仲良し#2

うわっ、びっくりした。
遅刻しそうになって大急ぎで玄関を飛び出したら、黒い毛玉を踏んづけかけた。
もう少しでこけそうになりながらもなんとかよけると、びっくりした表情のクロネコが薄緑の目でこっちを見つめている。
「ひょっとして、あんた、‥‥カンクロウ?」
ネコ相手に通りすがりの人が見たらバカになったんじゃないかって思われそうな会話をしてる私。
あんまり記憶のいい方じゃないんだけど、以前夜中に変化がとけてカンクロウにもどったちょっと憎たらしいクロネコの姿ははっきり脳裏に焼き付いてる。
これよか、もう少し大きかったような気もするけど‥‥
おいでおいでと手招きしてみると、案の定こっちへ近寄って来た。
「やっぱり‥‥今度は何やったのよ?またお姉さんにネコにされちゃったの?
カンクロウって、案外どんくさいのね。」
けっこうネコが好きな私はつい抱き上げて頭をなでなでしてしまう。

「なんか、素直すぎるな‥‥でも、カンクロウよね‥‥?」
「おい、おれはここにいんぞ」
はっとして上を見上げると、カンクロウがニヤニヤ笑いながらそこに立っていた。
「うそ、なんで?!」
「アホ、そうそうネコにされてたまっかよ、他ネコの空似じゃん」
てことは、いまの独り言も全部聞かれたのね、くっ、また恥かいたわ、悔しい!
「朝っぱらからなによ?遅刻しそうだってのに」
片思い中の相手なのに、つい、とんがった声をだしてしまう、ああ、バカ、私って。
「ちこくう?どこに?」
「何ボケたこと言ってるのよ、ガッコに決まってるでしょ!学生なんだから!」
がボケてんじゃん、今日は祝日だぜ」
「えっ‥‥」
はっ、そういえば、共働きの両親のあわただしい準備の音がまるでしないままだった‥‥
もう出ちゃったんだと思ってたけど、寝てたんだ‥‥がび〜ん。
「あいかわらずおっちょこちょいだな、 は」
言い返す元気もない。腕の中のネコはなんのこっちゃ、といった顔でなでてもらうのをねだるみたいにニャーニャー鳴く。
「なんだ、このネコ、 のこと気に入ったんじゃねえのか」
「ああ、そうかもね‥‥」
一気に力が抜けてがっくりきた。
「そんなにしょげんなよ、別にいいじゃん、早起きできたと思えば」
「はあ、まあ、そうね‥‥」
「ふ〜ん、制服姿初めて見るじゃん。けっこう可愛い制服なんだな」
おっ、元気リチャージ、カンクロウがめずらしくほめてくれた!
そうなのだ、うちの学校の取り柄と言ったらこの制服ぐらい。
校舎はぼろいし、先生は老人ぞろいだし、クラブだって強いとこなんて特にないし。
って、自分で選んで入ったんだからしょうがないんだけどさ。

「いつまでもそんなネコ抱いてたら毛がいっぱいひっつくぞ、下に置けよ」
「え〜、でもかわいいじゃない、ねえ、ネコちゃん?」
ニャ〜と返事が返ってくる。
「ふん、俺がネコだった時は思いっきり水ぶっかけたくせに」
「だって、あの時は試験期間中で気が立ってたし、カンクロウがさかりの声出してるとおもったんだもん」
「そ〜だったな、俺が鳴いてるっていう根拠もなく。
他にもネコはいたじゃん?
はなんで俺狙ったんだよ」
今更蒸し返さなくってもいいじゃない‥‥なんか、朝から忍者にからまれてるわ、私。
「それはさ‥‥なんてか‥‥目つきが悪かったし、態度がでかかったから、つい」
本当にそうだったのだ、猫どもの声のうるささに耐えかねて、思わず外にでた私。
そのとたん、たまたま目のあったでかいクロネコに、まるで挑むみたいにじろっと睥睨されてびびったもん。
でもネコごときに気圧されてどうする、という内なる自分の声に奮い立ち、バケツに水をいれて出直して再びこっちを睨んだネコめがけてバシャ〜ッと‥‥
「水ぶっかけたんだよな、何の躊躇もなく」
「そ、そんなことないよ、内心びくびくだったけどさ、ここで負けちゃ人間が廃ると思ってさ‥‥」
「なんでそんなことで廃るんだよ、ったく。どら、このネコも水嫌いかどうかみてやるじゃん」
「えっ、ちょっと、そんなことしたら可愛そうってか、知らないよ、ネコって結構凶暴化すると怖いんだから、やめなよ、ちょっと!」
止める間もなく、カンクロウが私の腕の中から他ネコの空似ネコをつまみとろうとした、そのとたん‥‥
「いってえ!!」
ガリッとけっこう派手な音を立ててネコがカンクロウの頬をひっかいて、身をよじって逃げて行った。
うわ、血たれてる!
「ちょっと、大変!消毒しなきゃ!はやく家に入って!」
「いてて、大丈夫だって、しっかしやってくれたな、あんのクソネコめ」
「何言ってんのよ、カンクロウが無理強いしたからやなことされるって勘付いたのよ。
どうでもいいから、早く!ノラネコだったかもしれないし、変なばい菌入ったら大変!」
しぶるカンクロウの腕をぐいぐいひっぱって家に逆戻りする。
「‥‥玄関から入るのはじめてじゃん、いいのかよ」
「普通は玄関から入るの!
2階の窓から入るときにそういう躊躇がほしいわね」

