必殺妄想お食事デートバトン

■このデートに誘ったのはどちら?
■そのときの誘い文句は?
■その誘いを持ちかけられたカンクロウは?
■デートプランは相手にお任せv何て言ってた?
■待ち合わせは何時に何処ですか?
■二人の服装はどんな?
■会った時、最初にかわす言葉は?
■今日は何処で何を食べますか?
■お飲物は?
■食後のデザートは?


暑い。
夏だから当然なのだが、この暑さは異常である。
砂隠れも暑いが湿気というものにはほぼ無縁な世界。
ところがどうだ、ここは町中のくせに熱帯雨林なのかというほどのジケジケのムシムシのカンカン。
コンクリートジャングルに蜃気楼が立ち上りそうだ。
「まったく、さっさと仕事おわってくれよ、身がもたねえじゃん」
街路樹のほんのわずかの日陰に、大柄な体を縮こまらせてなんとか太陽光線から身を守るカンクロウ。
仕事を終わらせるのは彼ではなく、本日のデートの相手、である。
「残業なんかないから、とか言っといて、もう終業時間じゃん。
このままじゃ焦げちまうか、干涸びるかのどっちかだな」
太陽は日中よりはその勢力を弱めたとは言うものの、まだまだ元気はつらつ、このままではこちらのエネルギーがどんどん吸い取られてしまいそうだ。
と、会社のドアが開いて、ぱらぱらと家路、もしくはアフターファイブに向かうらしき人の姿が現れ出す。
「可愛い女の子でもいりゃ、元気出るんだけどな‥‥」
これから一応デートというのに不謹慎なセリフを吐く男一匹。
そう言いながらも目は見慣れたラフなジーパン姿のを探す。

は、カンクロウより一回り(?)年上の子持ち女性である。
砂版東京タワー現象かというとそうではなく、以前彼女の息子どもの子守りの任務を仰せつかった縁で,本日のデートの運びとなった。
デートといっても、もちろん真剣なものではなく、に言わせれば
「会社の人間は立場上飲みに誘いにくい」から、ということでなぜかカンクロウが誘われたのだった。
「俺はそんなに誘いやすいのかね」
嬉しいような、でももっと若い女の子からならなおいいのに、でもは若く見えるし結構きれいだしな、でもかわいくねえんだよな、と「でもでも」連発で正直複雑なカンクロウ。
「でも」おごったげるから、の一言でほいほい出て来てしまったのは金銭的な理由だけではないのは確かだ。

まだの姿がない。
自分から誘っといてそりゃないだろ、とややご立腹の彼の目に、会社の入り口でハンカチをかざして無駄に日光をさえぎろうとしている女性の姿が目に止まった。
そういえば、この人物、さっきからずっとそこにいる。
白いブラウスにタイトスカート、サンダルと定番のオフィスレディスタイル。
‥‥「まさか」
つぶやいた途端、件の女性と道を挟んで目が合う。
間違いない、だ。

あせって道を渡ろうとすると手で制止される。
きょときょとと辺りを伺うと、の方がカンクロウの方へ渡って来て、しっと指を口に当てると、黙ってあるけとのブロックサイン。
なんなんだよ、と思いつつ、角をまがるところまでのうしろからついていく。
新発売中の植物油脂配合シャンプーのコマーシャルとまではいかないまでも、タイトスカートの女性のうしろ姿というのには男はもれなく弱い。
当然会社仕様の化粧もしているわけで、
「女は化ける」を実感したカンクロウだった。

と、角を曲がった途端
「ちょっと!おそいじゃない、溶けるかと思ったわよ!」
いきなり言葉のボディブローをかます
違う意味でも女は化ける。
「遅いのはあんただろ、俺は終業時間きっちりにきてたぜ」
「私もその時間からあそこで立ってたわよ」
カンクロウはのジーパン姿以外は見た事がなかったので、わからなかったのだ。
「わりい、あんたのそんな正式なオフィスルックみたの初めてだったから。
いつもジーパンだったじゃないかよ」
「今日はお客が来たからさ」
「フン、でもさ、わからなかったのはお互い様だろ」
「‥‥まあね、まさか例の黒装束では来ないとは思ってたけど」
当たり前である、あの衣装ではこのアスファルトの上で焦げ付く事請け合い。
(うまくいったら交通安全マークだけグラデーションで焼けるかもしれない)
本日のカンクロウ氏の衣装はチノの半端丈パンツにランニングに羽織シャツ。
どこにでもごろごろしているという意味では2人ともいい勝負だ。
「ま、いいわ、こんなとこで立ち話もなんだから、ちょっと寄り道しよ」
やった、喫茶店で涼める!
‥‥と思ったのだが。

