兄弟喧嘩
「てめえっ、いい気になるなっ!」
「カンクロウこそ兄貴ヅラするな‥‥!」
また始まった。
男兄弟ってのはどうしてこう乱暴なんだ。
実にくだらない事で急につかみ合いの喧嘩を始める。
女のアタシにはとうてい理解できない。
小さな頃にふれ合いが足りなかった、と言う説明もあるが、この年になって取っ組み合いの喧嘩、もしくは忍術合戦を家の中で繰り広げられたらたまったもんじゃない。
ホコリが舞う、砂が舞う、チャクラの糸が乱れ飛ぶ、座布団がすっ飛ぶ‥‥
「いいかげんしろ〜っ!」
以前はこの怒鳴り声で収まったもんだが、もう今じゃアタシがなんと言おうとお互いが納得するまで収まることなんかない。
‥‥‥かわいくないったら!
カンクロウは年上のくせに本気丸出しで、一方、我愛羅は本気になったら危険だと本人が一番承知してるから手加減しつつの喧嘩。
どう考えてもおかしい。
‥‥大体、カンクロウは悔しくないのか。
我愛羅は後ろめたくないのか。
喧嘩の最中に何を言おうと聞いちゃくれないから、二人が一緒にいない時、さらっとそれぞれに聞いてみた。
うるさい、ほっとけ、テマリには関係ない、これは男同士の問題じゃん、と一見もっともらしい事をわめいたのはカンクロウ。
我愛羅は何も言わずにだんまりを決め込んだ。
まともな返事が返ってくるとは思っちゃいなかったけど。
子供の頃の情景が蘇る。
公園で、路地で、子供同士が取っ組み合いのケンカをしている。
決まって男同士。
女はそんな原始的な決着方法をえらばないから。
鼻血を流し、目を黒く腫れ上がらせて、服はどろだらけ。
あくまでも動物的なやり方でカタをつけようとする2人。
やがて日が暮れて、私たち観客は家に帰り、結果がどうなったかはわからないまま。
確かな事は翌日には何の後腐れもなく、彼らがまた遊んでいる事。
変な奴らと呆れて見ていた私の横には、なんだか羨ましそうな顔があったっけ。
‥‥弟に文句を言いたくても、力の差から兄弟喧嘩を一切禁じられていた兄貴と。
‥‥自分の力をコントロールできないから、姉兄とふれあう機会すら奪われがちだった弟と。
ドスン、バタン、ボコッ、ガッシャ〜ン!!
ああ、もう!
「てめえら、いい加減にしやがれ!
外でやれってんだよ、屋敷がぶっつぶれるだろ、このバカ兄弟!」
あっけにとられた4つの目がこっちを見る。
フン、仲のよろしいこって。
‥‥知ってるよ、今だから思う存分やれるんだろ。
カンクロウは弟と自信を持って張り合えるだけの実力がついた。
我愛羅は自分の力をコントロールできるようになった。
だから、小さい頃の埋め合わせを今、やってんだろ?
一瞬の休止の後、また続きを開始した二人。
優劣を決めるためではなく、奪われた時間をとりもどすべく争う。
そんなこと、二人はわかっちゃいないだろうけど。
子供に返って喧嘩を続ける。
兄弟としての礎を巻き戻して積み上げて行くために。
しょうがないな。
図体ばっかりでかくても弟は弟だから。
‥‥姉貴なんてソンな役割。
今日も蚊帳の外でアンタ達を見守っといてやるよ。
蛇足的後書:今だからできる兄弟喧嘩を『FADE TO BLACK』様方の喧嘩する兄弟のトップ絵に影響を受けて捏造させて頂きました。
テマリがややひがみモードで、弟2人男同士の体はっての語らいを眺めております(笑)。
子供時代のいびつな関係をこんなたわいもないじゃれ合いで少しづつ修正して行ってくれたらなあ。
アイコさん、萌えなイラストを有り難うございました<(_ _)>