はんばーぐ

「おばちゃん、おれハンバーグ定食ね」
久々の休日。休みになるといつも訪れる定食屋でカンクロウは例によってハンバ−グ定食を注文した。
ここの店はこじんまりして落ち着くし、ハンバーグ定食がおいしいので、彼のお気に入りだった。
今日は忍服ではなく、ごく一般的な格好をしている。
戦闘時は傀儡師ルックに永谷園のクマドリで決める彼だが、たまの休みにはさすがにあの格好では目立ち過ぎるので、気分転換のためにもありふれたスタイルに着替える。
今日はTシャツにチェックのシャツを羽織り、コットンパンツとスニーカー、と、どこからみてもごく標準的な若者だ。
ネコ耳ずきんにいつもかくされている髪も解放されて、こころなしか嬉しそうにつんつん立っている。
カラスも家で御留守番だ。
もちろん隈取りもなく、いつもは存在感の薄い白目がちの緑の瞳がここぞとばかり光る。
恐らく今の彼を見て、あの砂三姉弟の一人だと気がつく人はほとんどいないだろう。

カンクロウは今日一日なにをしようかとぼんやり考えていた。
家でぼーっとするという選択肢もないわけではなかったが、任務以外の時迄、おしの強い姉、および無口なくせに威圧感のある弟とすごすのも気がすすまなかったので、外へ出てきたのだった。
『今日はなんかおそいじゃん』
確かに注文してからけっこうな時間がたっていた。
昼時とは言え、平日でそんなにたてこんでもいないにしては時間がかかりすぎる。
「おばちゃ〜ん、ハンバーグ定食まだ?今日は時間かかりすぎじゃん」
厨房に向かって声をかけた。
あまり大きくないこの店は夫婦2人できりもりしている。
おやじさんは配達にでていることが多いので、実質おばちゃん一人で店番をしていることが多い。
「ごめんなさ〜い、今もっていきま〜す」
聞きなれない声が返事すると同時に、厨房からひょいと顔が覗いた。
『え?誰だ?』
おばちゃんが若い女の子に変化している。
「お待たせしました、まだ手順がうまくつかめなくって・・・」
注文の品をテーブルに置ながらさっきの少女がカンクロウに言った。
いつものいかついおばちゃんを見なれた目には、少女がずいぶん可憐に見えた。
砂の国の人間は大方色が白いが、彼女はめずらしく健康的な小麦色の肌をしていて、ちょっとクセのある栗色の髪をショートにしていた。
ショートパンツからはすらりとした足がのぞいている。くりくりした目がなんだか子犬みたいだ。
『へ〜、かわいいじゃん...』
が、そんな内なるつぶやきをよそに、さっそく文句を言ってしまうのが、彼が彼たる所以である。
「あんたさ、手伝いにしてはとろいじゃん。
ちゃんと料理できるのかよ。
おばちゃんは具合が悪いのかしんねえけど、あんたみたいなのに店任せて大丈夫かね」
初対面の人間だから、とか、相手が可愛いからとかいう理由で、普通は多少遠慮がはたらくものだが、「率直」が「傍若無人」にまで進化しているカンクロウは平気で言いたい事を言ってしまう。
自分でもわかってはいるのだが、相手が気に入るとなおさらきつい事を口にする癖があった。
「え〜と、‥‥おばさんは今日ちょっと体調を崩しているので、姪の私がピンチヒッターで呼ばれたんです。」
若いくせにおやじみたいにずけずけ言うなあ、と心中少し傷付きながら少女が答えた。
「あ、そうなの。めずらしいこともあるじゃん。
おばちゃん、元気だけがとりえみたいに言ってたけどさ。
まあ、じゃあ、あんたの料理のお手並み拝見といくか」
結構失礼なやつかも、と思いながら少女はいったん下がった。
が、じきに
「お〜い、さっきの、え〜と、手伝い人!」
という声で呼び戻された。
『手伝い人って・・・まあ、そうだけど…』
料理はきれいになくなっている。
が、ほっとしたのもつかの間、
「あのさ、いつもより味が水っぽかったぜ。
おれ、たまにしか来れないんだから、もっとおいしいの作ってよ。
盛り付けももっとうまくやんないとまずそうに見えて損だぜ。
当然だけど、おばちゃんの方がやっぱ上手じゃん」
ずけずけと、言いたい事を言う。
「ゴメンナサイ‥‥次からは気を付けます……」
(他のお客さんはこんなこと言わなかったのに。いじわるだな、この人)
彼女の不満げな顔やがっかりした気配をカンクロウは別段気にする事もなく、
「じゃ、次は少しは腕をあげときな」
と、うそぶくと、勘定をすませてなぜか上機嫌で店をあとにした。
次の休みもまた来て、この少女をからかってやるのを、楽しみにして。

