nakayoshi

ね、眠れない‥‥
くっそ〜、懸賞につられて買ったウーロン茶のせいだ、久しぶりにのんだからなあ。
きっとカフェインばしばしだったに違いない。
ふぁ〜、眠たいのに、熟睡できないのはつらいなあ、もう。
思いっきりノビをしたら、その拍子に、ふくらはぎが‥‥びんびんに張って‥‥
「ギャー、こ、こむら返りっ!!」
ベッドの上でのたくって、痛みをこらえる。
なんとか起き上がって足を伸ばし、足の指先を手でつかんで引っ張る。脂汗が滲む。
うううう、なんであんなペットボトル一本のせいで、こんな目にあわなきゃなんないのさっ、腹立つなあ。

わたしのベッドは窓際に置いてあるので、外の様子もよく見える。
隣接する家々の屋根瓦にやわらかく反射する白い月光がきれいだ。
痛む足を引っ張りつつ、ぼ〜っと外の景色をめでていると‥‥
あれ?なんか、人影が‥‥
気のせいかな、すごくはやく動いてるからよくわかんないけど‥‥
ひょ、ひょっとして、ド、ドロボウ?
黒っぽい影がぴょんぴょん動いて、こっちに近付いてくるっ!!
ど、どうしよ、に、逃げなくちゃ、で、でも、くっ、あ、あしっ、痛くて動けないっ!!!
あ、隣の家の屋根で止まった‥‥こっちむいたよっ!!
‥‥‥絶句。
なによ、あの、衣装は。
真っ黒ずくめなのはともかく、へんな交通標識みたいなマークに、ねこみみつきのずきん、おまけに、ク、クマドリしてるし‥‥‥
あれ、ずきんに砂の額当てついてるよ、あ、ってことは、この里の忍者なんだ‥‥
あ〜よかった、泥棒じゃないんだ、とりあえず。
それにしても、なんで、こっちむいて、ニヤニヤしてんの、あのヒト。
あ、ずきん取った‥‥
え、あのツンツン頭、確か見覚えあるよ。
カ、カンクロウじゃないっ!!

