火遁#2

『火遁・豪火球の術』
こいつは俺の得意技だ。
下忍でこの技を自由に使いこなせる者はまあ、いないだろう。

しかし、ここに、無謀なやつが一人。
下忍はおろか、忍びでもなんでもないくせに、この技をなんとか真似ようとしている。
しかも困ったことにこいつは俺の、一応、恋人だ。
今日も一人で修行をしていたら、本人は気配を消しているつもりなのだろうが、バレバレで物陰からこちらの様子を伺っている。

「なにをやってんだか‥‥」
こっちも、ちょっとからかってやるべく、わざと火遁をしてやった。
しかも、こいつのすぐそばの木立に。
びっくりして、転がり出てきた。
「何隠れてこそこそしてんだ、
「え〜、ばれてたんだ」
みたいな一般人の気配に気が付かないわけないだろ」
「ちぇっ」

一体なんで、火遁にここまでこだわるのかは、何度本人に聞いても口を割らない。
しかし、今日も一応、いつも通りの答えが帰ってくるのは予想しつつも聞いてみた。
「なんでそんなに、火遁にこだわるんだ。
一般人のお前が習得できるわけないだろ」
「‥‥そんなこと、わかんないじゃない」
わかってるに決まってるのに。
切り口を変えて聞いてみる。
「一体、ものにしたら、何に使うつもりなんだ。
は忍びじゃないんだから、戦闘する必要もないだろう」
「‥‥まあ、ね」
何?なんだ、この歯切れの悪さは。
「おい、危ないこと考えてるんじゃないだろうな」
「なによ〜、まだ、何にも マスターしてない内から心配しなくてもいいじゃない。
へんなサスケ」
ま、まあ、それはそうだ。
俺は、つい のこととなると、過剰に心配してしまう傾向がある。

こいつは、自分ではわかっていないらしいが、相当可愛い。
くるくるしたくせ毛を長めのショートカットにして、一見ボーイッシュだが、その大きな切れ長の目の威力は‥‥まあ、俺の方から降参してしまった一因だ。
つきあってみて初めて分かったことだが、妙に秘密主義な所があって、一旦、自分で口を閉ざしたら、こんな口の固い女がいるのか、と驚かされるぐらい口が固い。
‥‥自分の恥をさらすようだが、告白時、あまり他言しないでくれ、恥ずかしいから、と、つい言ってしまったがために、 は言い付け通り、全く口外せず、現在非常に後悔している。
俺に女が言い寄っても、しらんぷり。
焼きもちも口のうちに数えてるんだろうか。
その反対に、 に男がつきまとっても、「決まった相手がいる」の、決めの一言で遠ざけないものだから、いつも誰彼言い寄っている。
うざいったらない。
それこそ、火遁で焼き払いたいぐらいだ。

「ね、何考えてるの?
急に黙っちゃって。」
が俺の顔を覗き込む。
この瞳で見つめられたら、クラッと来るな、と言う方が無理と言うものだろう。
「なんでもない」
自分でも顔が赤くなるのが分かったが、幸い日も沈みかけているので には見えてないようだ。
「そ?ね、もう暗くなってきたし、帰ろうよ‥‥。
お化け出そう‥‥」
こういう、妙にこわがりなところも、俺には気に入ってたりする。
こんな時の は素直で、俺にぴったり引っ付いてくる。
よっぽど、怖いんだろうな。
しかし、この年でお化けをそこまで本気に恐がれるというのは、幸せ者というか‥‥。
お化けなんかより怖いものが世の中には山ほどあるってのに。
まあ、俺としては、こうして、ぴとっとくっついてもらえる数少ない機会なので、お化け様さま、ってとこだ。
森の奥の方の人陰のない修行場も、このセッティングのためにわざと選んだほどだ。
状況は有効に使うべきだからな。