店にもどってきたおやじさんに、少女がカンクロウとのできごとを話すと
「じゃあ、問題のハンバーグ、もってきてみな」
という。
別に他の客からは何も言われなかったので、安心していたのだが...
一口食べて、おやじさんも
「確かに、いつものより味が薄いな。
まずかないが、うちの看板定食にしちゃ、もの足りんな。
、もうちょっと勉強してもらわにゃ〜ならんな。」
と、言われてしまった。
「でも、他のお客さんは何も言わなかったのになあ」
「そりゃ、かわいいおじょうちゃんに遠慮したんだろうよ。
なんせ、お前さんみたいな若い子はいままでうちで給仕したことなかったからな」
「う・・・そうだったのか。料理ならまあまあ、自信あったんだけど・・・」
落ち込む
「まあ、気にすんなよ、しばらくやってりゃ腕もついてくるってことよ」
と、心中を察したおやじさんになぐさめられてしまった。

それから2週間たった遅い午後。
はボロ自転車に、買い出した食材を山のようにつんで、よろよろ走っていた。
おばちゃんのぎっくり腰が思ったより深刻で、彼女のピンチヒッターも長期化してきた模様だ。
『お、おもい・・・次は私がぎっくり腰になる番かも...』
うっかり、手伝いを申し出た事をちょっぴり後悔しながら、自転車をこぐ。
あれからカンクロウは店にはきていないが、悔しかったので、毎日おやじさんに特訓してもらい、少しずつだが腕を上げつつあった。
『ふん、次は絶対味が薄いとかなんとか、言わせないもん!』
ひそかに闘志を燃やす だった。

さて、彼女が疾走(?)している道はこんもり茂った林の中を通っていた。
そこは砂忍たちの演習場のすぐ近くで、おりしもカンクロウ達はそこでの練習を終えた所だった。
「今日はこれで練習はおわりだ。明日は休んで明後日からの任務にそなえるようにな。」
上忍のバキが解散を告げる。
「さ、帰ろうっと」
テマリはこの頃どうもいい人ができたらしく、用事がすむとさっさと帰ってしまう。
我愛羅は土をいじくってなにやら思案顔だ。
新技の開発でも考えているのかもしれない。
見方によっては泥遊びをしているように見えなくもないが・・・
カンクロウは家に帰って、まずカラスの手入れをしてしまおうと考えながら、木立をぬって移動し始めた。

