花束

川や水たまりの水がやわらかく光を反射し始めるこの季節。
見慣れたはずの光景がなぜかキラキラまぶしくみえる。
ああ、春になったんだなあと思う。
風はまだ冷たいけど、空も薄く霞がかかったみたいな色で、春って感じ、なんかうきうきしちゃう。
ショーウインドーをみるとすっかり春めいた服の数々。
うわあ、きれいな色、春らしいなあ、今年はピンクとか黄色が流行なのよね〜。
柔らかそうなシフォンのスカートとか、乙女チック。
ああ、しかしそこに貼られた値札は全然乙女心をくすぐらん、なんでこんなにゼロが多いのよ。
しょうがないなあ、服はあきらめて、なんかお花でも買おうかな。
花束持ってるオンナノコはそれだけで可愛い。
そしてそんな自分に酔えるのもいいじゃない。

街角の花屋さんを覗く。
え〜と、バラはいいんだけど、へたしたら一本しか買えないし、花束にしてあるやつはいかにもお供えって感じでいまいちだなあ、お買い得の花は萎れかかってる奴が多いし、どれにしよ‥‥
あ、ストック!
これって、値段があんまし張らないし、においがよくって、なにより一本で花が鈴なりなのよね。
2本も買えばミニサイズの花束らしくなっちゃうから、これにしよっと。
えっと、店員さんは‥‥
なんか今日はけっこう混んでるな、私と同じようなこと考えてんのかしら、みんな。
あ、いたいた、あれ、いつもの人と、も一人見慣れない人がいる、バイトかな。
ちょっと髪型が私の好きな誰かさんに似てる。
「あの〜、すみません‥‥」
最後まで言えなかった、振り向いたその人は、もろカンクロウ。
お互いに目が点になる。
「な、なんでこんなとこに‥‥」
「‥‥場違いな がいるんだよ?」
む。
「何よ、女の子が花屋に来て何が悪いのよ!?
場違いはカンクロウじゃない!植木屋ならともかく花屋でバイト?」
「誰が?テマリが引き受けた任務をあいつの都合が悪いからって押し付けられたんじゃん!」
「任務う?」
ふがっ、口をふさがれる。
「デカイ声だすなよ、おれが忍者だってばれちゃ花屋の売上げに響くじゃん」
「‥‥‥な、なんでよ?」
「また言わせる気かよ、言っただろ、忍者ってのはこういう平和な場所には似つかわしくないと思ってる人間の方が多いんだってさ」
「‥‥でも、私の知る限り、カンクロウの任務はいつも平和じゃない」
「うるせーな、たまたま、じゃん」
「そうお?あたしのバイトと変わんないじゃない」
「あほ、一緒にすんなよ。
この仕事はあくまで張り込みをカモフラするためなんだからなって、おっと、これは には関係なかったな、忘れろ」
な〜によ、機密も何もあったもんじゃないわね、ふんだ。
ま、いいわ、花屋にいるカンクロウも本人には口が裂けてもいいたかないけど、なかなか様になってる。
いかつい男がエプロンつけてこういうかわいい職場にいるってのもけっこう萌えかも。
テマリさんって、そういえば植物が好きだってきいたことあるような。
「ねえ‥‥」
あれ、もういない。
他のお客さんの相手してる、ちぇっ、一応私も客なんだけどな。
まあ、いいや、どんな応対してるのか観察してやれ。

「友達の誕生日にお花あげたいんですけど‥‥」
「ご予算はどれぐらいですか」
まあ、敬語ですか。
「え〜と、2千円くらいかな‥‥」
「う〜ん、それでバラだとちょっと貧相になるかなあ。
カーネーションも最近はいろんな色や形のものが出てて、値段も手頃で結構きれいだからいいと思うけど」
おお、なかなか巧みな誘導じゃないのよ。
「え〜、そうなんだ」
「ほら、これとかどう?まるっこくてかわいいし、華やかでいいでしょ」
じゃん、はどこにいったのよ、じゃんは?と心中突っ込みたくなってる私。
結局そのお客さんはカンクロウの口車、じゃなかった、勧めに従ってカーネーションで花束を作ってもらって満足そうに帰って行った。
「へ〜、やるじゃん」
「なんだ、盗み聞きかよ」
「盗むも何も、声でかいから筒抜けよ」
「悪かったな」

「お〜い、カンクロウ、この観葉植物移動させて!」
あ、お店のひとが呼んでる。
その指差す先は、うわあ、大きいユッカ!
そうか、こういう重たいの運ばすにはコイツは適任かも。
自分の身長ほどもあるでっかい植木を店頭に止まったトラックからひょいひょいと下ろしては店の奥へ運び込んで行くカンクロウ。
ふ〜ん、だてにゴツいんじゃないわ、日頃傀儡をしょって走り回ってる訓練の賜物ね、なんか、感心。
やっぱ、男子は荷物ぐらい運べなきゃね!