「よ、お」
いきなり、ガラス窓に顔をべちゃあ〜っとひっつけてるし!!
「ちょ、ちょっと、なにしてんのよっ、ばかっ!クマドリがガラスに写るっ、やめい!!」
「つめた〜いじゃん、せっかく遊びにきてやったのによ。い、れ、て」
「‥‥!何考えてんのよ、この、夜中にレディの部屋に訪ねてくるなんて!」
「‥レディって、誰」
このやろ〜!!
「あ、お前のこと?冗談キツイな。入れてくんなきゃ、ここでずっと、こうしてひっついててやるだけじゃ〜ん」
ああ、信じられん。
「‥‥分かったよ、入って」
「ヤッタ〜、じゃまするぜ」
2階の窓から表敬訪問とは、やってくれるわね。
、お前なにやってんの。柔軟体操でもしてんのかよ」
「足、つったの!!」
「ハア?運動不足だからそんなことになんだよ、だめだめ、そんなやわいやり方じゃ。
こうすんじゃん」
グキィッ
「いったああああ〜いいいいいい!!!!!!」
「でも、直っただろ?」
あり、本当だ。へえ〜、だてに、体術訓練してないんだ。ちょっと、尊敬しちゃう。
「フフン、見直したか。
しっかし、色気のないパジャマ着てんなあ、 。夜に来た意味ないじゃん」
「‥‥‥!!!」
そういえば、寝間着きてたんだ、んもう、勝手にこんな時間に押し掛けといて文句たれやがって、さすがカンクロウだわ。いそいでカーデガンをはおる。
「こんな時間に何してたのよ、カンクロウは」
「任務帰りにきまってんじゃん。月見しに、こんな格好で屋根の上、走り回るかよ。」
「まあ、そうよね」
「ちょっと、カラス、置かせてもらうぜ。」
実はカンクロウの任務スタイル、初めて見るのよね、私。
「なんだよ、何じろじろ見てんだよ」
「だって、初めてみるんだもん‥‥変わったカッコしてんのね」
「独創的と言えよ。」
「‥‥ヘンなカッコ」
、てめ〜、ケンカ売ってんのかよ」
「冗談じゃない、でも、なんでそんなクマドリなんかしてんのよ」
「カモフラージュじゃん、素顔がばれないようによ。」
「ふうん、でも、ふだん平気で素顔で町あるいてるじゃない」
「だ・か・ら、敵にじゃんか。」
「あ、そうなの。じゃあ、なんで黒尽くめなのよ」
「傀儡使いだからな、主役は傀儡で、俺は黒子なんだよ」
「へえ〜、でも、そのクマドリで目立ちまくってるけど」
「いいんじゃん、おれの理論ではこれでオッケーなんだよ」
勝手な理論ね、カンクロウらしいわ。
「じゃあ、この、ぐるぐるまきのが、カラスとかいう傀儡なの」
「そ。見たことなかったっけ」
「うん。ねえ、見せて?」
「え〜、見てどうすんだよ」
「いいじゃない、けちらないで見せてよ〜」
「いいけど、見て、腰抜かすなよ」
いうが早いかサーッとテーピングがはぎ取られ‥‥
‥‥‥きゃあ〜っ、うぷっ‥‥
カンクロウがあわてて、私の口をふさぐ。
「だから、言ったじゃんか、大きな声だすなよ!」
だ、だって、無気味すぎよ、目が3つもあって、黒いボロボロのマントみたいなの着て、手足なんか6本もあるし‥‥
「何言ってんだよ、かわいくちゃ意味ないじゃん、怖じ気づいてもらわなくちゃな。」
とかいいながら、傀儡を実際に動かすカンクロウ。
うへえ、グ、グロい‥‥
カンクロウ本人が手や腕を動かして、カラスを操る姿はなかなか、かっこいいけど。
でも、操ってること分かってない人がみたら、頭おかしくなったんじゃないかって、思われる可能性もあるなあ‥‥
「もう、気が済んだだろ、片付けるぞ」
言うが早いかまた、テープを取り出すと、さっきの映像を巻き戻しするみたいに、あっという間にカラスをぐるぐるまきにしてしまった。
「こ、これは‥‥すごいわ」
カンクロウがニヤリとして、
「お前も巻いてやろうか?」
うろたえる私。
「なっ、なに考えてんのよっ!!冗談じゃないわっ、ミイラなんてごめんよっ、自分でも巻きなさいよっ」
「ふ〜ん、つまんねえの。俺、しょっちゅう自分は巻いてるから面白くもなんともねえじゃん。」
ええっ、自分を巻いてるって、な、何よっ、それ、どういうこと???
「なんだよ、そんなにびっくりすんなよ。
身代わりの術で傀儡を俺に仕立てて、俺が傀儡のふりすんだよ。
変な想像すんなよ」
「あ、そういうことなんだ、‥‥びっくりしたあ〜。」

「ねえ、どんな任務だったの」
「内緒、教えてやんない」
「な、なによっ、いいじゃない、別に私、他の人にしゃべったりしないよ、忍者の知り合いなんて、カンクロウしかいないし、これでも口固い方だし‥‥」
「わかってるよ、なにも が口軽いとか思ってねえじゃん、ただ‥‥」
「ただ、何?」
「‥‥今日の任務はちょっと、勘弁してくれよ、気が滅入っちまうじゃん」
へえ、カンクロウでも気が滅入ることなんてあるんだ。
ま、そんなにイヤならいいわ、また、違う時に聞き出すことにしよっと。