そう、有効に‥‥
って、何考えてるんだ、俺は。
が、正直な所、男としては、いつまでもお手てをつないでお散歩、だけでは物足りないというのも事実だ。
キスぐらいしたい、とは思う。
のかわいい、形のいい唇に直に触れたい、と。
ふんわりやわらかそうな髪の毛に手をいれて、やさしく手櫛してみたい、と。
ついでに、もっとやわらかそうな‥‥
「ねぇ〜、サスケ、どうしたの、今日は随分歩くの遅いよ?
もう、真っ暗になっちゃうよ〜、急ごうよ」
はっ、いけない、いけない。
妄想に走ってしまった。
本人が横にいるというのに。
こういう時は彼女が忍びでなくてよかったと、本気で思う。
担当上忍のカカシなら、もう、チョンバレだろう。
「悪い」
彼女の手を引っ張って、歩く速度を早めた。
さっきの妄想を振払うように速度をあげる。
「はあ、はあ、サ、サスケ〜、今度は早すぎるよ〜、はあ、ついてけないっ、あつっ」
しまった!
足下がよく見えてない は、切り株に躓いて、おもいっきり足を打ったようだ。
「おい、大丈夫か?」
「ん〜、かなり痛い〜。あいたたたっ」
悪いことをした。
打撲がひどいらしく、立つのも痛そうだ。
「悪かった‥‥」
「そんなことないよ、私が急いで、って言ったからだもの。」

いや、この場合、妄想に気を取られた俺が完全に悪い。
「って、サスケ?いいよっ、重いよ、私‥‥」
「黙って掴まってろ」
彼女を抱いて木立の中を枝から枝へ飛ぶ。
忍者ならこんなことは初歩中の初歩だが、 はもちろん、初めてなので、びっくりして、ひたすら俺にしがみついてる。
彼女のやわらかな髪がときおり、おれの顔をくすぐる。
なんともいえない、いい匂いがする。
至福の一時。
いつもなら歩いて20分はかかる道のりを、あっという間に終えようとした、その瞬間‥‥
がちょっと動いて、彼女のやわらかい胸がおれの胸にあたった。
ごん!!
激突。
「サ、サスケ〜、大丈夫?」
なんとか、落下は免れたが、思いっきり木の幹にぶつかってしまった。
「‥‥平気だ。 は大丈夫か」
(うそだ、本当は涙がでそうに痛いが、あまりにも情けない)
「うん。ごめんね、重かったでしょう。」
いや、舞い上がってて体重なんてまったく感じる余裕はなかったというのが正直な所だ。
最後は舞い上がり過ぎて、失態をやらかしたが。

森を抜けてしまえば の家はすぐ近くだ。
このまま送って行こうとしたが、俺を気づかってか、頑としていいと言い張るので、しかたなくそこで別れた。
「じゃあ、また、明日ね〜、ありがとう、送ってくれて。」
にっこり笑って手を振られると、額当て越しにたんこぶが出来てしまった痛みなど、忘却の彼方だ。
が片足をひきずっているのが痛々しい。
「‥‥じゃあな」
くそ、ここで何か一発気の効いたセリフでも言えればいいのに、己の口下手が疎ましい。

「で、どうなってんだってばよ?」
「何がだ」
「も〜、サスケくんったら、 ちゃんとのことに決まってンじゃない!」

なんでナルトとサクラは、俺のこととなると、こう、うまくタッグを組むのか。
俺と のことを知ってるのはこいつらと、カカシだけだ。
それも、別にしゃべったわけでもなんでもないのだが、なぜか翌日にはばれていた。
によると、その時、『かわいい』( いわく、だ)パグ犬が現場にいたらしい。
俺としたことが、動揺していて、気配を探る余裕を失っていたとしか思えない。

「何もない」
「へっ、かっこつけてる場合じゃないってばよ。
ちゃんってば、もてるんだからよ。
いつもみたいに、クールにしてるだけじゃ、横どりされても知らねェってばよ」
ほっとけ、俺だってそれぐらいわかってる。
だが、どうしろというんだ。

「それにサスケくんがもてるのも、本当はあんまりよくないわよね〜」
「どういう意味だ」
「だってさ、女の子としては、つきあってる相手がもてるのは、うれしいけど、不安じゃない。
そろそろ、はっきり、彼女がいるって、認めた方がいいんじゃないの」
それはそうだとは思うが、俺はアイドルスターではない。
記者会見を開くわけにはいかないんだから、一体どうしろってんだ。

