ナイモノネダリ

また、だめだ〜。
続けて使ってみたけど、広告みたいに大きくなんてならない!
また、性懲りもなくだまされちゃったのね。ううう。

きっかけはアイツのきつ〜い一言。
って、ホントに胸ないじゃん」
そりゃ、自分でも薄い方だとは思ってたけど、にくからず思ってるヒトからそんな事言われたら落ち込みますよ!
私の現在のカレ、カンクロウはずけずけ思った事を言うやつ。
でも、くやしいけど、私相手にうそは言わない。
自分はどっちかっていうと痩せてるからぺたんこでも仕方ないか、とか思ってたんだけど、よく周りの人や友だちを観察したら、ありゃ、ホント、私、ム・ネ・な・い。
誰をみても私よりは大きいようでひどくめいっちゃった。
世の潮流はバストコンシャス。
胸を魅力的にするというふれこみのブラやらサプリやら体操やら情報には不足しなかった。
けど、広告につられて試してはがっかりのくり返し。
なんかもう外へ出るのも億劫になってきつつあるこの頃。
だって今は薄着の季節まっさかり、私のコンプレックスを刺激する映像にあふれてるんだもの。

「よっ、 、元気?」
あ、そういえば、今日は休みだって言ってたっけ。
休日のカンクロウは眼光はするどいけど、それ以外は隈取りもしてないし、ごく普通の青年のかっこをしてる。
こら、忍者やってるからって、勝手に窓から入って来るな。
ここ2階なんだけどなあ。
「なんか最近、元気ないじゃん」
だれのせいだっつーの。
「こんな陽気に、ひきこもっちゃってさ。
前だったらこっちが久々の休日だから寝るとか言っても、 が外へ引っぱりだしにきたじゃん。」
ま〜ね〜。なんかそんな気分じゃないの、今。
適当にあしらう。
「ふん、ブルーデーかよ」
こ、この男はっ////、デリカシーっつーもんが欠如しとる!
「違うのか、じゃあなんだよ。」
私が投げた枕を器用に避けて言う。
「背中丸めて玉虫みたいにごろごろ寝っころがってさ。
せっかくヒトが来てやったのに、起きるぐらいしろよ。」
カンクロウは窓から床へおりて、片ひざをつくと、背中をむけてごろごろしてる私の肩をわしっとつかんで、コロンと自分の方へひっくりかえした。
部屋着代わりのタンクトップとショートパンツというなりで、下からカンクロウを見上げてる私は、きっと、ちょっと、いや、かなり情けない姿に写ってるに違いない。
じ〜〜〜〜〜〜〜〜。
上から容赦のない視線が降ってくる。
な、なによ。
急に来るからよ、むさくるしくてわるかったわね。
「……お前、ブラぐらいしろよ、見えるじゃん?」
!!!!
急いで座ぶとんをひっつかんで胸元をかくす。
「カンクロウのスケベ!‥‥ないんだからしなくたって、別にどってことないも〜ん」
は?という顔でこっちをみてる。
すーっと眼を細めると、三白眼にうす緑の色がとけこんで、すごくインケンな表情になる。
「お前、そんなこと気にしてたのかよ。ばかじゃん」
おもわず、がばっと起き上がった。
「ば、ばかで悪かったわね!
あんたのせいで、傷付いたんだからねっ。
一応、私だって年頃の女の子なんだからっ。」
「ばかだからばかって言ったんだよ、このばか」
なによもう!ばかばかばかばか言うな!
コイツの考えてる事が、よく、わかんない。
自分だってそんなにクヨクヨすることないと、頭ではわかっているつもり、でも……
や、やだ、涙腺が弛んで‥‥
「うぐ‥‥」
さすがのカンクロウも私が泣き出したからぎょっとしたみたい。
「な、泣くなよ、悪かったよ」

世の中の潮流に自分が踊らされてるのが分かってるのに。
でも自信がなくて、広告にひっかかっては、試供品を試して、期待して待てど暮らせど効果はなく、おちこむことのくり返しの日々。
本当は自分でも自分のこと、ばかだと、思う。