「月、きれいだね」
「ああ、本当だな」
「ねえ、屋根の上で見たら、もっときれい?」
「‥‥何が言いたいんだよ」
「いやさ、私昔良く、屋根の上に登って夕焼けとか見たんだよね、空が広くなってとってもきもちよかったから、さっき、カンクロウがぴょんぴょん跳ねてるのみて、うらやましかったんだ、実は」
「ふ〜ん」
「もうこの年になると、さすがに他人の目もあるし、自分でも体が重くなってるからちょっとこわくてできなくなっちゃったけど」
「俺の方が重たいじゃん、絶対」
「そりゃ、そうだろうけど、忍者と一般人じゃ、身のこなしが違い過ぎるもの」
「まあな、でなきゃ、忍者なんて、存在意味ないじゃん」
「‥‥でも、出てみよっかなあ。」おもむろにガラス戸を開けて足を突き出す。ホラ、来た。
「お、おい、マジかよ」
「マジもマジ、大マジよ」
「参ったな、落ちんなよ」
「そん時はヨロシク」
「ったく‥‥来るんじゃなかったじゃん」
へん、今頃そんなこと言ったって遅いのよ。刺激したのはカンクロウでしょうが。
ちょっとよろよろしながらも、往年のカンは衰えてはいなかったようで、月がよく見える辺りまでとりあえず進むことに成功。
「うわあ、やっぱり、家の中から見るのとじゃ雲泥の差だわあ」
「まあ、空も広くなるからな」
「ねえ、なんか、お月見用のお酒でも買ってきてよ」
「ハア?」
「だから、なんか飲むもの買ってきてよ」
「‥‥お前なあ‥‥」
「頼んだわよ」
「‥‥ったく‥‥」
カンクロウはぶつくさいいながら姿を消し、ものの5分もしないうちにコーラの缶をもって帰ってきた。
「え〜、コーラ?アルコールがよかったなあ」
ばしっ
「あほ、調子乗んなよ、屋根の上で酒盛りして落っこちたらどうすんだよ」
「いった〜、本気で叩かなくってもいいじゃないのさ、ほんの冗談よ」
「うそこけ、マジだったじゃん、目が座ってたぜ」
ばれたか。

2人できれいな月を黙って眺めながら、コーラをすする。
う〜ん、いいねえ、実は私はカンクロウのことが結構好きだったりする。
コイツはあんまり私のことを女として扱ってくれてないけど、まあ、いいの、友達みたいな感覚でも、さ。
なんかのはずみで、発展しないとも限らん。
だいたいが、猫に変化したカンクロウに思いっきり水をぶっかけたことから知り合った、という因果な関係なのだから。
なんでもお姉さんとケンカして、一枚上手のくのいちの彼女に猫にされたらしい、時限付きで。
私はその日、テスト勉強でヒーヒーいってて、そういう日に限って猫どもの求愛の声に悩まされてた。
あれって、絞め殺されかけの赤ん坊みたいで、聞くに耐えないのよね。
で、てっきりカンクロウがサカリの声だしてると思って頭に来たもんだから、水をぶっかけたのだ。
びしょぬれの黒ネコと睨み合ってたら、12時まわったとたん、いかつい男に姿をかえたから、あの時はほんと、びっくりしたわ。
わけわかんなかった私に、かなりキレてたカンクロウは、自分が忍者で、ネコに変化させられてた、てなことをまくしたて、私は平謝りに謝って、結婚してすでに家をでてる兄貴の服を提供してなんとかその場を納めたのだった。
そのことがあってから、なんか、時々カンクロウはわたしのとこへ、遊びにくるようになった。
任務のあと、というのは今日が初めてだったけど。

