風来坊

ベチャ‥‥
足の裏に柔らかい、なんともいえない感触。
また、アイツね!

「デイ〜ッ!」
玄関に入るなり、つい大声で怒鳴る。
「うん??おかえり〜」
ねぼけたような、すっとぼけたような声が居間から聞こえてくる。
「もう、また粘土落っこちてるよ、デイが来る度に家中ねちゃねちゃになっちゃうんだから、勘弁してよ〜っ」
「久しぶりに来たのには冷たいんだなあ〜。
『おかえりなさい、ダーリンvv』とか、『寂しかったわ、デイvv』とか、もうちょっと甘い言葉を期待してたんだけどね、うん」
こ、こいつ、私がそういう類いの言葉を口が裂けても言えないタチなのを承知で、平気で無理難題ふっかけてくるんだから!
‥‥‥寂しかったに決まってるじゃない!
いっつも何の前触れもなくいなくなっちゃって、音信不通、向かう先もわからない、いつ帰ってくるかもさっぱり、仕事はいつだって超危険‥‥‥生きて戻ってくるのかだって‥‥
不覚にも涙が溢れ出た。

いつまでたっても私が居間に入ってこないもんだから、デイがひょいっと顔を覗かせる。
「どうしたんだい、のうちだろ、遠慮しないであがってくりゃいいのにさ、うん」
バ、バカモノ!
デイが、あれ、という顔で私を見る。
やばっ、涙見られた!
「ありゃりゃ、誰に泣かされたんだ?
オイラがしばいてやるよ、教えなよ、うん」
とろけそうにやさしい笑顔で私の瞳を覗き込む。

分ってるくせに!
デイダラは誰もが呆れるほど勝手で、天然で、ジコチューで、散らかし魔で、口ばっかりで‥‥‥魅力的だ。
わけわかんない粘土をしょっちゅういじくって(おかげでデイが来た時はすぐわかる)、鳥が大好きで、きれいなものに目がなくって、甘いものが同じくらい大好きで、とてつもなく口が悪くって、甘えん坊で、男のくせに女の子みたいにきれいで、ナルシストで‥‥‥残酷。
今だって、自分のせいで私が泣いてるのわかってるくせに、こんなふうに優しく抱き締める。

「ハイ、ハイ、泣かないの、
俺のせいなんだろ、わかってるよ。
こんな可愛い子泣かせて俺もワルだねえ、うん」
よくもまあ、ヌケヌケと‥‥‥!!
悔しくて腕をほどいて抜け出そうとするけど、く、こんな女みたいな顔してるくせに、なんて力‥‥!
「ふふん、芸術家が非力だなんてとんでもないデマだぜ、バワーのない野郎に感動は生み出せないからな。
だいたい、はオイラのことが好きなくせに素直じゃなさ過ぎなんだよ、うん!」
コノヤロ〜ッ!!
図星なだけに、もう、めちゃくちゃ悔しいっ!
「もうっ、デイなんか、大ッ嫌いっ!」
「嫌い嫌いも好きのうち、っていうもんな〜、うん。
は俺にぞっこんなんだよね〜、わかってるよ、その素直じゃないとこも可愛いんだよ、うん。
オイラものこと、愛しちゃってるよ〜」

この自信はどこから湧いてくるのか、全くもって不思議としか言いようがない。
‥‥‥そうよ、バレバレよ、デイは人の心を読む名人でもあるんだから。
他人を怒らせるのも、おだて上げるのも自由自在、自分の都合のいいように操ってしまう。
‥‥‥私の事、愛してるなんてよくもぬけぬけと言ってくれるわ。
そりゃね、浮気してますなんて噂は聞いた事ないけど、本当に好きな人をここまで放りっぱなしにしていいの?
心配じゃないの?
アンタがいったん姿をくらませたら、へたしたら何ヶ月もひとりぼっちにされてるのに。

「知らなかった?オイラ、分身をおいていってるんだよ、を監視するためにさ」
えええっ、うそっ、冗談でしょ?
「ほら、いつもオイラが来ると粘土があちこちに散乱してるだろ?
何のためだと思ってんだい、え?」
さ、さあ、単にデイが散らかし魔だからなんじゃないの?
「大外れ、あれは起爆粘土っつ〜コワ〜イ粘土なんだよ、うん。
が踏んづけたってなにもないけど、に手を出そうとする男が踏んづけたら最後、芸術的に木っ端みじん、って寸法さ」
‥‥‥マジ?
「さあね、嘘だと思うなら、だれか男連れ込んでみなよ、うん」
そんなこわいことできますかっての!?

「だいたい、オイラはきれい好きなんだから、散らかし魔なんて心外もいいとこ。
このさらさらキューティクルの髪の毛をみなよ、お手入れ万全だろ?」
そりゃ、自分のことにはね、必要以上に気を使ってるの十分知ってるけど、問題は自分に関係ないとこよ?!
「え、自分に関係なけりゃどうでもいいじゃない、うん」
そこ、それよ、もう!
のことは大いに関心あるから心配しなくていいよ、うん。
本当はさ、今だって早く集会に行かなきゃならないんだけど、の方がおいらには重大だからあっちには分身送っといたよ、うん。」
そ、そんなおっかないしていいの?
よく知らないけど、デイのボスって、すんごく怖い人じゃないの‥‥?
「ああ、怖いけどいいんだよ、の方が大事だから。
こっちの用件は代理にまかす訳に行かないもんな、うん」
こっの用件って‥‥‥///////////
「オイラがをも〜っと魅力的にしてやるよ、ま、そんなことしなくてもオイラはに惚れてるけどさ、うん」

うそなんだか、本当なんだか。
デイはいつもこの調子。
私ははぐらかされて、ごまかされて、いいようにあしらわれて、そのたんびにカッカしちゃうけど、結局は彼の思うつぼ。
悔しいけれど、こんなデイが好き。
性悪男、と思うけど、どうしようもない。
デイもそこんとこ、十分わかってるもんだから余裕しゃくしゃく、憎たらしいったら!

「ふふん、どうせ、オイラが性格悪いとか思ってんだろ、ん?
前なんか、糸の切れた凧みたいに気まぐれ、なんて言われたもんな。
‥‥は、その切れた糸を何回でもつないじゃう不思議な女なんだよ、うん。
でなきゃ、戻ってくるもんか、この俺がさ」

夢だったのか、本当だったのか。
そんな彼のつぶやきを聞いたような気がして目を開けたら、またひとりぼっち。
ふとんから抜け出す気もしなくて、憂鬱なままごろごろ。
ふっと枕元をみたら、ありゃ、今度は粘土で作った小鳥が置いてあった。
‥‥これも例のキバクナントカ、なのかしら?
ぷっ、芸術ねえ、なんか埴輪みたいよ?はっきり言って、超ブサイク。
ま、ぽたぽた固まりでおっこちてるよかいいわよね。
‥‥‥あれで、気を使ってくれてるのかな、一応?
無表情な、その粘土細工の鳥を突っついたら、なんか、にっと笑ったような気がした。
ちゃあんと戻ってくるよ、ってね。


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蛇足的後書:いや、別に私は暁に寝返った訳じゃございません、我愛羅をけちょんけちょんにやりやがった憎たらしい野郎ですし、弊サイトは砂第一ですから。
でも、こういうキャラも書く上では面白いと言えば面白いなあ〜、と(汗)。
いつもお世話になっておりますリキマルさんに差し上げたいと思います。
ニセモノでごめんなさいね。