合宿


部活をやっている人にはおなじみの夏の一大イベント。
いつもと違う環境でクラブの仲間と数日間顔を突き合わせ、同じ釜の飯を食い、強化練習に汗を流し、川の字に並べた布団で眠る。
合宿を経た部員の心はたしかに以前より強い絆で結ばれている。

で、普通はちょっと涼しい避暑地へいったりするのだが、 の通っている高校では違った伝統があった。
学校で合宿。
語呂合わせにもなんにもならない、そんなうたい文句のもと、運動部員たちは夏休みの数日間をいつもは勉強する教室で寝起きする。
食事は学食で、お風呂は近所のお風呂屋さんへ、ふとんは昔からつきあいのある業者からレンタルで。
きたないとか、しょぼいとか、いろいろ批判もあるけれど、いつも勉強する校舎で寝泊まりするというのは実際のところなかなか新鮮で面白いことでもあり、 も結構楽しみにしていた。

さて、夏休みが始まってまもない早朝。
セミの大合唱のもと、 とカンクロウは大きなバッグをもった姿で校門ではち合わせした。

「お、今日からだったっけ、ハンド?」
「おはよ〜。そうなの。でも野球部も今日から・・・だっけ?あれ?」
「ノンノン、野球部はもうおとといから始まってるぜ」
「そうだったよねえ、じゃそのバッグは?」
「ああこれか、着替えとりに行ってた」

野球部はとにかくやたら着込まねばならない宿命。
クラブハウスの一角に洗濯機もあるにはあるのだが、合宿が集中するこの時期、彼らだけが機械を占領する訳にはいかない。

「ははは、洗濯間に合わないんだ、マネさんも悲鳴あげてるんじゃないの」
「だっから心やさしいオレは持参してんじゃん」
「でもどうせお家の人が洗うんでしょ」
「ブブーッ、俺が洗うんだよ、ウチはスパルタだからな」
「へえ!見直しちゃった!」
「へへへ、っていうか、野球部の決まりじゃん、自分でユニフォームは洗うべし、ってな」

なんとまあ。
母親に任せっきりの自分がちょっと恥ずかしくなった であった。

先輩!」
背後から後輩達の声がする。

「じゃな、 、頑張れよ」
「あ、カンクロウもね」
「おう」
走り去って行く後ろ姿を見ながら思う。
・・・もうちょっと話していたかったけど。

先輩とカンクロウ先輩ってつきあってるんですか?!」
後輩が遠慮なく探りを入れてくる。
「まあ・・・・ね」
「え〜っ、ショック〜」
あら、カンクロウってそんなにもてるんだ、嬉しいようなそうでもないような、と思いきや。
先輩は私たちのものなのに!」
ガク
「宝塚みたいなこと言ってないで、さ、はやいとこ荷物置いてグラウンド集合だよ!」
「は〜い!」

つきあっている、といえば聞こえはいい。
思いがけずカンクロウから誕生日プレゼントをもらって、それからなんとなく一緒に帰ったりとかするようになって、メールのやり取りをしたりはしている。
でも二人ともクラブ中心の生活だから学校の外で会ったことなんか登下校時以外実はないのだ。
カンクロウの親友の我愛羅クンは、それでも、いつもむすっとしてるわりに、私の顔を見るたび意味深な笑いを浮かべるけど。
はため息ともあきらめともつかない吐息を吐くと部室へと急いだ。

**********

合宿期間中、昼のグラウンドの喧噪は夜は教室へと場所を変える。
普段ならだれもいない校舎の蛍光灯のもと、にぎやかな声が上がっている。
「あっついねえ」
「ホント〜」
「うわ、ここ床めくれてるよ〜」
「そこ、蚊!」
など等、いろいろ言いあいながら、布団をしいて教室をにわか旅館に変える瞬間と言うのはなんとも楽しい。
窓際がいいだの、廊下側がいいだの、ひとしきり大騒ぎになる。

そして陣取りが終わるとハードな練習のあとの夜のお楽しみ、コイバナだ。
「ねえねえ、先輩、夏休みに入って一緒にどっか行ったんですか?」
「え・・・」
くちごもる
「だってつきあってるんでしょ?」
「映画とか〜、プールとか〜」
興味津々の後輩に気後れしながらも正直なところを言う。
「別にどこも行ってないよ」
「ええ〜っ、ホントですか!」
「むこうもこっちもシーズン中はずっと部活だもん、そんな暇ないよ」
「見かけによらず奥手なんだ〜、カンクロウ先輩って〜」
先輩は寂しくないんですか?」
うっ、またしても核心に触れる質問だ。
「え・・・やだ〜、だって毎日顔会わせてるし、学校でさ」
笑いながら答えたものの本当は動揺している。
「ふ〜ん、そんなもんですかねえ」

