GOOD MORNING

吐く息は外気にふれるやいなや盛大に白くなり、足もとから這い上がってくる寒さに知らず知らず両足が足踏みを始める。

早朝にゆっさゆっさ揺すりおこされて、ねぼけまなこで犯人を見たら金髪色男。
「‥‥どしたのデイ‥‥こんな朝早く‥‥」
起きなよ、早朝デートとしゃれこもうぜ、うん!」
言うが早いか、人がぬくぬくとくるまってた布団をひっぺがす。
はっくしょん!

不満ながらも、急かされてぼけぼけのボサボサの頭のまま、コンタクト入れる間もなく、指示通りに厚着してデイのあとをついていったら‥‥水鳥の楽園。
朝もやの煙る湖畔、乳白色に染まった風景。
白鳥、鴨、雁といった渡り鳥、大鷺、小鷺、ゴイ鷺なんかの定住者、おなじみの鳩やスズメ、よく見ればカラスもまじっている。
冬の静寂の中、鳥の鳴き声と羽音、水がはねる音だけが響く。
「‥‥すごいだろ、ここ鳥のコロニーになってるのさ、冬の間中ね」
デイの興奮ぶりが私にも伝染して、黙って頷く。
いつもは鳥が街中のお客さんなのに、ここでの珍客は私たち。
空気を壊さないように息を潜めて彼らを見守る。

ちらっと横をみれば例の風変わりな単眼鏡で嬉しそうに鳥を観察するデイ。
昇ったばかりの朝日が彼にも薄いピンク色の光を投げかける。
その淡い光の中、私にはデイの背中にも輪郭も定かでない翼が見える。

‥‥違う世界からの訪問者、今だけ私の隣にいる旅人。
いつも感じる寂しさ、置いてけぼりの予感。
しょうがない、こんなヘンテコな奴に惚れた私が悪いんだ。

涙をこらえてはなをすする。
すぐに気がついてこっちを見るヤな男。
ニッと笑って私の後ろを指差す。
「そっと後ろ見てごらん、
なに、と振り返れば木立に目白達、薄緑に白い目まわりのわっかがご愛嬌。
黒っぽい枝に小鳥達がぎゅうぎゅうつめあって止まっている様子は、なんともかわいらしくて微笑ましい。
「‥‥目白ってさ、ずっと結婚相手を替えないんだぜ。
ほんの幼鳥の時に相手を選ぶらしいけどね、うん」
じ〜っと私の目を見て話かけるデイ。
「‥‥そうなの‥‥は、はっくしょん!」
しまった、と思ったけど後の祭り。

バサバサバサッ

鳥達は大きな羽音を残し、一斉に飛び立ってしまった。
「あ〜あ‥‥」
「ごめんね‥‥」
「ま、仕方ないさ。
それにすぐ戻ってくるよ、連中は。
でもこれ以上いたら が風邪引いちゃうもんな。
今日はこれぐらいで引き上げよう、うん」
来た時と同じようにさっさときびすを返すデイ。
ちがうのは私の手をすっと握ると自分の手といっしょに上着のポケットに突っ込んだこと。

はすぐいじけるからな〜、まったく手がかかるよ、うん」
「な、なによ〜、ヒトが寝てるとこ叩き起こしといてっ。
ここんとこ残業続きで寝不足なんだから〜っ」
「フン、じゃ、もっと寝不足にしてやろうか」
「えっ‥‥///」
「冗談だよ、すぐ行かなきゃなんないから早朝に寝込みを襲ったんだよ、うん」
「あ、そ‥‥」
ちぇっ。

黙ったまま帰路を急ぐ。
でもポケットの中の握られた手は温かくて、デイの優しさが伝わってくるようで、本当はすごく嬉しかった。
さっきだって私がめげてるのお見通しであんなこと言ったんだ。

室内に入ると気温差のせいで眼鏡が一瞬にして真っ白に曇る。
ここぞとばかりにデイが高笑い。
「はははは、 の眼鏡いいねえ!
ワイパーが必要だな、うん」
「んも〜っ」
「どっちにしろ、今はコレおじゃま」
ひょいっと目の前のフィルターがなくなり、デイのニヤニヤアップが目の前に現れる。
チュッ
「ゴチソウサマ」
「‥‥///」
「さ、朝ご飯つくったげるよ、叩き起こしたおわび、うん」
「えっ、ほんと?!」
「バードウォッチングのあとだから、鳥になった気分でシリアルなんてどうだい、うん」
「え〜っ、それってつくるって言う?」
「あ、やっぱだめか」
「も〜いいよ、デイはお湯わかしてよ、私がパン焼くから」
「あ、それならオイラ、フレンチトーストがいいや」
「ハイハイ、デイってホントに甘いもの好きね〜」
のことも好きだよ、うん」
「////」
「お皿テーブルに出しとくよ〜」
調子いいんだから !

‥‥朝日の差し込むキッチン、からっぽになったコーヒーカップ。
また、どっかへ飛び去ってしまったデイ。
寂しくない訳が無い。
でも、きっと、戻って来てくれる。
よいしょっと立ち上がって、テーブルのお皿を片付けながら窓の外を見る。
どう見ても冬景色、でもふり注ぐ光は春を感じさせる。
見上げれば晴れ渡った空に渡り鳥の群れ。
‥‥太陽の光がまぶしすぎて、その姿がにじんだ。

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