木の葉で非常勤
第5限目

朝とは打って変わって急に気温が上がり、ばて気味のアカデミー生達。
そんな彼らに朗報が。
「5時限目は合同でプールだって!」
「やった〜!」
慣れない講師陣による講義が続き、いささか疲労の色が濃かった雰囲気がプールという言葉で一転した。
子供といえば水と切っても切れない仲である。
この時期、体術の授業がプールに切り替えられることはよくあったものの、
まさか砂の講師陣がそんな気の利いたことをしてくれるとは思っていなかっただけに喜びもひとしおである。
言われなくても連日持参している水着を持って大喜びでプールへ向かう。
一応体術の一環として行う授業で使用するため、木の葉アカデミーのプールは我々に馴染みのある学校のプールとはいささか違った作りをしている。
水遁系の術を実習するにはかなりの水量が必要だ。
また、素潜りの訓練も必修科目だ。
早い話が深いのである。
飛び込み用のプールを思い浮かべればいいだろう。

皆がプールへ来ると、もう砂忍達はそこで待っていた。
「お、きたじゃん」
「ちゃんと水着持って来ただろうな」
「‥‥もっとも、服のままでいいんだがな」
みごとなチームワークだ、さすが姉弟。
セリフの振り分けも練習いらずだ。
などと感心している場合ではない。
「あの、センセー、服を着たままって、どういうことですか」
モエギがおずおずと質問する。
「つまり、着衣のままの訓練ってことだ。
実際に戦闘の場面でいちいち水着に着替える訳ないんだから」
テマリの説明にがっかりする一同。
「‥‥ちゃんと訓練がすめば、自由時間もやる」
我愛羅センセーが子供達の心を見透かしたように助け舟をだす。
やった、という顔になった子供達。
「んじゃ、それぞれ水着に着替えて、その上から服着るじゃん。
自由時間に着替える手間がいらねえからな」
カンクロウの声が合図になって、男子女子別れて更衣室へ。

5分後。
プールサイドに皆が出ると、こわもてのサングラス姿の忍者が3人。
見慣れない‥‥どころではない、この午前中で皆の脳裏に焼き付いた砂忍達ではないか。
「あの〜、センセ〜、なんでサングラスなんかかけてるんですかあ〜」
ウドンは天然を武器に聞きにくいことをあっさり聞いてくれるので皆は重宝している。
「緑の目は直射日光には弱いんだよ」
グラサン姿がちょっとかっこいいテマリ先生。
「特にプールサイドは照り返しがキツいからな、任務中なら御法度だけど、ま、今ならいいじゃん」
黒の面積がまた増えてますます暑苦しい講師カンクロウ。
「‥‥」
ほとんどマトリックスの我愛羅は返事をする代わりに、どこから手に入れたのか不明だが、小さいヒョウタンを生徒の数だけ取り出した。
「‥‥ペットボトルを浮き輪代わりにする訓練はとうにすんだだろう。
もう一段レベルアップして、これを使え」
ヒョウタンはペットボトルでいうなら、500mlのサイズにも満たない。
これで浮け、とはかなり無理がある。
縁日のヨーヨーみたいだ、と子供達が手のヒョウタンを眺める間もなく、
「ほれ、入るじゃん!」
声とともに否応なく体が引っ張られてみな水の中へ!

水着なら楽に浮けるだろうが、なにせ着衣では勝手が違う。
ほとんど水没しそうになりながらたよりないヒョウタンを手になんとか浮こうとあがく子供達。
「水遁の術の実習じゃなかったのか、コレ!」
木の葉丸が息継ぎの合間合間に叫ぶ。
「‥‥心配するな、いずれそれもやる。
が、今日はまずはサバイバルだ」
あいかわらず腕組みで一本調子の我愛羅先生。
「せんせ〜、このままじゃおぼれますう〜」
危機にもまったりマイペースのウドン、なんとなく伸びている気もしないでもないが。
「しょうがないな、頭使いなよ、このヒョウタンはねえ、ただのヒョウタンじゃないの!」
テマリが水しぶきの音にかき消されないように大声で言う。
「そうじゃん、返事すると中に吸い込まれる‥‥いてててて」
「いい加減にしな、カンクロウ!」
カンクロウはテマリに思いっきり耳をひっぱられている。
我愛羅がそちらを振り向きもせずに言う。
「あいつらは年子だからじゃれるのが趣味なんだ、ほっとけ。
いいか、チャクラでヒョウタンを大きくするんだ」
溺れるものは‥‥の実践バージョンである。
みんな必死でチャクラを練り込む。
ぼんっ、ぼんっ、ぼんっ!
ポップコーンさながらにヒョウタンが爆発音を立てて大きくなる。
「‥‥大きくし過ぎだ、お前ら」
我愛羅が呆れた声で言うのももっともだ。
プールはヒョウタンはなざかり、皆は今度はでかすぎるヒョウタンに掴まれず溺れかかっている有様。
特大サイズにしてしまった子は下敷きにならないよう逃げ回っている。
「初級者用に簡単に大きくなるのを選びすぎたな」
ぶつぶつ言いながら、我愛羅が印を結んでヒョウタンを適正サイズに直した。
ハアハア荒い息をしながら、アカデミー生達がやっと水面に揃う。