と、見覚えのある少女が自転車をこいでいる姿が目にはいってきた。
『あ、あの娘じゃん。ありゃ〜、ずいぶんよたついてるな、こけるんじゃないのか』
また意地悪モードなのか、たすけてやろうなどという考えは彼の頭には浮かばないらしい。
面白半分で気がつかれないように尾け始めた。
ようやく上り道が終わり、下り坂が始まった。
少女はほっとしたようすで、今迄の苦労を吹き飛ばすべく、ブレーキもかけずに坂道を疾走しだした。
『おいおい、この坂は長いし、急だぜ、大丈夫かよ』
ひとごとながらやや心配になってきたカンクロウは自分も追うスピードを早めた。
はたして、少女がこの坂の長さに気がついた時、自転車は荷物の重さも手伝ってかなりのスピードに達していた。あわてて、ブレーキをかけようとしたが、なんせ借り物のおんぼろ自転車で、そう急にブレーキが効かない。
『やばいじゃん、この先には急な曲り角があるってのに』
少女が思ったより鈍そうだ、と気付いたカンクロウは飛びながらカラスを放った。
「キャア〜〜〜、止まらない〜〜〜〜!!!!」
は視界の先に曲り角が飛び込んできた時、思わず叫び声をあげ恐怖で目を閉じた。
木立に突っ込む!!!
あれ、衝撃がない。
恐る恐る目をあけると、黒装束のあやしさMAXな男が彼女をはがいじめにしていた。
「きやあああああああああああ〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!」
気の毒なカンクロウの耳がしばらく痛んだのは言うまでもない。
「はなして、はなして、はなせ〜〜〜〜!!!!」
じたばた暴れる。彼女は黒装束とあやしげなメイクの衝撃で、今さっき、どういう状況だったのかをきれいさっぱり忘れているようだ。
「おい、だまれよ!!!」
ビクッ
「ったく、人が助けてやったってのに。フツー、一言ぐらい礼を期待するじゃねえか」
え...この声、こ?フ話し方、なんか覚えがある....
「この坂は急なんだからもう少し慎重にいくべきじゃん。」
自分をつかむ手を緩めた相手を、今一度しげしげと眺める。
しかし、この人相とあの男ではあまりに違い過ぎる....が、特徴のある話し方と、薄緑の瞳は確かに2人が同一人物だと物語っていた。
金魚のように口をぱくぱくしている を尻目に、カンクロウは糸を引くような不思議な手付きをしたかと思うと、
「ほら、おまえさんの荷物もこの通り無事だ」とあごをしゃくって、あっちを見ろ、というポーズをしてみせた。
「ぎゃあああああああああ〜〜〜〜〜〜〜〜〜っつつつつつ!!!!!」
彼女がみたのは荷物を抱えるようにして、口をひらき笑顔(?)を浮かべている三つ目の傀儡人形カラスだった。

「ご、ごめんなさい!!!!そ、その、あんまりびっくりしたもんだから....」
彼女は平謝りに謝っていた。
「まさか、あの、あなたとは思わなかったし...本当にごめんなさいっつつ」
カンクロウは耳をさすりつつ、その言葉を聞いていたが、ためいきをひとつつくと、
「‥‥もういいじゃん、気にするなよ。それより、自転車は完全におしゃかだな」
と、木立につっこんでめちゃくちゃにいがんでしまった自転車を指して言った。
「あちゃ〜・・・・・」
「ここから店まで、まだ大分あるじゃん。おまけにその荷物、今日の夜の食材の買い出しだろ」
「う〜〜〜〜〜」
うなるしかない
カンクロウはしばらくその様子をみていたが、やおら口を開いた。
「で、ちょっとは上達したのかよ」
「え、何が」
「ハンバーグの腕前にきまってんじゃん」
「も、もちろんよ、毎晩、特訓してるんだからっ」
「じゃあ、今から送ってってやるかわりにハンバーグ定食おごりな。それでちゃらにしてやるよ」
見るからにあやしいこの男に送ってもらうのもなんだが、この荷物をもって、ひとりでよたよた遠い道のりを
帰るのは不可能に近い。
「‥‥じゃあ、お願いします・・・・・っ?」
気がつけば自分はカンクロウの背中におんぶされている。
「ちょ、ちょっと、私自分で歩けるッ‥…」
「うるさい、おまえみたいにとろとろ歩いてたらどんだけかかるかわかんね〜じゃん、つきあってらんね〜よ。黙って乗ってろ!」
「で、でも私けっこう重たいよ・・・・」
「へっ、おまえひとりぐらい、なんてことねえよ」
カンクロウは言いながらすでに木立の中を飛ぶように移動し始めた。
確かに普段カラスを背負い、必要があればもう一体の傀儡を背負う事だってあるカンクロウにすれば、彼女一人ぐらいなんてことはない。
木の葉崩しの際は負傷した我愛羅とカラスを背負って移動したのだ。
『それに、傀儡とちがって、ちょっと役得じゃん』
背中にあたる二つのやわらかいものを感じ、ひそかににやけている。
の方はと言うと、自分の他に食材を抱えたカラスもいて、これはあまりうれしくない同乗者ではあったが、文句を言えた義理ではない。
『忍者だったのか・・・・でも忍者ってもっと、こう、影のあるキャラを思い描いてたんだけど・・・』
「なんだよ、何か気に入らないのかよ」
意外に耳がいい。さっきの悲鳴はさぞかしダメージだったことであろう。
「い、いえ、とんでもない、その、こんなふうに移動した事なんてないもんだから、ちょっとびっくりしちゃって‥‥」
「へっ、カラスも同乗者がいてよろこんでるじゃん」
こう言うとまた、ひらひらっと指をうごかした。
カラスが3つ目の顔をぐるっと にむけ、口をパカッとあけて、まるで笑ったかのような顔をした。……愛嬌のつもりなのだろうが、実に無気味だ‥‥‥。
くだらないことでマメな男だ。
でも私が気を遣わないようにしてくれてるのかな。
苦笑しながら思った。
『助けてくれたんだよね‥‥ちょっと、誤解してたかな。』
「あの〜、私 っていいます。名前、教えて下さい。」
「オレ?カンクロウってんだよ」
「カンクロウさんはなんで、そんな格好してるの」
「え〜、だって傀儡といえば、黒子じゃん」
「でも、その隈取りは‥‥‥」
「これはカモフラージュ。お前だって、見ただけじゃ、おれだってわかんなかったじゃん。面なんかつけるよりこの方がうっとおしくなくていいんだよ」
『面のかわり、ねえ。目立ってよけい敵の印象に残りそうだけど……まあ、素顔迄は注意がいかないのは確かかも。』
いいように取るなら、何も考えていないようで、他人には、おいそれとはわからない奥深い考察をする男なのかもしれない。
だが、単なる目立ちたがりかもしれないなあ、と はひそかに思うのだった。

