待受け画面
あ〜あ、やっぱだめか、グスン。
実は携帯水没はこれで2度目の私。
前回すぐに回復してくれたから、どうせ今度も大丈夫だろうとたかをくくってたんだけど。
今回は一度復活したあとでえらく時間が経ってからの沈黙。
それから後は待てど暮らせど画面はまっしろけのまんま。
声しか聞こえない電話がこんなに不便とは思ってなかったわ。
メールももちろんだめだし、誰からかかって来たのかわかんない、んでもって、あの大事な待受画面がパアになったのはかなり痛い。
せっかく、せっかくカンクロウが贈ってくれた花束だったのに!
もっと早く修理に出したかったんだけど、なんせバイト代が入らないことにはどうしようもない、ってことで、今日まで伸ばし伸ばしにしちゃってたんだわ。
いくらぐらいするんだろ、安月給で暮らす身にはつらい‥‥
♪〜
んもう、不便だなあ、ケータイは画面あってこそなのね!
これじゃ黒電話といっしょじゃない!
「もしもしっ」
思わずブスな声ででちゃった。
「‥‥‥
、おまえ、すんげえブアイソじゃん」
げげげげげっ、カンクロウ!
「ご、ごめんっ、悪いっ、ちょっと事情があって‥‥‥」
「なんだよ、ったく、金払えコールだとでも思ったのかよ」
「い、いや、その、あの‥‥」
「珍しくメールしたのに返ってこないし、なんかあったのかと思って電話したらコレじゃん」
ああああああ、なんてこった、メールまで逃してたんだわ(泣)
「ま、生きてんのはわかったからいいじゃん、じゃな」
カンクロウの渋い顔が目の前に浮かぶ、これじゃ誤解されたまんまじゃない!
「ま、待って!
ごめん、これにはわけがあって‥‥」
「なんだよ」
ぶっきらぼうな返事。
「じ、実は‥‥」
事情を説明したらしばしの沈黙の後、大受け。
「ぶはははは、やっぱ、
はどんくせえなあ。
なんでもっと気をつけねえんだよ、バカじゃん。
流した後でよかったようなもんだけどさ。
ま、心配しなくても一度ある事は2度ある、だな」
ちっ、言いたい放題言われてる、こうなるのわかってたから秘密裏に処理したかったのにい。
「んなこといっても、もう落としちゃったんだから仕方ないでしょっ!
今日これから直しに行くんだから!」
「あ、待てよ、俺も行くじゃん。
充電しねえと、じきバッテリーアウトだから」
え?行くって、ショップに?
「でも、いまどこにいるのよ」
「向かい」
は、向かいにいるって、どこよ?
カンクロウの姿なんて‥‥
え、ええっ、うそでしょ、道のむこうのスーツ男お?!
「なんだよ、遠目にもわかるそのオーバーリアクションは」
電話から声がする。
予想図の列の最後尾にいそうな格好の彼に言葉もない。
最近はツンツン頭のリーマンもいるからそんなに違和感ないといえばないけど、相手を知ってるだけに、なんか、スーツを冒涜してるような気が‥‥。
いや、カンクロウだって立派なお仕事してんだろうけど。
道を挟んで向かい側の歩道でこっち見て電話してるオトコに向かって、もとい、そっち見ながら電話に叫ぶ。
「もうっ、なんでもっと早く声かけてくんないのよ、バカみたいじゃないっ」
「いやいや、相手がこっちに気づいてないとこでどういう反応してるのか見るのって面白いからさ、つい、悪い」
‥‥ニンジャって、やな職業だわ‥‥それともこれはヤツの性格か‥‥
はからずもカンクロウと一緒には二度目のご訪問となる携帯ショップへ向かう。
「へえ、本当に真っ白になるもんなんだな」
私のケータイを感心しながら(あきれながら?)見てるカンクロウ。
奴からもらったストラップのラインストーンが秋の光を反射してキラキラ光る。
ううう、憎ったらしいけど絵になるオトコだなあ、昼間はけっこう暖かいから崩れサラリーマンもどき、上着はもちろんとって、ワイシャツも腕まくり、襟元もネクタイゆるゆるでひらきまくって、なのに!
