我愛羅は執務室で、自分が不在だった間にたまった書類の山を相手に格闘中。
‥‥‥三途の川の途中で引き返してきた者に対して、この里の連中は少しぐらい遠慮はないのだろうか。
とブツクサ考えつつも、思いがけず多くの忍び達が彼の生還を祝ってくれたことを思い出し、気を取り直す。
そして書類が手つかずの状態で置いてあったという事は、
‥‥‥彼が戻るのを信じてまっていたのだともいえる。
と、ポジティブシンキングでなんとか乗り切ろうとするけなげな風影。
体調はまだまだ万全とはいいがたい。
テマリはさんざん心配して、彼を病院に閉じ込めようとしたほどだった。
が、そこはもう15歳、彼女のいうがままにちんまり病室で寝ていては、
「風影様はやっぱり、シスコンだ」
などという、痛くもない腹を探られかねない。
「大丈夫だ」
と、やせ我慢をして、執務室へこもっていると言う具合だ。
だが、同じような書類ばかりでいい加減飽きてくる。
ふと、机の片隅にカンクロウが忘れたらしい手袋がおいてあるのに気がついた。
彼は似たような手袋を1ダースも持っているから、別にこれがないからといって困りはしないのだろう。
「‥‥‥‥‥」
自分はチヨ婆とナルトにチャクラをわけてもらって生還したのだ。
‥‥‥ということは、ある意味、彼らのチャクラが我愛羅の体に流れていると考えて相違ない。
‥‥‥ということは、彼らの技が、使えるの、か?
退屈さが我愛羅の好奇心を煽る。
そっと手を伸ばし、カンクロウの指なし手袋をはめてみる。
別にこんなものなどなくても、チャクラの糸を放出する事は可能なのだろうが、
やはり、傀儡師たる実兄が愛用しているのを常に目にしていたので、
なんとなく傀儡師イコール指なし手袋、のイメージがこびりついてしまっているようだ。
ものは試し。
すっと指をのばして、標的を探す。
初心者たるもの、なにか小さなものがいいだろう。
あった、机の上の羽根ペン。
狙いを定めて‥‥動いた!
ほう、なかなか便利なものだな。
よし、今度はもう少し難度を上げてインキ壷。
おお、今度も成功、よし、じゃあ、今度は本、次は書類の山、次は‥‥
人間やらなければならない事があればあるほど、他の事に興が乗るものだ。
風影とはいえ、まだ15の少年。
つぎつぎいろんなものへチャクラを出しまくる。
部屋の中は大小様々なものが飛び交い、ほとんどポルターガイスト状態だ。
さあ、もう一つ、と思った時、
「待った!」
書類の山の中から声の主がごそごそと、這い出してくる。
「‥‥なんでそんなとこに隠れてるんだ、カンクロウ」
変なところを見られた、と内心焦る我愛羅は必要以上に眉間にしわ。
「いや、お前がいまいち元気ないから、ちょっと景気づけてやろうかと思ってさ。
まさか、ここまで傀儡の術が気に入るとは思わなかったじゃん‥‥」
なにやら、ぜいぜいと息が荒い兄上。
「‥‥‥」
聡い弟君はすぐわかってしまった。
今のはカンクロウが仕組んだお遊びだという事が。
「‥‥お前が操ってたんだな」
「ま、まあ、そうじゃん。
いや、ほんの冗談のつもりだったんだけどさ、お前があんまり熱心にやるもんだから、
やめるにやめられなくなっちまって‥‥」
ああ、兄弟愛。
姉は過保護だし、兄は悪ガキ。
俺を思う気持ちはありがたいが、ちょっとほっといてくれ。
カンクロウを執務室からたたき出した我愛羅は、大きなため息をつくと、ドカッと椅子に身を沈める。
窓の外に荒涼と広がる砂丘へ目をやる。
‥‥‥帰ってきたのだな。
ほんの数日留守にしたにすぎないのに、なんだか何年もいなかったような気がする。
歴代風影の中でも一番年若い我愛羅。
まだまだ学ばねばならない事、やらなければならない事が山積している。
まあ、あせることはない。
そう、こんなデスクワークもリハビリと思えば、それなりに意義のある事。
現世に戻って来れたのだ。
‥‥‥迎えてくれる人達のいるところへ。
一歩ずつ進んでゆけばいい。
俺が風影にふさわしい人間であるという事を証明する時間は十分ある。
大あくびをして、う〜んとのびをすると、我愛羅は今一度、机に向かった。
蛇足的後書:遅まきながら我愛羅復活祝いです。
賛否両論の守鶴抜き我愛羅ですが、これからが彼の真の実力の見せ場だと、ひそかに期待しております。
私は彼を応援しに行けないので、代理で兄貴を送り込みました、ジャン♪