「よ〜し、じゃあ、ちょっと休憩」
テマリの声にほっとしたアカデミー生達がぱしゃぱしゃとプールサイドに近づこうとしたところ‥‥
「だ〜め、陸にあがるのは最後だけだ。
ヒョウタンに掴まって浮きながら休憩じゃん。」
冷たく黒装束が言う。
もう、好きにしてくれ、というなげやりな空気の中、皆はヒョウタンに掴まってプカプカやりだす。
が、意外とこれが気持ちよかった。
ヒョウタンのくびれた部分に顔をのせたり、腕を回したり、ラッコさながらにお腹に載せて浮かんだり、さすが子供だ、言われなくても遊びを考え出す。
体でしっかり抱えて立て向きにして遊ぶ子供もいる。
皆がヒョウタンの感触に慣れた頃、やおらテマリが声を発する。
「穏やかな日もあれば、嵐の日もある、どうせなら、悪天候に備えな。」
言うか早いか大きく扇子を振りかぶる。
「カマイタチ!」
あっという間に激しい波が立ち、プールは大荒れだ。
みなアップアップいいながら、なんとか浮かんでいようとヒョウタンにしがみつくが、今度は大きいのが災いして余計波に翻弄される。
見慣れないアカデミー生が叫ぶ。
「服を脱げ!」
確かにそうすればかなり体は軽くなった、が、あいかわらず激しい波に呼吸が大変だ。
「潜るんだよ!」
なるほど、嵐でも水面下は静かなことが多いものだ。
しかし、呼吸がそこまでもつのか。
「何のためのでかいヒョウタンだよ?空気はいってるだろうが!」
ヒョウタンの酸素ボンベ。
が、空気の入ったそこそこ大きいヒョウタンを水面下に持ち込むことは不可能だ。
「だーっ、だから、ヒョウタンは水の上にほっといて、チャクラのストローでつないで中の空気を吸うんだよ!」
チャクラとは実に便利なものである。
ナットウ糸にも化ければ、ストローにもなるらしい。
実用化されれば、今年の売上げナンバーワンのヒット商品になること間違いなしだ。
そんな狸の皮算用をしてもしょうがない、とにかくアカデミー生達は潜ることでテマリの人工的な嵐をかわすことに成功したようだ。

ようやく嵐がやんで皆が顔を水面に出した。
「‥‥ひとり多い。」
一瞥して我愛羅が言う。
「減るならともかく」
後のセリフが教師として適性があるかはともかく、確かに一人多い。
「コラ!カンクロウ!」
テマリが怒鳴る。
「チッ、バレたか、暑いから一足先に涼んでただけじゃん、そうカッカすんなよ」
ふてぶてしさはそのままに、二まわりほどサイズが小さいカンクロウだ。
いや、クマ取りもない。
アカデミー生はみな、なにか新種の動物を見るような目でカンクロウに瞠目する。
「なんだよ、じろじろみやがって、変化してるだけだろ〜が!」
カッコイイといえなくもない、とモエギが思ったのは内緒である。
それに助けてもくれたし。
しかし、なら、陸上でグラサン姿のカンクロウは誰なのか?
分身?
「また、カラスを化けさせたんだな!」
とテマリ。
その瞬間、サングラスの上にもう一つ目が覗いて女子生徒が悲鳴を上げる。
「この時間はどうも余興が多すぎるようだな‥‥」
ぶつくさ言う我愛羅。
「まあ、いい、今日のところはこれぐらいにしよう。
上がれ」