がカンクロウをつれて入ったのはうどん屋。
「なんでうどんなんだよ、普通サテンとか行くもんじゃないのかよ」
「だって、お昼食べてないんだもん、あんたもどうせお腹空いてるでしょ、自称成長期クン」
まあ、いつだって減ってると言えば減っているが。
しかし、このムードのなさはなんなんだ。
しかもこのうどん屋、冷房なしの開けっ放し。
小さな店内は4、5人がカウンターに腰掛けたらもう一杯程度のサイズしかない。
「らっしゃい!お、ちゃん、今日はツバメつきかい、隅に置けないねえ〜」
ブッ、出された水を吐き出しそうになるカンクロウ。
「だ、誰がツバメだってえ」
「ばかね、冗談に決まってんじゃない、いやねえ、おやじさん、子守りしてくれたお兄さんよ。
シャイ‥‥じゃないけど、からかっちゃかわいそうよ」
お兄さんという響きも実はひっかかる(「シャイじゃない」というのも同様)が、じゃあどう呼ばれればいいのかは自分でもよく分らないカンクロウ。
「ハハハ、わかったよ。
んで、ご注文は?」
「ん〜、ざるそば」
「待てよ、、なんでうどん屋でザルソバなんだよ、うどん食えよ」
これは店主じゃなくて、カンクロウだ。
「だって、好きなんだもん」
「ほ〜、兄ちゃんいいこと言うねえ、そうなんだよ、このちゃんはさあ、夏になるとそればっかで、
たまには冷やしうどん食いな、ってすすめても頑として食わねえんだからねえ」
「そうだよな、うどん出してる店ならうどんの方がうまいに決まってるだろ、出前ピザでサイドメニューだけ頼むみてえなノリじゃんか。
だめだめ、おっちゃん、冷やしうどん2つ」
「もう、あたしが連れて来たのに、なんでカンクロウが‥‥」
「いいの、俺がおごるから黙って食えよ」
食べ物のことになると引かないカンクロウ。
もう、といいながら戦う気力はないようで、はじゃあそれで、とおやじさんに合図する。

意外にも風が吹き込んで涼しい。
「ふ〜ん、天然クーラーだな、おやじさん」
「そうなんだよ、ここは川沿いだから太陽さえ遮ったら結構いい風が通るんだよ。
クーラーばっかじゃ体壊すからねえ」
「そうそう、本当に会社はクーラー地獄だもん」
同意する
ああ、それではこの店が気に入ってるのか、と納得するカンクロウ。

ちりんちりん

どこかから風鈴の音が聞こえてくる。
夕方の下町の喧噪がなんとなく郷愁をかき立てる。

「はい、お待ちぃ」
「あれ、俺おにぎりなんて頼んでないぜ」
「いいって、おまけだよ、食ってくれや兄ちゃん。
あんたのお陰でちゃんにやっとうちの冷やしうどん食わせられるよ」
ふん、とちょとすねた顔のだが、うどんを口にすると、あら、という顔になる。
カンクロウもうどんを一口すするとこれがうまい。
「うまいなあ、こいついけるじゃん!」
「‥‥ホント。食わず嫌いだったかも‥‥」
そうだろ、そうだろ、とうれしそうに頷くおやじさん。
「なんでもっとでかい店ださないんだよ、この腕なら充分お客とれるだろうにさ」
「わしはこの店で充分なんだよ、でかくすると人に手伝ってもらわなきゃならないからなあ。
そうすると味が落ちる。
それだけは許せないからな」
ひなびた店の片隅にかかる賞状の数々は、きっとこのおやじさんのコレクションに違いない。