つまんないボケとツッコミをかましながら、カンクロウを居間へとひきずっていく。
そこには、私の両親が朝ご飯を食べてる姿が‥‥しまった、二人とも寝間着のままじゃない、カッコ悪い〜!
両親も私が誰か連れてくるなんて思ってなかったもんだからびっくりして、一瞬固まったものの、さすが年食ってるだけある、開き直るのが早い。
「あ、あら、 のお友達?」
「俺カンクロウです、いつも さんにはお世話になってます。」
え、今のカンクロウが言ったの、うそ、なんかえらい行儀いいじゃない、私といる時とは雲泥の差ね、どうなってんのよ。
「ははは、普段仕事でおそいもんだから、休みの日はいつも朝がゆっくりでね。
こんな格好ですまないね、まあゆっくりしていきなさい」
「いや、お休みのところ申し訳ないです。」
うわっ、すんげ〜猫!変化の仕方にもいろいろあるもんね!?
「ちょっとカンクロウったらネコに襲われてケガしちゃってさ、私の部屋で手当するわ」
あわててカンクロウを2階へと追いやる私。
「あら、大丈夫?」
「たいしたことないです、すぐ失礼しますから」
もういいよ、早くあがってよっ!
階段を上って行く私たちの後ろから母の声が追っかけて来た。
「ちゃんと手当てしてあげなさいよ、
「わかってるわよっ!」

大急ぎで階段を上りきると部屋のドアを閉める。
「ハア〜、恥ずかしかった」
「なんでだよ、休みなんだし、朝早いんだから仕方ねんじゃん」
「だって、だらしない〜、髪だってボサボサで寝間着のまんまじゃない、んなとこ友達には見せらんないわよ。おせっかいだし、もう‥‥」
ぶつくさ言いながら、救急セットを取り出し、カンクロウの頬のキズを消毒して手当てする。
「いってえな、もうちょっとやさしくできねえのかよ」
「何よ〜、さっきとは全然態度違うじゃない、まるで両家のご子息ってかんじだったわよ」
「そうなんだから仕方ねえじゃん」
「冗談きついわよ」

