感心感心。
どうせエロ番組でもみてるかと思ったのにな。
‥‥それともアレかな、お互いに牽制してるのかな?
勝手なことを想像して楽しむ
「‥‥おい、なんかこのネコ笑ってないか」
「考え過ぎじゃん、我愛羅‥‥でもないか‥‥」
うふふふ、役得役得。

夜11時過ぎ。
「さ、明日も早いから寝るじゃん」
「カンクロウが電気消せ、俺はもう布団に入いった」
「ちっ、人使い荒いなあ、お前は〜」

パチ
‥‥‥‥
すーすーすー

あらら、もう寝息ですか?
寝付きいいなあ‥‥
は部屋の隅で丸くなっていたが、
ちょっと寝顔等覗いてみたくなる。
抜き足、差し足、忍び足。
ふ〜ん‥‥なんかいいわ〜、無防備と言うか。
って、どうせ手をだしたらすぐ起きるんだろうけどさ、
忍びだもんね、ははは。
もう一度丸くなって、それでも少しだけ
カンクロウの布団のそばへにじりよって眠りにつく。

夜中に目が覚めたら、あれれ、カンクロウの布団の中。
しかも、なんと彼の手を腕枕にしているではないか。
うわ‥‥これって夢ですかあ。
ねぼけた頭で考える。
‥‥でも、ネコだから、許される、かな‥‥?
普段なかなか甘えられないから、今位、いいよ、ね?
カンクロウの寝息と体温を感じながらそのまま再び眠りにつく。

翌朝。
目が覚めたら、砂兄弟はすでに制服に着替えて出発の準備をしている。
と、戸口の方からニャーニャーという野太い声がしてきた。
「うるさいな」
マグカップのコーヒーを飲みながら、ない眉をひそめる我愛羅。
「コイツ、メスネコだったよな?オスがさかってんじゃねえの」
む、一応メスですよ、でもあたし、ネコになんか興味ないし!

ニャーニャー
ニャーニャー
ニャーニャー‥‥‥

「わかった、わかった、うっせえな」
カンクロウが口にトーストをくわえたままバン、と扉をあけると、
確かにそこにはネコがいた。

直感で分かった、バ、バキ先生‥‥

「ニャー」
一声すごみのきいた声。
「‥‥どうやら、お迎えのようだな」
我愛羅がじろりと を見る。
「なんだ、お前連れがいたのかよ」
違う!!と言いたいが、そんなこといってもしょうがない。
バキ先生の目も怖い。
「ほら、なら行けよ」
ちょっと残念そうなカンクロウ。
「にゃん」
ありがとう、といいながら、カンクロウの足にまとわりついて、
感謝の意を表し後ろ髪を引かれる思いでマンションを去る。

いい加減行ったところで変化をとかれ、バキ先生に大目玉をくらう

数日後。
砂兄弟は任務を終え、里へ戻って来た。
「よ、 、元気にしてたか」
「あ、ああ、カンクロウ、任務どうだった?
学生になるなんていいね〜」
「へっ、別にただ学校いってただけじゃないぜ、
ちゃんと情報収集かねてたんだからな」
「はいはい」
、足怪我したのか?」
が足をすこし引きずりながら歩くのをめざとく見つけてカンクロウが聞く。
「え‥あ、ちょ、ちょっとね、任務で怪我しただけよ」
「そぉ〜ですか〜」
なにやら微妙なイントネーションだ。
「あ、俺今度の任務でさ、ネコ飼ってたんじゃん」
ドキ
「へ、へ〜」
「そいでさ、そのネコが変な奴でなんか人間みたいだったぜ」
「あ、あ、そうなの////‥‥だてに頭巾にネコミミついてないね、
ネコ好きなんだ」

返事は無く、じ〜っと の目を覗き込むカンクロウ。
「‥‥な、な、なによ」
、お前寝相悪いな」
「へ?」
「人の顔夜中に何回も蹴るなよな」
「‥‥な、なんの話よ‥‥」
「ただ、バキがお相手ってのは勘弁じゃん」
「や、やだっ、あれはあたしが仕組んだんじゃない‥‥」
「ほれ、やっぱお前だったんだ」
‥‥ハメやがった‥‥
「だって、何にも言わずにいなくなるからでしょっ!!
せっかくの誕生日だから驚かそうといろいろ考えてたのにっ!」
フン、という顔で続けるカンクロウ。
「いやいや、充分サプライスだったぜ。
お前だってのは最初からわかってたけどさ、俺も我愛羅も」
なによ、陰険ね、とかみつこうとする にしっ、と指をたてるカンクロウ。
声を潜めて付け加える。
、夜中に変化解けてたの知らねえだろ?
手負いのカノジョが無防備にお隣で寝息立ててんだから充分び〜っくりしたじゃん」
「‥‥う、うそでしょ‥‥/////」
「マジもマジ。
残念ながら我愛羅がいたからコトには及びませんでした、ジャン♪」
唖然とする の頭をぽん、とたたくとカンクロウは耳元で囁いた。
「次は里にいる時に化けて来いよな、子猫ちゃん、俺もネコになってまってるぜ」
「//////‥‥‥」

好きな事を言うとカンクロウは任務用の頭巾をかぶり、
もったいぶってネコ耳をつまんで念入りに形を整え、
一声『ニャ〜』とおどけて言うと、ニヤニヤしながら姿を消したのでありました。

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カンクロウ誕生日祝いってことで、頂き物の素敵なイラストにこじつけて
やや逆ハー風味で書いちゃいました。
ハピバ、カンクロウ!!
にょろさん、ネコネタ失敬してごめんなさい!)