「おい」
ん?
「おいって!」
あきれたような表情のカンクロウが目の前に立っている、ハハ、私に言ってたのか。
「おい、なんて客に言うわけねえじゃん。
で、 は何にすんだよ」
「え〜、まあ、予算がないから、これにしょっかな、と‥‥」
「ふん、ストックか。買い得ではあるな、花がたくさんついてるから2本ぐらいでミニ花束じゃん」
くそう、まるばれ。
「でもどうせなら、観葉植物とか鉢物とか買わねえのかよ。萎れないからもっと長く楽しめんじゃん」
「え〜、だって、手入れとか面倒だもん」
「お前の部屋2階で日当たりいいんだから、窓際において水やるだけじゃん、何が面倒なんだよ」
う‥‥実は私は植物の世話が大の苦手。
今まで枯らした観葉植物は数知れず。
何の世話もいらない、という評判のポトスを枯らしたときはさすがに悲しかったわ。
「でも、絶対枯らしちゃうもん‥‥」
「そういうオーラが出てるから枯れるんじゃんか。植物ってのは敏感なんだからな」
「なによ、カンクロウだって今は花屋の店員に変化してるからそんなこと言うだけでしょ‥‥」
「へん、なめんなよ、 はうちの温室を見たことねえからそんなこと言うんじゃん。
誰がテマリがあちこちから持ってくる植物の世話してると思ってんだよ」
「え‥‥うっそ〜、あんたがやってんの?!」
「テマリは収集および鑑賞専門で全然世話しねえからな。」
心優しい俺がしてやってるんじゃん」
「‥‥‥おしつけられたんじゃないのよ‥‥」
「まあ、そうとも言えるな、って余計なお世話じゃん」
ふふふ、実はカンクロウはけっこう面倒見がいいのよね、知ってるんだから。
「何にやついてんだよ」
「なんでもありませ〜ん」
「ふん、どうせ‥‥」

最後までいうことなく言葉が途切れた。目つきがきつくなってる。
「どうしたの、もがっ」
何するのよっ、またあ、息できないわよ、カンクロウのでかい手で塞がれちゃ!
「しっ、もう来やがった‥‥」
カンクロウの目線を追うと店のショーウインドー越しに背の低いしょぼいおっさんが見えた。
今はけっこう人通りが多いのに、よくこんな地味な標的をみつけたもんだわ。
「何よ、知り合い?」
「あのな、張り込んでるっていったじゃん。あんな顔してるけど、あのオヤジけっこうすご腕なんだぜ」
「ふ〜ん」
「気の抜ける声だすなよ。ま、いいや、じゃますんなよ」
「誰が‥‥」
「まきこまれちゃコトだしな、知らん顔してろよ、いいなっ」
カンクロウはそう言い残して店員さんに一声かけると、店の片隅に置いてあったやけにでかいギターケースをかついで素早く姿を消した。

バイトはいいのかなあ、どうでもいいけどさ、けっこうお客さん増えて来てるよ。
だいたいなんでギターなんかいるのよ、ニガウリマンじゃあるまし。
あ〜あ、店員さん一人じゃたいへんそう‥‥
「あ、君だよね、カンクロウの友達の助っ人って」
「はい?」
「これエプロン、助かったよ〜、来てもらえて。
これから夕方のお客さんで忙しくなるってのに急に少し抜けなきゃならないとかいいだしちゃって。
慣れないと思うけど助っ人頑張ってね。」
え、え、え、ちょ、ちょっと、どういうこと!?
ひょっとして、私が穴埋めすんの〜!?あんのヤローっ!さてはさっきの対応もわざと聴かせてたのね、知能犯!!
エプロン握りしめて突っ立ってたら、
さ〜ん、お客さん来てるよ、早くエプロンつけて、頼んだよ!」
思わず
「は、はいっ」
ああ、お人好し‥‥‥