言っててハタと気がついた。
あたし、カンクロウのこと、何にも知らないわ。
学校の同級生とかだったら別に意識しなくてもそれとなく情報が耳に入って来て、どこにすんでるとか、両親がどんな仕事してるかとか、おのずとわかっちゃうんだけど‥‥
んなこと、聞く機会もなかったし。
忍者やってるってことと、ほうれん草アレルギーなことぐらいしか知らない。
「ねえ、ひょっとして、本当にい〜いとこのお坊ちゃんなの、カンクロウってさ」
ありえないと思いつつ、ちゃかして聞いてみる。
「さあな」
え、一笑に付されると思ってたのになんか、それもあり、ってな雰囲気よ、うそでしょ。
思わずやっかみ半分で、普段オヤに持ってる不満を愚痴ってしまう。
「ふ〜ん、いいね、うちの親なんてさ、しがないサラリーマンだもん。
まあ、今見たとおりよ。
お母さんは勉強しろ勉強しろって、うるさいくせに自分はたいしたとこ行ってないし‥‥
お父さんだって上司にぺこぺこしてみっともないったら‥‥」
「黙れよ」
びしっときつい声。
カンクロウの容赦ない冷たい視線。
こんな目を向けられたのは初めてで身がすくんだ。
「‥‥どしたのよ」
「どうもこうも、ぜいたくなんだよ、 は。」
「なんでよ」
「親が優しいからって甘えてんじゃん、お前は」
「‥‥なによ、カンクロウはいいとこのお坊ちゃんなんでしょ、ならご両親だって‥‥」
最後まで言えなかった。
「俺には親はいない。母親は弟産んですぐ死んだからほとんど覚えてねえし、親父は砂のボスだったから、父親らしいことなんてなんにもしてもらってねえよ。」
「‥だった、って‥‥?」
「死んだよ、親父も」
吐き捨てるように言うカンクロウになんて言ったらいいのか言葉が見つからない。
私ったら、なんて無神経なこと言っちゃったんだろう。
「ご、ごめんなさい‥‥」
蚊の消え入りそうな声で詫びる。
沈黙が部屋に充満する。

トントントン‥‥
軽い足音、やばいっ、お母さんだ、なんでこうタイミング悪いんだ、彼女はっ!
「もしもし?入るわよ」
だめっというすきもなく、お母さんがコーヒーもって部屋に入って来た。
あれっ、瞬時にしてさっきの凍り付いたような空気が消えた。
「ちゃんと手当てしてあげたの?あら〜、見事にひっかかれちゃったのね、お気の毒に。
まったくどこのネコにやられたのかしらね‥‥」
「大丈夫です、ちゃんと消毒してもらいましたから」
打って変わってカンクロウのいたって穏やかな声。
「そうお?
あ、これなんだけど、今までうちの子が男のお友達を連れて来たことなんて一度もないもんだから、何お出ししたらいいかわかんなくて‥‥。
とりあえずコーヒー持って来たんだけど、もし、モルモン教徒の方だったらごめんなさいね」
な、何ボケたこと言ってんの、お母さんったら!
この男のどこが禁欲的なモルモン教徒に見えんのよ?
おまけに私がモテないとこうもはっきり公言してくれちゃって、もう!
カンクロウの片頬が軽く持ち上がって、笑いを押し殺してるのがわかった。
「俺コーヒー好きですから、ありがとうございます」