「ねえ〜、カンクロ〜、やっぱり、任務のことは部外者には言っちゃだめなのォ〜」
コーラなんだけど、その気になれば、体内からアドレナリン放出で酔っぱらってるみたいになれるらしく、なんかロレツまわってない、私。
「‥‥まあ、別にそんな重要な機密じゃなきゃ、お前に言ったってどうってことないけどよ」
「今日のはさ、機密なのお?」
「いや、全然」
「じゃあ、話してくれてもいいじゃない。友達のよしみでさっ」
トモダチ、と言う言葉もなんか私的には白々しいけど、今は仕方ないもんね。
「単なる、農作業だよ」
「え〜、もっと、分かりやすく具体的にお話し下さいよォ〜」
「ちっ、だからよ、促成栽培のホウレンソウの収穫だったんだよっ」
「‥‥それの、何がいけないのよ」
「‥‥俺は、ホウレンソウは嫌いなんじゃん、味も外見も、とにかく全部やなんだよっ」
「‥‥ぶっ、そ、そんなことで、へこんでたの?ぎゃははは、カンクロウって、思ったよりガキじゃない〜、か〜わい〜」
「ちぇっ、だけどよ、ナオの目の前に、イモムシだらけの木が出現して、それを駆除するのが任務だったら、どうすんだよ」
え‥‥やだ、ちょっと、わたしがイモムシ大の苦手なこと、なんで知ってるのよ?
「お前が言ってたんじゃんか、確か桜の頃だったな。
桜の木には毛虫がでるけど、まあ、触らなきゃ我慢できる、でも、アゲハの赤ん坊のイモムシは見るのもだめだって」
「そ、そうだったけ」
「どうだ、イモムシ袋一杯にプレゼントしてやろうか?」
「い、い、いらないっ、お願い、やめて〜、考えるのもきしょいよ〜」
「フン、なら、俺のこと笑うんじゃね〜よ」
「す、すみません」
イモムシ程度のことだけど、まあ、なにかしら、彼が私の言ったことを覚えててくれてるのは、とりあえず‥‥嬉しいカナ‥‥どうせなら、もっといいことの方がヨロシンダケド。
「でも、カンクロウもさ、ホレンソウも食べたら、もっと強くなるかもよ、ポパイみたいにさっ」
冗談めかして言ったらじろりと睨まれちゃった。

、もう部屋に入れよ、オレも帰るから。このままじゃ風邪ひいちまうじゃん」
「え〜、もっとこうしてたい〜」
「わがままこくなよ、ホレ、入った入った」
ちぇっ、つまんないの。
「ねえ〜、また、明日も来てよ〜」
「そんなこと、約束できねえよ、何時におわるかもわかんねえのに」
ふ〜んだ、意地悪め。
「明日はなんの任務なの?どうせ、週末だって任務なんでしょ」
「当たり。ガッコの宿直」
「‥‥忍者の任務って、結局便利屋さんなのね」
「はっきり言うなよ!いつもじゃないんだからよ。合間合間にキビシ〜イオシゴトも入ってくるんじゃん」
「例えば?」
ニヤッと不敵な笑みを浮かべるカンクロウ。
「要人拉致、とか、抜け人の始末、とか、な」
げ‥‥結構コワイことやってんのね、うわさには聞いてたけど。
目の前のクマドリおちゃらけ男からはそんな感じしないんだけどね‥‥
だいたい、ホウレン草はあんなにいやがってたくせに、なんか楽しげじゃないのさ。
「まあ、一般人のお前には関係ねぇんだから、気にすんなよ。んじゃな」
ちょっと引いた私を楽しむみたいに、ふふん、といった顔をすると、来た時同様に窓から消えた。

