流星 前
机に向かう我愛羅の目の端を光がかすめた。
流れ星か。
仕事の手を止め、部屋の丸窓から冬の夜空を見上げる。
藍色のビロードに砕け散ったガラスの破片さながらに光をまたたかせている星達。
・・・
も、今頃この空を眺めているのだろうか。
執務室にひっそりおかれた彼岸花の鉢植え。
「・・・・触るな」
入って来た者がうっかりそれに触れようものなら、我愛羅のすごみのある声が響いた。
開花をとうに終えた鉢には一見何も植わっていないので、理由がわからず皆すくみ上がる。
みかねたカンクロウが偽の起爆札をはりつけ、
「これならだれも触んねえじゃん」
と得意げにのたまった時はあきれたが、確かに効果はてきめんで、我愛羅の『触るな鉢』騒ぎは一件落着した。
風影という重圧をあの若さでになっているのだ、奇行の一つや二つ仕方あるまい、とささやかれながら。
彼岸花が執務室にある本当の理由を知る者は我愛羅だけだったから。
4年前に砂隠れを去った人質の
。
彼岸花の咲く国への去り際に
は我愛羅にこの花を残した。
年に一度だけは、自分の事を思い出してくれと言い残して。
我愛羅が10代半ばで風影に就任してはや8年。
年齢不相応な押しの強さ、正しいと思えば老獪な相手にも物おじしない態度、状況を見極めた冷静な判断。
始めこそ若さが実力を邪魔したが、次第に彼の風評は里の内外で里長として好ましいものになっていった。
そして二十歳を越えたころからは、同じ『若い』という修飾語も非難ではなく、賞賛の意味合いで使われることが多くなった。
・・・あの時、もう少し時間があれば、
を失わずにすんだかもしれない。
無為に過ぎ去った4年という年月を思うと足下が崩れて行くような喪失感に襲われた。
あきらめと後悔と無力感の入り混じった苦いため息をつくと、我愛羅はかつて父がしていたように市井を見回りに出た。
いかに忍びの里とはいえ、この時間、人通りはごく限られている。
風影の衣装をまとっていない我愛羅は目立つ事もない。
白い息を吐きつつ、どこへという目的もないまま足を運ぶ。
気がつけば公園に来ていた。
いい思い出のないこんな場所へなぜ来てしまったのか自分でもよくわからなかったが、しばらくして流星のせいだと思い至る。
父親といっしょに星空を見上げている幼い自分の姿がぼんやりと頭に浮かんだ。
・・・思い出したくもない記憶ばかりだな、今夜はどうかしている。
腕を組んで遊具にもたれかかる。
と、暗い砂場で何かが動いている。
目を凝らしてみれば子供だ。
「・・・おい、こんな時間に何をしている」
思わず声をかけたが、反応がない。
怪訝に思った我愛羅がすぐ横へ行ってもう一度話しかけたが、やはり子供は返事をしない。
耳が聞こえないのか?