それともこれは私の目が片思いフィルター通してるからそんなふうに見えちゃうのかなあ。
秋っていう季節もダメなのよね、なんかいろんなものが違って見えて。
切なくなる前に話を切り出す。
「何で、そんなカッコしてんのよ」
「リクルート」
「まじい?」
「冗談だよ、転職してどうすんだよ、‥‥これが俺の天職、なんちって」
「ブッ‥‥ば、ばっかじゃないの、あんたって」
「
にいわれたくねえじゃん」
「‥‥なんでよ」
「トイレに携帯落とすヤツに」
くくく、くそっ!
「でもさ、おれのも充電どう〜も調子悪いんじゃん。
電池がへばってんのかなんか知らねえけどさ」
「案外、あんたも落としたんじゃないの‥‥トイレにさ?」
「
と一緒にすんなよ、だいたい男は座らない‥‥おっと、またセクハラとかいわれるからやめとこ」
「ふん、私にだって兄貴いるんだから、その程度の話題で恥じらったりしないわよ」
「あ、そうだったっけ」
よもやま話してるうちにケータイショップに到着。
ありゃ、前来た時はがらがらだったのに結構な人出。
そうか、今キャンペーンとかやってるから結構込んでるんだ‥‥しまった。
「込んでるなあ」
「うん‥‥」
それにしてもこのスーツ姿。
次はいつ拝めるか分かりゃしないわ。
残念、ケータイがこんな状態じゃなきゃ、写真撮るのに。
あきらめきれずにケータイをとりだし開くと、あ、あれっ?!
画面が戻ってる、花束が見えた!
「あれ、直ったじゃん」
うわ、肩越しにうしろからぬっとカンクロウの顔がのぞいてる!
あわててパタンとケータイを閉じる。
「なんだよ、なに隠してんだよ、みせろよ」
「だめ!」
「隠されると余計見たくなるじゃん」
「とにかくだめ!」
「ふ〜ん、‥‥‥あっ、しまった!」
「な、何?」
「ひっかかった〜、ほれ、いただき」
うわ、早業、私の手の中にあったはずのケータイがカンクロウの手に移ってる?!
きゃあ、見ないでよ/////!
くそっ、コイツは私より軽〜く頭ひとつはでかい、そのうえやたら手が長い!
カンクロウがケータイを上の方に高くもちあげといてぱかっと開く。
「なんだ、なにもないじゃん、まだ真っ白じゃんか」
え?
「そんなことないよ、って、あれえ?」
見上げてみればカンクロウの言う通り、真っ白。
おかしいなあ、さっきまで表示されてたのに‥‥
「ちっ、面白くねえなあ。」
まだしつこく画面をいじくるカンクロウ。
お、すきあり、カンクロウのケータイがヤツのポケットからのぞいてる。
さっと黙ってひったくって背を向け素早く目をはしらせる。
なんだ、最初と同じ画面設定じゃない、面白くない。
え〜と、同じ機種だからどこ触るかはわかってんのよね。
写真見てやろ。
パチパチパチ。
なんだ、全然ないじゃん、って、あ、何枚かあるみたいだけど‥‥
ぱしっ
「お前、手癖わりいなあ」
残念、時間切れ。
「何言ってるのよ、カンクロウが始めたんじゃない、見せてよ、ケチ!」
「
のが修理すんで見せてくれんなら、見せてやるじゃん」
ぽいっと、私のケータイが返ってくる。
う‥‥そ、それは‥‥
「こんなもんはフェアにいかなきゃな」
どこがよ?
その後もしばらく行列に並んでたんだけど、一向に進まず。
カンクロウがやおら私の方を見て言った。
「
さ、急ぐの、今日?」
「え?ううん、別に‥‥」
「なら、昼飯でも食おうぜ、多分今一番込んでる時間だからさ。
時間ずらしても一回来るじゃん」
え、これって、お誘いじゃない!
「い、い、行くっ!」
嬉しい!やったぜ!落としてツキが回って来た!カンクロウとランチだ!
