木の葉で散歩
ここは木の葉の里。
中忍のシカマルを隊長とする下忍部隊がサスケ奪回任務に失敗して戻って来た時のことだ。
今回の任務で死者がでなかったのは砂忍の助けに負うところが大きい。
シカマルに最後までつきそったテマリとうってかわって、カンクロウはキバと赤丸を病院に放り込むと、さっさとそこを後にした。
(我愛羅はリーと、なんとトランプ勝負に興じていた。
リーが体を使わないようにとの配慮から‥‥だったらしい)
偵察とかなんとかいいながら病院を抜け出した本当の理由は、‥‥実はカンクロウは大の病院嫌い。
昔、我愛羅とけんかして、入院するほどの大けがを負わせられて以来、どうも、病院の消毒薬のにおいには弱いのだ。
それにキバにはどうやらカンクロウ同様、こわいお姉様がいるらしい。
姉の強権にはヘキエキぎみのカンクロウは、お姉様にキバを引き渡すと任務のあとの物見遊山としゃれこんだ。
前回は中忍試験と木の葉崩しのことで、とてもじゃないが里の中をうろつくことなんてできなかった。
だが今回は同盟国として、しかも、木の葉の将来有望な下忍たちを助けたということで、砂忍に対する視線もずいぶん友好的だった。
それをいいことに、繁華街をぶらぶら歩く彼の反対方向からなにやらにぎやかな一団がやってくる。
よけてやりすごそうとしたカンクロウに彼らの姿が目に飛び込んできた。
「ひゃあ、すげえ」
コスプレ集団である。
木の葉の忍者はもちろん、前回の中忍試験で活躍した他の里の忍者の姿を模している者もちらほら。
もちろん、砂忍もいる。
「げ、俺もいるじゃん」
心中穏やかでないカンクロウ。
いったいどの程度似ているのか。
ちらりと目の端でうかがうと、う、なんともひどい。
クマドリが違う、衣装もいまいちぴったりしていないし、ゆるしがたいことに猫耳がたれている。
背中に背負っているカラスであろうと思われる物体の包帯の巻きがゆるい、おまけにチビ、などなど、文句をつけだしたらきりがない。
「おい」
つい、そのカンクロウに声をかけてしまう。
「おいって」
自分よりはるかに小さいその偽カンクロウは、上から降ってきた声に顔をむける。
「きゃあっ、って、ああ、あなたも参加するのね!?」
「へ?」
「照れない、照れない、こんだけ大勢いるんだから。
初めてなのね、わかるわかる。
でも大丈夫よ、すぐ慣れちゃうから」
「い、いや、そうじゃねえじゃん‥‥」
「うわあ、すごいわ、あなた、話し方までそっくり!」
そっくりもなにも、本物だ。
「だから、おれは、本物なんだってば」
「ふふふ、すんごいわ、なりきっちゃって!」
どうも信じてもらえない、状況が悪すぎる。
「会場へ行く途中なの、一緒に行きましょ」
「会場?」
「あら、知らないの、このパレードはほんの余興で、本番は里はずれの屋敷なの。
そこで、各自技を披露するのよ。」
「技って‥‥」
「だから、自分がまねてる人の技よ、決まってるじゃない。」
冗談じゃない。
カンクロウはそこから逃げ出そうとしたが、偽カンクロウは彼の腕をしっかり掴んではなさない。
「いいじゃない、行きましょうよ、せっかくこんなにそっくりなのに、見てもらわなきゃ!
コスプレなんて、人にみせてナンボ、よ!」
と、わけのわかるようなわからないようなことを言っている。
「離せよ、俺はそんなにひまじゃねえんだよ‥‥」
「よお、カンクローズ!変わった奴だな、カンクロウみたいなマイナーな忍者に化けるなんてさ。」
むか。
思わずカンクロウが声の主を睨むと、よりによって、そいつは我愛羅の衣装を着ている。
まあ、自分の兄弟に比べたら見る影もないが、そんなことはこの際関係ない。
ばかにされてはひきさがれない、カンクロウの悲しいサガが発動してしまったのはいうまでもない。
カンクロウが一言意見してやろうと思った時、隣の偽カンクロウがまくしたてた。
「うるっさいわね、このダサ野郎!
あんたなんて、人気がありゃだれにでも化けるんでしょ、信念のかけらもないわ!
こないだはサスケだったし、その前はカカシだったじゃない!