「そうねぇ、みんなの前で既成事実を作っちゃうってのはどう?」
「‥‥既成事実って、なんだってばよ?」
「もう、ナルトはあいかわらず四字熟語に弱いわね。
つまり、みんなの前で、2人が恋人だっていう、動かぬ証拠をみせちゃうの」
「ああ、なるほど、例えばチューしちゃうってことだってばよ」
「も〜、ナルトったら、もう少し言い方があるでしょ。」

おい、勝手に話を進めるな!!
みんなの、前で、キスだと?
恥ずかしいから広めるな、と言ったのは俺だぞ!?
そんなことできるわけ、ないだろう!?
‥‥ものかげでも、できないのに。

「なんだってばよ?あ、あ〜、サスケ、お前、そ〜か、まだなんだvvvv」
「え〜!?うっそお、だって、付き合いだして、もう半年近いじゃない!
サスケくんたら、奥手にもほどがあるわよ!」
くそ、人の話で盛り上がりやがって!!
「お前達はどうなんだよ」
「え‥、やだ〜////」
「サスケ〜、野暮言うんじゃないってばよ!」

そ、そうなのか、そういうものなのか、世間一般の常識では‥‥
確かこいつらのほうが、俺達よりつきあい出したのは遅かったはずなんだが。
こんなことで、あのドベナルトに遅れをとるとは、なんとも悔しい。

「ま、ひとそれぞれ、ってことだな」
「あ、カカシせんせ、また遅刻だってばよ!」
「今日はでも、早いわね、まだ1時間よ」
なんで、こいつまでからんでくるんだ。
「ま、サスケくんの課題は後においといて、とりあえす、目の前の課題をこなすとしま〜すか」
カカシの一声で今日の任務が始まった。
ほっとすると同時に、いやな予感もした。
『サスケの課題は後においといて』って、どういう意味なんだよ。

夕方。
任務が終わり、カカシの合図で解散になった。
「ハイ、サスケくんはちょ〜っと、居残り」
な、なんだ。
こいつに呼び止められたらろくなことはない。
「なあ、サスケよ。
とはうまくいってるのかな。」

なんでカカシまで首を突っ込んでくるんだ!?
俺達の問題じゃないか。

「いや、別にどこまでいったかとか、そんなことはど〜でもい〜んだよ。
そうじゃなくて、彼女、お前の得意技、知りたがってるんだろ?」

い、なんでそんなことまで知ってるんだ。
また、パックンかよ?
だがあれから犬には異常に気を付けているからそれはないと思うが。

「図星みたいだな。
あそこの一族にも困ったもんだな。」
カカシが大きなため息をつく。
「まあ、適当にあしらっておけ。
あの子を好きになった代償と思って、あきらめるんだな」
「‥‥カカシ、どういうことだよ?」
「ん〜、自分で解決しなさいね。」
何たる無責任。
こっちの気を引き付けるだけ引きつけといて、どういうつもりなんだ。
の一族?
まだ、彼女の家族とは会ったこともない。
詳しい家族構成も、よく考えたら聞いたことがなかった。
俺がひとりなので、 が気をつかっていたのかもしれない。


  *  *  *  *  *  *  *


来てしまった‥‥。
の家の前で、俺は何をするということもなく、立ちすくんでいた。
こんなところに来てなにしようってんだ、まったく俺らしくもない‥‥

「おにいちゃん、だあれ?」
小さな子供の声がした。
声の主を見ると、え?カ、カカシ?
なんなんだ、このガキ、カカシそっくりの格好してやがる!
口当ても、眠たそうな眼も、つったった銀髪まで、まるきりカカシの小型だ。
俺が声もなく立ちすくんでいると、
「あ、おにいちゃんが、うちはサスケさんなんだ。 お姉ちゃんのボーイフレンドの」

自分でも赤くなるのがわかる、くそ、こんなわけのわからんガキに知ったようなことを言われて赤面する自分がふがいない。

「‥‥お、おい。お前 のこと知ってるのか」
「もちろんだよ、ぼくいとこだもん、 お姉ちゃんの」
‥‥いとこか。しかし、その格好はなんなんだ。
「ああ、これ。ふふ。ナ〜イショだ〜よ?」
こら、カカシの口真似までするのか、お前は。
お姉ちゃんに直接聞けばいいじゃない。
今日は、でも、止めといた方がいいよ。
お姉ちゃん準備ですごく忙しそうだから」
準備?一体何を準備してるっていうんだ。
「明日、もう一回おいでよ。そしたらわかるから。
ここに来たことは、だまっておいてあげる」
なんだかキツネにつままれたような感じだ。
「じゃあね、ばいばい」
俺に口を開かせる間を与えずに、そのカカシ小僧は家の奥へと姿を消した。
明日ここへ来れば何がわかるというんだろう。