って、いっても、街角のバーガー店ですが‥‥
「カンクロウって、本当にハンバーグ好きなのね」
ハンバーガーの包みを開きながら半ば呆れ気味に言う。
「うるはいな、いいだろ、早いし。
俺待つの嫌いなんじゃん。
こういう店なら絶えず人が出入りしてっから目立たねえし」
さっさとパクつきながらのたまうカンクロウ。
まあ、今の格好ならね、どこ言っても目立たないわよ。
例の忍び装束+隈取りなら保証付きで目立ちまくりだろうけどね。
「でさ、なんでその格好なの?」
「なんだよ、そんなにこの格好変かよ」
「いや、そうじゃないけど、あまりにも予想してなかったスタイルだから‥‥」
「フン、男がスーツで何が変なんだよ、制服みたいなもんじゃん。
ルートセールスだよ」
「なに、それ?押し売り?」
「人聞きわりいな、まあ、そうともいえるけど」
「布団とか浄水器とかむりやり売りつけるんでしょ、ひど〜い」
「勝手に話作るなよ、菓子箱置けって提案するだけじゃん」
「‥‥ぎゃはははは、まじで?
カンクロウが駄菓子売るの?似合い過ぎ!」
「ほっとけよ、任務だよ、任務!」
「で、でも、やっぱ、適所適材‥‥いった〜」
「まったく、好き放題言いやがって。
んで、
こそ、今日は珍しくスカートなんかはいちゃって、デートかと思ったじゃん」
え、あ、そうだ、今日はそうだったんだ、秋だし、ちょっとおしゃれしよっかな〜、なんてさ‥‥
ふ〜ん、気がついてくれてたんだvv
デートはさ、今、アンタとしてる気分なんですけどねっ、私的には。
まあ、たなぼただけど‥‥
カンクロウ的には、どうせ、任務の途中のホンのおまけなんだろうな。
「かわいい〜?」
どうせバカとかいわれるの承知で、くさい笑顔を向けて聞いてみる。
「‥‥かわいいよ」
え、うそ、何この反応?!
赤くなって、向こう向いちゃったよ、予想外の反応にこっちも困る。
「そ、そ、そう、アリガト、カンクロウもかっこいいよ」
「フン」
バカみたいにお互い目をそらせながらハンバーガーをかじる。
と、ケータイのあいそのない呼び出し音。
あ、カンクロウのか。
「はいっもしもし‥‥はい?え、何‥‥くそ、バッテリー切れやがった」
あ〜あ、気の毒に、なんか結構急ぎの電話っぽかったけど‥‥って‥‥
なんで、こっち見てんの?
「‥‥
の電話、俺と同じ機種だよな」
「え、あ、ああ、そうよね」
「使わないから、ちょっと貸して」
「は?」
「ま、いいじゃん、貸してくれよ、画面とか見ねえからさ」
「‥‥うそくさい」
「嘘じゃねえよ、いいから貸せよ!」
あ〜あ、ひったくられちゃった。
え、開けないでなにすんのかと思ったら、コラ、ちょ、ちょっと、ちょっと〜っ!!
ひっくり返してバッテリー取り外しやがった‥‥
「さんきゅ〜、どうせすぐ修理にだすからショップで代替え機貸してもらえんだろ。
マジ緊急の電話なんだ、ちょっとレンタルしてくれな、バッテリー」
‥‥もう、入れ替えてるじゃないのよ。
今更ヤダもへったくれもないでしょうが‥‥
電話をかけ直して何やら真剣に話してるカンクロウの顔をちょと睨みつつ、自分のケータイを見る。
まあねえ、そういう交換方法もあるのね‥‥機種が同じならではの、技か。
同じだけど、あら、私の方が使いだしたの早いからか、なんか、カンクロウのバッテリーきれいね。
1年ぐらい前だったっけ、たしか一緒にケータイ買いに行ったの。
あんまり進歩してないなあ‥‥同じとこで足踏みしてるような。
「さ、そろそろ行くじゃん。
もういい加減人減っただろうしな」
電話の終わったカンクロウの声を合図に店を出る。
予想通りもうショップに人はほとんどいなくて、すぐ私たちの順番になった。
「ああ、水にね、けっこうあるんですよ。
修理できますけど、ちょっと時間かかるんでしばらく代わりの携帯をお貸ししますね。
あさってにでも取りに来ていただけますか」
てことで、お預け決定。
気になるお値段は5千円くらいかかるとのこと(泣)。
「ま、なおるんだからよかったじゃん」
まあ、ね。
「データもそのままですよね?」
「大丈夫でしょう」
あ〜、よかった‥‥
「よっぽど大事なもん入ってんだな。
ますます気になるじゃん」
ニヤニヤしながらこっちの話に割り込むカンクロウ。
「いいじゃない、アンタは自分のケータイの心配でもしなさいよっ。
あっ、バッテリー!」
「あ、そうだな、んじゃ返すよ」
そういってカンクロウが自分のケータイを取り出すや、
「あ、あれ?