話している内に林は終りに近付き、店はすぐそこというところまできた。
カンクロウは木から飛び下りると、 に降りるように合図した。
「じゃ、ここまでだ」
「え、食べてかないの」
「この格好でか?明日また行くから、そん時でいいよ。あばよ」
「あ‥‥、ありがとーっ、カンクロウさ〜ん、助かりました〜っ」
後ろ姿にむかって が声を張り上げる。
その声を聞きながら、「ふん、カンクロウさん助かりました、か」
なんとなく表情がゆるむ彼であった。
この瞬間、足がちょっとふらついたことに、カンクロウ自身は気がつかなかった。

さて、つぎの日の昼食時。
店の中では がなんとなく落ち着かないようすで、接客したり料理の下準備をしている。
一方、店の外ではなにやら、3人組がもめていた。
「なんでお前たちまでついてくんだよ?!」
「まあ、まあ、いいじゃないの、めずらしく3人揃って休みなんだしさ、たまには外で一緒にごはんしたって」
「‥‥今日の昼食はカンクロウが当番だ。お前が外で食うなら、俺達も誘え」
「だーっ、なんだってんだよ、もう。クソ、好きにするじゃん」

今日は休日なので当然3人とも、いつもの忍びのスタイルではなく普段着である。
テマリは珍しく、おろした髪をカチューシャでまとめていた。
はね加減がちょっとかわいい。
白いへそだしカットソー&ミニ&スニーカーという活動的でさわやかな組みあわせだ。
巨大扇子は携帯に不便なのだろう、ごく普通の扇子を手にしていた。
これは暑い時にあおぐためだと思われる‥‥‥恐らく。
ハリセン程度の武器に化ける可能性は十分にあるが。
もう一人は小柄ながらやけに存在感をもつ少年我愛羅。
事情を知らない人からは徹夜続きなのか、とかいわれそうな濃いクマを大きな瞳のまわりにやどしている。
地味に黒いTシャツに黒いゆったりしたパンツをはいて、足もとは素足にサンダル。
ひょうたんは‥‥外している。
が、Tシャツのバックにひょうたんのプリントがあったりして、なんとなく微笑ましい。
3人のなかで一番背が高くて、いかつい(ナルトいわく『デブ』)カンクロウは前回と同じようにノーメイク(?)でシャツ、Gパンにスニーカーである。
3人が私服でいるとますます、共通項はないに等しい。
かろうじて瞳の色が同じ薄緑であることぐらいか。
瞳の色にも似た、薄いような濃いような関係で結ばれた姉弟ではあった。