話はそこで途切れてやがて注目は他の部員に移った。
表面上はそれに参加しながらも心の中は穏やかでない
学校だけ、ってのはやっぱ普通じゃない、の、か。
でも行き帰りで話したりするだけでも楽しいけど・・・けど・・・
正直、物足りない。
学校のことやクラブのことだけじゃなく、もうちょっと突っ込んだ話も本当はしてみたい。
いっしょに映画に行ったり、買い物したり、遊園地なんかも面白そうだな・・・・
でも通学途中や学校じゃなんとなくそういう流れにならない。
・・・ユニフォーム自分で洗ってるなんて初耳だったな。

「そうよね〜、外で会うとさ、なんか違っててドキドキするよね〜」
「そうなんだよね、別に私服着て、いつもなら友達といくとこカレシと行くだけなんだけど、なんかね」

偶然聞こえて来た会話だけど、あまりに の今の願望にどんぴしゃでドキリ。
なんとなくいたたまれなくなる。
と、そんな に同じ学年のメンバーが声をかけて来た。

「ねえねえ、 、ちょっと知ってる?ウチの学校で幽霊みた子いるんだって」
「え”?」
はこの手の話題は『超』がつくほど苦手だ。
しかし夏の合宿のもう一つの花形の話題といえばコレにつきる。
「冗談やめてよ!」
「んふふ、それがさ、霊感の強い子でさあ、教室でも見えるらしいよ」
「・・・・何が」
「ほら、掃除箱のそばとか、トイレとかで、ふわっと白っぽいものが・・・」
「もういいって!これから人がトイレに行こうと言う時にやめてって!」
「ついていってあげようか〜」
「遠慮する、道々語られたらたまんないもん!」
「アハハ、ばれたか、じゃ〜ね〜、お気をつけて」
逃げ出すように教室を抜け出した。

薄暗い、よく言えばエコモードの廊下を急ぐ。
開け放した窓から土のにおいが混じり込んで来てツンと鼻をついた。
コンタクトを外しているので天気がどうなのか、暗い外を見てもいまいちよくわからない。
思う間もなく雨粒がガラスに当たる音がして来た。
薄暗い夜の校舎はどことなく不気味だ。
おまけにこの雨。
騒がしい教室から一歩外へ出てしまうとまんま廃墟のようだ。
いつナニが出てもおかしくない雰囲気満点。
もう変な話するから、と友達をうらめしく思いつつ、おっかなびっくり用を足してトイレを出る。
ふいにすごい雷鳴がとどろいたかと思うと、電気がちかちかっと光ってよわくなり・・・・消えた。

(え〜っ!ありえない!停電?!マジ?どんだけボロなんだ、この校舎?!)

の現在の視力では文字通り一寸先は闇、である。
しかしこんなとこでつったっていてもしょうがない。
遭難救助隊がくるわけもなし、みんなのいる教室の方角は少なくともわかる(はずだ)し、進めば声もしてくるだろう。
決心しておそるおそる手探りで壁をつたって歩き出す。

雨音に混じる足音。
ペタ、パタ、ペタ、パタ、ペタ
・・・自分のものじゃないのが混じってる!
さ〜っと血の気が引く。
さっきの話が急に現実味を帯びて の見えない目の前いっぱいに広がる。
焦って走り出したとたん、どしん、と何かにぶつかった。

「ひっ」

つい悲鳴をあげる。

「痛えなあ、って、誰かと思ったら じゃん」
懐かしい声というのも変だがカンクロウの声だ、ほっとして胸をなで下ろす。
「ごめん、よく見えなくって」
「なんだよ、ああ、コンタクトだっけ?全然見えねえの?」
「明るければ問題ないんだけど、こう暗いとちょっと・・・・」
「しょうがねえな、え〜と、女子ハンはB棟だったっけな?」
「え、送ってくれるの?」
「だって見えてねえんだろ、迷子アナウンス頼む訳にもいかねえじゃん。
今俺たちがいるの全然方向違い、このまま行ったら野球部の教室だぜ」
「うそ・・・」