こらえようとすればするほど、なんか、ここ数日の落ち込みがぶり返してきてしゃくりあげてしまう。
こうなると、自分の意志で止めようとしてもなかなか止まらない。
やだ、もう、いい年して、格好わるい。
座ぶとんに顔をおしつけて、泣き顔をかくしていると、ぎゅっ、って……
カンクロウが私のこと抱き締めてる。
びっくりして、座ぶとんをとりおとした。
しゃっくりは止まったけど、今度は恥ずかしくてユデタコみたいになっちゃった。
「な、なによ‥‥恥ずいよ」
「あのさ、」と、彼。
「な、なに。」
「別に、胸なんて大きくなくったっておれはいいぜ?
ただ、他人に見られたら、やばいじゃん、だからブラぐらいしろよ。
家の中にいたって、変態がどっかの窓からみてない保証はないじゃん。」
「‥‥(そんなヤツいるのかしら、あんたじゃないんだし)」
「信じてないな、その顔」
「じゃあ、なんで胸ナイなんて言ったのよ」
「本当のこと言っただけじゃん。」
くっそ〜
「…それによ…、」
「なによ」
ニヤって笑って、
「こうしてひっついてりゃ、や〜らかいから、ついてるのは十分わかるじゃん」
ボボボ、私は恥ずかしくてさらに真っ赤になった。
「それに、おれはムネより、 のこっちの方が気に入ってるから」
と、のたまうと、片手をおろして、ウエストから腰のあたりをゆ〜っくりなでやがった!!!
ぶんっと腕をふりおろしたけど、空振り。
私のうしろにいつのまにか回り込んで、しかも、今度は両手でウエストもってるし!!
背中にいても、カンクロウがにやついてるのぐらい、くノ一でなくったって気配でわかるわよ!
「は、放してよっ、ばか!!変態!!あほ!!」
振り向いて、こいつを引き離そうとぐいぐいカンクロウの手をひっぱるけどびくともしない。
「このポジションはあぶないじゃ〜ん」
そんなことをシャアシャアと言って、こっちがうろたえるのを楽しんでる〜!
私が何をいっても、悪口なんてヘとも思わないこいつには馬の耳に念仏同然。

と、急に立ち上がって、
「おい、買い物つきあえよ」
へ?いいけど、別に。
「着替え手伝おうか?」
ニヤニヤしながら手を伸ばしてくる。
ぱしっ
「ばかっ、幼稚園児じゃないんだから、自分できがえられるわよっ、外で待っててよッ」///
「ヘい、へい、じゃ、外でまってるじゃ〜ん」
来た時同様、窓から姿を消した。

1時間後。
私達は砂隠れの里随一のショッピングモール(のような、所)にいた。
バーゲンセールの最中とあって、かなりの賑わいだ。
私も女のはしくれ、ついついあちこちの店頭のワゴンを物色してしまう。
「ねー、ねー、こんなのどう?」
今はやりの重ね着ふうひらひらトップスをあわせてみる。
「そりゃ、だめじゃん。」と即答。
「え〜、なんでよ。かわいいと思わない、女の子、ってかんじでさあ」
「わかってないな、女の子らしいかなんかしらないけど、 には似合わないじゃん」
「そうなの?」
私って、キャラ的にはけっこう、女々しいんだけど‥‥
「そ。お前には、こっち」
と、カンクロウが手にしたのは、‥‥黒のマッチョタンクゥ?!
「そ、それって、なんか、‥‥」
今流行中なのは分かってるけど、かわいくない、全然。
どっかの忍びの里の暗部とかいう宗教団体みたい。(彼女、誤解してます)
でもカンクロウは人の話なんか聞かないで、そのタンクトップを手にしたまま、店のなかへ入った。
あわててついて行くと、今度はボトムスを物色中。
あ〜、アシンメトリーのスカート、こういうの、いいなあ。
「だ・め。」
うしろから憎たらしい声。
「なんでよお、夏はスカートの方がすずしいし、今流行ってるんだから、いいじゃない」
「スカート大歓迎、でもこういうのは じゃ浮くジャン」
言ってくれるね、浮く、とは。
「じゃ、どんなのならいいのよ?!」
むっとした声で言い返す。
せっかく人がラブリーに決めてやろうと思ってるのに、次々ボツにしやがって...
「これ、穿いてみろよ。」
ずいっと私の目の前にさしだされたのは…ローライズのミニのカーゴスカート。
「…これって、完全にストリートじゃない。私のキャラじゃないよ〜」
「ばかかよ、お前。ファッション通りのキャラしてるヤツの方が少ないぞ。
とにかく試すじゃんよ、ほれ」
試着室に服と一緒に放り込まれる。

