ホタルの光
「あれ、どっからこんなもん、飛んで来たんだ?」
温室の一角にある池のほとりに突然出現したホタルの群れ。
真水に乏しい砂隠れでホタルは繁殖できないはず。
「ああ、いいだろ、風情があってさ。
木の葉でもらってきたのさ」
水やりをしながら、後ろ姿に♪マークを漂わせたテマリが返事をする。
「あ・・・そ、木の葉で、ね、ふ〜ん」
テマリの観葉植物の世話を手伝わされているカンクロウは生返事。
贈り主なんて、とっくにわかっているのだが、あえて名前は出さない。
せっかく姉が上機嫌なのに今からかって、それをぶちこわすほどバカではない。
と、そこへ我愛羅登場。
「・・・・・」
暗くなった温室の中を乱舞するホタルを見ている。
「きれいだろ、我愛羅」
テマリが弾んだ声をかける。
「・・・・まあ、な」
微妙な間。
「なんだよ、気に入らないのか?」
「いや、そういうわけじゃないが。
・・・・ホタルの光は死者の魂だと、昔聞かされたからな」
無表情なまま、ホタルを眺める我愛羅。
それを聞いて困惑の表情を浮かべるテマリ。
「あとで木の葉からの報告、頼んだぞ」
それだけ言うと、我愛羅は温室から出て行った。
「・・・・どうしよ」
弱った声でテマリがカンクロウに聞く。
「え?何が?」
「だって、我愛羅はホタル見て気分悪くしたんだろ。
・・・・おいとけないよ」
「なんで??別にあいつがここへ来る事なんてほとんどねえんだし、い〜じゃん、別に」
(俺と違って水やりとか手伝わされねえからな)
「でもねえ・・・」
「死者がなんとか、ってか?
そんなもん、里長なんかやってりゃ、これからだってバンバン殺すんだし、気にする事・・・いって〜っ!!」
「全く、カンクロウはデリカシーってもんがないよ!
水やり、そこ全部頼んだよ!」
テマリはカンクロウに一発お見舞いすると、報告のためだろう、さっさと温室を出て行ってしまった。
面白くないのはカンクロウである。
「なんだってんだよ、我愛羅がちょっと何か言ったらす〜ぐこれだもんな。
・・・・ブラコンテマリめ」
乱暴に水やりをすませると、ホタルにも一発水をお見舞いしてやった。
部屋に戻ったら、テマリが虫かごを持って再登場。
「はい、頼んだよ」
「え?何?」
中を見ればホタルである。
「え〜、ホタルか?かわいそうじゃん、どうすんだよ」
「お前が飼ってくれ」
「は?!」
「カンクロウの部屋にはバスルームがついてるだろ、そこで飼えるだろ」
「無茶言うなよ?!じゃ、俺はどこで風呂にはいりゃいいんだよ」
「シャワーもついてるだろ、お前が兄弟で一番でかい部屋もらってんだから、それぐらい譲歩しな」
「傀儡部屋続きの部屋なだけだろ、バスルームってそんなしゃれたもんかよ、傀儡の手入れ用の洗い場とフロを兼ねてるだけじゃねえか」
「うるさいな!ともかく任せたよ!あたしは中忍試験の打ち合わせでとんぼ返りだからね、あ、温室の観葉植物もよろしくな」
「おい〜っ!」
チカ チカ チカ
緑色に点滅するかごを手に、呆然と突っ立つカンクロウ。
翌日、テマリが出発したあと。
今度はカンクロウが我愛羅の部屋へ呼び出される。
「へい、来たぜ」
「ノックぐらいしろ。
・・・ホタルはどうなった」
「お前が文句言うから温室から撤去してたぜ、テマリのやつ」
そいつらは今自分の部屋にいるけどな、とカンクロウが言う前に満足げに我愛羅が言葉をついだ。
「それでいい。
砂の里にあんな軟弱なものはいらん。
生物体系が乱れるだけだ」
「そんなたいそうなこともねえだろ。
どうせここじゃ水場のある室内でしか生きられねえんだから。
・・・・テマリが気にしてたぜ、お前が『死者がどうのこうの』とか言うから」
「・・・そうか」
「お前、そんなこと気にしてんのかよ、マジでさ」
ちょっとは気になったカンクロウが聞く。
「いや、全く気にしてない。話を聞いたのは本当だが」
あっさり返事が帰って来る。
「え、じゃあ、なんで・・・」
おかげで俺の風呂場はホタルに乗っ取られてるんですけど。
「・・・・テマリはまだ手放せん」
「は?」
「貴重な戦力をみすみす木の葉にやれるか!!」
「・・・・あ、そうね」
「なにが『あ、そうね』だ。お前も砂の上忍なら、ちょっとはこの里の状況を考えろ」
「はあ」
「だいたい不釣あいだろうが、風影の家系だぞ・・・」
「・・・・・コンキ逃すよりいいんじゃねえの」
「別に無理に嫁に行くこともないだろう、時代は変わったんだ」
「・・・まるで娘を取られまいとする親父・・・」
「何?」
「・・・・なんでもねえじゃん、風影様、話ってそれだけ?」
「ああ、あと早く報告書を出す様に」
「へい」
のろのろと部屋へ帰り、ごろんと横になる。
結局テマリはブラコンで、我愛羅は小姑か。
で、間に挟まれてる俺は・・・パシリかよ。
風呂場から脱走(?)したホタルが数匹、暗い部屋の中でふわふわと光を放ちながら飛んでいる。
「ま、きれいはきれいだけどな。
・・・・ホ〜タ〜ルのひ〜か〜り〜♪・・・。
いつになったら風呂場使えるんだろ。
あ〜あ、オレも閉店してえじゃんよ、ったく」
ひとりホタル鑑賞会をしながらぶつぶつ言うカンクロウであった。