学校の中を道案内してもらうなんて、と思うがそうも言っていられない。
ほんの数十メートルの廊下なのに真っ暗なせいかすごく長い。
こうなると目の前のぼんやりと見えるだけの彼の背中がずいぶんと頼りがいのあるものに感じられた。

「何焦って走ってたんだよ」
ギク
「え、ええ、ちょっとさ・・・」
「どうせ怖い話でも思い出したんだろ」
「そ、そんなことないわよ」
「ふ〜ん、否定するあたり怪しいじゃん」
見えないながら彼のニヤつく顔が安易に想像できてちょっとしゃくにさわる。
「・・・怪談聞かされたから」
「・・・・・」
声を抑えて笑ってる。
「しょうがないじゃない!
怖いものは怖いんだから!」
どうせまたバカにする声が返って来ると思ったら返事なし。
「カンクロウ?」
あれ?
・・・いない?
ええ〜っ!!
パニクりそうになったところで後ろから声がする。
「わりい、スリッパ脱げた」
「もう!」
「立ち止まるかと思ったらたったか行くんだからなあ。
、ホント全然見えてないな」
「ほっといて・・・いたっ!」
ゴン、と非常用の消火栓に激突。
「何やってんだよ、ほれ、持てよ、あぶなっかしい」
すっと差し出された手をおずおずと握る。
暗いから余計はっきりわかる掌の大きさ。
「・・・アリガト」
照れくさいけど、嬉しい。
「カンクロウは・・・目いいんだ」
「ああ、うちの家族はみんないいんだ」
「うらやまし〜、でもなんかずるくない?
カンクロウってマンガとかゲームとか大好きそうなのにな〜」
「ふっふっふっ、神様ってのは不公平なのよ」
「ちぇっ、あたしのは勉学に励みすぎての結果よ」
「そういや、 が眼鏡かけてんの見たことねえじゃん」
「だって、普段は学校じゃしないもん、部活じゃ危ないからコンタクトだし」
「そうだな、・・・・学校の外で会ってないしな」

話が途切れる。
そう、学校で、がデフォルトな二人。
一日の大半をそこで過ごしているから仕方ないし、別に今までそれでいいと思ってたんだけど。

メールをやり取りするようになって、びっくりした時のことを思い出す。
ほとんど3行メールなみに簡潔な文面。
いわく
「オレは書くの苦手」
そして、次々出る新しい機種なんかまるで気にせずクラッシックな携帯を使い続けてる。
「アナログな方が好み」
だそうで、かなり古くて大きいやつをポケットに入れてる。
「つぶれても修理きかないんじゃないの」
と、からかうと
「自分で直すから」
なんともエンジニア(?)な返事が返って来た。
文はペケだけど写真なんかはまめに送ってくれる。
春にくれた桜の写メは朝日がうまく差し込んでてすごくきれいだったな。
結構、撮るのむずかしい逆光アングルなのに、機械を使いこなすの上手なんだ。

・・・もっと、カンクロウのこと、知りたい。

「ねえ」「あのさ」

ハモった瞬間、電気がついた。
おかげでのどもとまで来ていた言葉がさっとひっこんでしまった。
・・・手も同時に離ればなれ。

「・・・んじゃな」
「あ、ありがと」

カンクロウは何か言いたそうにしてたんだけど、すぐに立ち去ってしまった。

***************

ところで合宿が始まって数日もたつと、行動に余裕が出て来る。
夜の銭湯通いにも慣れて来て、初めは緊張してわけもなくクラブごとにまとまっていたりしたのに、この頃になるともうぐちゃぐちゃである。
今日は はキー練(キーパーのための練習の事)でへばって、食後に部屋でうっかりうたた寝。
銭湯へのスタートが遅れて、みんなにあっさり置いて行かれてしまった。