「‥‥しょうがないなあ」
「これも着てみろ」
上からマッチョタンクが降ってきた。
「え〜、Tシャツとかは試着できないんだから…」
「もう買った」
見れば、タグがない。誰が着るっつったのよ?サイズ合わなかったらどうすんのかしらね!
なかばヤケクソ気味に着替える。
あ〜、なんかおへそのあたりがすーすーするよ…
「似合うジャン、やっぱ」
ふりむくとカーテンに顔だけ突っ込んで、ニヤニヤとこちらを覗いているカンクロウがいた。
「‥‥!!ちょっと、何覗いてんのよ!!さっき言ってた変態ってやっぱ、あんたのことじゃないの!!」
「ばか、でかい声だすなよ!でも、見てみろよ、似合うだろ?」
鏡に写る自分をみると、なんか別人みたいだけど、ありゃ、ほんと、似合ってるかも‥‥
「こーゆー、お前のいいとこだけを強調する服えらべば、胸なんかなくても大丈夫じゃん」
また、それを言う〜。
でも、ぴったりした黒のマッチョタンクは肩の方が協調されてて、確かに胸がなくてもまあいけてる。
スカートとの間におへそが覗くから、唯一色気のあるくびれの方へ目線がいくのもいいみたい。

へえ〜、見た目によらず、意外とセンスあるんだ〜。
レジで会計をすませながらつぶやいてると、
「なんで意外なんだよ」
げ、聞かれたか。
「自分の女の一番いいとこぐらいわかってて、当然じゃんか」
ど、どうして、こういう、こっ恥ずかしいことをヌケヌケと言えるのかしら‥‥
全然、見た目と違う‥‥特に、忍装束と。
だいたい、あの、ねこみみずきんは、なんなのよ?それにあの、意味不明なマーク。
隈取りに、3つも眼のあるけったいなマリオネット‥‥
「おい、おい、八つ当たりするなよ、おれのセンスのよさにひがんでるのかよ。」
いや、あのさ、そういう流れじゃなくて‥‥
「忍装束は忍装束、私服は私服じゃん。
ついでにいうと、カラスは傀儡、マリオネットなんかじゃねえよ。」
まあ、別に一緒に戦うわけじゃないから、どーでもいいです、はい。
「じゃ、次、行くじゃん」
え、まだ買うの?
もういいよ、そんなに外出好きでもないんだし、家でごろごろのほうが、性にあってるんだし‥‥
「だから、家で着るんじゃん」
え、これを、ですか?このストリートファッションを、ですか?
「そ。 が外で一人の時にこんなの着たらあぶないじゃん。
変な虫つくと困るし。おれと一緒の時だけオッケー」
てんてんてんてんてんてん、以下同文。

烏が鳴くころ、ショッピングバッグをいっぱいぶら下げながら、家へと帰る。
なんか、あれからも同じようなヘソだし服とか、ワーク系の服ばっかり、店の人にも勧められて。
ワードローブが全然変わっちゃったよ。
今着てるのも、へそだしポロとローライズジーンズ。
いままでの服、どうしよう、ま、カンクロウがいない時に着てりャイイか。
「今迄の服は処分しろよな。」
見透かしたように言ってくれる。
「え〜、もったいないよ〜」
「どっちが、だよ。」
薄暗くなってきた夕焼けの道端で、急に立ち止まる。
いかついカンクロウに腕をつかまれて、塀におしつけられるような体勢。
は自分の魅力を引き出したくないのかよ。」
わ、わ、わ、ちょっと、なんでこういう展開なの、顔がドアップでせまってくる。
薄緑の眼光に射ぬかれたみたいに、身動きがとれない。
「‥‥目、閉じろよ、バカ‥‥」