あんたが高得点稼いだって、それはキャラにおんぶにだっこしてるだけよ、肝に銘じときな!!」
と、まあ、たいへんな剣幕である。
そいつもにせカンクロウの勢いにたじたじとなって、彼らからすっと離れた。
「‥‥おまえ、すげえじゃん‥‥」
「ふん、あたしの大好きな人をばかにされて黙ってられるもんですかっての」
「へ、大好きな人って‥‥」
「や〜ね〜、カンクロウに決まってんじゃない!」
赤くなりながらばしっと背中に一発。
(いってえ〜、しかし、俺のファンかよ、こいつ)/////
「あたしは忍者じゃないから、あんまし詳しいことは知らないけど、あの、素顔を隠してるとこにひかれちゃうのよね〜、絶対かっこいいと思うの!
だって、お姉さんも弟もイケてるもん!
いっつも黒尽くめで顔も隈取りでよくわかんないけどさ、とにかく、女の直感よ!」
面と向かって自分のことをほめちぎられて、どういうリアクションをとればいいのかわからないまま、彼女の説を赤面しつつ聞くしかないカンクロウ。
「あなたは男なのに、なんでまたカンクロウなの?って、まあ、いいか、同性にとっても魅力あるのよね、きっと!渋いもん!
中忍試験本戦では、棄権して一般会場で技をみせてくれなかったから、すごく残念だったわあ。
予選で傀儡に化けてて、やられたと見せかけてあっさり勝っちゃったって、うわさで聞いたわ。
ああ、本物が戦うとこ見てみたいなあ〜。」
勝手にとうとうとしゃべりつづける彼女。
どうやら、木の葉崩しの会場にもいたらしい。
「‥‥でも、砂忍は木の葉に取っちゃ寝返り組じゃん、イメージ悪くないのかよ」
「あら〜、そんなの、上の命令でやったことでしょ、忍者の世界じゃ日常茶飯事よ。
気にする人もいるけど、私は全然気にしてないわ!
組織と個人はベツよベツ!」
「そんなもんかね‥‥」
「なによ、あなたも変わってるわね、自分がコスプレするほど気に入ってる忍者の悪口言うなんてさ。」
「だっから、俺は本物なんだって言ってんじゃん!」
「それそれ、その口調、ほんとに上手ねえ!優勝できちゃうかもね、頑張ってよ!
私は自分でも似てないとは思うんだけど、あこがれの人の真似をしたいと願っちゃう純粋なファン心理でこんな格好してんの。
だから入賞なんてどうでもいいのよ、頑張ってよ、応援するわっ」
またしても背中にバシンと一発。
(チビのくせになんて馬鹿力だ、めちゃくちゃ痛いじゃん‥‥)
一行はどんどん里はずれに進んで行く。
カンクロウとしては、こんなイベントに参加する予定はさらさらなかったので、早く抜け出したいのだが、隣の偽カンクロウが彼の手を握って離してくれそうもない。
それに、さっきのむかつく偽我愛羅のこともあって、なんとはなしにそのままずるずると、コスプレ大会の会場へと足を進めてしまった。
**************
道すがら偽カンクロウが名乗ったところによると、彼女は
といい、木の葉に住んでいるとはいえ、純然たる民間人らしかった。
木の葉病院の食堂でまかないのバイトをしながら看護士になる勉強をしているらしい。
カンクロウの素性も知りたがったので、別に嘘をつく必要もないと本当のことを言ったのだが、笑って信じてくれない。
「言いたくないなら別にいいわよ。コスプレ好きな人なら当然よね」
違うのであるが、どうしようもない。
は今回の衣装も全部自分で作ったとのこと、どうりでいびつにしあがっているはずである。
「仕方ないじゃない、材料だって高いのつかえば、腕の悪さもごまかせるんだろうけど、お金無駄遣いできないし、ありあわせで間に合わせたんだもん。
カンクロウは(本名だとカンクロウがいいはるので(?)彼女もカンクロウと呼ぶことにしたらしい)ずいぶん予算があるのね、まるっきり本物じゃない。」
「だから‥‥」
といいかけて、言葉を飲み込むカンクロウ。
何を言っても無駄である。
一方的に話を続ける
。
「まあいいんだけどさ、カンクロウが本物のカンクロウに近いのは許せるわ。
でも、さっきの我愛羅見たでしょ、あんな、鼻持ちならない野郎が好きなだけ予算とって次々衣装作るのは許せないわ、まったく腹の立つ!」
と、たいへんな剣幕である。
「ずいぶん仲が悪いんだな、さっきの我愛羅とさ」
「最悪よ。なにかっていうと私につっかかってくるし、私がいつもこれ着てるって馬鹿にするし!
