ハイシャ復活戦
いやな金属音が響いてくる待合室で身を縮める
。
「ああ、もっとちゃんと歯を磨けば良かった」
などと、いまさら嘆いても仕方ない。
チョコレートというものはお口の恋人であると同時に、ムシバ菌にとっても魅力的なお方なのである。
「16番の方、診察室へお入り下さい」
「‥‥はい」
消え入りそうな声で返事をし、部屋へ。
気分はマナイタの上の鯉。
二つある診察台のうち、奥にある一つにはもう既に餌食がのっている。
お気の毒、と思う一方で自分だけが犠牲者ではないと感じるのは悪くない。
連帯感が一方的に芽生えたりする。
が断頭台でエプロンを装着されていると、そちらのお方の治療が始まった。
「はい、口を開けて下さい‥‥けっこう大きな虫歯になってますね〜。
本当に今日一日で直すんですか?
まあ一本だけですけどねえ‥‥じゃあ麻酔しますよ」
ふ〜ん、一回で直すのか、時間かかりそう‥‥
などと
が考えていると
「あ、動かないで下さい、麻酔できませんよ」
動いてどうすんだよ、5歳児じゃあるまいし。
ひそかに笑う
。
後ろ姿とはいえ、どう見ても成人男子だからだ。
「わ、悪いじゃん‥‥」
びくっ。
このジャン調なしゃべり方は、彼女を苛む虫歯の原因となった、連日のチョコレート試作の元凶と酷似している。
「しょうがないですねえ、じゃあ目を閉じて口は思いっきり開けたままにしてて下さいね」
「ふわ〜い‥‥ふがっ」
麻酔成功。
しかし、さっきの話し方は、そしておそらく口中に脱脂綿が入っているからやや不明瞭ながら聞こえて来たあの声は‥‥‥
首を伸ばしてもう一つの診察台を見ようとするものの、後ろ向きだし、先生と看護婦さんに遮られてよく見えない。
いくら気になるからといって立ち上がってみる度胸は
にはない。
連日彼のために失敗作を食べ続けたために、頭の方もやや糖度が高めになり過ぎでおかしくなっちゃったんだ。
はそう思い直し、今一度椅子に身を沈める。
カンクロウは甘いもの大好きだから、バレンタインは願ってもないチャンス。
手作りなんてあまり得意ではない
としては、チョコレートはちょっとふんぱつして、レアものを買ってプレゼントすればいいと決め込んでいた。
しかし、漏れ聞こえて来た噂によれば、彼は甘いもの嫌いな弟からのお上がりチョコを毎年、この時期には山ほどもらうらしい。
そのチョコたるや、そうそうたるブランドチョコで占められているとのこと。
まあ風影にチロルチョコや百均の麦チョコを送る強者もいないだろう。
彼が甘いもの嫌いなのは有名だし、そうなれば量より質、おのずと値段が張るチョコが選ばれると言う仕組みだ。
となると、多少不細工でもカンクロウの記憶に残るためには手作りの方が有利。
友達ではあるが、恋仲ではない、そんな二人の距離を縮めるにもその方がよさそうである。
‥‥言うはやすし。
チョコレートというのは温度次第でツヤツヤにもぼそぼそにもなる実にデリケートな食品であると、いまさらながら
は身を以て知った。
もっとも彼女の試作品がツヤツヤになったから知った事ではなく、本に載っている写真がツヤツヤなだけで、
の作品はほぼ例外なくボソボソだったからだ。
失敗作を置いておくのもしゃくに触るし、作っては食べ、を繰り返す日々。
正直チョコレートなんて嫌いになってしまった‥‥多分一時的だが。
それでもバレンタインまではまだまだ日があるから、とのんびり構えていたのだがにわかチョコパティシェへの道は険しかった。
「はい、お待たせしました」
先生の声が降って来て、はっと目を開ける。
ついに自分の順番だ。
と、いうことは、さっきのカレはもう終わったのか。
医師の指示通り大きく口を開きながら、目の端でもう一つの診察台を覗き見すると、まだそこにいるらしい。
どうやらこちらの治療をはさんでの長期戦のようだ。
‥‥カンクロウではないにしても、似た人が近くにいると思うとなんだか嬉しくなくもない。
「軽い虫歯ですが、奥歯が軒並みやられてますね。
バレンタインチョコの試作品の食べ過ぎですか?」
冗談で言われているのは分っているが、実は本当だったりするので返す笑顔も引きつり気味の
。
「痛むといけないので一応麻酔をしますね」
「ふぁい‥‥ふがっ」
ざまあない、自分もさっきのカンクロウもどきと同じ反応をしている。
いやな金属音が響く中、向こうはどうしてるかな、とチラリと様子を伺うと、こともあろうに椅子から身を乗り出してこちらを見ているではないかっ!
