さて。
班分けは終わって皆が担当の講師と別々の教室にはいる。
胸を撫で下ろすもの、心臓がひっくり返りそうになっているもの、
もうべそをかいているものと悲喜こもごものアカデミー生達。
ここは‥‥沈黙が支配する教室。
当たり前だ、講師が何もしゃべらなければ私語を発するものがいない限り、
教室は静まり返るものだ。
ましてや、私語等できようはずがない。
先生は我愛羅、あの、砂瀑の我愛羅なのだ。
木の葉丸も神妙な顔で席に鎮座している。
エビスに対する不遜な態度も例のじゃんけんの後では陰をひそめている。
しかし。
男どもはともかく、女子はやはりませている。
言葉を発せずとも、さっきから机の下では盛んに郵便が行き来している模様だ。
『センセーかっこいいよね』
『迫力あるけど、なんかカワイイvvv』
『腕組んじゃって、ステキ』
『おでこの愛って字が渋いよね』
『あれって入れ墨かな』
『さあ、聞いたら』
『聞ける訳ないでしょ』
『ヒョウタンの中、何入ってるの』
『知らないの〜っ、砂よ、砂!』
『え〜、でも砂ってすごく重いのに』
『小柄で華奢に見えるのに、力持ちなんだ〜』
「‥‥おい」
ついに講師が口火を切った。
「さっきから、何をごそごそ手渡ししてるんだ」
どうやらばればれだったようである。
なぜ我愛羅がすぐに指摘しなかったかと言うと彼も時間稼ぎをしていた、
‥‥のかもしれない。
こんなチビどもを相手に講釈を垂れたこと等、砂でもやったことがないのだ。
練習と思って引き受けたものの、何をどう教えたらいいのやら。
根がまじめなだけに、我愛羅は表面は無表情ながらも内面で激しく自問自答を繰り返していた、
‥‥のかもしれない。
「こっちによこせ」
「ええ〜っ」
「全部没収だ」
もし木の葉の講師なら遠慮なく文句をいうところだろうが、
やはり「砂」の一文字は効果的なようで、さしもの少女軍団もこれ以上の抗議はできない。
小さくちぎられたノートの切れ端を手にすると、我愛羅は一体何の文書だろうと読み始める。
1枚、2枚、3枚‥‥‥一向に表情が変わらない。
固唾をのんで見守る少女達。
最後の一枚を読み終えると我愛羅は全部くちゃくちゃっとまるめてポケットに入れてしまい、
何事もなかったかのように皆の方へ向き直った。
「この機会を利用して、秘密文書の送り方を教えてやる」
話をしながら板書を始める。
「動物に託したり、直接持参したり、方法は何種類もあるが‥‥」
黒板をキキ〜ッと引っ掻くいやな音。
チョークを使うのに慣れていない我愛羅が犯人だ。
皆がおもわず耳を塞ぐ。
その不快な音に反応して彼自身の砂の鎧にも‥‥ひびが!
た、確か中忍予備試験の対リー戦の時はこの仮面の下にグロい笑顔がみえたと、
先輩達がうわさしていたはず‥‥!
皆が一斉に机の上に目を落とし、必死でノートを取る振りをする。
が、恐いもの見たさで木の葉丸が上目使いにこっそり伺うと‥‥
そこには‥‥ユデタコなみに赤く染まった我愛羅の頬が覗いていた‥‥
「‥‥エビス先生とえらい違いだ、コレ」
あっけにとられつつも、木の葉丸の我愛羅に対する印象ががらりと変わったのは言うまでもない。
隣の教室ではどうやら地理の授業が進行中のようである。
磁石で5大国の地図を黒板にとめていくテマリ。
おや、木の葉がいつもの位置にない。
なんと、端のほうにひっそりと描かれている、おまけに端が欠けているではないか。
「センセ〜、その地図はおかしいです〜」
ウドンがまったりとした声で挙手しながら言う。
「あら、そう?どうしてそう思うのさ」
とテマリ。
「だって〜、木の葉がどうしてそんな端っこにあるんですかあ〜。
砂ならともかく〜」
天然の彼は美しい先生の額に青筋が立ったのに気がついていない。
「‥‥だから木の葉はおめでたいんだよ。」
ため息を一つつくとテマリが話し始める。
「アンタ達は木の葉が大きいことを誇りに思ってるだろうし、それはまちがいじゃないさ。
でも他の国のことも知らないとね。
単なる図体のでかいバカになっちまって前みたいに寝首をかかれるよ。」
実際に敵に回った側の発言だけにすごみがある。
「あんた、ウドンとかいったね。
この地図は砂から見た地図だよ、だから木の葉があんたの思う位置とはズレてんのさ。
たまにはよその国が自分とこをどう見てるか考察しとくんだね。
ところで、木の葉がどんな隠れ里に囲まれてるか言ってみな。」
「え〜、それはあ、‥‥」
チョークが飛ぶ!