怖がらせないように正面に回り込み、子供と同じ高さにしゃがんで顔を覗き込んだ。
見かけた事のない顔、年格好からいえば8〜9歳ぐらいか。
・・・しかし知らないはずなのに、なぜか懐かしい瞳をしている。
わけもないのに胸騒ぎがした。
「おい、もう夜遅いぞ、家に帰れ」
もう一度声をかけると初めて少年は顔をあげてまじまじと我愛羅を見た、そして一言。
「ガーラサマ」
そのアクセント、音の引っ張り方、そして何より声の質。
まさか。
その時ぱたぱたとこちらへ向かってくる足音が聞こえた。
聞き覚えのあるリズム。
自分の鼓動で耳が破裂しそうだ。
「ジン!こんなところにいたの?!」
4年間片時も忘れる事のなかった声。
思わず立ち上がった我愛羅の目に飛び込んできたのは、
その人だった。
は我愛羅を見つめたまま微動だにしない、いや、できないのであろう。
彼女は変わっていなかった、少しも。
だが以前はほとんど感じられなかった愁いが頬に影を落としている。
それとも星明かりがそう見せるのか。
1秒がたつのが1時間にも思われた。
我愛羅はなんとか自分から声を絞り出した。
「・・・帰って・・・いたのか」
我に帰った
が、はっとして
「は、はい、風影様。お久しぶりです」
あわてておじぎをする。
懐かしい声とその所作にたちまち時が逆戻りを始める。
資料室での懐かしい日々、一緒に帰った道、思い出の彼岸花・・・
「オカーサン、ガーラサマ」
突然夢が破られた。
そうか、ではこの少年は。
「
、お前の子供か」
「・・・はい・・・・ジンと申します、風影様」
風影。
確かに自分はそうだ。
だが、
の口からは違う名前が聞きたい。
そう、今この子供の口から聞こえた我愛羅と言う名前で。
4年前、彼女が呼んでくれたのと同じように。
ひとりの人間、ただの男として。
「風影様じゃない、我愛羅でいい」
「・・・・いいえ、風影様です・・・あの時と、は・・・・・違い・・・ます」
震える声で返事が返って来た。
思わず
の肩をつかむ。
我愛羅を見上げた
の青ざめた顔。
「何が違う?俺の心は何も変わっていない!ちゃんと俺の目を見ろ」
の目に涙が滲む。
「嘘を言っていると思うのか?!」
あせる我愛羅の気持ちが、逆にせめるような言葉になって口から出てしまう。
口を押さえてかぶりを振る
。
どうしたらいいのかわからなくなった我愛羅は、言葉をあきらめ、そのまま
を抱きしめた。
「い、いけません、風影様、誰かに見られたらどうするんです?!」
うろたえる
に
「・・・お前の前では、俺はただの我愛羅だ」
腕に力を込める。
「・・・・我愛羅様・・・」
も我愛羅の胸に顔を埋め、こらえきれず泣き出した。
「我愛羅様・・・我愛羅様・・・ずっと・・・・お会いしたかった・・・・」
のなつかしい香りに4年前のことがついきのうのようで、思わず目を閉じる。
「・・・なぜすぐに知らせなかった?俺が心変わりしているとでも思ったのか」
「いいえ・・・でも、4年は、長いです・・・風影様は・・・我愛羅様は私よりずっとお若いですから・・・」
まだそんなことを気にしているのか、と言いかけ、言葉を飲み込む。
は抜け忍となった最初の夫にこの里から連れ出されて以来、たどり着いた先で希望をことごとく奪われた。
夫も、子供も、そしてここでも・・・。
里を一度抜けた者として分不相応な期待はしてはいけない。
そう自分を戒めるのが彼女の生きて行く術だったのだ。
我愛羅との思い出も、ここを去らなければならなかった4年前に自分の胸の中に封印したに違いない。
「もういい、何も言うな・・・」
もう離しはしない、ずっとこうしていたい、と思ったその時。
背中になにか小さな衝撃を感じた。
がはっとして、我愛羅の胸から顔を外し、あわてて手を伸ばす。
「ジン!」
そこには、
の瞳をした少年が立っていた。
子供は何も言わない。
無理もない、母親が見ず知らずの男に抱きしめられていたのだ。
我愛羅はすこしきまり悪い思いをしながら詫びる。
「悪いのは俺だ。すまなかったな、ジン」
だが、ジンは別段悪びれるでもなく、
「オカーサン、ガーラサマ」
さきほどと同じ言葉を繰り返した。
が寂しそうに言った。
「・・・・ジンは、違う世界を見ているのです。