む、カップルか、ふん、みるからにベタベタでや〜な感じ、バカップルってノリね。
カノジョは化粧キツいし、カレはアホそうだし。
でも‥‥いいなあ、カレシに花束のおねだりか、ちぇっ。
営業スマイル、スマイル。
「どんなお花をご希望ですか?」
「え〜とねえ、う〜ん、まよっちゃうなあ、ねえ、サトシぃ、どんなのがいいかなあ」
あんたがもらうんでしょうが、男に訊いてどうすんの?
「ああ、そうだなあ、わかんねえよ、花なんてさ、店員に決めてもらえよ」
マジかよ‥‥‥
「そうですか?じゃあ、カノジョに似合いそうな(ど派手な)ガーベラなんてどうですか?」
「え〜、ガーベラってどれなの?」
お前ガーベラもしんねえのかよっ。
「お前何にも知らねえんだなあ、そこがかわいいんだけどよお」
ああ、めまいがする‥‥‥買うのか買わねえのか、どっちなんだよっ
「じゃあ、これ、一本」
え?訊き間違い?い、一本ですか?
「リボンつけてね」
真っ赤なバラならぬガーベラを一本ラッピングして、おリボンつけてお見送り。
あの男もガーベラってどれか知らなかった、と踏んだぞ。

さ〜ん!」
「は、はいっ」
今度の客は、およそ花に縁のなさそうなパンチパーマのおやじだけど‥‥
「あのネ、ゆめゆりの花束」
ゾワッ、おねえみたいなしゃべり方すんのね、この人ってば、しかもユメユリとは、信じがたい‥‥。
「ここにあるの全部ネ」
「こ、これ全部ですか、50本ぐらいありますよ」
「アナタ、私が全部と言ったら全部だワよ!」
いきなりキレやがった、ハイハイ、わかったよ。
ごっそりユメユリを引き抜いて、四苦八苦しながら花束にまとめにかかる。
いてっ、くそ、となりのバラのとげがひっかかったみたい、切れちゃったよ。
「アナタ、血をつけないようにしてネ!」
ムカつくう!
罪のない花には悪いと思いつつ、ぎしぎし縛りまくってなんとかラッピング。
値段訊いて目ぇむくなよっ!ここは駅前だから高いんだぞ、一本300円だぞ!
「1万5千円になります」
「おっそいワねえ。1万5千円ネ」
小指をたてておっさんが取り出した財布見てたまげた、すんげえ分厚い、一万円札ぎっしりじゃない!?
「はい、これ、もう急ぐからおつりはとっといていいワ!」
お金をおしつけて私から花束をひったくると、おやじはすたすたと立ち去った。
2万円もらって立ちすくむ私。
花屋さんってもっとメルヘンな仕事と思ってたんだけど‥‥あれってマルヤの人?
さ〜ん!」「は〜い!」

入れ替わり立ち代わりいろんなお客が来て、感慨に浸るひまもありゃしない!
しかし、カンクロウはどこへ消えたのよ、戻って来たらただじゃすまさないわよッ。
あのしょぼい親父一人にこんなに時間かけやがって!
と、いい加減腹立ってきた頃、カンクロウがもどってきた。
ギターケース2本かかえて。
「な、なによ、ギター増えてるじゃない?!」
「よ、ご苦労さん」
「ご苦労さんじゃないわよ、ったく、人をこきつかっちゃって、自分はバンドでもやってたの?!」
「まさか、これは戦利品」
「え?」
よく見ると、う、動いてるじゃない、まさか誰かはいってるとか‥‥
「そ、さっきの親父。」
ギョエ〜っ、拉致ってきたの!?
でもいくらあのオヤジがチビだと言っても、こんな小さいとこへよくまあ‥‥
「業務秘密」
あ、そ。でもなんで2つも‥‥
「動いてない方はカラスじゃん。
あんなぐるぐるまきのモン、目立ち過ぎてこんなとこに持ってこれっかよ」
‥‥一応、T.P.O.とかを考えてんのかしら‥‥‥?
「あ、カンクロウ戻って来たの、でももう時間だね、 さんご苦労様。
はい、これお礼」
と、店員さん。
差し出されたのはピンクのチューリップでまとめた春のブーケ!
きゃあ〜、こんなにきれいな花束もらっていいの?!
実質1時間も仕事してないんだけど‥‥
「あ、ありがとうございます〜っ」
「またよかったら来てね〜」