「んもう、薄情者〜」
ぶつくさ言いながら道を急ぐ。
と、同じように一人でのろのろ歩いている見覚えのある後ろ姿。
「カンクロウ!」
嬉しくなって呼びかける。
「おう、誰かと思ったら か」
言った後しげしげと を見る。
「な、何?」
「眼鏡じゃん」
「へへへ、夜の外は裸眼じゃさすがに危ないもん」
「そんなビンゾコでもないな」
「もう、失礼ね!」
「思ったより似合うな」
「え・・・////そ、そう、サンキュー」
単刀直入なカンクロウの言い方にしどろもどろ。
照れ隠しに話題を変える。
「なんで一人で歩いてんの?カンクロウも寝過ごし組?」
しかしカンクロウそれには答えずに
「今日は大分しごかれてたな」
「え?キー練見てたの?やだ〜」
「まあキーパーは最後の砦だからな、しょうがないけどさ」
「ははは、おかげですごい痣だらけだよ」
言いながら足を指差してみせる。
「うへ、なんか色とりどりの痣が花盛り、って感じじゃん」
「そう、最初は紫なのがさ〜、だんだん黒っぽくなって、最後は黄色になって消えるの。
もうぶつかってもあまり痛いとかいう感覚なくなってきちゃって」
「こないだ消火栓にぶつかってたのもそのせいかよ」
「まさか〜!」
「しかし顔とか腕とかは焼けてんのに足は全然だな」
「しょうがないじゃない、キーパーは短パンじゃあぶないもん。
そういうカンクロウだってあんまし焼けてないね、顔もそんなに焼けてないじゃない?」
「ポジションが悪いな、キャッチャーっつうのがさ」
「ああ、マスクしてるしね〜」
「そうそう、完全武装でもうほとんど着ぐるみサウナ状態」
「の、割にはべつに夏やせとかもしてなさげね」
「ほっとけよ、ひょろひょろのキャッチャーなんて頼りねえだろ!
バッテリーでもピッチャーは細身でキャッチャーはがっちり、って相場が決まってるもんじゃん」
「自分で言ってる〜」
けたけた笑っているうちに銭湯に到着。
「じゃな」
「じゃね〜」

女湯ののれんをくぐると丁度野球部のマネージャーと目が合った。
「「こんばんは〜」」
にこっと挨拶し合う。
学年は違うものの、合宿の最中何度も顔を合わせるので知らず知らず距離が縮まるのだ。
「カンクロウ先輩と会えました?」
え?なんで知ってるの?
クスクス笑いながら言われる。
「だってね、さっき さんが女ハンのメンバーの中にいないの見たら、急に『石けん忘れた』とかなんとか言って戻っちゃったんですよ。
きっと心配で待ち伏せしてたんじゃないかな、って」
ええ、そうなの?
だからさっき、なんで一人なのか聞いても返事かわされたんだ。
「じゃあお先に〜」
「あ、はい」
なんかちょっと、嬉しい。
ぼ〜っと服を脱いでいたら置いてけぼりを食わしたメンバーがドヤドヤと風呂から出て来た。
「あ、 〜」
「あ、じゃないわよ、この薄情者!」
「んふふふ、何言ってんの、せっかく二人きりにしてあげたのにぃ」
「そうそう、帰りも頑張ってね、邪魔者は消えるわ!」
「え、何言ってるのよ」
「ばいば〜い!ほれ、後輩達、邪魔しないの!急ぐ!」
「は〜い」
「せんぱ〜い、頑張って下さいね〜」
「ごちそうさまでした〜」
「・・・・?」

またしても置いてけぼりである。
しかし、何なのよ、この組織ぐるみっぽい犯罪臭は?
合点がいかないまま、急いで風呂をすませる。
なんせ時間が制限されていて、実際のところあまり余裕はないのだ。

脱衣所を出ると、休憩所で我愛羅とカンクロウが何やらもめている。
「なんで俺がおごるんだよ、俺のいない間の話だろ」
「いてもいなくてもお前が原因でこうなったんだ」
「なんで俺のせいなんだよ!」
「この借りはちゃんと返してやる、だいたい今日は俺は財布を忘れたしな、払いたくても払えん」
「なんだよそれ〜!」
「それはそうとサイン出してやるから、指示通りやれよ」
「何言ってんだよ」
「さすがの俺でもじれったくてかなわん」
「人ごとだと思ってよけいなおせっかいじゃん!」

この二人が口喧嘩をしてると、傍からはじゃれてるみたいにしか見えなくておかしい。
が、このままぼけっと見ていては門限に遅れる。
「どうしたの」
「ああ、 『さん』、ちょうどいい。バッターが来たぞ、カンクロウ」
「やめろ、我愛羅!もういい!」
フフン、と我愛羅が『俺の勝ち』的な顔をする。
そして話をさっと切り替えた。
「合宿明けの日曜は久々のオフだなあ、カンクロウくんよ」
の方をちらちら伺いながらの発言だ。
「・・・知ってるって」
心なしかイライラしているカンクロウ。
「ついでに言うと花火大会があるな」
「俺だってジモティだからそれぐらいわかってんじゃん!」
「・・・・そんなら敬遠ばっかしてないでお前もストレート投げてみせろ」
我愛羅は、またしても意味ありげに の方をちらっと見て
「じゃましたな」
さっさと出口から姿を消してしまった。