私がここから戻った4年前には・・・・しゃべることすらありませんでした。
今でこそ、私が母親だと認めてくれていますが」
おそらくこんな夜半に抜け出したのも、急激な環境の変化で混乱したせいなのだろう。
しゃがみこんで砂をさわっているジンをみて我愛羅は思った。
このジンという少年は、しかし、前回
がこの里に滞在していた時には公式には別の女が母親と言うことにされていたはず。
何があった、と我愛羅が考える間もなく、
が口を開いた。
「驚かせて申し訳ありません。
本当に急に決まったのです・・・・こちらへ私たちが・・・揃って来る、ということは。
あれから・・・お子様がお生まれになったので・・・・ジンは・・・私に戻って来たのです」
状況がすぐに飲み込めた我愛羅は、淀んだ水底から泥がわき上がってくるような暗い気持ちになった。
砂隠れの暗号解読の第一人者であった
の夫は、8年前我愛羅が暁に拉致された混乱に乗じて抜け忍となった。
その後夫は里抜けした先で始末され、
は彼を利用した男に子を奪われた上、強引に第二夫人として砂隠れへの人質に使われたのだ。
4年間をこの里で人質としてすごし、我愛羅と巡り会ったものの、人質としての期限が迫り、そして我が子を残したまま砂に留まる事もできず、ここから去らざるを得なかった。
しかしその男に実子が産まれた今、用済みになった二人は再び人質として送り返されて来たわけだ。
名目だけは妻と第一子ということにして、人質としての価値を保ったまま。
謀略と猜疑心が渦巻く裏世界。
やジンが、それに巻き込まれている現実はあまりに痛々しい。
・・・それでも。
は今、どういう成り行きでそうなったにせよ、自分の目の前にいる。
手を伸ばせばそこにいるのだ。
風影として信頼を築き上げて来たこの4年の歳月は、我愛羅に自信と厚みを与えてくれた。
なすすべもなく、
を送り出すしかなかったあの時とは違う。
二度と俺の前から去らせたりはしない。
「・・・我愛羅様。・・・我愛羅様。」
気がつけば腕の中の
が自分の名前を呼んでいる。
「す、すまん」
あわてて
を解放する。
「謝ったりなさらないで下さい。
私もとても・・・嬉しかった・・・またお会いできるなんて、夢みたいです」
頬を赤らめながら
がつぶやく。
「ガーラサマ、オカーサン」
またジンの声がした。
「・・・なぜ、ジンは俺が我愛羅だとわかった」
「それは・・・私がジンによく話をしていたからだと思います。
砂隠れのことも、我愛羅様のことも・・・・ここは、彼の本当の故郷ですから・・・」
少し恥ずかしそうに
は微笑んだ。
はにかんだような微笑みは以前のままだ。
しかしそこに滲む寂しげな影はやはり以前はなかった。
2人の置かれていた状況を思い、胸が痛んだ。
星空を雲が覆い始めた。
「そろそろ行かなければ・・・・」
「そうだな、もう遅い」
「ジンもお気に入りの場所を見つけたようだし、少し落ち着いてくれると思います」
送って行く、と我愛羅が言いかけたが
は首を振った。
人質としてやって来たばかり、しかも2人ということで前回より警備が厳しいに違いない。
「・・・必ず会いに行く」
こくりと
は頷き、我愛羅と見つめ合った後一礼するとジンの手を引いて公園から出て行った。
**********
翌日からは冬特有の激しい砂嵐が続き、その間に我愛羅は
を取り巻く環境を調べ直した。
人質という制度自体を見直そう、という流れの中で異例の2人の人質。
これは
の第二の故郷(意にそわない物であるにせよ)と、砂隠れの里との関係の悪化を物語っていた。
重要人物の妻とその第一子、という人質の身元を見ると、砂に従っているかのように思える。
が、もともと砂出身だった人間を送り返して来ただけの事。
2人が連中にとってすでに利用価値がない以上、何か下心があると考えていい。
ところで到着したばかりの2人には、ジンの世話を手伝う名目で若い医療忍者が一名ついて来ていた。
状況は違うとはいえ、自分の世話役だった夜叉丸のことを思い出す。
残念ながら連絡役がいるなら彼がそうである可能性が高い。
我愛羅は憂鬱な気持ちで思った。
二人は彼を信用しているだろうから。
だが情に流されず事実を見極めるしかない。