え、はい、そうね、って‥‥
唇が塞がれる。ん‥‥なんか、いつもとちょっと違う。
え、舌が入ってきたっ!!う‥ん‥、く、苦しい、息ができない‥。
コ、コレッて、いわゆるディープキスというやつでしょうか////
でも、私の舌に彼の舌がからみついてきて、なんか、ちょっと、ぞわぞわって‥‥
腰の辺が疼くような‥‥
え?え?え〜?腰〜!!!!カンクロウの手ぇ〜!!!
うっそ〜、自分の手で払い除けようと思ったら、私の両手、カンクロウのもう一方の手で塀に縫い止められてるよ!!
ん‥うっぷ、いやん、そんなとこ触んないでよ〜、もう、あん‥
服の上からの方がよけいまだるっこしくて感じちゃう、いやぁ‥
って、感じてる場合か!?
ちょ、こんなところで、いくら暗いからって、町外れだからって、それはないでしょう?!
ぷはっ、ぜいぜい、はあはあ、やっと口が解放された、やだ〜、糸引いてるよ、なんかめちゃ、やらしい。
淫媚、ってヤツ?
ま、また、顔が接近してきた、ちょい、待ってよ、こんなとこで‥‥
え?なんか言ってる?結界?って、ケッカイ〜??!?!?!
あの、他人が侵入できないように張るとかいう、あれですか?
うそでしょ、こんなとこで忍術使うなよ、このエロ男!
何?胸?大きくしたかったんだろ、って、ちょっと〜、違う〜!!!
あぁん、て、これ、私の声?これじゃあおってるって、逆効果だってば!
ひゃあっ、‥‥‥

ぴた。
な、なに?急に。始まりも急でしたから、終わりも、っていうコト?
「‥‥テマリ‥‥」
カンクロウが固まった。
え?テマリ、って、あの、♪てんてんてまりよ、てんてまり〜♪のテマリ、じゃなくって、
カンクロウのお姉様のテマリちゃん??
うっそ〜!!!!なんでよ、ケッカイ、結界張ったっていってたじゃない!!
え?テマリちゃんの方が、上級者‥‥?
あほ〜っ!!!!
「こんなとこで、さかるなよ、カンクロウ、 の身にもなれよ」
ああ、本当にテマリちゃんの渋い声が聞こえる‥‥
うそ‥‥
が元気ないし、外へ連れだして、気晴らしにショッピングでもする、とか言っといてさ。
まあ、買い物はしたみたいだね、 のファッションもばっちしになってるし。
あたしだって、野暮な真似はやだけど、ここじゃあんまりじゃないか。
もちょっと場所選べよ、‥‥初めてなんだろ」
な、なによ、は、はじめて、はじめてって、つまり初体験のことですかあ???
あ、あんた達、あんた達ってば、理解でき〜ん!!!!
やっぱ、あの変人として名高かった風影の遺児達だわっつつつ!!!!
姉と弟で一体、普段どんな会話をなさっているのですかあ???
私が『ムンクの叫び』の彫刻と化しているあいだに、テマリちゃんは姿を消した。
「あ〜あ、せっかく盛り上がってたのに‥‥悪かったじゃん、
カンクロウがため息をついて言う。
盛り上がる、ですか‥‥なんか釈然としない表現だけど、もう、どうでもいい。
恥ずかしいを通り過ぎて、なんか、やけくそ‥‥
って‥‥
雲の切れ間から差し込む夕焼けの最後の残滓を浴びて、鮮やかなオレンジに染まったカンクロウの横顔‥‥
精悍で、そのくせてれたような、切ないような表情に、胸がキュンとなってしまった。
「‥‥かえろ、カンクロウ」
そう言って、そっと、手を握る。
一瞬、とまどった顔をしたけど、すぐ、いつもの不敵な笑みをうかべて、
「ああ、そうだな」
日が完全に沈んでしまったあとの、刻一刻と濃い藍色に染まって行く空の下、2人荷物をかかえて帰路につく。

「じゃあな。」
「うん、‥‥今日は、買い物、ありがと。」
「ちゃんと、今日買った服、着ろよ。古いのなんか、着るなよ。」
「クス、わかってるよ。」
顔が近付いて、目を閉じると、チュッと軽いキス。ふふ‥‥
そのまま、耳もとで意地悪く囁く声が聞こえた。
「‥ちゃんと、ブラしとけよ。覗くぞ!」
「もう!」
「‥あと、今日の続きは夢の中ででも、しといてやるじゃ〜ん♪」
「!!!!★!!☆!!!!」
真っ赤になって、手をふりまわす私をげらげら笑いながら、カンクロウは窓から出て行ったのでした。

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蛇足的後書:2004年初夏の作。純なカンクロウがお好きな方には申し訳ない。そういう方は裏へは絶対に行かないように。
私のもつ彼のイメージはこんなもんなんです。男はスケベでなんぼ、とまではいわないけど、やっぱり少々やらしくないとだめですよ、と思うので。
いや、でもこんな意見はやはりオバ様だから言えるのよね、フォッフォッフォッ(バルタン星人調にお願いします)。