危機一髪  

いやな冷や汗が背中を伝う  
厚化粧のはりついた笑顔の下にはひきつった素顔  
クノイチとしては当たり前と言えば当たり前の任務があたっただけ  
情報収集、ただし舞台は‥‥酒場、の裏  
早い話が快楽の宿  
気が緩む場所なのはよくわかっている、でも  
なんで、今、なのか  
いっそ、もっとはやくこの任務があたっていれば気も楽だった  
誰かを好きになる前なら  

「ふ〜ん、めんどうな任務があたったじゃん。 
まあクノイチやってりゃ仕方ねえな、頑張んな。」 
それだけ  
顔色一つ変えずに  
なんであたしはこんなヤツのことが好きになってしまったんだろう  
今までだってずっと彼の存在は知ってた  
でも、それだけだった  
なのに  
ある日を境に急に私の中で彼の存在が大きくなりだしたのだ  
理由なんてわかんない  
春の宵のゆっくりと暮れて行く空の下、たまたま一緒に帰路についたからなのか  
ケガをした時、黙って手当をしてくれたからなのか  
想像以上に、包帯をまいてゆく手が大きかったからなのか  
そのどれもがそうであり、そうでない  
わかっているのは、彼が好きだってこと  

「ねえちゃん、ぼーっとしてねえで、酒くれよ」 
「は、はい、ただいま」 
あわてて立ち上がろうとしたところで、着物の袖口を掴まれていることに気がつく  
「ねえちゃん、若いねえ  
おれさあ、若い娘ほど好きなんだよなあ。 
こっちに来いよ」 
酒臭い息を吐く男にぐいっと引っ張られる  
蹴っ飛ばしてやれたらどんなに楽だろう  
こんなチンピラなら私でも簡単にやりすごせるだろうに  
「いやだわ、離して下さいな、今お酒持ってきますから」 
やんわりと袖口を掴んでいる手を離させる  
「お堅いねえ。ま、もどってきたらつきあいな」 
ぞっとするような笑みをうかべて男が言う  
「はい、はい、わかってますよ」 
顔で笑って心でツバはいて、後ろ手で障子をしめる  
本当ならこのまま、逃げ出したい  
任務なんかじゃなければ  
でも、なんとかコイツから情報を聞き出さなければならない  
大丈夫、ここまではシナリオ通りいってる、あとは薬を一服混ぜ込めばいい  
意識が混濁したところで聞き出せばすむことだ  
落ち着け、落ち着くんだ  
鼓動が外にまで聞こえるんじゃないかと思える  

「お待たせしました」 
努めて平静をよそおい、部屋へ  
お盆の上にはとっくりと杯  
もちろんクスリを混入してある  
「さ、一杯どうぞ」 
じーっと手にした杯をながめていた男がニヤリとして言う  
「あんたも、飲みなよ」 
冗談じゃない、それじゃ本末転倒、聞き出すどころかこっちが殺されかねない  
「ごめんなさい、弱いから飲めないんです」 
「ふざけたこというねえ、こんなとこにいてて、飲めません、で済むわけないだろ‥‥  
ほらっ、飲め!」 
髪の毛をひっつかまれて無理矢理口に酒を流し込まれる  
いそいで吐き出したものの、何滴かは口に入ってしまったらしい、まずい! 
体のコントロールが効かない‥‥頭がくらくらして、天井が回りだす‥‥  
男のおかしそうな高笑いがどこか遠いところから聞こえてくる  
「ばればれなんだよ、ま、ミイラとりがミイラになった、ってことだな  
観念して俺につきあいな」 
床に崩れ落ちた私を見下ろして男が言う  
く、くそう、こんなことで負けてたまるか! 
うずくまりながら必死で頭をフル動員させる  
一発ならなんとか、攻撃できる  
体中の力を振り絞り、精神を集中させ、相手がとびかかってくるのを待つ  
わかってる、これが最初で最後のチャンス  
失敗したらオ・シ・マ・イ  
あえて目を閉じ、相手の気配だけに神経を研ぎすます  
来た! 
肩口を掴んだ相手の手首を逆に掴み、満身の力で背負い投げ  
思いっきり床に叩き付ける  
ドウッと音をたてて男が床に伸びる  
いい気味だ  
サラサラサラ‥‥サーッ‥‥‥  
砂の音‥‥?! 