翌日。
俺は上の空で、なんとか任務をこなし、夕方には昨日と同じ場所にやってきていた。
何やら人が大勢いる気配。
何かの集まりだろうか‥‥
またきのうのガキに見つかってもしゃくだと思い、木の上に登ることにする。
ここからなら、こちらは家の塀の中までよく見えるが、相手からは、忍びでもない限り、気付かれる心配はない。
広い庭には舞台のようなものが作られており、あちこち提灯がぶら下げてあって、まるでお祭りのような騒ぎだ。
が、よく見ると、そこにいる人々はみな、忍び装束に身を固めているではないか。
おかしい、確か、彼女の家系は忍者とは無縁なはずなのに。
そういえば、きのうのガキもカカシの真似なんかしてやがった。
もっとよく、注意して観察すると、なんということだ、見覚えのある姿ばかり。
ナルトにキバ、イルカにガイ、紅にアンコ、サクラもネジも‥‥オレもいる!?
思わず木からずり落ちそうになりながら、観察を続ける。
本人ではない、俺が2人いるわけないんだから。
よく見れば、皆なりはよく似ているが、本人とは背格好がかなりかけはなれている。
仮装大会なのか‥‥???
おれの格好をしているのは、一体‥‥
!!!!!!
だ!
そう、背中にうちはの家紋のついた上着を来て、白い短パンをはいているのは、まぎれもなく その人だ。
髪型がおれとそっくりなのは、おそらくカツラだろう。
な、なんてこった‥‥

ここからでは声まではきこえなかったが、やがて、つぎつぎ、舞台の上に順番に立ち、得意技を披露しだした。
もちろん本人ではないので、真似だけだが、人によってはかなり上手に真似をしていた。
ネジの回天など、一体どうやって真似ているのかわからないが、上出来だ。
サクラの「しゃ〜んなろ〜!!!」のかけ声もなかなかよく似ていた。
の順番になった。
彼女はからだをそらすと‥‥火を吹いたのだ!!!!
確かに火遁だ、しかし、いったい、どうやって?
あの、 が??

俺は、どうにも我慢できなくなり、 が拍手を浴びて舞台からおり、次の者と入れ代わったすきをついて、彼女をとっつかまえ、物陰へ連れ去った。
は最初、何がおこったかわからなかったようだったが、抑えていた口を離し、おれが声をかけると、
はっとしたようだった。

「おい、 !」
「サ、サスケ!どうしてここに!」
「聞きたいのはこっちだ。
いったい、これは何の真似だよ」
「え、ああ、これ?」
は自分がおれの格好をしているのを思い出し、照れたように笑った。
「うちはサスケ」
「見りゃわかる。
そうじゃなくて、なんでお前が俺の格好して、しかも、火遁までやってんだよ」
「え〜と、その、うちの家族のこと、まだいってなかったよね。」
「ああ、きいたことがない」
「怒んないでね。
うち、すごい、コスプレ一族なの‥‥」
目が点になった。
「コ、コスプレ‥‥?」
「うん。仮装ともいうけどさ。
もう、曾おじいさんの代のころから、うちの伝統なの。
なんでも忍者になりそこねた曾おじいさんが、憂さ晴らしに始めたのがそもそもらしいんだけど。
で、こうやって、年に1回、一族で集まって、誰が一番か決める大会を開くんだ。」