「また来いよな〜」
おやじさんの声に送られて店を後にするとカンクロウ。
「‥‥カンクロウってなれなれしいわねえ、もう友達になっちゃったじゃない」
「フレンドリーと言ってくれよ」
「ものはいいようね」
くすくす笑いながら暮れて来た街を歩き出す2人。
「今日はガキはいいのかよ、家にいるんだろ」
「いいの‥‥だんなの順番だから」
の配偶者は別居中だ。
きっと今日は旦那のところへ子供が遊びに行っているのだろう。
「‥‥いつもは帰るとうるさいし、散らかすし、おこってばっかりなんだけど、いないと‥‥寂しいのよね‥‥だから、まあ、今日は飲んで帰ろうかな、と」
ふ〜ん。
‥‥俺はガキの代役かよ‥‥釈然としない気もするが、なんでそうなのか深く考えると何となくヤバい気がして意識的に話題をそらすカンクロウ。
「んで、どこ行くの」
「そうねえ〜、まだ決めてない」
「マジかよ、人誘っといて」
「いいじゃない、そんな、恋人とのデートじゃあるまいし、行き当たりばったりでも」
言い切りやがったな、この女め。
俺だって、あんたみたいな年上ごめんだよ。
言い返したい衝動をこらえて、何か違う憎まれ口を探すあたりがジェントルマン(?)なカンクロウ。
というか、年上の女性に対して言っていい事と悪い事があるのを本能的に感じているのだろう。
さすが姉がいるだけある‥‥年上女をなめてはいけないという教訓が身に染み付いているに違いない。

ぶらぶら歩いていく二人のそばをさっきからやたら浴衣姿のカップルが通る。
「‥‥今日なんかあるのか」
「さあ‥‥あるのかな?そういえば浴衣着てる子多いわね」
「地元のくせに知らねえのかよ」
「だってそんなイベント参加しなくなって久しいからね」
子守りのバイトをしていたときも、8時過ぎにはが大慌てで帰って来ていたのを思い出す。
子供だけで放っておいても十分大丈夫そうな悪ガキどもだったが、その頃は丁度いろいろ子供が巻き込まれる事件が発生していた。
心配でたまらないから、忙しい時期で帰宅がどうしても遅くなるし、とにかく助っ人を頼んだのだと漏らしていたっけ。

気がつけば超有名なくいだおれ界隈。
例の訳の分らない眉毛を動かす人形だとか、グリコマークのネオンがけばけばしく輝く。
「あ、この人形さあ、一応カラクリなんだよね〜。
カンクロウ、あんたの傀儡とかいうカラクリは眉毛動かないの〜」
絶句。
目玉は大サービスで3つもついているが、眉毛等ない。
‥‥そういえば弟にもない‥‥これは余談。
「え、ついてないの?眉ってさ、表情の要なんだってさ、つけたら?」
「いいの、表情ない方が怖くていいんだよ」
「そんなこと言って、動かすの面倒なんでしょ」
「あたりまえじゃん、俺の傀儡は人形劇仕様じゃねえんだからな、戦闘用だってことがにはわかってねえんだよ」
「失礼しました〜」
ったく、なんでも笑いの種にしやがって。
彼も砂では結構お笑い要員だったりするのだが、さすが関西人はノリが違うぜ、とぶつくさ。