さて、一同ぞろぞろと店内に入る。

「いらっしゃいませ〜!あ、カンクロウさん!きのうはありがとう」
この瞬間テマリの目が歓喜できらりと光ったのを、我愛羅は見のがさなかった。
『やれやれ』
「よう、ちょっと事情があって3人になったんだ」
「大丈夫、3人ね、こちらへどうぞ。」
案内された席に座るとさっそくテマリがカンクロウに話し掛ける。
「ちょっと、誰、あの子、かわいいじゃない。あんたの知り合い?きのうって何の事よ?」
「うるさいな〜、ちょっと知ってるだけじゃん」
「ふ〜ん‥‥いいや、直接聞くから」
「おい、変な事想像するなよ、まったくテマリはすぐ人のことに首突っ込むんだから、おせっかいじゃん」
「姉としてあんたのことを心配してやってるだけじゃないか。
そろそろガ−ルフレンドの一人もいたっておかしくない‥‥フガッ」
「声がでかいぞ!やめてくれよ」
「‥‥ここは注文を取らない店なのか、カンクロウ」
「そうじゃないよ、だた今日は事情があって、ハンバーグ定食に決まってンだよ」
「‥‥まあ、いい。どうせ家でもお前が当番なら同じものだ」
なにやら騒がしい3人である。

一方厨房では が大張りきりで料理をしていた。
あらかじめ下準備は済んでいるのであとはハンバーグを焼いて、付け合わせを準備するだけだ。
おいしそうなジュージューいう音をたててハンバーグが焼き上がった。
栄養と色身も考慮してつけあわせも考えた。
「うん、上出来上出来☆」
時間も前回とくらべるとぐんと短くなっている。
「おまたせしました〜」
にぎやかなテーブルへ料理を持って行く。
「お、はやくなったじゃん。」
「えへへ。味も良くなってると思うよお」
「じゃあ、遠慮なく‥‥」
「はじめまして、あたしテマリ。カンクロウの姉だ。こっちは我愛羅で、同じく弟。よろしくな。
あんたの名前は?」
「は、はじめまして。 っていいます」
「カンクロウのヤツもすみにおけないな、こんなかわいいガールフレ‥‥モゴッ」
「あっちでお客がよんでるじゃん」
「あ、は〜い、ただいま!」
「おい、テマリ、いい加減にしてくれよ!!」
「なんでだ、何も悪い事してないぞ」
「‥‥おい、カンクロウ。これは彼女のおごりなのか」
「まあ、そうだ。きのうちょっと手助けしてやったお礼じゃん」
「‥‥じゃあ、残さず食えよ」
「ハンバーグを俺が残すかよ」
「‥‥全部だぞ」
「くどいじゃん、我愛羅」
「ククク」
「何笑ってンだ、テマリ」
「い〜え、なんでもございません。さ、食べよ」
カンクロウはこの時になって初めて、ホウレンソウがハンバーグの横に鎮座しているのに気がついた。
「げっ‥‥」
「「‥‥残すなよ(ニンマリ)」」
『墓穴ほったじゃん‥‥』