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翌日は雨だった。
「きのうはあんなにいい月夜だったのになあ」
せっかくの休みだってのに、つまんないなあ、などと思いながら、家にいるのも退屈なので、ぶらぶら散策に出ている私。
雨で地面に散ったキンモクセイの花が、その鮮やかな色で、下向き加減に歩く私の目をはっとさせる。
「橙色のじゅうたんみたい‥‥匂いもいいけど、散り際もなかなかロマンチックね‥‥」
「何がロマンチックだってぇ」
ぎょっとして顔をあげると、ニヤニヤ笑って立っているカンクロウ。
「な、何でこんなとこで登場すんのよ」
まったく予想してなかった人物にあせりまくる私。
「ご挨拶だな。急に任務がキャンセルになったんで、ぶらぶらしてただけじゃん」
あ、そうなんだ。
と、いうことは、コイツは暇なんだ。
ああっ、もうちっとおしゃれしてくりゃよかった、後悔先に立たず。
って面白いな、一人でいる時もぶつぶつしゃべってんのかよ、頭変だと思われるじゃん」
「うるさいな、くせなんだもん、今さら直んないわよ」
「まあいいや、ちょうどいいとこで出会った、ちょっとつきあえよ」
え?なによ、何か期待してしまうわ、デートにでも誘ってくれんのかしら。
「ちょっとさ、ケータイ選ぶの手伝えよ」
「え、ケータイ?何よ、持ってないのお、今時奇特な若者じゃない」
「うっせえな。任務の邪魔だから必要ないと思ってたんじゃん、でも、やっぱ、便利そうだからな。」
「ふ〜ん。いいよ、いこいこ」
というわけで、私たちは繁華街の携帯ショップにやってきた。
「で、どんなのがいいの」
「さあ、ねえ。種類ありすぎてわかんねえな。 、お前どんなの持ってんの」
「え〜、これだけどさ」
わたしの機種は安さがとりえのシロモノなので、あんまりオシャレでもないし、機能的というわけでもない。ごくごくフツーのもの。
じーっと見られると、私が見られてるわけじゃないんだけどさ、なんか、恥ずかしくなって来ちゃうよ。
「なんだよ、このストラップ」
「え〜、銀行のオマケ」
「お前それでも年頃の女かよ、もちっとシャレっけだせよ」
「だって、いいのは高いんだもん。それよか、どれにするのよ」
「めんどくせえ、 と同じこれでいいじゃん」
「め、めんどくせえって、せっかく新しい機種がいっぱいあるのに、もったいない」
「そんなに頻繁につかうわけじゃないし、メールと電話できたらそれでいい」
「そりゃまあ、それがメインの機能だけどさ」
「これなら追加料金もいらねえんだろ、それでいいじゃん」
と、いうわけで、なんか、私はカンクロウとお揃いの携帯をもつことになった。
いやあ、そりゃ嬉しいけど、いいのかなあ、こんな安易な決め方で。
「別にいいじゃん、そんなに深刻になんなくてもよ、ただの電話だろ」
くっ、どうせその程度の認識よね、なんか、自分のこと言われてるような気がして来たわっ、クソ。
しかし、気を取り直す。
考えようによっては、デートだ、これだって!
相合い傘でこそないけれど、雨の日に肩を並べてウィンドーショッピングじゃない、ふふふ。
ってさ、しゃべんなくても顔も一人芝居してるじゃん、ホント面白え。」
カンクロウがにやにやしながらこっちみて憎まれ口を叩く。
し、失礼な野郎だ!ホレてなきゃ一発お見舞いしてやんのに!