お母さんが出て行ったあとも幸い、さっきの冷たい空気は戻らなかった。
コーヒーに口をつけかけて、カンクロウが言う。
「さめるぞ、 も飲めよ」
「う、うん‥‥」
「なんちゃって、どっちが客かわかんねえじゃん、この言い方じゃな」
本当だ、ふふふ。
「悪かったな、 、つい八つ当たりしちまってよ」
「そ、そんなことない、私が悪かったんだもん‥‥本当にゴメンナサイ」
「もう気にすんなよ。
俺の家庭ってのはノーマルからはほど遠いからな。
家族みんな忍者だし」
そういえば、そんなこといってたよね‥‥お姉さんのことぐらいしか知らなかったけど。
え、でも亡くなったお父さんのこと、たしか砂のボスだって‥‥
世間に疎い私でも、砂の里に住む者として一応名前ぐらいは知ってるあの風影とかいう有名人?
カンクロウはその息子お?!
「そんなびっくりした顔すんなよ、ここらじゃ珍しい環境かも知んねえけど、俺たちの周りじゃけっこうありふれたもんなんだからよ」
「そ、そうかもね、でも、まさか砂隠れの里のトップの息子だなんて思っても見なかったから‥‥」
「ま、俺は俺。親父はかなりの変人だったし、 んちがうらやましいぐらいじゃん」
まんざら嘘でもなさそうな口ぶり。
惚けた顔をしてたのか、デコピンが飛んで来た、いてっ!
「変な顔すんなよ。砂のボスの子供だと知っていやんなったのかよ」
「そ、そんなことないよ、カンクロウはカンクロウなんでしょ。
あんたが誰の息子だって関係ないわよ」
おもわず即答。
「だいたい、砂のトップとか聞いたってわかんないし‥‥」
「ははは、そうだよな、ま、そのほうが俺だって気が楽じゃん。
だいたい、砂は世襲制じゃねえから、おれが元ボスの息子だからって何の特典もねえしな」
あ、そうなの。
なんだ、じゃあ別にかしこまる必要もない(してないけど)んだ、良かった〜。
ニヤニヤしながらカンクロウが言う。
「『じゃあ、別に普通の忍者じゃん』とか思ってんだろ、 ってもろに顔に出るからわかりやすいよな。
忍者のなんたるかもしんねえくせによ」
むか。
「そんなの知ってるわけないじゃない!
うちはごくゴック一般的な家庭なんだもん!友達で忍者なんてアンタしかいないし、そのカンクロウが何も言ってくんないんじゃ、わかりようもないでしょっ!」
「でかい声で叫ぶなよ、俺が忍者だなんてお前の親に知られたくねえよ」
「なんでよ?」
「忍者イコール汚い仕事、だからな」
「なんでよ?!」
「いちいちからむやつだなあ。本当のこといってるんだから仕方ないじゃん」
「そりゃ農作業は多少は汚れるだろうけど、宿直とかは別に掃除する訳でもないんだし‥‥」
「何はずれたこと言ってるんだよ、ったく。
そういう意味で言ってんじゃねえよ。」
「じゃあ、どんな意味なのよ?」
「しつこいなあ、今日はやけに。‥‥忍者っつ〜のは、舞台で誰かがスポットライト浴びてる間に、裏でそのヤロウが手を汚さなくてすむようにゴミを片付ける仕事なんだよ」
顔にハテナマークがゴシックで書いてあったにちがいない。
カンクロウが盛大なため息をついて言葉をつなぐ。
「だからな、ゴミにもいろいろあるじゃん。」
「燃えるゴミとか、粗大ゴミとか?」
「どあほ。人間のこと言ってんじゃん、俺は。」
「カンクロウの説明がへたなのよ、全然わかんない」
「‥‥まあ、いいや。一般人の は汚いこと知らない方がいいからな」
何よ、なんかバカにされてるような気がする。
「ま、そうむくれんなよ。 んちみたいな家族が平和に暮らせるようにするのが俺らの仕事だからな」
「な〜によ、かっこつけちゃって‥‥全然わかんないよ」
「それでいいんだよ、忍者が目立つようになったら世も末じゃん」
「でもカンクロウの格好は目立つよ」
「だ・か・ら、そういう意味じゃねえって言ってんじゃん、天然娘」
「もう!」

トントン、とまたしてもノックがして、母の顔がのぞく。
「ごめんなさいね、何回もおじゃましちゃって。
楽しそうなとこ申し訳ないんだけど、 、バイトいかなくちゃだめなんじゃないの」
はっ、そうだった、休みだからってだいぶ前にバイト入れてたんだ、私。
「おれも、もう帰ります。コーヒーごちそうさまでした。」
「ま、待って、一緒に出ようよっ」 
階段を下りかけるカンクロウをあわてて追っかけた、と、ぎゃあっ、階段踏み外したっ!
落ちるうっ!
ぎゅっと目を閉じた‥‥あり、ごんごんごん、とくるはずの痛みがない‥‥
おそるおそる目を開けると、カンクロウのどアップ!
え〜と、滑り落ちかけた私を助けてくれたっぽいんですが‥‥こ、この体勢は‥‥
ぞ、俗にいう、お姫様だっこ、でしょうか!?
言葉をなくしてひたすら赤面する私をとん、と床におろすと、
「なにやってんだよ、自分ちなのに慣れてないのかよ?」
開口一番この台詞。
言い返そうとしたその瞬間、拍手の音‥‥?
「まあ、すごいわっ!」
「う〜ん、見事!」
げ、オヤ軍団‥‥今回は父親まで参加している‥‥
さすがのカンクロウも度肝を抜かれたようで、しばし言葉を失い‥‥でも、すぐ頭をかきながら、
「いや、けがなくてよかったです」
だと。
いや、助けてもらったから、お礼の一つもいいたいんだけど、こういう状況下ではどうすりゃいいのさ?!
「すごいのね、カンクロウさんって、運動神経抜群ね」
「はあ」
「全くだ、まるで忍者だな」
ぎょ、本当にそうなんだけど、タイミング悪すぎよ、お父さん!
けど、当のカンクロウはしらっとした顔で
「ハハハ、冗談きついですよ」
どっちが!?
「さ、さあ、はやくバイト行かなきゃ、カンクロウも急ぐからさ、じゃね」
さっきと同様逃げるように玄関から外へ出る。
「またいらっしゃいねえ〜」
手を振って両親そろってお見送り、ああ、はじかしい。
しばらく黙ってたカンクロウの顔が、親の姿が見えなくなったあたりで急ににやけたかとおもうと、吹き出した。
「ぶふふふっ、くっくっくっくっ、 のオヤって、面白れえ、サイコーじゃん」
「んもう、バカにしてるんでしょっ」
「んなことないぜ?いいじゃん、楽しくってさ。また、玄関からこようっと。」
ああ、もう、わけわかんないや。