職場にまできてちょっかいだしてくるんだから」
(それって、気があるんじゃねえのかよ)
と、思ったが、
にぶん殴られそうなのであえて口を慎むカンクロウ。
ずうずうしい彼にしては珍しいことではある。
よっぽど彼女のパンチは痛いのだろう。
「まあ、手作りしてまで俺のまねしてくれんのは嬉しいけどさ、この耳なんとかなんねえのかよ」
ため息をつきつつ、ネコミミをつまんだら、ずるっとフードが落ちてしまった。
「もう〜、なにすんのよ、なかなか頭で止まっててくれないのに!」
こぶしを振り上げてカンクロウを正面からにらんだ
の顔を見て、カンクロウの息が一瞬止まった。
‥‥‥かわいいのである。
稚拙なクマドリがじゃましているとはいえ、
はへの字の口をして、なおかつ可愛いのだ。
黒いアンバランスにでかいフードが顔に影をつくり今まで見えてなかったが。
ちょっと太めの眉に気の強そうな瞳、すこししゃくれて上をむいた小さな鼻、形のいい唇。
ゆるい癖のある髪が肩の辺りで揺れている。
怒って少し赤くなった頬はふっくらしていかにも少女らしい。
さっきの偽我愛羅が彼女につきまとうのも無理ないなあと内心思った。
小柄ですこしぽっちゃりした彼女はカンクロウのコスプレには全く向かなくても、少女らしいスカートなぞ穿いた日には男どもはみな振り返るだろうと思われる。
にっこり微笑めばきっと、かわいらしいエクボがその愛らしい頬にできるに違いない……
どすっ
妄想をくりひろげようとしているカンクロウのみぞおちに、
のパンチが的中した。
「ゲホっ、ひ、ひでえな、ちょっと、ずれただけじゃんか‥‥」
「もうっ、おかげで両耳がたれちゃったわ‥‥」
ぶつぶつ文句をいいつつ頭をいじくる
。
キッと、カンクロウを今一度睨みつけて強い口調で言い放つ。
「こうなったら、絶対優勝してもらうわよ!」
「い、俺がか?」
「そうよ、カンクロウが、よ!私の衣装を台無しにしたお返しに!」
「無茶言うなよ、本物がコスプレ大会で優勝できるわけないじゃん‥‥」
「まだ言う気?私がエントリー譲るから、ちゃんと舞台で技を披露するのよ!
あんただって、カンクロウのステータスが上がることに文句はないでしょ!」
有無をいわせない
の鼻息の荒さに閉口したカンクロウは、仕方なくOKした。
また同じパンチをくらうのはごめんである。
そして、そうこうするうちに会場に到着してしまった。
******************
「しっかし、こんな大変な時によく酔狂なコスプレ大会なんか開くことができたもんだな。
木の葉の里はやっぱ平和ボケしてんじゃん」
みなの演技を眺めながら悪口をいうカンクロウに、
は別段怒りもせずに答える。
「何言ってるのよ〜、こんな暗いムードのときだからこそ、こういう明るい催しが必要なのよ!