ようやく天気が回復し、我愛羅は数日ぶりに町に出た。
ジンが気に入った公園にも足を向けてみる。
思った通り少年は砂場におり、すぐそばには付き人らしい青年がついていた。
我愛羅の姿をみとめ、頭が地面につきそうなお辞儀をした。
「ジンはここに慣れてきたか」
「は、はい、
様が落ち着いておられますので、わりにすぐに」
腰の低い、感じのいい青年だ。
「そうか」
ジンはといえば、相変わらず砂をいじっているだけ。
「文字は読めるのか」
「はい、問題なく」
「図書館へ入る許可をとろう、一般閲覧以外は無理だが。
母親も閉じこもっていてもしょうがないだろう、そこでジンの勉強を見てやるように伝えてくれ」
「承知しました」
状況を動かせば報告が向こうへ飛び、なにか指示がくるはず。
駆け引きに二人を使う後ろめたさを感じたが、待っているだけでは先方の策に飲まれる。
先手必勝だ、と自分に言い聞かせて公園を後にした。
図書室へはいる許可を与えたのは
を引っ張り出すための方策でもあった。
は自分たちの来た里と砂隠れの仲の悪さに気がねして、ほとんど外へ出ていない。
これでは我愛羅も彼女と会う事すらままならない。
図書室なら、以前
が仕事を与えられていた書庫と同じ場所にあるし、彼女もよろこぶだろうと思ったのだ。
案の定、すぐ翌日から
とジンは図書室で過ごしているようだ。
あそこへは資料をとりに行くと言う名目で我愛羅も出向きやすい。
こそこそ小細工をしているようで、なんだか情けない気もしたが、自分から行動を起こさない限り、子連れの
からアクションがあるはずもない。
正面切った戦闘と違ってこういう駆け引きは自分にはつくづく向いていないな、と苦々しく思いながら彼らの来る時間帯を見計らって席を立つ。
閲覧室を覗くと2人は奥のほうの机の一角で静かに本を読んでいた。
時折
はジンになにかささやいている。
ジンは何も返事をしないが、
を信頼しきっているのが伝わって来る。
・・・母と子というのは、こういうものなのか。
図書館の静けさと彼らの醸し出す不可侵とも言うべき雰囲気に、一枚の絵を見るような思いで彼らを見守る我愛羅。
の優しいまなざしを独占したいと、以前の自分なら思ったかもしれない。
今は、彼らを守ってやりたいという考えしか浮かばなかった。
我愛羅自身はどれだけ切望しても持つ事ができなかった、母と子の時間を、再び引き裂かれずにすむようにしてやりたいと。
しばらく二人を見守ったあと、ようやく声をかけた。
「
、砂での暮らしはどうだ」
「我愛羅様!」
ぱっと
の顔が輝いた。
「ありがとうございます、図書館へ入る許可を下さって!
ここへ来ると、とても落ち着きます・・・家に帰って来たような気がして・・・
おかしいですね、ふふふ」
本当はここがお前のいるべき場所なんだから当然だろう。
のど元まで出かかった言葉を飲み下す。
壁に耳有り、だ、うかつなことは言えない。
「ジンは何を読んでいる」
「それが・・・私にはわけのわからないものばかりです。
ここは本当に蔵書が多いので、勝手に書架から持って来ていろいろ見ているみたいです」
ちらりとタイトルを見ると記号論や資料集など。
どうやら絵や図を見ているらしく、これなら砂の文字を知らなくても眺めることはできる。
「お前をここの司書どもに紹介しておこう、ちょっと席を外せるか」
「ええ、ジンもここならどこかへ行こうとも思わないでしょうから」
司書達に声をかけ、紹介がてら
が以前ここにいたことをかいつまんで話し、簡単な仕事を手伝わせて差し支えない旨を告げる。
司書をやっている忍びは、諸事情でいやいやこの業務についている者が大半なので
を歓迎してくれた。
しかしなんといっても男が多い・・・多すぎる。
それでなくとも若く見える
の事だ、釘を刺しておくに越したことはない。
「
は息子がいっしょだからな、無茶を頼むな」
我愛羅はあえて言う必要のない一言で牽制しておくことは忘れなかった。
さて、若い風影が恋をしていようといまいと、おかまいなしに業務は降って湧いて来る。
時間を作ろうと必死で仕事をすればするほど逆に仕事の量が増えて行くようで、いい加減うんざりする。
・・・これではいつまでたっても時間ができないではないか!