おれのも液晶でねえじゃん、どうなってんだ?」
のぞくと全く同じ症状。
「あら〜、どうしたのかしら、え、バッテリー交換した?
別に関係ないとは思いますけど‥‥ちょっと待って下さいね‥‥」
いろいろ店の人も調べてくれたんだけど原因不明、でも同じように真っ白な画面なんで、とにかく修理するしかなさそう、とのこと。
「フン、私の事ばかにしたバチがあたったのよ〜」
「何言ってんだよ、バッテリー借りたから
のケータイの怠け癖が移ったんじゃん」
「もう〜!」
「仲がいいんですね〜」
げっ、店員さんがニコニコ見てる。
「えっ、あの、その、まあ‥‥」
しどろもどろの私。
「機種だっておそろいだし、いいですねえ」
なんか、勝手に話ができてるよ‥‥
もう、何とか言いなさいよ、とカンクロウをみたら、ありゃ、赤くなってる。
代替え機を借りると、店員さんの視線を背中に感じつつ、2人揃ってそそくさとショップを出た。
嬉しいような気まずいような‥‥
しばしの沈黙の後、カンクロウが言った。
「‥‥そろそろ行かなきゃ、俺。」
「あ、う、うん」
どうしよ、3日後だよね‥‥待ち合わせしよって、誘ってみようかな‥‥
と思ったとたん。
「またな、
。
借りてるケータイ落とすなよ、トイレに」
「もうっ!」
カンクロウは腹立つセリフ一つのこして笑いながら走ってちゃった。
取り残された形の私。
予想してなかったデート(?)だったんで、余計になんか急にぽつねんとひとりぼっちになっちゃったみたいな寂しさが湧いてくる。
‥‥ふんだ。
ぶらぶら近くの公園に行って黙ってベンチに腰掛けて、ぼんやり空を見上げる。
ああ、なんかブルーだなあ、なんでだろ。
さっきまでいっしょだったヒトが急にいなくなったから?
多分、ね。
日が暮れるのがはやくなったから、もう空が赤くなり出してる。
きれいだけど、それだけ胸が締め付けられるみたいに切ない。
どこかからキンモクセイの甘い香りが漂ってきて、カンクロウとケータイ買いに行った一年前を思い出す。
って、ええっ、涙あ?
自分で泣いてて自分で驚いてりゃ世話ないわ。
ちょっと、情緒不安定だな、私ってば。
なんか、漠然とした悲しさが胸に巣食っちゃって、苦しい‥‥。
一緒にいられて嬉しかった分だけ余計、置いてけぼり食った今が悲しい。
偶然のチャンスに頼ってる限り、こういう寂しさを味わい続けるんだろうな。
「‥‥おい」
え、後ろから聞き覚えのある声‥‥うそでしょ‥‥
頼むからこんなメロドラマの最中に現れないでよ‥‥
「‥‥任務ドタキャンになったんで戻って来たら、何泣いてんだよ‥‥」
戸惑い顔のカンクロウがそばに突っ立ってる。
気配が消せるってのは知ってるけど、一般人の私相手には足音ぐらい立てて来てよ!
