ダウンジャケット
「せっかくの休みだってのに、なんでこんな人ごみの中にこなきゃならなえんだよ」
愚痴るカンクロウ。
「仕方ないじゃない、アンタの休みが今日だから悪いのよ」
言い返す
。
ヒイラギの緑とポインセチアの赤、うるさいほどのジングルベルにチカチカ光るイルミネーション、街角でティッシュを配るサンタクロース。
夕暮れ近づくショッピングモールはクリスマスセールで大にぎわいである。
「インフルエンザになったらどうすんだよ。
任務、休むわけにいかねえじゃん」
サンタからティッシュを受け取りながら、去年は確かこのバイトをやったな、と回想するカンクロウ。
「弱ってる人とか抵抗力ない人がかかりやすいんでしょ?
なら、カンクロウがかかるわけないじゃない」
‥‥‥ほめられてはいない。
クリスマス当日は会えない、ということで少しご機嫌斜めらしい。
は好みの服があると見るや、すたすた店内に入って行く。
「そんなに服ばっか見てどうすんだよ、多重影分身してみんなに違う服きせるのか?」
傀儡ならぬカバン(ショッピングバッグ)持ち担当になったカンクロウが、またかよ、といった調子で文句を言う。
「ブー、意地悪!
あたしは忍者じゃないんだからそんな器用な事できないわよっ。
できないから、服を多重影分身させるの!」
さすが忍者の彼女だけあってへりくつで忍術に対抗するらしい。
お互いにちょっとむっとしながら、背中合わせで店内にディスプレーしてある服を見る2人。
これだけいろいろ服があるのに、俺の忍び装束って進歩ねえな、とぶつぶつ考えていると、
が肩をチョンチョンとつつく。
「なんだよ」
と振り返ると、
「ほら〜、カラスみたいでしょ!?」
ぬっと目の前に突き出されたのは‥‥真っ黒なフェイクファーの襟巻き。
‥‥確かに、この毛羽立ちは例の傀儡の頭に見えなくもない。
「‥‥まあ、な」
「なによ〜、もっとウケるかと思ったのに、ちぇっ」
がっかりしてファーを陳列棚に戻す
。
のんきなもんだぜ、傀儡がこんなにかわいいかよ、と思いつつ、さっきの気まずさを彼女なりにフォローしていることを感じて突っ込みは控えるカンクロウ。
同時に思い出し笑い。
は忍びではないのでカンクロウが傀儡使いといってもたいしてわかっていない。
けれどあまりにねだるので一度だけ、自分の傀儡をみせてやったのだ。
「うわあ、なにコレ!
ずいぶんグロくて大きな操り人形ねえ。
いっつもこんなデカいもの背負ってるの?
カンクロウって力持ちなんだ、今度から荷物はお願いね!」
なんだ、今の状況どおりじゃん、と。
お次は百均ショップ。
「こんなとこで何探すんだよ、
またゴミ増やすのか」
もういい加減、荷物をふやすのは勘弁してほしいカンクロウ。
「んもう、今度クリスマス会するのにいろいろ小道具がいるのよ〜。
ここなら安いもん」
安物買いのナントカ、とぶつぶつ言うが早いか耳を引っ張られる。
「いててててっ、何も言ってねえじゃんよ」
「フ〜ンだ、聞こえたよ!!
いいじゃん、ここなら多少無駄遣いしたって100円なんだからさ!」
サンタの衣装やら、赤いエプロンやら。
が選んだのはトナカイの角のついたカチューシャ。
「可愛いでしょ〜vvv」
「ああ、すんげえ激カワ」
ぼすっ、とお腹にパンチ。
大して威力はないものの油断していたので思わず咳き込むカンクロウ。
「げほっ、てめえ、俺の手が塞がってるの計算済みだな!」
「へへへ、チャンスはいかさなきゃね〜。
んじゃ、もう一丁!」
「おまっ、何すんだよっ」
「かわいい〜、ダウン着てるカンクロウがこの角つけたらさ、な〜んかクロアリみたいよvvv」
手が出せないカンクロウにカチューシャを装着してニコニコしている
。
こいつに傀儡なんか見せるんじゃなかった、と後悔しても後の祭り。
「なら
、お前はコレな」
あきらめ顔で、
の頭にぼそっと赤い帽子をかぶせるカンクロウ。
赤いサンタ帽子とトナカイカチューシャの2人を通りすがりの人達が見てクスクス笑って行く。
歩き回って疲れたしちょっと休憩、と思ったが、あいにく時間が悪くてどこの店も人でいっぱいだ。
待つのがきらいなカンクロウは並びたくない。
「なんか缶コーヒーかジュースでも買ってくるじゃん。
は何がいい?」
「ん〜、ココア!」
「ガキだな〜、お前は」
「何よ〜」
ベンチで荷物番をしていた
のところにカンクロウが戻ってきた。
少し膨らんだダウンのポケットを指差し聞く。
「クイズ。ど〜っちだ?」
「え‥‥んっと、右!」
「ほい」
取り出されたのは見事ココアの缶。
「やった〜、私って勘がいいのよね〜」
「全くその通りだな」
ニヤニヤ笑いながらカンクロウが反対のポケットからもココアの缶を取り出す。
「何よ〜っ、アンタだってお子様じゃない!」
サンタの
に背中を叩かれながら、にやけてココアを飲むトナカイカンクロウ。
テナントビルから外へ出ると、ビルの谷間は猛烈な風。
「寒い〜っ」
が寒さに思わず声をあげたとたん、カンクロウの口がニンマリ歪んだ。
「黒秘技危機いっぱ〜つ!」
ガバッとジャケットの前を開いて
をすっぽり抱きかかえる。
「チャンスはいかさなきゃ、なんだろ?
これなら寒くねえし」
「/////」
「
はボリュームがないからカラスには適役じゃん、ヘアスタイルが違うけどな。
ま、クリスマスバージョンカラスってことで」
「(怒)」
「クロアリは捕獲用の傀儡なんだよ、怒ってじたばたしたって逃げられねえじゃんよ。
このまま我慢するしかねえな」
「んもう〜っ!」
「あんまりうるさいと、おもちかえりしちまうぜ」
「/////」
「それとも、もっといいとこ行こうかな、ラとホがつくとこなんかいいじゃん」
「ちょ、ちょっと、なによ、それっ」
「あれ〜、なに赤くなってんだよ。
ホビーランド、おもちゃ屋じゃんか。
あ、別にの考えた方でもいいぜ」
「カンクロ〜ッ!!」
「さ、今度は俺の買い物につきあうじゃん」
カンクロウの言うところの「カラクリ研究」のために、なぜかおもちゃ売り場へ引きずって行かれる
であった。
蛇足的後書:弊サイト18,000 near HITリク作品でございました〜。
お題は『クリスマス』ということでヨーコさんからいただきました。
シカスキーさんなのでテマシカ、とか思ったりしましたが、やはり私には彼の渋さをだすのはまだまだ無理でございます、ということで(^^;)
このような『クリスマス』といえるのか微妙な作品ですが、よろしければヨーコさん、お持ち帰り下さいませ〜。