「な、試しにおれのケータイに電話してくれよ」
「あ、ああ、そうね、使い方練習しとかなきゃね、じゃかけるよ」
ルルルルルル‥‥
「はいよ」
「はいよって、名前ぐらいいいなさいよ」
「ど〜せ、隣にいるんじゃん」
「練習、何事も!」
「ハイハイ、カンクロウで〜す」
ぶっ、で〜す、か、新鮮。
「え〜と、 です。」
「わかってます」
「なによお、話続かないじゃない」
「ハハハ、んじゃ。お、 か、久しぶりじゃん、今何してんの」
「え〜、散歩してる」
「この雨の中をか、ものずきだなあ、そうだと思ってたけどよ」
「いいじゃない、そういうカンクロウは何してんのよ」
「同じく、散歩してんじゃん、ハハハ」
「もう〜、でも、あたし、雨っ?ト結構好きだよ、暴風雨じゃなかったら、傘さして散歩するのもなかなか風情あるし」
「そうだな、俺も散歩なら雨でもいいな、ただ任務中はごめんじゃん」
「そりゃそうよね、雨の中の農作業じゃよけい気がめいるよね」
「おい、俺の任務はいつでも農作業じゃねえよ」
「ははは、そっか、ごめ〜ん、こわ〜い任務もあるのよね、失礼」
「フン。知らぬが仏、か。まあいいじゃん、任務の話なんてしたかねえよ、せっかくの休みなのに」
「へへへ、そうだよね。んじゃさ、休みの日っていつもは何してんの。」
「え〜、そうだなあ、寝てることが多いかなあ、やっぱ」
「いい若いもんが、なんて、私もそうか」
「お前こそ、別にキツイ仕事とかしてねえくせにたるんでんじゃん。
そんなんだから、足つるんだよ」
「ひっど〜い、あれは、たまたま、昼間にちょっとおしゃれして、ヒールある靴で歩いたからよ‥‥って、あんましフォローになってないなあ」
「へえ、スニーカー以外の靴も持ってんのかよ、見たことないじゃん」
「だって、カンクロウってば、いつだって急に現れるんだもん、おしゃれなんてしてないよ」
ふと気が付いてお隣の男を見る。
ふ〜ん、そういえば、結構カンクロウって、おしゃれなのかな。
なによ、指輪なんかしちゃって、私でもしてないのにさ。
前昼間見た時はB系っぽかったような気がするんだけど、今日は秋を意識してか心なしトラッドっぽい。
「おい、電話中にじろじろ見んなよ、ルール違反じゃん」
「あ、ごめん、電話中、なんでしたね、いや、私のことばっかいうから、カンクロウ先生はどんなファッションしてんのかな〜って思ってさ」
「ふん、で?」
「なかなかおしゃれじゃない。任務の格好はいただけないけど、普段着はセンスいいじゃない‥‥って、いった〜い、何よ、電話ごしに殴れないはずでしょっ!!」
「え、俺何もしてないじゃん、気のせい気のせい」
「もう〜」
はあっさりしすぎなんじゃん。もっと思いきって可愛い服選べば結構似合うんじゃないの」
「え〜、そうかなあ。そんなの、持ってないや」
「ちょっとは自分に投資しろよ」
「あんたは給料か報酬かなんかもらってんだろうけど、あたしはケータイ代支払うだけでバイト代なんて消えちゃうわよ、貧乏学生なんだもん」
「カレシに買ってもらえよ」
「‥‥!!!そんなもんいたら、休みの日にあんたなんかと出歩きゃしないわよっ、バカっ」
ああ、心にもないことを‥‥でも、こんなふうに突き放されると、正直、心がキリキリするよ‥‥
「ハハハ、悪い。いや、 結構かわいいからモテるのかな、とかおもったんじゃん。」
え‥‥か、かわ、かわいい?可愛い?え〜っ、カンクロウの口からそんな、嬉しい言葉が出るなんて!
「ふん、お、おだてたって、なにも出ないわよ。それよか、ケータイアドバイス料として、なんかおごんなさいよ」
照れ隠しに思わず憎まれ口をたたく。
「ひえ〜、がめついな、ま、いいじゃん、時間取らせたしな。何がいい」
「え‥‥じょ、冗談よ、やだ〜、本気にしなくていいよ」
「俺は別にいいぜ。 が決めないんなら、適当に俺が決めるじゃん」
え、マジィ?
「ちょっと、ここで待ってな、って、電話切れよ、もったいないから。」
「あ、ああ、そうね」
なんか呆然とした私を残して、カンクロウはどっかへ消えた。
でも、ものの5分もしないうちに戻って来て、
「ほい、やるよ、つきあわせた礼じゃん」
私に差し出された小さな箱。
「え〜っ、本当にいいの?」
「気が変わる前にもらっとけよ、フン」
「何なに、あけてもいい??」
「別にいいけど、文句言いっこなしじゃん」
「言うわけないじゃない、あたし、そこまですねてないっ、プレゼントにケチつけたりしないよっ」
「んじゃいいぜ」
ガサガサと包み紙をほどく。
うわあ、か、可愛い、ストラップだあ、ピンクのラインストーンついてて、キラキラしてる〜。
「////あ、ありがと〜、こんな可愛いの、嬉しい〜///」
「ど〜いたしまして。
もいつもこんな風に素直だと、本当に可愛いのによ」
「な、なによ、悪かったわね!!」
「ま、それじゃ張り合いがないけどな、フフン」
あれ、赤くなってるような‥‥そっぽ向いてるけどさ‥‥
「確かにBFいなさそうだな、お前、もらいなれてないって感じじゃん。
‥‥真っ赤だぞ」
「‥‥え、そ、そう?ハハハ、照れちゃってさ、でも、ホント、嬉しい〜、ありがと」
私たちは2人して赤くなっちゃってバカみたい、でもほんわかとっても嬉しかった。