‥‥どうごまかそう‥‥
あんたのせいよ、と言う訳にもいかない。
ない頭をしぼって考える。
「ちょ、ちょっとさ、メロウな気分になっちゃったのよ、秋だし、ホラ、私ってオトメチックだから」
目をごしごしこすって、努めて明るく言う。
「ふ〜ん、あ、そ‥‥。
まあ、
がそう言うんなら、ミエミエの嘘でもそういうことにしとくじゃん。
女が泣いてんのに根掘り葉掘り聞く野郎もいないだろうしな」
あんたじゃないのよ?!
でも、戻って来てくれたのは嬉しいわ、なんにしろ‥‥泣く理由消滅ですかね‥‥
いや、本当は、消えてないんだけどね‥‥
だってこれも偶然、棚からボタモチAGAINだもん。
‥‥また涙が出てきちゃったよ。
「‥‥そんな泣くほど、大事な絵が載ってたのかよ?」
えっ、‥‥当たらずとも遠からず‥‥
「ば、ばあね、でも、ぼどに戻るって言ってぐれでだがら大丈夫でしょ‥‥」
はなをティッシュでかみながら言う。
「店員はあんなこといってたけど、わかるもんか。
戻りません、なんつって、他のケータイ会社のに乗り換えられたら困るじゃん」
え、そういうもんなの?
「おっまえもお人好しだな、
。
データなんて‥‥、うわ、悪い、参ったな、泣くなよ〜」
カンクロウが戻って来たのが嬉しいのと、データが消えるかもしれない、なんて言われたショックで頭がパニックになっちゃって、涙腺の調子が狂っちゃったみたい、やばい、涙が止まらないうえにしゃっくり‥‥
「ご、ごめんね、ひっ、な、なんか、ひっ、と、止めらんない、ひっく」
「‥‥いいって、無理すんなよ。
泣くのもストレス発散なんだってよ、せいぜい泣けばいいじゃん。
すっきりするぜ」
「ひ、ひとごとね、ひっ、苦しいんだから、っ」
「泣くなっつっても、無理なんだろ、別に俺しか見てないし、泣けよ」
「‥‥普通は、なぐさめない?」
「俺、普通じゃねえし」
「ぶはは、自分で言うの〜」
「‥‥ほら、泣き止んだじゃん」
うっ、そういう戦法か、一枚上手だわ。
「ホレ、これでも食えよ」
差し出されたのは、多分、さっきカンクロウがいってたバイトでもらった駄菓子。
「‥‥さんきゅ」
「何を今更。
‥‥こんなとこで泣かれたら、俺が泣かしたみたいに思われるからな」
まあね、夕暮れの公園のベンチで男子と女子がいて、女子が泣いてりゃそういう事になるわよね。
「‥‥もっと泣いてやろうかな〜」
「
、お前、性格いいな」
「お互いさま、よ!」
「さ、行くじゃん、送ってくから。
じき真っ暗になっちまうぜ」
「うん」
きれいな夕焼け空の下、お菓子をぼりぼり、くだらない話を楽しみながら家まで。
「じゃな‥‥データ、心配しなくても大丈夫だと思うぜ、最近のは丈夫だって言うじゃん」
「ん‥‥そう祈っとくわ」
「なんせ、一度目は大丈夫だったんだし、3回目までは大丈夫だろ」
「もう〜、3回も落とさないわよっ」
「ハハハ、だといいけどな、あばよ」
毎度の事ながら鮮やかに姿を消しちゃった。
お礼言う間もなかったわ‥‥照れ屋なんだ、ほめられるの苦手なんだろうな、ふふふ。
カンクロウらしい。
3日後。
今日だったな、ケータイ直るの。
カンクロウと‥‥会えるかな?
あんなことの後なんで、ちょっと照れくさいけど、会いたいのが正直な気持ち。
かすかに期待しながら行くと、入れ違いらしかった。
そりゃね、前もって連絡してりゃこんなことにはならないけどさ。
それができりゃ、苦労しないわよ。
例の店員さんが私のケータイを渡してくれながら、
「ご一緒に来られるかと思ってたんですけどね、カレシはなんだか急いでたみたいでしたよ?」
と、ちょっと残念そうに言う。
「あ、そ、そうですか」
なんかこっぱずかしくて、そそくさと店をあとにする。
‥‥残念なのは、あたしだよ‥‥ちぇっ。
ケータイを取り出し、ぱかっと開ける。
あれ?