「おそい!隣!」
突然の指名に固まるお隣の少年。
シュバッ
「同じくおそいッ、前!」
急に方向転換されたため前の少女も度肝を抜かれつつも、なんとか答える。
「雨隠れと草隠れと滝隠れと音隠れです」
「よしッ、次最後列左から3番目、霧隠れ一の大河の名は!」
次々ランダムに指名して行くテマリのスピードについていけないアカデミー生達。
チョークがクナイさながらにあちこちへ飛ぶ。
「答えられなくてもチョークぐらい受け止められないのかいっ!」
体術の授業なんだか、地理の授業なんだかわけがわからない。
「せんせ〜っ、これって何の授業なんですかあ〜っ」
相変わらず、間延びした声ながらウドンがクラスの思いを代表する。
「地理に決まってんだろ!」
「でもお、なんでチョークが‥‥」
「戦場で役に立たない知識なんてくずと同じさ!」
さらにもう一本チョークが飛ぶ。
美しい先生ということで油断していた彼らは、一番のババをひいたのかもしれないと、
いまさらながらジャンケンに勝ったことを後悔したのだった。
一番奥の教室。
「はい、やりたい奴は手を挙げるじゃん。」
と、講師K。
黒板には
「実習:チャクラでものを動かす」
とある。
木の葉では傀儡術は一般的ではないので、みな押し黙ったままだ。
カンクロウのことにしても、中忍試験での噂や、
今回のサスケ先輩奪回でなにやらけったいなネーミングながら非常に残酷な技を使ったらしい、
との情報だけがアカデミー生に漏れているのが現状だ。
触らぬ神にたたりなし。
カンクロウはこういう死んだ魚的な反応が苦手である。
フン、という顔をして、教卓に肘をつきながら両手を合わせる。
誰にもその気はないのについっ、ついっと勝手に手が挙がる。
前では講師が何やら不可解な指の体操をしている。
「はい、じゃあ、そこの、木の葉丸のダチ」
指名されたのはモエギだ。
モエギは「ダチ」というネーミングが気に入らなかったようで、ムッとして言い返す。
「センセー、そんな言い方やめて下さい!」
「じゃあ、なんて言やいいんだよ」
「トモダチ、とか」
「んじゃ、カノジョ」
真っ赤になるモエギ。
この講師は本当にあの、寡黙な我愛羅の兄なんだろうか?
「モエギ、ですっ」
「はいはい、モエギね、とにかく前に来るじゃん」
ほっぺたを膨らませてモエギが前に来る。
「いいか、木の葉じゃあんまり一般的じゃないみたいだけど、砂じゃ傀儡術は広く普及してる。
なんでかっつーと、便利だからだ。
ほれ」
机の上の鉛筆をぽいっと空中に放り投げると、カンクロウは触らずにくるくる回し始めた。
どよめく教室。
カンクロウのでかい鼻がさらに高くなったかどうかは知らないが、
少なくとも子供達の関心をひくことには成功したようだ。
「指先にチャクラを集中させる。
んで、糸にして目標物につないで動かす。
じゃ、やってみな。」
言うは易し、だ。
鉛筆はぴくりとも動かない。
モエギを筆頭として、みなウンウンうなりながらチャクラを指先に集めるのに必死だ。
前では講師が皿回しよろしく、先ほどの鉛筆に加え、消しゴムやら、チョークやら、
黒板消しやら、物差しやら、手近な小物をつぎつぎくるくる回して楽しんでいる。
モエギはチャクラを指先に集めようと努力しつつも、こっそり能天気な講師を横目で観察。
すっかり自分の腕前に陶酔しきっているように見える。
「センセー、遊んでないでちゃんと教えて下さい!」
「こんなもんは、練習あるのみじゃん、ま、頑張んな」
無責任、という言葉が黒装束を着て歩いているような反応だ。
「センセー、それじゃわかりません!」
「うるさいなあ、なんでも手取り足取り教えてもらえると思うなよ。
‥‥指からナットウの糸が出てると思えよ、それを目標物につなぐんじゃん」
まあ、わかりやすい説明ではある‥‥よくくっつきそうだし‥‥
相変わらず誰も糸をつなぐことには成功しないままだが、
教室の雰囲気が一気に和んだのは確かだった。
授業終了後、顔を合わせた3人がお互い何を習ったか報告しあう。
「通信術だったな、コレ」
「一応地理だったような〜、でも体術だったような〜」
「‥‥なっとうの糸出し」
「「え?」」
「違った、傀儡術だった」
誰に習うかで砂のイメージにかなり差が出て来ているようである‥‥
ローテーションは正解だったようだ‥‥。
蛇足的後書:いよいよ本番です、こんな授業でいいのか、コレ?
イメージこわしちゃったらごめんなさいませ、捏造だから!(逃げ腰No.1)
まあ、休み時間を挟んでまったりといきましょう‥‥