風船

するっ

あっと思った時にはもう手遅れ。
夜店であれほど欲しくって、ねだってねだって、やっと買ってもらった風船なのに。

フワリ フワリ

星のまたたく夜空に吸い込まれるように、見る間に手の届かない所へ行ってしまう。
どんどん遠ざかっていく姿を見ているしかない。
地上に残された泣きべそ顔を、飛んで行ってしまった風船は知っているのかしら。

「何見てるのさ、?ん?」
「‥‥風船」
「へ?風船が欲しいの?マジで?
ってば一体何歳‥‥いてててっ」
「違うわよっ、ほら、あれ!」

もうほとんど見えないくらい小さな点になってしまっている風船を指差す。
黙って空を見上げる私とデイ。

「あの風船がどうかしたのかい、うん?」
「‥‥どうもしない。
ただ、小さい頃思い出しちゃって‥‥」
「ハハ〜ン、ちゃんと言いつけ通り指とか手首に紐をくくりつけとかなかったクチなんだな、は」
「そんな言い方しなくってもいいでしょ〜っ。
風船買ってもらえたのがうれしくて、そんなこと気もつかなかっただけよ!」
「フフン、怒らなくてもいいだろ。
で、何?その時のこと思い出して悲しくなっちゃったんだろ、うん」
「うん‥‥だって、あれって切ないよ〜」

言わなかったけど‥‥なんだか、泣きべそかいてた女の子がデイに取り残されてばかりの自分に重なった。
デイは、とりあえず今の所はもどってきてくれてるけど、急に音信不通になっちゃうなんてザラだもの。
今日だって、約束を信じないわけじゃないけど、実際に浴衣姿のデイを待ち合わせ場所で見つけるまで気が気じゃなかった。
‥‥ためらう事なく、ぐんぐんと暗い空へ昇って行く風船の姿がまさに彼のようで。
任務が危険であればあるほど、余計に目を輝かせて自分の力を試すために飛び出して行くデイ。
目に見えない黒い翼をはばたかせて。
‥‥そして私はぽつんと取り残される、真っ暗な空を見上げたまま。

「ねえ、
黙りこくった私の肩を抱いてデイが夜空を見上げたまま言う。
「あの風船はさ、1日しか飛べないって知ってるだろ?
明日には地面に落っこちちゃって、二度と自力では飛べなくなるのさ。
だから、飛んで行ってしまった事を悲しまないで、むしろ自由にしてやったんだと思ってやれよ。
ほら、うれしそうだろ、うん?」

また誰かが飛ばしてしまった風船を目で追いながらデイが言う。
嬉しそう‥‥そういわれればそんな風にも見えなくもない。
‥‥取り残された悲しさばかりが先行して、そんな風に考えた事なかったけど。
風に流されながらも天空目指して舞い上がって行く風船。
自由になった風船を祝福するかのようにきらめく星達。

「‥‥わかんな〜い」
素直に認めるのもしゃくだからフンっとそっぽを向く。
そんなこっちの心なんかお見通し、ってな自信満々なニヤニヤ顔のデイ、憎ったらしい!!
「さ、飛んでった風船野郎なんか忘れてさ、今日は地上に舞い降りた天使と遊ぼうぜ、
「だ、だれが天使よ〜っ」
「オイラに決まってるじゃないか、うん」
「あつかまし〜っ」
「でも、そこがいいんだろ、は」
「///////」
「ほら、金魚すくいしよう、競争だぜ、負けたらバツゲーム」
「ええっ、じゃあ、じゃあさ、忍術なんか使いっこなしよ!!」
「わかってるって」
「あれ、金魚すくいのとこのテキ屋さん、こないだデイの言ってた人と何か似てない?
オールバックで柄悪そう」
「ええっ?マジかよ、んじゃ金魚すくいはやめ、ヨーヨーに変更ね」
「ええ〜っ、金魚欲しかったのに、いいじゃない、ちょっとかっこいいお兄さんだし」
「だからだめなんだよ、うん」
「おバカ〜」

‥‥もう星と区別できなくなった風船達を見上げてそっと心の中で思う。
どうか、あなた達を解き放ってくれた人の事を忘れないで。

「オイラは帰ってくるから、
耳元でデイの優しい声が聞こえた気がして、すっと星がひとつ流れた。



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蛇足的後書:お祭りものを書きたくて、なぜかデイダラに白羽の矢が(笑)。
風船を飛ばした経験、皆様はお持ちでしょうか。
私は当然あります、姉にさんざんバカにされて非常に悔しかったです。
ついこないだ子供が同じように飛ばしまして、本人が悲しんでるのがわかるだけにどうなぐさめようかと。
そんな経緯でできたSSです。