‥‥もっとも、医師や看護婦の隙間からちょろっと見えるだけだから、向こうからこちらがどれだけ見えているかは怪しい。
しかし、もう疑う余地はなかった。
隣人、同志、もう一匹の俎上の鯉はカンクロウその人であった。
「はい、お疲れさまでした。
待合室のほうで会計をお待ち下さい」
「‥‥はりがとうごじゃいました」
麻酔のせいで今いち口がうまく動かないながら礼を述べ、外へ向かう。
カンクロウのほうを今一度見ると、治療を受けながらもこちらへ手をあげている。
も見えてるとも思えないものの手を振って合図する。
がんばって、同志K!
待合室で名前を呼ばれるのを待ちながら思う。
‥‥今日は2/15。
そう、
はバレンタインをしっかりスルーしてしまったのだ。
あれだけ準備しておきながら?
いや、準備しすぎていやになってしまった、というのが正直な所かもしれない。
つくってもつくってもうまくいかないものだから、なんだか恋路の方もうまく行きそうもないような、そんな気になってしまったのだ。
どうせ、チョコなんて山ほどもらってるだろうし、いまさら自分のブサイクなチョコなんてあげても仕方ない‥‥
チョコで甘ったるくなった口の中をツンとしょっぱい味の涙が通って行った。
が。
運命なんてどこでどう転ぶか分ったものじゃない。
現に今、こんなところで、口をカバにしてるところを見られたとはいえ(見たとはいえ)、カンクロウと鉢合わせしたではないか。
これは敗者復活戦を神様が用意してくれたに違いない!
「よ〜、
、奇遇じゃん」
びっくりしてドサッとカバンを膝から落とす。
中身がころころと床の上を転がる。
「あ〜あ〜、何やってんだよ」
「ご、ごめん〜」
二人で這いつくばって床にちらばったものを拾い集める。
「も、もう終わったの?」
「え、ああ、何とかな。
まだ麻酔利いてるから口が痺れてうまく動かねえよ‥‥」
「本当だね、私もだよ‥‥」
「あ、
、ヨダレ」
「えっ」
「嘘に決まってんじゃん」
「んもう!カンクロウのバカヤロ」
「けけけ、おもくそ口開けてるかっこいいとこみられたお礼じゃん」
「それはお互い様でしょ!」
「15番の方、16番の方、お会計お願いします」
「「は〜い」」
「16番の方、お待たせして申し訳ありませんでした、ちょっと会計システムがおかしくなってしまって」
「いえいえ、大丈夫です!!」
そのお陰でカンクロウと揃って店、もとい、歯科医院をあとにできるのである。
「お大事に〜」
二人一緒に外へ出る。
さあ、ここからが勝負、どういって引き止めよう、いや、どこへ行こうと声をかければいいのか。
が頭を悩ませようとした瞬間、お腹があっさり答えをいう。
「グ〜ッ」
‥‥‥‥‥
「ぶっ、かっこわりい〜っ!」
「んもうっ、仕方ないでしょっ!歯がいたくて朝も抜いて来たんだもん!」
「へえ、俺もじゃん、痛くてかめなかったからな〜」
チャンス!お昼に誘えばいいのだ!