ギターケース2つしょったカンクロウと花束を持った私。
ふふふ、カップルにみえるかな?
「何にやけてんだよ、そんなに花束嬉しいのか」
「当たり前じゃない、バイト代なんかよかよっぽど嬉しいわよ、って、アンタさ、人に何の断りもなく仕事任せといて‥‥」
「ハイハイ、わかってるじゃん、まあちょっと待てよ」
すたすた歩いて行くカンクロウ、どこ行く気なんだろ。
と、むこうから女の人が歩いて来て手をあげた。
「おい、カンクロウ、うまく行った?」
きれいな人、でもずいぶん馴れ馴れしいってか、怖い口調ね‥‥
「ばっちりじゃん、ほい、これ」
動く方のギターケースを渡してるカンクロウ、ああ、忍者仲間なのね。
「オッケー。あれ、誰だい‥‥は〜ん、やるじゃん、デートの片手間に任務か」
げっ/////
「な、なに言ってんだよ」
カンクロウもうろたえてる。
「ま、こいつさえもらえりゃ別に文句はないよ、おじゃま♪」
彼女はかき消すようにいなくなった。うわあ、ケース軽くかついでったわ、いくら親父がチビだからってすごい‥‥
「おいっ、テマリッ」
「えっ、今のがお姉様なの‥‥カンクロウを猫にした‥‥」
「もう言うなよ!そう、今のがテマリ」
「あんた達兄弟って重いもの背負うの平気なのね‥‥人一人担いで涼しい顔なんだもん、尊敬」
「まあ、鍛え方が違うからな、ヒールの靴はいて足つらす誰かさんとは一緒にしてもらっちゃ困るな」
「もうっ」
「でも今日はさんきゅうな、助かったじゃん」
あ、あら、あらたまってお礼なんて言われたら照れくさいじゃない。
「ま、まあ、社会勉強にもなったし、お花ももらえちゃったし、いいって」
といいつつ気になってたことを聞いてみる。
「でもさ、たまたま私が来たから良かったけど、居合わせなかったらどうする気だったのよ」
「ああ、もともとはカラスを置いてこうと思ってたんじゃん」
「げ、あの黒っぽいヤツ?
お客さん、それこそ逃げるよ、なんとかノートの死神みたいじゃない‥‥」
「バ〜カ、誰がそのまま置いてくんだよ、こっそり分身にして置いてくんだよ」
「あ、ああ、そう」
って、なら最初からそうすりゃいいじゃない、なんで私が駆り出されたのよ?!
「ふん、そりゃカラス持ってた方が任務には都合がいいに決まってんじゃん。
口寄せで他の傀儡呼ぶのはやたらチャクラくうからな」
カラスのかわりかあ‥‥ちぇ、なんかフクザツ。
ま、いいか、おかげで花束ゲットできたんだし。
自分じゃ、しおれやすいチューリップなんて絶対選ばないもんね、プレゼントってかんじで嬉しい!