「バイトって、どこ?」
「え、ああ、すぐ近くのスイミング」
「へ、スイミングで何やってんの」
「コーチの補助、教えてんの、子供に」
「へえ〜、お前が?大丈夫かよ、溺れさすなよ、ガキども」
「し、失礼ね!さ、さっきのはほんの‥‥」
「ほんの、なんだよ、滑り落ちただけ、かよ」
「んもう〜!‥‥でも、ありがと‥‥」
「なんだよ、今更。別にいいじゃん。」
ちらっと、カンクロウの方を盗み見ると、あ、やっぱり、そっぽむいて赤くなってる。
私も人のこと言えないですが‥‥頬が熱いもん。

しばし、黙って二人、道を歩く。
さすがに寒いなあ、吐く息が白い。
でも、この白い煙をはくのって、結構面白いんだよね、子供の頃よく登校班で競争やったっけ‥‥
ついハーッて大きく息を吐き出したくなっちゃうな。
ハ〜ッ‥‥‥
しまったっ、隣人Aはカンクロウだったんだ!
我に返って隣を見ると、あり、同じことしてるじゃない?!
ちょっとびっくりして見てると、今度はカンクロウがこっちを見て、ニヤッとした。
「ガキのころ思い出すな」
「う、うん!」
そこからスイミングまで、息吐き競争。
「私の方がゼッタイうまい」
ハ〜ッ
「何言ってるんだよ、肺活量たいしたことねえんだろ」
ハ〜ッ
「そんなことない、これでも水泳得意なんだから!そうでなきゃ、スイミングでバイトなんてしないわよっ」
ハ〜ッ
「へ〜ん、そんなもん、ちっこいちっこい!忍者家業長い俺をなめんなよ」
ハ〜ッ 

「サブコーチ〜?何やってんのお?」
げっ、教えてる悪ガキどもだ!
「あ〜、ドウハンシュッキンだあ」
な、な、なんちゅうコトバを知ってるんだ、近頃のガキどもはっ!/////
隣のカンクロウも目を点にしてる。
「ヒューヒュー、やるねえ〜、コーチったら、見かけによんないね〜」
「コ、コラッ!」
「お前ら大人をからかうんじゃねえよっ」
カンクロウがこぶしを大げさに振り上げてどなったら‥‥
「いや〜ん、二人そろって怒ったあ〜、ますます仲良しですねエ〜」
子供達はきゃらきゃら笑いながら逃げてった。
赤面したまま、あとに取り残された私たち。
「んじゃ、な、ここだろ。俺も、行くじゃん」
「あ、そ、そうね、送ってくれてありがと」
言いながら、今朝なんでカンクロウがうちの前にいたのかな、とふと気になった。
「あのさ、なんで今朝‥‥」
「じゃなっ」
カンクロウは私がみなまで言う前にさっと姿をくらましちゃった。
な〜によ、ふん。
任務の帰りじゃないわよね、普段着だったもん。