「あのさ‥‥」
「どっか食いに行く?」
ガク。
先を越された。
いつもなら誘ってもらえたら素直に嬉しいだろうが、今日はこちらが主導権を握りたい意地っ張りな気分の
。
ま、結果オーライ。
歯医者で治療した直後に食事なんかしていいのか、とも思うが1時間ほど待てば食べてもいいということだったので、この際いいことにしてしまう。
この昼時なら、店もたてこんでいてどうせ自然にそれぐらい待たされるだろう。
それなのに。
なぜか今日に限って妙に空いているファミリーレストラン。
順を待つ事もなく、入るなり席に案内される。
それなら時間を取って注文を考えようと思うと
「あ、今日のランチ、ハンバーグ定食じゃん!
これうまいぜ、お姉さんすいませ〜ん、これ2つね」
さっさとカンクロウが注文してしまう。
「ちょっと、あたしまだ決めてないって!」
「心配すんなって、絶対うまいから、それに同じ注文した方が早く来るじゃん。
腹減ってんだろ、
も。
それにもうメニュー持ってかれたし、決定事項じゃん」
‥‥さすがせっかち、速攻主義。
おまけにハンバーグ定食は準備が簡単なのか、5分としないうちにウエイトレスが運んで来た。
「‥‥早すぎ‥‥」
「なんだよ、腹減ってんなら喜べよ。
いっただきま〜す‥‥」
「待った!
カンクロウ、あんた先生にいわれたこと聞いてなかったの?
一時間ぐらいは食べないで待てって言われたでしょ?!
つめたとこが取れちゃうよ。
まだ30分ぐらいしかたってないじゃない」
「お固いなあ、
は。
んなもん、今まで取れたためしねえよ、大丈夫だって!」
‥‥軽く流すところをみると、彼はこの違反技の常習犯らしい。
「うまいな〜。
はやく
も食えよ、さめちまうじゃん、もったいない」
もちろん
とて空腹なのは一緒。
目の前でいかにもおいしそうにカンクロウにパクパクされては、医師の言葉を律儀に守る意味がだんだん揺らいでくる。
あえなくギブアップ。
「しみないかな‥‥あ、大丈夫みたい」
「大丈夫、大丈夫」
こういうのを安請け合いと言う。
「カンクロウって、本当にハンバーグ好きねえ、お子様〜」
「うっせえな、当たり外れ少ないし、安上がりだし、いいだろ!
だってうまそうに食ってるじゃん」
「私だって嫌いじゃないもん。
あ、こら、付け合わせのほうれん草残しちゃだめ〜」
「めざといな、いいじゃん、これぐらい」
「だめ、ほうれん草は今が旬でおいしいんだから、ちゃんと食べるの!
残されたらゴミ箱行きだよ、かわいそうじゃない」
「フン、別にいいじゃん、こんな奴。
‥‥わかったよ、にらむなって、お前に免じて食ってやるよ、ちぇ」
「あれ〜、もう食べ終わり?
本当に早食いだなあ‥‥」
「お前がトロイんだよ」
「何よ、話ししながら普通はそんなに早く食べられないよ」
「修行が足りないんだよ」
「フン、あたし民間人だもん、本物の忍者に修行でかなやしないわ」
「ごちゃごちゃいってねえで食えって、ちゃんと待っててやるからさ」
はたから見ると実に仲睦まじい2人。
しかし別につきあってるわけでもなく、
的には居心地はいいものの、このままではやはり誰かにかっさらわれやしないかと心配なのだ。
この機会になんとか彼をただの友達からカレシに昇格させたいのだ。
と、カンクロウがウエイトレスにメニューを頼む。
「何よカンクロウったら、足りないの?」
「ば〜か、デザート食うんじゃん。
せっかくファミレスきたのに、今まで食わねえで帰ったことねえんだぞ」
そんな自慢もどうかと思うが、カンクロウらしいといえばカンクロウらしい。
ふふっ、カワイ〜と笑ってしまう
。
なんだよ、とちょっと赤くなりながらメニューに目を走らせるカンクロウ。
しばしの沈黙のあと、顔をメニューにかくしたままカンクロウが聞く。