笑って厄を吹き飛ばすんじゃない、砂じゃこんなことしないのカンクロウさん!?」
もカンクロウをカンクロウ扱いするのに慣れたようである。
「カンクロウってさ、性格までカンクロウみたいね。
私は本人としゃべったこともないから、よくわかんないけど、うわさでは結構性格悪いとか聞いたもん。」
(‥‥きついこと言ってくれるじゃん‥‥俺を目の前にして‥‥)
「でも、悪気はないのよね、きっと。
正直すぎるんだと思うわ、バカがつくぐらい。
あ〜あ、本人とあって話せたらいいのになあ。
けんかしても楽しそうだもの」
(もう、してんじゃん)
「あ、もうじき、カンクロウの順番よ、どうするの、技練習してないんでしょ。
私の十八番真似してみる?」
「なんだよ、その十八番って」
「看護士めざしてるから、テーピングは得意なの、だから私はいつもそれ。
木を傀儡にみたてて、それをササッって巻いちゃうの。」
「なるほどね。まあ、なんとかなるだろ」
「あら、度胸あるじゃない、ふ〜ん、心配しなくてもいいみたいね、じゃあ本番楽しみにしてるわ。
もうじきよ、頑張ってね!」
さて、カンクロウはいいながらも実はちょっと思案していた。
コスプレ大会である以上、本人が出ることは想定されていないだろうし、せっかくコスプレしている人達に本物が対抗しては興ざめも甚だしい。
カンクロウが本人であるとばれないように、かつ本人がやりそうな技を披露しなくてはならない。
「なあ、ちょっと相談あんだけどさ、
も出ないか」
「え、だって、カンクロウが二人になっちゃうわよ」
「だから、そこだよ。あの我愛羅を見返したいんだろ」
「そりゃそうよ!」
「ならさ、ちょっと協力しろよ」
「え〜、どうするの」
「耳貸せ」
ごにょごにょ‥‥‥
一方舞台では例の我愛羅が(小林○子さん顔負けの)金任せにつくった仕掛けヒョウタンから砂を出して会場を沸かせていた。
「素晴らしい演出でしたね。さて、それでは次は同じく砂忍のカンクロウです」
アナウンスがカンクロウの登場を告げる。
舞台を降りる我愛羅と上って来た
の目があって、火花が散った。
通りすがりに我愛羅が言う。
「どうせ、また例のしょぼいホータイ芸だろ」
「ふふん、見てのお楽しみよ」
振り返りもせずに
は上がって行く。
その背中にはやけにでかいホータイ巻の物体があった‥‥
残念ながら木の葉でカンクロウの人気は高いとは言えない(砂でどうかはまた別の話である(ーー;)
が登場しても拍手はちらほらとしたもの。
たいして本人に似ている訳でもないのだから仕方ないと言えば仕方ない。
しかし、
は気にも留めずに背中の物体をおろすと舞台からさほど離れていないさっきの我愛羅に向かって声を張り上げた。
「おい、我愛羅!ちょうどいい、ここで勝負するじゃん!」
ざわざわと会場がざわめく。
「せっかくいいヒョウタン持ってんだから一回しか使わないのはもったいないじゃんよ」
会場から忍び笑いがおこる。
たしかに、他に何の用途もないヒョウタンにしては金がかかりすぎている。
年末の歌合戦のあと、誰もが心配するのと同じことだ。
痛いところを突かれ、偽我愛羅も舞台下からつい反応してしまう。
「人のことなんかほっとけ」
「なんだよ、いい機会じゃん、木の葉で兄弟対決としゃれこもうぜ」
「何言ってるんだ、なんの技もないくせに」
「やらなきゃわかんねえじゃん」
「よし、惨めな目にあってもしらないぞ」
我愛羅が登場して一気に会場が沸く。
コスプレ大会史上初の兄弟出演である。
舞台の端と端に陣取って兄弟が構える。
「いくぞ!」
「のぞむところじゃん!」
我愛羅の砂がヒョウタンから飛び出してカンクロウにふりかかる。
もちろん本物の我愛羅の砂ではないので、口や目に入らない限り人畜無害である。
が、何を思ったのかカンクロウは「うわあ〜っ」と倒れた。
そのくさい演技に会場にどっと笑い声がひびく。
と、そのとき、片隅にあった包帯巻の物体の包帯がかってにほどけてカンクロウが登場した。
どよめきがあがる。
「そっくりよ!」「すごい、どうなってんの」等などの声がきこえてくる。
「ここで会ったが百年目、やっちまいな、カラス!」
砂の中から立ち上がった
扮するカンクロウがチャクラの糸を投げて操るふりをすると、それにあわせてカンクロウがいまほどいた包帯を我愛羅にあっというまに巻き付けてしまった。
やんやの大喝采。
続いてカンクロウを
がテーピングでまいて、ふたつのぐるぐるまきを背中にかつぐふりをし、お辞儀をすると会場はさらに笑いと拍手で大いに沸いた。
舞台裏でぷんぷん怒っているのは我愛羅。
「いったいどうなってんだよ!」
「ふん、いつもいばりくさってるからよ」
包帯をほどいてやりながら
が憎まれ口をたたく。
「これにこりたら、カンクロウの悪口はつつしむじゃん」
うしろからぬっと姿を現し意見するカンクロウ。
「うわっ、カンクロウ!?さっきといい、いったいどうやってんの、縄抜けの名人ね、あんたって」
が言う。
カンクロウの姿をみた偽我愛羅の顔がひきつる。
「こ、こいつ、本物じゃねえのか、ありえないよ、あんなふうに縄抜けするなんてさ。
おまけにあんなに離れたおれにテープ巻き付けるなんて普通じゃねえよ!」
その通り、と言おうとするカンクロウをさえぎって
が言う。
「何ねぼけたこといってんのよ、なんで本物がコスプレ大会に出場するのよ!
