冬の動物園

「 何だって今日に限ってこんないい天気になるんだよ、まったく」
砂の上忍、傀儡部隊のエリート、現役風影の兄がなんと思おうが、天気は思うようにはならない。
きのうまでのポカポカの上天気はどこへやら、今にもみぞれでも降ってきそうな陰気な灰色の空。
「ごめ〜ん、待った?」
ちゃん登場。
二人して見つめあう。
なにもラブラブな熱い瞳で、ということではなく、おそろいのマフラーに目が釘付けになっているだけのことだ。
「なんで?」
「‥‥‥俺が聞きたいじゃん」
「ふ〜ん、偶然だね、セレクトショップのセールで買ったんだ。
まさか同じのしてる人に会うとは思わなかったんだけど。
カンクロウも狙ってたんだ〜」
「‥‥‥ま、まあな(我愛羅め、限定商品とは言えバーゲン品かよ、いろいろ世話になってるからとかぬかしといて)‥‥」

今日は寒いからか、目的地たる遊園地はガラすきのようだ。
「いくら冬がオフシーズンだっていっても、これじゃ経営なりたたないんじゃないの〜」
が、すいているはずである、入り口までくると『本日休園』の立て看板。
「マジかよ‥‥」
「うっそ〜っ」
一転して、ムードが空模様とシンクロし始めた二人に誰かが大声で話しかける。
「そこのデート中のカンクロウくん、スナZOO寄ってかな〜い!?!」
ぎょっとするカンクロウと
空耳にしてはあまりにも大きな声。
「オトナ一人30両ポッキリ安いよ〜」
声のした方を見ると、そこにいるのはでかいクマのぬいぐるみ。
「‥‥あれってクマ‥‥よね?」
「‥‥違う、腹話術だ、ってことは‥‥おいっ、ヒグマかよ?!」
ぬいぐるみの後ろからにっこりと人畜無害なやさしそうな顔が覗く。
「ど〜も、今日は遊園地お休みでしょ、よかったら動物園へどうぞ、楽しいよ〜」
目的地だった遊園地には動物園が隣接していて、このヒグマなる人物はそこの飼育係。
甘いマスクと動物を手なずける手腕と忍び顔負けの読心術で有名な人物である。
「だれ、カンクロウの知り合いの人?」
が尋ねる。
「ま、まあそうじゃん。」
「ふ〜ん、せっかく誘ってくれてるし、ここにいても仕方ないから、行かない?
動物園って長い事行ってないから楽しいかも。
親切そうな人じゃない」
ここにいても遊園地が開く訳でもないので の提案に従うより他なさそうだ。
「ようこそ砂ZOOへ!
こっちからはいってね、門閉まってるから」
門が閉まっている?
「なんだよ、動物園も休園じゃねえかよ」
「ははは、遊園地と動物園はセットだからね、でもデートなんでしょ」
「しっ、そんなでかい声で言うなよ」
「せっかくのデートなのに休園日ですごすごUターンなんてさ。
デートなのに彼女がかわいそうじゃない。
カンクロウくんもデートなんだから下調べぐらいしとかないとね」
(だからこいつはいやなんだよ‥‥)
カンクロウが避けたがる『デート』を笑顔でわざと連発するヒグマ。
一方
「お休みなのに、いいのかな」
「いいんだよ、ただあとでちょっと手伝ってもらえたら嬉しいんだけど」
(ほらキタ!)
カンクロウの心配をよそに はにっこりと返事する。
「もちろん、私たちにできることだったら」
「大丈夫、カンクロウくんといっしょだったら不可能はないよ」
意味深なセリフにいやな予感のカンクロウ。
「自由に見て回っていいよ、あとで動物厩舎の方へ来てね〜。
せっかくのデートだからごゆっくり〜っ!」
赤面する二人を残し、飼育係は厩舎の方へ消えた。

「サル山見に行こうよ、サルって見てると面白いんだよね、人間みたいでさあ」
の提案で寒風吹きすさぶ中サル山へ向かう。
「さ、さむ〜っ」
「動物もあんまり動いてねえな、はしっこで縮こまってるじゃんよ」
案の定サルも風の当たらないサル山のかげの方へ移動していて、一向に動き回らない。
団子になっておしくらまんじゅうをしているかのようだ。
「‥‥これじゃ見ててもつまらねえな」
「ほんと‥‥それに、やっぱ寒いよ」
「‥‥しょうがない、ヒグマんとこ、行くか。
厩舎なら少なくとも室内だからな」
「うん、そうしよ、中にも動物はいるだろうし」