プールだと思ってなめたのが間違いだった、とバテバテになったアカデミー生達がのろのろと上陸する。
その様子を見ていた我愛羅が何を思ったか突然、
「ご〜かっく!」
親指を突き上げて、木の葉随一の色男の真似をした。
プールサイドにいた全員がフリーズした。
予想外のヒトの予想外の冗談にどう反応すればいいのかわからない。
砂の鎧を着ていれば、全員ひび割れで不燃ゴミとして出されたのは間違いない。
「‥‥なんだ、ノリが悪いな、元気を出してやろうと思ったのに」
その原因が何かまるで気にしていない、もしくはわかっていないあたり、やはり我愛羅は大物だというべきか。
テマリとチビカンクロウは声も出さず、無言で背中を叩き合って笑っていた。

「それにしてもいいヒョウタンですね〜」
ウドンが感心した声で言う。
これは役に立つものをもらった、と思う間もなく皆の手からささささ〜っとヒョウタンが空を舞って、我愛羅のところへ戻ってしまった。
「‥‥これは返してもらう。」
「ええ〜っ、くれるんじゃなかったのかコレ!」
話が違う、という顔の木の葉丸にみながそうだ、そうだ、という顔で頷く。
「試供品はないんだよ、試乗(?)できただけラッキーだと思いな」
あっさり言うテマリ。
「じゃあ、なんで貸してくれたんですか」
ふくれながらモエギが言う。
「セールスの極意、じゃん。
いいとこだけ見せて、粗悪品を‥‥いって〜っ」
今度は何も言わずにテマリが携帯ハリセンでチビカンクロウの頭を叩いた。
まだ、小さい方の扇子でよかったかもしれない‥‥。
「‥‥欲しいなら、売ってやってもいいぞ、砂の特産品だ。
一つ5万両でどうだ、見ての通りの高性能だ。
戦場でもいろいろ役に立つぞ。
小さくすれば‥‥」
我愛羅がみなまでいうのを待たずに、また、カンクロウが口を挟む。
「耳の中にもいれられる‥‥いてててて」
今度はテマリがカンクロウの両耳をひっぱっている。
「砂忍ともあろうものが、こんなとこで子供相手に商売していいのか、コレ!」
木の葉丸が文句を言う。
「何を言う、砂の産業育成のために販売ルートを開発してるだけだろ」
サングラスで表情が見えないだけに端正な顔がかえってこわいテマリ先生。
「同盟国の復興に協力しな」
(「これじゃ押し売りとかわらないな、コレ」)
(「忍術だけじゃなくセールスも凄いのね、砂って」)
(「3人でセールスチーム組んだら怖いものなしだな〜」)
声に出さなかったのは午前中の授業の成果と言うべきだろう。
「んじゃ、これで今日は授業は終わりじゃん、また明日な」
え〜、自由時間は、というつぶやきは、有無を言わせぬ声の前に発せられることはなかった。
「解散だ」
きびすを返して帰って行く3人。
カンクロウがいつのまにか大人サイズに戻っていたが、やはり暑かったのだろう、黒装束はかついだカラスにお仕着せたままで、自分は海パン姿だったのがご愛嬌だ。

「あっ、服!」
さっきの嵐で服を脱いだのはいいが、プールに沈んだままだ。
「センセ〜ッ」
皆が3人の後ろ姿に向かって叫ぶ。
遠くで3人が振り返るとその場でなにやら言い合いしている様子。
カンクロウだけが戻って来た。
「カンクロウセンセー、服が‥‥」
「わかってるじゃん。
だから俺が戻って来たんだよ、ほれ、自分らで潜って取りに行け、それぐらいできるだろ。」
苦虫をかみつぶしたような顔。
「はは〜ん、センセ〜が負けたんだな、コレ!
監視を誰がやるかで、コレ!」
「うるせえな、早くやんな!これで自由時間も堪能できるだろ!」
さっき自由時間がないとこぼしたのを、ちゃんと聞いていてくれたようである。
やった〜、と歓声をあげながらザブンと水しぶきをあげてつぎつぎ飛び込む子供達。
ああ、めんどくせえ、とこの里のだれかさんのセリフをかっぱらってカンクロウがつぶやく。
もう放課後という立場を最大限利用して子供達はなかなか服を見つけられなかったようである。
カンクロウはうっかり上向きで昼寝したため、高い鼻が日焼けして隈取りが必要ないほど赤くなり、翌日は素顔で教室に登場するハメになったことは、また別のお話。

 

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蛇足的後書:すいません、3、4限はあとまわしです、しばしお待ちを。
暑くてつい、プール話が先にできちゃいました‥‥現実に引きずられるヘタレ管理人です‥‥
我愛羅が激しくギャグなのは、彼ってシリアスメインなので、ここでくらい笑わせてあげたかったのよVV
愛、愛、いてっ!