な、なんという‥‥
カカシのいっていた、『困った一族』の意味はこういうことだったのか。
俺は混乱した頭をなんとか冷静に保とうとしながら、努めてクールな声で尋ねた。
「で、どうやって、あの豪火球の術をやったんだ」
「あ、見てたの?ふふふ、すごかったでしょ〜vvvv
なんなら対抗してみる?」
な、なに言ってんだ、 の奴。
「‥‥なにか仕掛けがあるんだろ。
忍者でもないお前が印だけで発動できる技じゃない」
「ちぇっ、サスケ、遊び心ないんだ〜」
なんだ、それは。
「私だって、一生懸命練習したんだから。
本物じゃなくても、けっこう威力もあるんだよ。
戦闘にだって、いけるかもよ、見てて!」
は俺がいつもやるように背中をそらせ、頬をふくらませて‥‥
写輪眼なんかなくても、至近距離からちょっとよく見れば、仕掛けは一目瞭然だった。
‥‥殺虫スプレーを発射しながらライターで火を付けたのだ。

いやはや。
いったい、どこでこんなこと、教わったんだ。
「ゴキブリ退治の話に載ってたの。
南国の、薬もきかないような、巨大ゴキブリをやっつけるのに有効だって。」
‥‥火遁が、ゴキブリ退治レベルの手段にされているのか‥‥
正確には火遁ではないが‥‥
まあ、『戦闘』なのかもしれない、ある意味では‥‥

もう一点どうしても気になっていたことがある。
俺とつきあうことにしたのは、‥‥
この、コスプレ大会とやらで、うちはサスケの真似をするためだったのか‥‥?
しかし、怖くてきけない。
「どうしたの?急に黙っちゃって‥‥。怒ったの?」
「‥いや‥」

そんなに見ないでくれ。
だいたいが、自分の格好をした人間に凝視されることなどないから、俺は今、非常に落ち着かない。
しかも相手は だ。
大きな瞳に吸い込まれそうな錯覚をおぼえる。
いままで心配な色を浮かべていたその瞳が、急にいたずらっぽい光を帯びる。
「ね、サスケ。まだ、言っちゃいけないの?」
は?何のことだ。
「ほら、最初、つきあってるってこと、言うなっていってたじゃない」
ああ、あれか。いや、別に‥‥
「じゃあさ、じゃあさ、もう、ばれてもいいわけ?」
ま、まあな。
「やったあ〜!!!じゃあ、もう我慢しなくっていいんだ。」
我慢?我慢なんかしてたのか?
「そうだよ〜、だって、サスケに口の軽いヤツだって思われたくなかったから‥‥
サスケもてるじゃない。女の子がサスケに言い寄ってるの見る度に、すごくむかついてんだから。」
本当かよ。どう見てもそんな風にはみえなかったけどな。
「ふん、コスプレにだって、演技力は要求されんのよ、大根じゃつとまんないわ。
本当だったら、あんな女ども、火遁で焼き払いたかったわよ」

‥‥それって、どこかで聞いた‥‥

「この集会でサスケのコスプレがあたったせいで、よけい言いづらくなってたし‥‥」
え、じゃあ、 がやりたいって言ったんじゃないのか。
「まさか〜。誰が誰にあたるかわからないから、こんなに盛り上がるのよ〜。
たとえ、やりたくないのがあたっても、準備期間でそれを克服するの。
超人気のが当たったら、それはそれでかなりプレッシャーだし、でもそれを乗り越える所に意義があんのよ。」
そ、そういうもんなのか。
奥深いんだな。
「分かってくれて嬉しいvvv」
い、いや、別に‥‥
ともかく、 が仮装目当てでおれと付き合い始めたわけではないことが分かって、ほっと安心した。

「じゃあ、サスケも衣装変えて。」
え?お、俺がか。
「そうよ、この会場で本人が本人のままなんてことが、許されると思う?」
いや、別に俺は参加してるわけじゃ‥‥
また、 の目がいたずらっぽく笑う。
「‥‥あたしになって?」
え?え?え!俺が になれってか?
「うんvv あたしがサスケでしょ、サスケがあたしになって、みんなに見せつけんの」
そ、それは、まあ、昨日のサクラの提案に近いものがあるし、別にいいんだが、ただ‥‥
「決定〜。着替え行こっ」
ま、待てよ、それなら変化の術で‥‥
「だ〜め、それじゃ意味ないもの。」
どうしてだよ。そっくりならいいんだろう。
「違うの!似せようとする心が大切なの。その人の立場になりきるの!」
説教を食らって、着替えに連行された。

