窓からスケボーに興じるカンクロウを恨めしく眺める。
楽しそうにいっしょにやってる連中と笑いあったりして憎たらしいったら。
初対面の人間だろうがてんで平気なあんたらしいわ。
本当だったらあの隣で一緒にやってるはずなのに。
ため息つきながらボヤく。

ひどい花粉症の私はとてもじゃないけど、この時期に外で思いっきりスポーツなんてできっこない。
‥‥去年までは何ともなかったんだけどな。
アイツはハナでかいくせにて〜んで平気、神様、理不尽じゃありませんこと?!
おまけにこないだ任務で思い切り怪我して利き腕つるしてるこの有様じゃあね。
マスクとゴーグル装着の上、腕にホータイ巻、これでスケボーなんてやってたら頭おかしいと思われるわ。

窓から差し込む陽光が包帯の白をことさら照らす。
あんまりまぶしくてぎゅっと目を閉じた。
‥‥泣いたりするもんか。
めったにないカンクロウの休み。
気を使って一日、こんな半病人の私のそばで時間を持て余してる彼なんか見たくなくて強がり言って、半ば無理矢理外へ送り出したのはアタシでしょ?

「でもよ、こないだの の誕生日も一緒にいれなかったじゃん」
そんな優しい事言わないでよ、決心が鈍るわ。
「いいから、ここからならカンクロウが転ぶのだってよ〜っく見えるもんね」
「へっ、 はまったくかわいげねえな」
半ば呆れたようにスケボーを肩にかつぐと外へ出て行ったカンクロウ。

あれ、人が物思いにふけってる間にずいぶんと白熱して来たみたい。
いつの間にか皆さん、Tシャツ脱いじゃって上半身裸じゃない。
地球温暖化かなんだか知らないけど、日中はやたらあったかいもんね‥‥
‥‥やだな、女の子も一緒にやってんのにさ‥‥
ちょっと、見ないでよ、カンクロウはあたしのもんよ!
そんな思いで、ガラス越しの彼の背中に「(アタシの)カンクロウ」と署名。
‥‥バカみたい。
もう見んのやめとこ、なんだかとてつもなく自分が惨めに思えて来た。

強烈な春の日差しがひとりぼっちの影を床に黒々と映し出す。
仕方ないじゃない。
いつもって、わけじゃないんだし‥‥
だから花粉症ってやなんだ、ハナだけじゃなく、涙腺もおかしくなるんだから。

ズズズズズッ

一人なのをいいことに思い切り音たててて鼻をかむ。
フン、カンクロウの癖がうつったわ。
え‥‥床の上の影が2つに増えてる。
振り向くと、カンクロウがそこに立っていた。
拳でガラスをノックしだす。

コンコン、コン、ココココン、コンコン‥‥

何?何よ?
は?
モールス信号ですか?困ったな、あたし暗号班じゃないし、知らないよ‥‥
カンクロウがしょうがねえな、という顔をして背中を向けた。
見送るしかない私。
‥‥なんか、スケボーの持ち方、不自然ね‥‥あんなに持ち上げたら落っこと‥‥
ボードの裏に踊る文字。

 HAPPY  BIRTHDAY
 I  LOVE  YOU   


‥‥‥涙腺全開。

カンクロウの優しさが太陽の光と溶け合って、私を包んだ。

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蛇足的後書:
いつもお世話になっているヨーコさんから頂いた 素敵なイラスト
どうしてもお話つくりたかったのです〜。
この際だからカンクロウスキーなあなたは今月生まれってことにしましょう。
私だってホントは1月だもんね〜、でも何月でもカンクロウが祝ってくれるなら!

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