くだらねぇ

遠くで俺の声が響いて消えていった

真っ暗闇にいたと思ってたのに次第に目の裏が明るくなり忘れて久しい暖かさに包まれた
いったいどうしたってんだ
俺がこの傀儡の俺が暖かいという感覚にとらわれるなんて
耳の奥に届いたのはカモメの鳴き声と打ち寄せる波の音
こらえきれずに目を開けると白い砂と青い海が広がっていた

いきなり現れた景色なのにずいぶんと懐かしい気がする
ああそうか砂隠れの海か
なんでこんなとこにやってきたんだろう
訳が分からないまましゃがみ込んで手のひらで砂をすくう
さらさらとこぼれ落ちる砂粒
確かにあの海辺だ
ガキのころ何度もやってきた
こうして砂を飽きずにさわって一日をすごしたこともある

遠くで子供の歓声がはじける
同時に大人の笑い声
次第に形をとっていく目の前の人物たち
おやじにおふくろそれに俺
ああ覚えてるさはっきりと
ほんのガキの頃に3人揃ってやってきた日
いつも置いてけぼりだった俺は家族が一緒にいる事が嬉しくて
なんでもないのにやたら笑ってばかりいた
そんな俺の様子を見てにこにこしている親父におふくろ
今じゃ家族揃ってこわれた傀儡
でもありふれた幸せな家族だった時もあったんだ

急に場面が切り替わる
ババァと俺が波止場で釣り糸をたれている
今晩のおかずは魚だぞとかいって
得意げに次々つり上げてる
こっちにはちっともアタリがないってのに
飽きた俺がバケツからこっそりと獲物を海に逃がしてる
ババァの奴気づいてたくせに何も言わなかった

またふいに光景が入れ替わる
まるで紙芝居だ
現れたのはもう少し大きくなってからの俺
棒みたいにつったって身を切るような海風に髪をなぶられてる
どんより灰色に沈んだ冬の海
雨が次第に大粒になり俺に容赦なく叩き付ける
海を見つめる瞳の色も海と同じ灰色
そこからも雨が降り続く
両親の訃報を聞いたあと一人やってきた海
荒れ狂う波は俺の心そのままでいっそ心地よかった

心が次第に凍り付いていった
そんな日々に舞い降りた春の蝶
だが出会いは最悪
ババァに甘やかされ開花した才能に天狗になっていた俺を
鼻持ちならないおぼっちゃんとばっさり
傀儡部隊で顔合わせの日
何がツーマンセルだふざけるな俺は一人で戦う
そういった俺にびんたを食らわせた唯一の女
顔を合わせれば言い合いばかり
でもそんな風に感情をぶつけてきてくれた奴は だけだった
みんな腫れ物を触るように俺に接していたから

生温い春の海
むずむずするような暖かい浜風
手もつながずにぼそぼそ歩いている2人
気の利いた事なんかいえるはずもない幼く蒼い春
は俺がやった桜貝にありがとうを言うと同じ色に耳まで染まった
差し出されたやわらかな手のひらに俺も桜貝になった
さざ波がきらきらと光をはじいていた
あのまま日々が流れていればどうなったんだろうななどと
今更考えてもどうなりもしないが

見たくない景色ははぶけないのか
なんなんだこの走馬灯は
死んだからってなぜこんなものを見なけりゃならないんだ

目の前に広がる海は血で真っ赤
同じ朱色に染まった
虫の息で俺に告げる
自分の死体は海に捨てろと
できるかと歯の間から絞り出す俺に
きっといつかどこかで会えると切れ切れに言った
一体いつ
答えは返ってこなかった
敵が目前にせまっていた
当時の俺の力では他の選択肢はなかった
死体は処理して立ち去らねばならない忍びの掟
あの日 を飲み込んだ暗い波
あれから俺は海を見るのをやめた
そして傷だらけになって帰還した俺達にねぎらいの言葉ひとつなかった里の上役どもに
自分の心も捨てる事に決めたのだ指一本腕一本傀儡にかえるごとに

命の源と言われる海
すべての生命はここから旅立ったのだからと
だからなんだ
死んだ俺の両親がかえってきたか
いつ が海から戻ってきた
笑止千万
なのにどうして今さらこんなでかい水たまりが目の前に広がるんだ
俺は自ら傀儡と化すことで
生命であることをやめたはずなのに
海とは縁を切ったはずなのに

もう見たくない
ぎゅっと目を閉じる
それでも耳にはいってくる波の音
手で耳をふさぐ
胸が痛むのはなぜだ
俺は道具になったはずなのに
傀儡になって心なんか捨ててきたはずなのに

波が俺をさらい体がゆっくりと沈んでゆく
音が遠ざかり光もやがて消える
たどり着いたのはしんと静まり返った海底
使命をおえた命が舞い降りてくる闇と静寂に覆われた世界
なのに感じる
俺は失われた人たちと一緒にいるのだと
も両親も死んでしまった部下もすぐそばにいる
なにか大きなものに抱かれくるまれただそこに在る不思議な一体感
終わりだけれど終わりではない
ただ待てばいいという静かな安堵が心を満たす
そうただ待つ
大いなる潮流にすくいあげられて再び旅立つ日を

寄せて返してまたやって来る
波の音を聞きながら
ただ待つ


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蛇足的後書き:弊サイトで70,002をHITしてくださったか〜る様に捧げます。
サソリかデイダラで、ということで当初の予定ではデイダラのはずだったんですがなぜかサソリに変化してしまいました。
いまいち暗いお話で申し訳ないといいつつ、どうしてもサソリのイメージは暗くてナンボな私(汗)。
こんなお話でよければか〜る様、どうぞお持ち帰りくださいませ、リクエストありがとうございました!

*か〜るさんから素敵なイラストを頂きました!海に沈んで行くサソリ、作品のメージにぴったりでびっくりです!
穏やかに見開かれた目が悟りを開いたような彼の悲しみを象徴しているようでぐっときます。
エビでタイをいただいてしまいました、か〜るさん、ありがとうございます!