そんなことを考えつつ歩いてたら、ありゃ、雲が広がってなんか急に天気が怪しくなって来た。
春は秋以上に天気が変わりやすい。
うおっ、すんごい風、さ、寒〜い!!
ぽつっとなんかが顔に当たったと思ったら、雪じゃない!
「うわ、降ってきやがったじゃん」
「おまけにこの風!」
「まるでテマリのカマイタチじゃん‥‥」
「は?」
「いや、なんでもない」
「カンクロウのお姉さんって、びっじ〜ん!きっと弟さんもかっこいいんだろうね」
「しんね〜よ、んなこと」
本当はカンクロウがかっこいいこと一番言いたいけど、そんなこと、面と向かっていえるほど、私は老成してないもん‥‥
「みんな傀儡使うの?」
「気色悪いこというなよ、サーカスじゃねえんだぜ。俺だけじゃん」
「ふ〜ん、面白いと思ったんだけどな」
「お前、‥‥‥マリオネットといっしょにしてるだろ」
「違うの?」
「‥‥‥忍具だっていってんだろ‥‥」
「どうやって戦うのかなんて、わかるわけないじゃない、戦闘現場なんて見せてもらっとことないもん」
「‥‥今、見せてやるよっ、こらあ!」
いきなりカンクロウが背中のギターケースをおろして、なかの人形みたいのをとりだし、例のわけわかんない動きで後方へ放った!
「あはははは、ばれちゃった?ごっめ〜ん」
なんかさっき聞いた声?!
テマリさんの姿がさっと横を通り過ぎた。
「ちょっと情報収集してただけだよ、弟クン、じゃな」
「テマリ〜っ!」
カンクロウの叫び声もむなしく、彼女は木立の中へあっという間に姿を消しちゃった。
「くそ、よけいなおせっかいじゃん‥‥」
「は?」
「なんでもねえよ、テマリはすぐちょっかい出すからたまんねえじゃん‥‥」
なんか一人でぶつくさ言いながら、今一度ひらひらっと手のひらをうごかし、カラスを自分の方へ寄せるカンクロウ。
と、その時またしてもすんごい突風!
「ぎゃああああああっ!」
カラスが風に飛ばされて私に抱きついて来たあっ!ドアップ!!グロすぎいい!!!
「わ、わりい!」
固まった私からあわててカラスをひきはなすカンクロウ。
こ、怖い、マジで、カンクロウがいなかったら泣くよ、私。
「そんな顔すんなよ、ほれ、よしよし」
頭なでられた!ガキかよ、私は‥‥
「ほい、落としてるじゃん」
カラスをケースにおさめたカンウロウが落ちた花束をひろって、片膝ついて私に花束差し出した。
お、このポーズはなんかいいかんじじゃない。
「ありがと〜/////」
受け取りながら再び緩む頬。
はコロコロ表情変わる奴だな、さっきは真っ青だったくせに、もうニコニコじゃんか」
ちょっとあきれた顔のカンクロウ。
いーじゃない、恋する乙女なんだから!
 
一転して雨雲も消え、やさしく暮れなずんでいく春の空の下を二人でゆっくり歩いて行く。
どこかから甘いジンチョウゲの香りがしてくる。
私は花束、カンウロウはポケットに手を突っ込んで背中にはギターケース。
2人とも仕事の後のちょっとここちよい疲労感を漂わせて。
結局家まで送ってもらっちゃった。
「ありがと、送ってくれて」
「どーいたしまして、じゃな」
カンクロウは私が大事そうに持ってる花束の方をちらっと見て、なんかニッとした。
「なによ〜、花束もらって喜んじゃいけないの」
「いや、よかったじゃん」
あり、なんか拍子抜け。
なんか優しいじゃない、どうしたのよ、と言おうと思ったとたんもう姿を消してた。
ふ〜んだ、私だって女のハシクレ、花束もらえば嬉しいに決まってるじゃない。
これは水切れしないように大切にしよっと!

後日談。
あの花屋さんの近くを通りかかったんで、お客さんもいないしちょっと挨拶してこ、と思って声をかけた。
「こんにちは〜」
「ああ、 ちゃん、元気?」
「はい、おかげさまで。
あの時はかわいい花束ありがとうざいました、私にしては珍しく枯らさないように大切にしてます〜」
「そりゃよかった。カンクロウもよろこぶよ」
「へ?」
「あれ、知らなかったの、自分のバイト代いらないから ちゃんに花束あげてって言われたんだよ。
色まで指定してさ」
おかしそうに言う店員さん。
えええええええっ、し、知らなかった‥‥
カンクロウから花束もらってたんだ、私!!
ただの花束ってだけじゃなく、なんかいつになく嬉しくって愛おしくって、マメに水取り替えたり、水切りしたりしてたけど、何か感じるところがあったのかな‥‥‥
感動〜っ!!
なんかひとこと、自分からだって言ってくれたらよかったのに、もう。
だからカンクロウの奴、別れ際にニヤけてたんだ。

残念ながらチューリップはドライフラワーにはできない‥‥ぐす。
でも!携帯の待ち画面にしちゃったもん、これなら枯れようもないもんねっ。

三日後、 が携帯をトイレに落として大騒ぎになったのは、また別のお話。

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蛇足的後書:2005年早春の作品。花束もらうのって嬉しいですよね。
ましてそれが自分の想い人なら最高!男の人はプレゼントにもっと花を活用するべきだと思いますね、残りもしないけど質屋に流れる心配もないよ(笑)