バイトを終えて家に帰り(ガキどもはみっちりしぼってやった)、今朝の息吐き競争でなんか懐古趣味がうずいたのか、昔の日記を取り出したりしてる私。
「○月×日 今日は登校する時にKちゃんと、どっちが早く走れるか競争して、班長に怒られた」
「△日○日 今日は班長がかっこいいパーカを着てた。」
「×日▲日 今日はバレンタインに誰にチョコあげるかKちゃんと話してて、私が班長すきなのがばれちゃった。
Kちゃんにしゅ味悪いって、笑われた、そんなことないのに」
ひえ〜、そうだったんだわ、私登校班の班長が好きだったんだ、小学校の高学年の頃。
懐かしい〜。
日記にも班長がどうした、こうしたとか、そんなことばっか、書いてある。
でも、この班長、じきに引っ越しちゃって、私の淡い恋は終わりを告げたんだったわ、確か。
「□月■日 明日班長が引っ越してしまう。悲しくてたまんない。どうしようもないけど。
朝早く起きて班長の家の前まで行った。」
え‥‥そんなことしたっけ‥‥
あ、続きが書いてある。
「Kちゃんにその話をしたら、どうじょうしてくれた。
Kちゃんも好きな人の家まで行って、何にもしないでかえってきたことある、とか言ってた」
え、え〜っ。
‥‥‥‥////////
あ、ありえないよ、ね。
たまたま、だよね‥‥‥
カンクロウが、そんなこと、あり得ない‥‥‥で、でも‥‥‥
も、もしかしたら‥‥‥アリ、でしょうか、カミサマ?

♪♪♪♪♪〜
あ、ケータイだ、着メロお気に入りの曲にしたんだった、忘れてた‥‥‥
カ、カンクロウじゃないっ!
ケータイ持つ手がふるえてきて、ついてるストラップが揺れる。
心臓がバクバクいってる、落ち着け、落ち着け‥‥
「はい、 です」
「よ、カンクロウくんですよ」
「どうしたのよ」
「あのさ、お前もっとガキを教育しとけよ、生意気すぎじゃん」
「わ、私は水泳おしえてんのよ、ガキの性格矯正までやってらんないわよ、たかだかスイミングのサブコーチしてるだけなんだからっ」
「へいへい」
「なによ〜、そんなことで電話くれたのお」
「それとさ、‥‥‥今朝‥‥‥」
なななななに、この間は。
緊張するっ。
「‥‥‥‥お前‥‥‥‥少しやせろよ、重い」
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥バカヤローッ
「ひえ〜、耳元ででかい声だすなよ、鼓膜が破けんじゃん」
「お、女の子に向かってなんちゅうデリカシーのない発言をするのよっ、ばかばかばかばか〜っ」
「そ、そんなに怒んなよ、ちょっと言っただけじゃん‥‥」
「もうっ、カンクロウの鈍感!!あほ!おやじ!!!」
「おい、同い年の人間に向かってそりゃないだろ?!」
「だって、その発言はもう、セクハラオヤジよっ」
「大げさだな〜」
「なんでそんなこと、アンタに言われなきゃなんないのよ、私がデブだろうがなんだろうが、関係ないんでしょっ!
お姉さんもいるくせに、乙女心がまるでわかんないのねっ」
「キレんなよ、落ち着け‥‥」
「キレたくもなるわよ、人の気も知らないで、なんでそんなことで電話してくんのよっ」
「いや、別にこんなこと言うために電話したんじゃねえよ‥‥」
「じゃあ、なんなのよっ」
「‥‥‥あ、朝お前んちに行ったのはさ‥‥」
ドキン。
沈黙。
「‥‥な、何よ‥‥」
「‥‥‥そ、その、‥‥そ、そうだ、お、落とし物拾いに行っただけじゃん」
「はあ?忍者が落とし物ぉ?」
「そうなんだよ、ハハハ、 のどんくさいのが移ったんだな、きっと。
んじゃな」
「ちょっ‥‥‥」
切れたし。
ムカつく発言はともかく、なんなのよ、何が落とし物よ、嘘おっしゃい。
何の気もない人間のうちに普通、朝っぱらから来るか?!
いかん、はっきりした根拠はないけど、‥‥‥どうしても顔がにやける。
まだ、決めつけられないけど。
カミサマ、期待しちゃってもいいでしょうか?
当分はクロネコ見る度ににやけてしまいそうだわ。

バイトでガキどもにからかわれる度、怒鳴りつけながらも、内心まんざらでもない なのであった。

 

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蛇足的後書:2005年2月頃の作品、寒いのはそのせいです。
完全にパラレルしてますので、お嫌いな方には申し訳ない。書いてて自分でも砂の里って、どういうとこなんだ、とわけわからなくなりました(ーー)
要はカンクロウを出したいのですよ!この人の性格は書いててとても楽しいのです。