出ないよ、待受け画面?
まさか、消えてないよね?
いそいでボタンを押しまくって、設定を確認する。
え、ええ、ええっ?!
コレ、あたしのじゃない!
プロフィールを呼び出すと‥‥
ちょ、カンクロウのじゃない?!
じゃあ、あたしのは、ひょっとして、カンクロウんとこにいってんのお?
やっだ〜っ、どうしよ///
店の人が間違えるなんて事‥‥まあ、全く同じ機種で、同じ時に預けたから‥‥
それとも、カンクロウがすり替えたのか‥‥その方が有力かも、なんせニンジャだからね‥‥
くそっ、腹いせに私もコイツののぞいてやる。
前回チェックしそびれた写真を見せてもらうわよ!
たいして枚数ないけど‥‥パチパチパチ‥‥
え、うそ、この写真‥‥あたし?
いったい、いつ‥‥
ピピピピピ!
何かと思った、初期設定になってるからか、この原始的な音にはびくっとしちゃうよ、もう。
誰からよ、これカンクロウの電話だよ、ちょっと気になるな、え〜と‥‥
あたしじゃん?!
って、ことは、カ、カンクロウか!
「はい、
です‥‥」
「‥‥よお、カンクロウじゃん」
「ケータイ‥‥‥」
「逆だな‥‥」
「なによ、アンタが入れ替えたんでしょ!」
「ちっげ〜よ、俺が急いでたから、向こうがあわてて違うの渡したんだって!」
「‥‥ホント?」
「‥‥半分は」
「何よ、半分って?!」
「向こうが間違えたのは、本当じゃん、でもすぐ気がついたんだけどさ‥‥まあ、いいか、と」
「‥‥何がいいのよ‥‥」
「待受け、見た」
「/////////」
「‥‥そこまで気に入ってくれてるとは思わなかった、じゃん」
「////////」
「なんか、言えよ?!」
「‥‥う、写真‥‥見ちゃった‥‥‥」
「‥‥‥‥‥‥やっぱり、やったか」
「な、何よ、やっぱりって‥‥」
「本当はさ、こないだちらっと見えたんじゃん、
の待受け。
で、今日は確かめたかっただけなんだよな‥‥」
見えてた、の?!
「‥‥だから、わざと入れ替えたんじゃん、俺とお前のケータイ」
「何よ、それ‥‥」
「こんなクソ恥ずかしい事、いちいち言えるかよ?!
見たんだからわかるじゃん!
じゃな、今度会う時にケータイ交換だぞ、いいな!」
「ちょ‥‥」
切れたし。
‥‥ふ〜んだ、いかにもカンクロウらしい、わね。
全然ロマンチックじゃないけど‥‥‥
ま、いいや!
考えたってなるようにしか、なんないよね。
フン、ケータイ、勝手にカスタマイズしてやるから、見てなさいよ!
‥‥って、私のもされそうね‥‥こういう、下んないとこは考えが似てるんだから!
ああ、次はいつ会えるかな?
楽しみでもあり、ちょっぴり、怖くもあり。
ストラップをしっかり付けて、落とさないように、なくさないように。
カンクロウのケータイと、彼の気持ち。
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蛇足的後書:弊サイト9000HITキリリクとして夜零涙雨さんに贈ります、大変お待たせいたしまして、申し訳ないm(_ _)m
「Keikoさんらしいカンクロウ夢を」とリクエストして下さいました。
書くにあたり、シリーズ物だから捧げものとしてはどうかなとも思ったんですが、このサイト開設時からお越し下さっているとのことなので(感動!)、敢えてこれを選ばせて頂きました。
カンクロウが彼らしいかどうか、ちょっと微妙ではあるんですが‥‥お気に召しましたら、幸いです。
夜零涙雨さんのみ、お持ち帰り自由です。