「わ〜、サスケって、男にしとくのもったいないね」
そんなことで、恋人にほめられて何が嬉しいものか。
俺は になりきるべく、ふわふわショートへアーのかつらをつけ、色気をだすためにメイクされ、スカートをはかされた。
普段 のスカ−ト姿なんかみたことがない俺は、強硬にそこは抗議したが、
「スパッツじゃ男だってみえみえになっちゃうから、だめ」
という、なにやらセクハラまがいのセリフでかわされてしまった。
「本当はスカートもよくはいてるんだけど、サスケの修行見に行く時ははかない」
という新事実がその際に判明。
そうだったのか、やはりちゃんとしたデートをしなければ、いい目はみれないということらしい。

「さあ、みんなのとこへ行くよvvv」
この格好でか‥‥
「いいから、いいから。みんなだって、変装してんだから、恥ずかしがることないよ」
いつになく強引な にひきずられて、広場へと向かう。

「‥‥さっき、言ったこと覚えてる?」と
あ、ああ、人の立場になりきるっていってたことか?
「うん。あたしも、今サスケになり切ってみるから」
言うが早いか、 は俺に抱き着いた。
「‥‥おい!俺そんな‥‥変‥‥なこと、したことないぞ?」
さすがに声がうわずる。
いや、本心を見透かされたようで、おおいに動揺した。
「ちっとも変なんかじゃないよ。
‥‥てか、これ、わたしの願望、かな。
サスケにこうして欲しいっていう。」
え、なんだって?
「だって、サスケすご〜く奥手なんだもん。
演習場だってすごい山奥だし、ちょっとは期待してたりしたんだけど‥‥
私からひっついてみても、何もリアクションくれないし。
私ってそんなに、魅力ないの?」
俺が、いや、 が覗き込んでくる。
心配そうな、ちょっぴり悲しそうな目。
なんのことはない。
だって、不安だったんだ。
抱き締められてたのを、あっさり逆にして、ぎゅっと抱き締めてやる。
「サ、サスケ‥‥?」
「好きだよ、 のこと、大好きだ」

他人の格好をしてると、こんな大胆なセリフもさらっと言えてしまうものなんだな。
サスケ、いや の顎を親指と人さし指でそっと持ち上げて、口付ける。
びっくりしていたサスケ、いや、 も顔を赤らめながらも目を閉じる。
想像していた以上にやわらかな の唇に、心までとろけそうだ。

俺達の横を通り過ぎる人たちが口笛を吹いたり、ひやかしの声をかけていくが、まるで気にならない。
どうせ、みんな本当の姿をしていないんだ。
きのう会ったちびすけも、にやにやしながら通り過ぎて行った。
男の が女のサスケを抱き締めてキスをしている、という変てこりんな構図。
だけど、十分人前で俺達が恋人同士だってみせつけてるのは、確かだろう。
見たか、7班の野郎ども!!
一晩だけの魔法にかかった俺。
また、明日になったら元通りの奥手な俺に、 はやきもきするだろうけれど。
でも、今は、このまま と一緒にいたい。


   *   *   *   *   *   *   *   *   

後日談。

またしても、7班のやつらは俺の女装のことをちゃんと知っていた。
なぜなんだ。
犬も、本物の忍者もいなかったはずなのに。

「オレにそっくりの、か〜わい〜い子供に会わなかった〜?」
え、会ったさ、それが‥‥え‥‥まさか!!!
こ‥の、エロ上忍!!!
あれは、 のいとこなんかじゃなかったのか!!!
道理でそっくりだったわけだ、本人だったんじゃないか!!!

「キューピッドと呼んでほしいなあ〜」

くっそ〜、このゴキブリ野郎、焼き払ってやる!
「キャー、サスケくん、どうしたのよ〜?」
「サスケ、落ち着くんだってばよ!?」
その日一日、カカシはゴジラと化したサスケに追い回されたのだった。



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蛇足的後書:敬愛するサイト『夕闇の丘』様の7万ヒットのお祝いに差し上げたもの、2004年夏の作品。
こちらのヘタレサスケくんはとても魅力的で、それがきっかけでドリームを書き始めたようなものです。
#2なら、#1はあるのか、と言われるとないのですね、これが。
ファイルを移すときに紛らわしいのでナンバーをふって、そのまま残してしまっただけなのです、いわくありげでスミマセン。