しかしそんなことを誰にも愚痴る訳にもいかず、我愛羅の眉間のしわは深くなるばかり。
「おい、・・資料だ」
本当は自分が行きたいだけに声がとんがる。
「は、はいっ!」
メモを風影から受け取った忍びは文字通り飛ぶように執務室から出て行った。
数分後、ドアにノックの音。
「入れ!!」
「・・・失礼します」
声を聞いてすぐに
だとわかった。
さっきまで不機嫌マックスだった気持ちがきれいさっぱりどこかへいってしまいう自分の現金さに苦笑い。
ドアをあけると、よたよたと本の山をかかえて入って来たのは・・・4本の足?
「ジンも来たのか?!」
さすがに男の子だけあって、母親よりずっと小さいくせに同じぐらいの資料をもっている。
きっと自分も持つと言って譲らなかったのだろう。
急いで二人から資料をおろすのを手伝う。
ジンは物珍しげにあちこち見て回っている。
「すいません、どうしても来たがって」
「構わん、別に隠さないといけないようなものはないしな」
正直言うとちょっと残念な気もしないでもなかったが、ここは大人になるしかない。
は懐かしそうにあたりを見回していたが、すぐに鉢に気がついた。
「・・・・彼岸花、とっておいて下さったんですね」
「ああ」
「嬉しいです」
目をちょっと潤ませて、にこにこしている。
「でも・・・・どうして起爆札なんか張ってあるんですか」
「ああ、あれは・・・」
言う間もなく、ジンがその札に触ろうと手を伸ばす。
びっくりした
がジンを後ろから抱きかかえるようにして引き離した。
「だめよ!爆発したらどうするの!」
「・・・しな〜い」
ぼそっと声がした。
めったに聞けないジンの声に我愛羅は思わず聞き返した。
「・・・何が、しないんだ」
「バクハツしな〜い」
「なぜわかる?」
「バクハツしな〜い」
が割ってはいる。
「すいません、ジンはいつも言葉が足りなくって・・・でも起爆札は爆発しないと・・どうしてなのか私にはわかりませんが・・・」
「ああ、ジンの言う通りだ」
平静を装いながらも内心驚く。
爆発しないのは当然だ、カンクロウがつくった偽物だから。
でも術式は一見そっくりなので、偽物と見破った者は今まで一人としていなかった。
「本当に、爆発しないのですか?」
がおっかなびっくり聞く。
「ああ、偽物だ。不用意に触られるのがいやで貼った」
「びっくりした、我愛羅様は相変わらずいたずら坊主みたいですね」
くすくす笑う
は事の重大性に気がついていないようだ。
この少年は、おそらく暗号を解読できる、もしくは瞬時にわかってしまうのだろう。
まれにこういう才能を持った者がいる。
・・・・父親の血を引いたか。
と、ジンの父親である上忍とのかつての日々を思い、急に自分だけが取り残されたような気持ちになった。
ふと、やわらかい子供の手が、我愛羅の手に触れた。
「ガーラサマ」
うつむいたジンが我愛羅の手を握っている。
「ジンは・・・自分が何か悪い事をした、と思っているんだと思います」
がジンの思いを代弁する。
この少年は言葉でごまかせない分、相手の思いを直に感じ取ってしまうらしいな。
ゆっくりと我愛羅がジンに言う。
「ジン、お前は何も悪い事なんかしていない。
それどころか、誰も見破れなかったこの札の真偽を言い当てたんだ。
たいしたものだぞ」
ジンがぽかんと口をあけて我愛羅を見た。
と、急いで
の後ろに隠れてしまった。
「・・・すいません・・・びっくりしたみたいです。
むこうの里ではほめられた経験が・・・ほとんどないので・・・」
声をつまらせながら
が言った。
冬の弱い日差しが窓から差し込み、空中の粒子が光を反射してきらきらと舞う。
・・・かける言葉が見つからない。
と、
が思いがけずにっこりと微笑んだ。
「やっぱり我愛羅様はすごいです。
お会いして少ししか経っていないのに、ジンに長所を見つけて下さって」
すごいのは、
、お前だ。
そう言いたかった。
どうして、こんなつらい状況で微笑む事ができるのだ。
「我愛羅様、そろそろ戻ります」
「あ、ああ」
「またたくさん資料を請求して下さいね。
我愛羅様を尋ねる口実になりますから」
いたずらっぽい笑顔を浮かべると、
はジンを促して部屋から出て行った。