取り残された は何の事かさっぱり訳がわからないまま。
「ねえ・・・」
カンクロウは憮然としたまま、休憩室のおばあちゃんにジュースの支払いらしきものを済ませて の方を振り返る。
「帰ろうぜ」
「う、うん」
言葉が途切れたまま、学校へ戻る道を歩きだす。
さっきの楽しい雰囲気はどこへやら、ツンツンケンケン、とりつくしまもない。
しょうがないので、我愛羅の言葉の意味を反芻する
(ストレート投げろって何の事だろ?だいたいあたしがバッター??)
と、カンクロウがいきなり立ち止まった。
大きく息を吸ってから を見据えて口を開く。
「あのさ、花火・・・見に行こうぜ」
「え?」
「だっからさ、今度の日曜にな、花火見に行こう!デート!!」
予想外の直球なお誘いにしげしげとカンクロウを見てしまう。
ぎゃ〜っ、マジですか!
「・・・・う、うん!」
緊張のあまり のことを睨んでいたらしい目がふっと柔らかくなった。
「は〜っ、参ったな。
・・・・延長戦よりキツいぜ、こういうのって。
何がストレートだ、俺はキャッチャーだから関係ねーじゃんよ」
口を歪めて思い切りぶーたれるカンクロウ。
嬉しいながらも、なんだかさっきからの我愛羅とカンクロウのやり取りが気になる
「ねえ、何もめてたの?」
「・・・俺たちの事でハンドの後輩と野球部の後輩が賭けやがったんだよ」
「何を?」
「俺たちがつきあってるかどうか」
「・・・・・で?」
「ハンドが勝って、ジュースおごれってことになったんだとよ」
だからみんなの、あの意味ありげな笑いだったんだ。
「我愛羅は知ってたのに野球部のみんなに黙ってたってことで、あいつのおごりになったらしい」
「え?じゃあ我愛羅君が払うんでしょ」
「・・・・のはずだけどな、肩代わり」
「なんで〜」
「・・・借りができた」
「は?」
「だから、攻守交代なんだよ!」
「え?それってバッテリーが交代するってこと?」
「まあ実戦じゃないけどな。
でも情けないからあんまり深くつっこまないでくれ!
さ、門限に遅れるぜ、急ごう!」
「ちょ、待ってよ〜」

並んで学校までマラソン。
せっかくお風呂にはいったのにな。
「ほら、もうすぐ校門じゃん」
「はあ、はあ、そうね」
強化練習『夜の部』ね、などと疲労した頭で考えてるとぐいっと手を引っ張られる。
「頑張れよ!」
掌からパワーが伝わって来たみたいで、 は元気が出て来た。
「は〜い!」
最後のダッシュ、目に入って来たのはハンドと野球部のみんな。
「あと30秒ですよ! 先輩!」
「わかってるって!」
「なんだ、全然ラブラブじゃないっすか、カンクロウ先輩〜」
「しっかり隠しちゃって憎い憎い」
「お前ら明日覚えてろよ、殺人ノックじゃん!」
「ひえ〜」

ギリギリセーフでゴール。
門を閉めた我愛羅がにやにや。
「バッター は無事生還したらしいな」
「はあ、はあ、我愛羅君はなかなかの策略家ね!」
じろっと睨んでも知らん顔。
「打ちやすいストレートだったろ?カンクロウは場外ではヘタレピッチャーだからな」
「て・め・え!!このエセ捕手め!!金返せ!」
カンクロウが我愛羅を追っかける。

真夏の夜の校庭はまだまだにぎやかだ。

目次へ戻る

蛇足的後書き:弊サイト8万nearヒットキリリクでございました。
『砂兄弟がバッテリー、ヒロインがハンド部のキーパー』という設定だけは押さえましたが、ヒロインのピンチを救うなんていう萠はいずこへ(汗)・・・
しかも5月頭にリク頂いていたのに今頃できたと言う(滝汗)。
お待たせしまくってこのザマ、akiko さん、へたれた作者によるへたれたカンクロウ君夢、よろしければご笑納下さい!
そしていつも構って下さってありがとうございます!これからもこんな管理人をどうかヨロシクです<(_ _)>