「やるじゃん」 
床に大の字になった男から聞き覚えのある声がする 
ふらつく頭でも、視界がかすんできてても、これが誰かぐらいわかる 
仰向けのまま、ぐいっとあごを突き上げた顔にはいつもの隈取り 
「‥‥なんのつもりよ?!」 
「特別上忍認定抜き打ち試験」 
「‥‥そ、そんなこと、聞いてないっ!」 
「当たり前じゃん、言ったら本番にならねえじゃん」 
「そ、それになんでカンクロウがすんのよ?」 
「あ、ひでえじゃん、俺だって上忍なんだぜ。 
認定試験ぐらいやれなくてどうすんだよ」 
「そ、それは、そうだけど‥‥」 
気が抜けたのと薬の効果で、もう立ってるのも限界 
がくっとひざをつく 
「じゃあ、このクスリも‥‥」 
「そ、お前が飲むこと想定してるから、別に毒じゃねえよ、心配すんな 。  
ちょっと、しばらくしびれるだろうけどよ」 
「ひどいよ‥‥」 
「ひどいのはお前もじゃん。 
痛くて立てねえぜ、ここまで叩き付けられたら普通の男なら背骨折れるじゃん。 
俺は準備してたからまあ、痛いぐらいですんでるけどよ。 
カラス使えばよかったな、あ、でもバラバラにされてるか」 
本当に立ち上がれないほど痛かったのかな‥‥ま、まあ、満身の力込めたけど  
‥‥でも、なんかやらしいわね、はだけた着物の裾からぬっと太ももまるだしにして、ごろごろころがっちゃってさ  
‥‥目のやり場に困るじゃないのよ/////  
私の戸惑ってるのを見透かしたみたいにニッとわらって奴が言い放つ  
「襲いたくなんない?」 
「バッ、バカッ!」 
ああ、もうだめ、口はともかく、こっちもクラクラして体起こしてらんない  
心ならずもカンクロウの横に倒れ込む  
「ああ、おしいなあ、もうちょっと左じゃん」 
と、楽しそうな声  
「もうっ!」 
急にまじめな声になってカンクロウが言う  
「本当は俺が担当じゃなかった‥‥無理矢理かわらせたんじゃん  
こんな状況を利用されないとも限らないじゃん‥‥  
相手が上忍じゃ、お前も何されても立場上文句も言えないだろ」 
え‥‥  
「だいたい傀儡部隊の俺がしゃしゃりでてきてるって段階でおかしいじゃんよ  
まあ、毒使うんだから、俺にやらっせろっつったんだけどな。  
みすみす好きな‥‥」  
くそう、いいとこなのに、意識が薄れて行く  
「おい、大丈夫‥‥じゃないみたいだな‥‥ま、俺だから安心して眠ればいいじゃん‥‥」  
体を起こして、私の背中をさする  
ちょっと、起きられるんじゃない、この嘘吐きヤローめ‥‥  
本当に安心なんだかどうだか、わかんないけど、もうゲンカイ‥‥  
よいしょ、とカンクロウが私を抱き起こして背負ってる、ような気がする  
「ひゃあ、傀儡なんか背負えねえじゃん、こんないいもんのあとじゃな」  
この、スケベ、め‥‥  
‥‥ブラックアウト  

 

目次に戻る  

蛇足的後書:2005年5月いっぱい開かれておりました『FADE TO BLACK様宅』でのカンクロウ祭り。 
そちらで管理人アイコ様がお書きになったこのうるわしくも悩ましいカンクロウに魅せられて 
捏造モード暴走で作りましたシロモノです!アイコ様に送りつけたところ、なんと 
採用通知が届きました(笑)イラストを使わせていただけるということですので、
隠しておきたい(え?)衝動は押さえて 公開させていただきます〜。
アイコ様ありがとうございます!!!  

*肖像権はカンクロウに、著作権はアイコ様にありますので、無断TAKEOUTは厳禁です*