「‥‥
はさ、誰にやったんだよ、手作りチョコ?」
ぶっ。
あやうく吹き出す
。
「な、なななな、何よ、唐突に?」
予想していなかった質問にうろたえまくる。
「医者にいわれてたじゃん、試食チョコの食いすぎだろうとかなんとか」
聞かれていたのか。
「そ、そ、それはさ‥」
も適当にながせばいいのに、律儀な性格が災いしてとっさに嘘が言えない。
「‥‥ま、余計なお世話だけどさ」
ぼそっとカンクロウが言う。
「カ、カンクロウだって山ほどチョコ食べたから今日歯医者来るはめになったんでしょ。
いいね、モテる人はさ〜」
ちゃかして切り返すことにしたらしい
。
「へっ、そりゃこの時期はさ、チョコには不自由しねえよ。
モテモテ風影の弟がいりゃな。
お前にもいたら腐るほどわけてもらえるぜ」
「そんな弟いないも〜ん」
「いてどうすんだよ、2人も風影がいたら波風が立ってしょうがねえよ」
「ははは、そうだね。
‥‥まあ、試作品食べ過ぎで虫歯は当たってるけどさ、結局‥‥誰にもあげてない」
カンクロウがメニューから顔をあげる。
「‥‥なんで?」
まっすぐに目をみられて赤面してうつむく
。
「だって‥‥うまく作れなかったんだもん」
「んで、自分で食ったのか?」
「うん‥‥」
「全部?」
「うん‥‥おかげで一時的にチョコ嫌いになっちゃった」
「なんだよ、もったいない。
それで虫歯作ってたら世話ねえじゃん」
誰のせいよ、誰の!と
があやうく言い返しそうになった時にカンクロウが言う。
「俺にくれりゃよかったのに」
え、え、え、え、え??
今度は
がカンクロウを凝視する番だ。
カンクロウがしまった、という顔で目をあさっての方角に泳がす。
「あ〜、その、さ、俺ってチョコレート大好物でいくら食べてもあきねえんだよ。
だから、お前がいやいや食ってたんならもったいないなあ、と」
なんだ。
ちょっと期待して損した。
新たにがっかりする
。
「んで、今でもチョコいやなのかよ」
カンクロウが話題を変える。
「ん〜、まあ、そうでもないかな。
自作品はもう結構だけど」
「なら、なんかデザート食えば?
人の作品ならいいんだろ?
俺一人ってのもかっこうわるいしさ」
「そだね、ん〜」
メニューを睨む
。
そして頭の中で、こんな事をしてる場合じゃない、なんとかカンクロウに気持ちを伝えるんじゃなかったのか、と自問自答。
ふいにいいアイデアが浮かぶ。
「ね、カンクロウ?」
「何だよ」
「あたしが選んだげる、カンクロウに、デザート」
「へ?」
「いいじゃん、たまには女の子におごってもらいなよ、あ、ご飯は割り勘ね」
「ふ〜ん、ま、せっかくの申し出だから受けてやるよ、なんちって、いいのか。
歯医者だってけっこうかかっただろ」
痛い所を。
「いいのっ、素直におごられてよ!」
「オッケー、オッケー、怒るなよ、んじゃごちそうになるじゃん」
「じゃ、内緒だからここで待っててよ、向こう行って注文してくるから」
「念入りだな〜、じゃ期待してるじゃん」
あっさりチョコケーキにした。
みえみえ。
でも、少なくとも写真で見る限り、とってもおいしそうで、つやつやしてて、
は本当はこんなのをカンクロウにプレゼントしたかったのだ。
チョコである上にケーキ。
手作り超初心者の
にはハードルが高すぎてシンプルなチョコへ格下げしたのだが、それすらクリアできなかった。
しかし、こうなったらこのチャンスにリベンジ。
それにはこの、ベタベタのチョコケーキしかない!
「‥‥」
運ばれて来たデザートを前にしたカンクロウの反応はこれ。
はじりじり。
さっきまであんだけ、しゃべってたくせに。
「あ〜」
さあ!
「アリガト」
ガクリ。
「もう〜、何、その棒読み〜っ!