早々にあきらめて厩舎へ。
「あ、戻ってきた?
やっぱ、ちょっと今日はきついよね、屋外デートは」
(わかってるなら誘うなよな、あんとき行く場所を変更するっていうパターンだってあったじゃんよ)
自分の判断ミスは棚に上げて、いい加減腹が立ってきたカンクロウはぶっきらぼうにヒグマに言う。
「んで、なんの手伝いすりゃいいんだよ」
「ちょっと人出がないんで、餌やり手伝ってくんない?」
「へえ〜、面白そう、やるやる!」
のイメージはかわいい赤ちゃんチンパンジーとか、もそもそエサを食べる仔パンダとかだったに違いない。
一方カンクロウはヒグマが人手不足解消のために二人に声をかけた事を確信したのだった。

「‥‥カバ‥‥」
「でけえ‥‥」
ガラス張りの飼育室の外から見るそれと、間近にみるそれとでは大違い。
水の中で目元だけ出してこっちの様子をうかがっている。
いつものヒグマではないので警戒しているのか。
「ほれ、食えよ」
カンクロウがエサをぽいっと投げると、ザバアッと水から浮かび上がって大きな口をがばっと開いた。
「きゃあああああああああっ!」
「そんなにでかい声出すなよ、俺までびっくりするじゃんか」
「ご、ごめん、ただあまりに迫力あったもんで、びびっちゃった」
の悲鳴ともとれる大声に、ヒグマが覗く。
「どうかした〜、 ちゃん、カンクロウくん?」
「なんでもねえよ」
「あ、大丈夫です、ごめんなさい、あんまり大きな口開けるからびっくりしちゃって」
「ハハハ、まあ、カバのチャームポイントはそこだから。
あ、エサやりおわったら歯を磨いてあげてね、はい、これ歯ブラシ」
カンクロウにばかでかい柄付きのたわしのようなものを渡してにっこりほほえむヒグマさん。
「‥‥はあ?」
「何つまんないシャレ言ってんの。
野生なら鳥がきれいにしてくれるけど、ここは動物園なんだから飼ってるものの義務なんだよ。
ちゃんと磨いてやてくれよね、デート中に悪いけど」
「‥‥わ〜ったよ!」
そんな会話の最中にも はカバと親睦を深めようと餌やり敢行中。
口が開く度腰が引けるものの、少しずつなれてきてはいる様だ。
「じょうずじゃない、 ちゃん」
にっこりとヒグマが笑いかける。
ちょっと赤くなって が嬉しそうな顔をする。
ますますもっておもしろくないカンクロウ。
「ほい、ヒグマは他の動物の世話があるんだろ、早く行けよ」
「ハイハイ、邪魔して悪かったねえ、せっかくのデー‥‥」
ヒグマを追い出してバタン、と戸をしめる。
「どうしたの、カバがびっくりして水にもぐっちゃったよ〜」
「フン、すぐに顔出すさ」
案の定カバはぬっと半分ほど顔をだすと、図体のわりに小さな耳を、まるで手を振るように器用にブルブルッとふるわせた。
「何あれ〜っ」
「ブっ、こいつおもしれえじゃん、ほれ、エサやるからもっとやれよ」
ぱくっとエサをキャッチするとまた、耳をブルブル。
でかい動物だけにこういう芸をやると、かえって可愛い。
あっというまにエサはなくなってしまった。
「ああ、もうおしまいだわ、残念〜」
「さてと、んじゃ歯を磨くか。
ホレ、お前なんて名前なんだか知らねえけど、口開けろよ」
パカッと口を開けるとやはりカバ、特大サイズの歯が見える。
「‥‥やっぱ、迫力あるな、人間食い殺せそう‥‥」
「ちょっと、やめてよ‥‥」
カンクロウが変な事を言うや否や、カバがずいっと巨大な体躯を揺すりながら水から出てきた。
「きゃああああああっ!」
おもわずカンクロウにしがみつく
このカバ相手ではサンショウウオでも操らない限り、かないそうもない。
「どうすんのよっ!」
「どうって、逃げるしかねえじゃん!」
をかばいながら逃げの体勢にはいるカンクロウ。
そうだ、別に閉じ込められている訳ではないのだから戸を開けて出ればいいのだ。
が、冷静にカバの方をみると、単にハブラシ(タワシ?)が欲しかっただけのようで、目的のものをくわえると、また水の中にずぶずぶと戻って行った。
「ああ、びっくりしたあ〜」
「ったく、人騒がせなカバじゃん‥‥」
と、さっきの の悲鳴でまた、ヒグマが顔を覗かせる。
「あれ〜、歯ブラシ取られちゃったの、困ったなあ。
仲良しもいいけど、ちゃんとやってくれないと困るよ〜」
ニコニコ、もといニヤニヤ、のヒグマさん。
はっと自分たちの体勢に気づいて、ぱっとはなれる二人。
「な〜に照れてんのさ、デートなんだからそれぐらいいいじゃない。
ま、カバの歯磨きは僕がやっとくよ、ごくろうさん」