さ、ほどけたわよ、これにこりてカンクロウの悪口はやめてもらうわよ、わかったわね!」
ばしっ
背中を思いっきりたたかれてあわれな彼はよたよたと立ち去った。
(ありゃ痛いぜ‥‥)
こころならずも同情するカンクロウ。
そのカンクロウを振り返って
が何か言おうとしたその時、アナウンスが入った。
「本日の最優秀賞はカンクロウに扮した
さんです!」
わーっというおおきな歓声と割れんばかりの拍手を、信じられないと言う表情で聞く
をカンクロウは舞台に押し上げて手を振った。
「おまえがもらえよ、本人には賞なんていらねえじゃん」
「だって‥‥」
「エントリー名は
だし、とにかくもらっとくじゃん」
「でも、カンクロウが‥‥」
「いいからっ。話はあと!行けよ!」
今度はカンクロウが
の背中をどんっと押す番だった。
*************
「ねえ、本当にカンクロウは誰なのよお?」
会場からの帰り道、大会の賞品を大切そうに胸に抱きしめながら、
がカンクロウに尋ねる。
「何回言ったら信じるんだよ、おれが本物だって言ってるじゃん」
「こっちこそ、言いたいわよ、何回聞いたら本当のこと教えてくれるのよ」
まるで禅問答である。
「なんで俺が偽物だって思うんだよ」
「だって、本物がこんなとこにいるわけないもの」
思い込んだら、である。
「あ〜あ、じゃあ本物ならどこにいるんだよ」
「そうねえ、キバくんを助けたって聞いたから、病院かな」
「ハズレ。カンクロウは病院が大嫌いなんじゃん」
「あら、そんなことまで知ってるの」
「はあ〜、本人だって‥‥」
「でも、病院確かにきらいそうね、ふふふ」
「んじゃさ、病院抜け出してどこにいると思う?」
「ん〜、きっとぶらぶらしてるんじゃない、情報収集とかいいながらさ」
(俺ってそんなにわかりやすいキャラかよ)
内心複雑な思いを抱かざるを得ないカンクロウである。
「そこまでシュミレーションできんなら、そのあと、カンクロウがどこにいるか予想してみるじゃん」
「え〜‥‥商店街、かな。でも一日中そんなとこいないわよねえ、お祭りでもない限り‥‥」
「祭りなら今日あったじゃんよ」
「え?ああ、このコスプレ大会?そうか、って、ええええええええええっ」
(何今更、過剰に反応してんだよ)
急に立ち止まると、正面からまじまじとカンクロウをのぞきこむ
。
「どうだ、本物そっくりだと思わねえか」
「‥‥‥‥‥‥本当だ‥‥‥‥‥」
「
、お前まだ信じねえのかよ」
「‥‥‥‥‥‥じゃあ、本当に、カンクロウがカンクロウなの?」
「くどい」
「本当に?!」
「本当だって言ってんじゃん!」
爆発音をたてて真っ赤になった
。
「///////やっだ〜っ!!!!!//」
「何がやだ、だよ、ったく。最初っから言ってるのによ、一向に信じないんだからな」
「もうっ、もっとちゃんと言ってよっ!」
これ以上どうちゃんと言えというのだろう、自分は説明を聞かずに勝手な言い分ではあるが、
自身はまるでその矛盾に気がついていない。
「全然ロマンチックに告白もできなかったじゃないっ、ばかあ!」
さらにまた一発、背中に平手が飛んで来た。
(な、なんで、俺がはたかれなきゃなんねえんだよ、勘違いしつづけたのは
じゃねえかよ‥‥)
咳き込みながら思うカンクロウ。
「やだあ、恥ずかしい〜、本人の前で思ってること言いまくっちゃったじゃない〜」
「今更おせえよ、ごちそうさんでした〜」
今度はカンクロウがリードをとる順だ。
「もうっ、聞き逃げなんて、許さないわよっ」
「おっと、もうたたかれるのはごめんじゃん」
ひょいっとよけて走り出すカンクロウ。
「こらあ、逃げるなあ!」