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さて、たなぼたデート(?)から2〜3日経った夕方。
「あ〜、きょうもきっと、いい天気だったから月がきれいだなあ。
‥‥なんていっても、そうそう、来てくんないよね。」
と、あいかわらず独り言をつぶやきつつ帰る道。
ブーッ、ブーッ、ブーッ
うわっ、びっくりした、ボーッとしてる時に携帯のバイブはいるとびっくりすんのよね。
授業中まずいからって、バイブにしてて、そのまま忘れてた‥‥誰かな。
えっ、カンクロウじゃん!!
「は、はいっ、もしもし」
「よ〜、もしもしさん、こっちもモシモシです」
「ば、ばかっ、カンクロウじゃない」
「名前言うんじゃなかったのかよ〜」
「も、もうっ、じゃあ、 ですよっ」
「カンクロウさまで〜す」
「どうしたの、今日は任務じゃないの」
「任務じゃん、例のガッコの宿直」
「ああ、延期になってたヤツね」
「そ、シビアな任務中に電話はなしだからな、当然行く途中」
「シビアねえ。まあ、お化けに会わないことを祈っとくわ。」
「へん、そんなもんより、生きてる人間の方がずっと恐いんじゃん。
この世間知らず」
「んもう〜、からまないでよ、夜寝れないからってさ。
私が依頼した任務じゃないんだから」
「ちょっとからかってるだけじゃん、 からかうと面白ぇからさ」
「ぶ〜。でさ、携帯の方はどうなの。ちょっとは慣れた?」
「まあ、あんまし使う機会もないしな。
正直これが2回目じゃん、使うの。」
「ひゃはは、な〜んだ」
「クイズ。オレのケータイ登録一番に入ってる奴は?」
「え‥‥も、もしかして、アタシ?」
「そ、 だよ」
うわおっ、これって、これって、なんか、すんごく嬉しいよ〜!!!!
使う率考えたら、ひょっとしたら、永遠に、最初で最後の登録ナンバーだったりしてね、うひゃひゃひゃひゃ、ほとんど専用オンラインじゃない。
「とにかく、これは初めてのホントの練習電話なんで、もう切るぜ。んじゃな」
え、ちょっと!
あ〜あ、切れちゃった‥‥、ったくせっかちなんだから。
ま、いっか。
少しずつだけど、なんか、距離が縮まってるような、気が、するもん。

るんるん気分で家に帰って、宿題すませて、ご飯、おふろ、といつものメニューをこなして、おやすみなさ〜い、と、ベッドにもぐりこんで寝入って何時間かしたころ‥‥
ブーッ、ブーッ、ブーッ‥‥‥‥
うわっ、なに、地震?
あ、ケータイか‥‥‥
寝ぼけまくりの頭でケータイをとりあげると、またしてもカンクロウ。
なによ、任務中はかけないとかなんとか言ってたくせに!
「もひもひ‥‥」
「ねてたのかよ?
「当たり前じゃない、こんな時間に起きてないわよ〜」
「ハハハ、そうだな、わりい、俺が起きてるもんだから、つい」
「何〜、何かあったの?」
「あ、そうそう、お前、Sとかいうグループ好きだって言ってたじゃん。
今ラジオで新曲流してんぞ、先行発表とかなんとかいってたな。
今日かららしいから、んじゃな。
あ、お前は俺にかけるなよ、ニンムチュウじゃん」
一方的に言うだけ言って、切っちゃった。
なによ〜!!
‥‥でも、新曲なんてそんなこと知らなかった。
急いでラジオをつけると、ああ〜、本当だ、私の大好きなリードボーカルの声が、聞いたことのない曲を歌ってる!
うわ〜、うわ〜、うわ〜っ
うっとり聞き惚れたあとで、わざわざ、カンクロウが私のためにかけてきてくれたことを思い出しじ〜んと、新たに嬉しくなる。
私の好きなグループのこと、覚えててくれたんだ。

友達以上、恋人以下、でも、いつの日か、カンクロウのハートをGETしてやるんだ!!!
頑張れ、 !!!!

目次へ

蛇足的後書:
この話はもともと、むすぶさんのHP上の別のカンクロウのイラストをイメージして捏造したものでして。
カンクロウと同い年なんてウラヤマシイなあ、とやや遠い目をしながら書きました(笑)。