「はい、記念にどうぞ」
ヒグマが事務室で二人になにやら手渡す。
「‥‥なんだよ、これ?」
「今日みたいな寒い日にはちょうどいいと思うよ。
頭があったかいと体も暖かいからね」
それはミッキーキャップならぬ、クマ耳付きのキャップ。
いらねえよ、んなもん!と叩き返そうとした時に、絶妙なタイミングで が嬉しそうな声で言う。
「かわいい〜っ、ありがとう、ヒグマさん!」
セリフをいうタイミングを逃したカンクロウはぶつぶついいながらクマ帽子をいじくる。
「これ試作品でね、まだ一般発売してないんだ。
またかぶり心地とかおしえてね、 ちゃん」
「ハ〜イ!」
憮然としたカンクロウの方をむくとヒグマは、またしてもにっこり。
「マフラーだけじゃ寂しいでしょ、帽子もペアで丁度いいんじゃない、デートなんだし」
「‥‥もう、その言葉連発するのは勘弁してくれよ‥‥」
「ハハハ、見かけに寄らずデリケートなんだねえ、カンクロウくんは」
(お前はその逆だよ、ヒグマめ)
カンクロウが恨みがましく睨みつけるも、全く意に介さないヒグマ氏。
「あ、君たちのマフラーってさ、なんかこれと似てない?」
ヒグマがごそごそ奥の控え室へ消えたかと思うと、なにやら首に巻いて出てきた。
「‥‥‥そ、そ、それって!!」
「ヒグマっ、お前、マジかよっ!」
「え〜、飼育係やってんだよ、こんなの平気さ、なにビビってんの二人とも」
彼の首にはニシキヘビのベビーが‥‥
「にてるでしょ、柄が?大丈夫だよ、寒いから動きも鈍ってるし、巻きたい?」
「ま、またな!」
「さ、さよなら、ヒグマさんっ」
にこにこと二人を見送るヒグマさん。
「又二人でデートにおいでね〜、今度は開いてる日にさ〜っ」
後ろから追い打ちの言葉。
あんの野郎、と振り返ると、そこににるのはまたしても腹話術クマ、である。

「‥‥やさしそうだけど‥‥ちょっと変わった人だね‥‥」
「ちょっとじゃねえよ」
「ふふふ、でもこれ、ニシキヘビかあ〜」
マフラーの端っこを持ってちょいちょい、とカンクロウの方をつつく
「や、やめろよ」
「あ、カンクロウ実はハ虫類苦手なんだ、弱点発見!」
「そ、そんなこともねえけど‥‥」
「今度来たらはニシキヘビ見ようよ」
「マジかよ‥‥勘弁してくれよ」

空からふわふわと白いものが降り始めた。
「わ〜、雪だよ、帽子かぶろっとvvv」
「これか‥‥」
「いいじゃない、かわいいよ〜」
「あ、そ」

クマ帽子にニシキヘビマフラーの二人は雪のちらつき始めた通りを楽しそうに歩いて行きました。

 

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蛇足的後書:いつもお世話になっているリキマルさんのオリキャラ、ヒグマさんを登場させたくて作ったお話です。
爽やかハンサムでも裏になにかありそう、と言う感じの方なんですが、なんかキャラがこわれすぎかも(ーー;)、ごめんなさい!!
いろんなモチーフをリキマルさんちからお借りしました、有り難うございます、こんなヘタレ話でよければお持ち帰り下さいませ<(_ _)>