ひとがせっかく、失敗したチョコの代わりにと思ったのに〜っ」
ついに勢い余って言ってしまった。
カンクロウがまじまじと
を見る。
こうなったら受けて立つわ、と赤くなりながらもうっかりなにか違う反応をしてしまう
。
「何よ!」
「いや‥‥今のホントにそうなのかな〜っと‥‥」
「嘘言って何の得があるのよ、本当よ、正真正銘の本当でございますっ。
私の虫歯もアンタのせいよ」
いいすぎだ、力み過ぎ。
「ケーキは嬉しいんだけどさ、虫歯まで俺のせいにすんなよ‥‥」
何やら力ないカンクロウ。
やっぱり、チョコはチョコ、ケーキだろうがチョコだけだろうが、手作りだろうが市販品だろうが‥‥
私に取っては思い通りにならない恋の代名詞なんだ。
言わなきゃ良かった。
また口の中に馴染みのしょっぱい味がしてくる。
「おい、おい、
って、何泣いてんだよ、やめてくれよ」
あわてふためくカンクロウ。
「な、泣いてなんかいないわよっ、ふ、振られたぐらい、なんて事ないわよっ」
慌ててハンカチで顔をかくす
。
「‥‥何早合点してんだよ、ありがとうって言ってんじゃん!」
「だって、全然嬉しそうじゃないじゃないのよ〜」
「‥‥詰め物取れた‥‥」
え。
泣きっ面のまま、目をハンカチからのぞかせる
。
「くそっ、こんなの初めてじゃん‥‥今まで取れた事なかったんだけど‥‥」
いたそうに片頬をおさえるカンクロウ。
が、姿勢をただして、咳払い。
「って、そんなことはおいといてだな。
ごほん。
サンキューな、マジ嬉しいじゃん。」
珍しく赤くなっているとこを見ると嘘ではなさそうだ。
「‥‥でも、食えねえ‥‥これじゃ‥‥この穴じゃ‥‥ごめんな。
もらっといて何だけど‥‥お前食えよ。
てっぺんに花のってるじゃん、マジパンの‥‥
これが俺の気持ちってことで‥‥くっせ〜っ」
大照れでカンクロウが言う。
大逆転!
今度は嬉しくて涙が出てく
。
「頼むから〜、こんなとこで泣くな〜、おれが泣かしてると思われるじゃん!!」
「ひっ、だって、っく、そうじゃないのさ」
「ヒトギギ悪いな‥‥ほら、食えよ、涙止まるからさ」
本当かね?
でも、食傷気味のチョコとはいえ、カンクロウから譲ってもらったのだ。
涙を拭いて、
「じゃ‥‥遠慮なくいただきます!」
ぱく。
「え、
お前、普通一番最初に食うかよ、ひとが気持ちを託した花をさ?!」
「いいじゃん、あたしマジパン好きなんだもん」
「残されるよりいいけどな」
笑うカンクロウ。
つられて笑う
。
「ふふ、おいしw」
「ちぇっ、ひとが食えないっていってるのにうまそうにな〜」
「ふ〜んだ、自業自得よ、もうちょっと用心して‥‥」
ガキ。
いやな金属のじゃりじゃりした感触がひろがる。
「‥‥なんだよ、変な顔して」
「‥‥あたしも‥‥とれた‥‥」
「ぎょえ〜っ、お前もかよ?
ぶっ、ついてねえなあ、俺たちって!」
「‥‥まあ、自業自得かもね‥‥
1時間以内に食べちゃったから」
「関係ねえよ、今まで大丈夫だったんだからさ」
「もう、カンクロウったら、全然反省してないなあ〜」
「するかよ。
しかし、早いとこ直してもらわねえと食えねえな。
このままUターンするか」
「ええ〜っ」
「なんだよ、
だって困るだろ」
「そ、そりゃそうだけど‥‥」
「んじゃ、決定、ほら、行くじゃんよ」
カンクロウと
の記念すべき初デートは出戻り歯医者で決定。
そこで二人揃ってこってり絞られたのは言うまでもない。
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蛇足的後書:かわいらしいお話はよそ様におまかせして、うちらしくひねくれたバレンタインものにしちゃいました〜。
カンクロウにチョコは似合うので、たとえギリギリUPでも、スルーはしたくなかったのですよ、この聖なる日を(笑)。
ま、オバ班風味のバレンタインもの、ということでご勘弁を。