カンクロウがカンクロウを追いかける光景はなにやら不思議ではあったが、今日がコスプレ大会だということはこの里では周知の事実だったので、道行く人たちもアトラクションのようにしか取らなかったようだ。
「頑張れ〜カンクロウ〜」
だの
「ダッシュ、砂忍!」
だの、無責任なエールがとびかうばかり。
一歩先を行くカンクロウは追いかけっこを楽しんでいるようだ。
20分も走っただろうか、
が音を上げた。
「もうだめえ〜」
立ち止まった彼女にあわせて、カンクロウも足を止めた。
「さっすが、本物の、忍者ね‥‥‥‥、信じるわ」
ぜいぜい荒い息をしながら膝に手をつく
を、カンクロウは余裕しゃくしゃくで見やっている。
その薄緑の瞳にはいつもの冷たい光はなかった。
「ま、
も一般人にしちゃ、体力あるじゃん」
「あ、ありがと‥‥、はあ、はあ、でも、とてもじゃないけど、こんな、まねっこはごめんだわ」
衣装はともかく、体力勝負で忍者の真似はごめんだといいたいのだろう。
カンクロウが楽しそうな笑い声をあげる。
じろっと
がカンクロウを睨んで言う。
「で、私の気持ちを一方的に聞いといて、カンクロウはどうなのよ」
「え、ど、どうって」
「しらばっくれないでよ。私のことどう思ってんのよ」
突然の質問にややうろたえるカンクロウ。
「どうもこうも、知り合ったばかりじゃん、んなことわかるかよ‥‥」
「じゃあ、また会ってよね」
「へ?」
「だって、会ったばかりなんでしょ、なら何回も会えば、答えが出るじゃない」
可愛い顔をして
はなかなか強引なようだ。
「お前、すげえ強引だな」
「人生一度きりよ、チャンスは逃がさないようにしなきゃ!」
「気の持ちようだけなら
も忍者になれるじゃん」
ばしっ
「で、どうなのよ!?」
げほ、げほっ、
「わ、わかったよ、また来るよ(いてえなあ)」
「よかったあ」
にっこりほほえむ
。
さっきの強烈なパンチを繰り出す少女と同一人物とは思えない、この甘い微笑み。
「約束ね!」
さしだされたのは‥‥小指。
「なんだよ、これ」
「あら、指切り知らないの?」
「知らないわけないじゃん、けど‥‥」
「はい、貸して!」
はなかば無理矢理カンクロウの小指に自分の小指をからませると、勝手に指切りをしてしまった。
「うそついたら、ほんとに針千本よ!」
「マジでやりかねないな、
なら‥‥わかったじゃん」
「ヤッホ〜♪」
楽しそうに歩き出す
のうしろから、のろのろついていくカンクロウ。
(なんつ〜強引なやつだ、テマリも真っ青じゃん‥‥でも、笑うと可愛いんだよな‥‥手もちっこくて柔らかかったなあ‥‥どこからあのパンチがでてくるんだ‥‥)
カンクロウがぼんやり考え事をしていると、突然くるっと
が振り返り、勢い良くカンクロウのフードをずり下げてしまった。
「おい、なにすんだよ!?」
「お返し、うわあ、やっぱ、かっこいいじゃん!
なんでこんなもんかぶってんのよ?
もったいない〜、まあ、素顔がバレないようにする方が忍者としてはいいのかなあ。
でも、なんで髪の毛ねちゃわないの、つんつんじゃない、ふっしぎ〜」
好き放題いいながらニコニコ、じろじろ、しげしげカンクロウをみる
。
その視線にたじろぐカンクロウ。
これからどうなっていくのか、なんとなく予想がついてしまわなくもない、カンクローズカップルであった。
蛇足後書:職場の近くにどうもイベント会場かなにかあるようで、時々コスプレ集団が楽しそうに通るのです。
実際に参加したことは私はないのですが、こんな感じかなあと想像を巡らせ書いてみました。
カンクロウは衣装がすでにコスプレですから、素顔の方がびっくりさせられること請け合いです、きっといい男!
ヒロインのセリフは私の本音です、とか。