一同がそろそろ食べ終わるかと言う時間を見計らって、 がもどってきた。
「いかがでしたか〜」
「おいしかったよ〜、
「‥‥うまかった」
「あ、ああ、本当だな、前よりおいしくなったじゃん」
「あれ、カンクロウさん、ホウレンソウ残ってますけど‥‥、嫌いだったんですか?」
「あ、ああ、まあ〜、そうだ」
「へ〜、なんか意外〜、食べ物なんでもOKって感じなのに」
心無しか少女は嬉しそうだ。
「なんでおまえが喜ぶんだよ」
「だって、恐いもの知らずっぽいカンクロウさんが、ホウレンソウの前で小さくなってるのって‥‥」
「悪かったな」
「‥‥カワイイ」
フリーズ、カンクロウ!!記憶に残る限り、自分が『カワイイ』呼ばわりされたこと等ない彼は完全に固まってしまった。再起動とともに赤くなる。
「‥‥大の男にむかってカワイイはないじゃん」
「ふふふ、だって〜」
『オヤジくさい』とか、『態度が大きい』とか、『いかつい』とか、『目立ちたがり』とか、『遠慮がない』とか、『ずうずうしい』とか、『冷酷』とか、『陰険』とか、etc.,etc.,、悪口には免疫があるカレも、褒め言葉ではないが、こういったやさしい言葉にはからきし弱い。
「昨日だって助けてくれたし、やさしいんだなあ、って」
知らずに追い討ちをかける彼女。
カンクロウは恥ずかしさを通り越して目眩がしてきた。
「ゴ、ごちそうさま。店も混んできたし、出るジャン」
「え〜、もう帰っちゃうの。せっかくだからゆっくりして行って下さい〜」
「い、いや、明日からの任務の準備もあるし‥‥‥」
かわいい ちゃん、どうやら彼が甘い言葉に全く免疫がないことをこの時悟ったようだ。
いたずらっぽく笑うと、つぎつぎとろけそうなセリフを連射しはじめた。
「任務ですか、カッコイイなあ〜、見たいな」
///////
「カンクロウさん、すっご〜く強そうだもんね〜」
//////////////
「ハンバーグ定食のこと注意してくれたのも、本当はとって〜も、やさし〜いからなんですよね〜」
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突然のみえみえのお世辞の連発に、あっけにとられるテマリと我愛羅たち。
が、脱力していくカンクロウの状況を見て、同情しつつも笑わずにはおれない。
「ぷっ、この娘、なかなかやるわね。」
「‥‥‥カンクロウ、だらしないぞ‥‥‥」
「///////////わかってるじゃん///////////」
『まじい、あの帰り道、足を一度踏み外しそうになったのもこれだったのか』
このままヘタレていくカンクロウを眺めていても面白いのだが、立ち直れなくなって、おぶって帰るのはゴメンだというわけで、テマリと我愛羅は に礼を言い、カンクロウをひきずって、店の外へ出た。
「残念です。また来て下さいね。」
「任務があけたらすぐくるよ。な、カンクロウ」とテマリ。
「あ、ああ‥‥」脱力感を漂わせてカンクロウが返事をする。
「‥‥残したな、お前。罰だ、手は貸さん」と、こだわりの我愛羅。
「さ、行っくよ、またね
「‥‥」無言で会釈する我愛羅。
「お、おい、待ってくれよ」
薄情な2人は約束違反な忍術飛びであっという間に木立の中へ消えていった。
取り残されたカンクロウも、よたよたと地面を蹴り、家路へつこうとあがく。
「素敵なお姉様と弟さんですね。で、も、カンクロウさんが、い、ち、ば、ん、かっこいいですね〜」
ずる、と、枝をふみはずしそうになる。
「黒子の衣装も決まってますけど、私は普段着のカンクロウさんの方が、男・前で好・き・です〜」
ごん、どうも木の幹にどこかぶつけたようだ。
うしろから大きな声でカンクロウをおちょくりながら見送る
実はさりげなく本音も言っていたのだが、カンクロウはそれを聞き分ける余裕すらなかった。
『へへ、ちょっとやりすぎかな。でもいいよね。
見てなさいよ、こないだから言われっぱなしだったおかえしなんだから〜』
楽し気な とは対照的に、カンクロウは、あやうく木から落ちそうになりながら、なんとか帰って行きましたとさ。

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蛇足後書:管理人が初めて作ったカンクロウドリームです、2004年の夏ですかね。
大好きなドリームサイト様である「夕闇の丘」管理人ikuya様に送りつけたところ、なんとHPで公開して下さりいたく感動しました。なんせ、ドリームに仕立てるやり方もわからなかったので(今だって大して進歩してなかったりする)、自作がドリになって大好きなサイト様に置いていただいているということで、もう舞い上がりました。
感謝感謝です。