「ん〜、じゃあここ入ろうか」
が選んだのはごくありふれたビアホールというか屋外に設置されたビアガーデン。
「本当に行き当たりばったりじゃん‥‥」
「なんか言った?」
「別に〜」
「何よ、ここなら風も通るし、川も見えるし充分雰囲気はあるでしょっ、文句言わないで入るの!」
にぐいぐい押し込まれて店に入る。
風情云々よりタイムサービスだな、とカンクロウは表の看板に書かれた割引メニューを見逃さなかった。
さすが情報収集の達人(?)。
運良く川のすぐそばの見晴らしの良い席に案内される。
「ラッキー、きっと夕焼けも見れるよ〜」
きゃっきゃと喜ぶ
「‥‥方角が違うんじゃねえの‥‥」
「え?」
「だってさ、俺たちの面してるのは東だぜ」
「‥‥ははは、冗談よ」
カンクロウは子守り中に、母親と出かけるときは要注意だという情報をお子様ズから入手していた。
要するに方向音痴なのである。
「よく迷わないで繁華街方面にこれたな〜」
「うるさいわね、さすがにそこまでじゃないわよ」
「うそだろ、たまたまここ2、3日こっちに来てたんじゃないの」
「‥‥あ、すいませ〜ん、ビールお願い」
話題を変えたな。
「何にやけてんのよっ」
「別に〜、仏頂面よりいいだろ〜」
「ふ〜んだ、可愛くないんだから!」
ニタニタ笑うカンクロウにプンプンする
そこへ早速大きなジョッキでビールが運ばれてくる。
ころっと機嫌が直る
「さ、飲もう!乾杯!」
「立ち直り早いなあ、まあいいか、んじゃ乾杯!」
ぐいっとジョッキを傾ける。
「あ〜、おいし!やっぱ、外で飲むと違うわねえ、家でテレビ見ながら缶ビールじゃこんな開放感はないわ〜」
「キッチンドリンカーじゃん」
「ば〜か、そんなにしょっちゅう飲まないっての!」
まあそれは見れば明か、の顔はもう桜色だ。
弱そうなのに、大丈夫かよ」
「ふん、新陳代謝がいいだけよ、そういうカンクロウは全然顔に出ないのね」
「これぐらいで出るかよ」
「そういうもんなの?‥‥って、あ〜っ、あんた未成‥‥、もごっ」
「し〜っ、でかい声出すなよ!」
「だって、本当にうっかりしてた、まだ飲めないんじゃない!」
「砂ではいいの」
「ここじゃだめよ!」
「何言ってんだよ、誘ったのあんたじゃん」
「忘れてたのよ、あんた充分ふてぶてしいから」
「今更おせえよ、心配すんなって、砂忍は強いぜ、ついでに言うとふてぶてしいは余計!」
「そういう問題じゃない‥‥」
がまだ言い募ろうとしたその時。

シューッ、パンパンパンパンパン!!
大きな爆発音がして、暮れなずんだ夜空に打ち上げ花火が上がる。
様々な色の光が洪水のように流れ落ち、夜空に色も形もさまざまな花を咲かせ始める。
さながらキラキラ輝く金の砂をばらまいたかのよう。

「わ〜、ついてる〜、こんな良い席でみれるなんて、ここ穴場ね!」
「だからさっき浴衣姿のカップルだらけだったんだな」
「ンフフ、悪かったわねェ、もっと可愛い彼女誘うチャンスを」
「今更何言ってんだよ」
「そうね〜、あたしだってもっと若いコ誘い損ねたし」
「はあ?」
「うちの男ども」
「なんだ」
いつも子供のことだな、ったく。
憂さ晴らしに俺誘ったんじゃねえのかよ〜。
「どうせ子供は独立するぜ、たまには頭から追い出せよ、今日は旦那が当番なんだろ」
「ごめん〜、どうもね、習性って怖いわ。
よっしゃ、切り替えて飲むぞ〜」
そういうなり、は髪留めを外して頭をひと振り。
セミロングの髪が白いブラウスの肩口で波打つ。
良い香りがふわっとして‥‥
ほんのり桜色したの、ちょっぴり潤んだ瞳がカンクロウを見る。

ドキッ
自分のらしからぬ鼓動が聞こえた。
なにうろたえてんだよ、アルコールのせいじゃん、アルコールの!
「うふふ、年増女をその気にさせると怖いわよ〜」
ぎょっ
「な、何だよ、俺何もしてねえよ」
「ばかね、何どもってんのよっ。
こうなったらちゃ〜んと最後までつきあって飲むのよ!
わかったァ?!
あ、デザートはあんたのおごりね、飲み代は提供するからさァ。
甘党でしょ〜、フン、飲むくせにたち悪いわねぇ〜。
え?店が閉まるぅ?
心配ご無用、金曜の夜よ、開いてるって!!」

ひょっとして、って、トラ?
もしくは酒乱かよ?
すごむに後悔しきりのカンクロウ。

「すいませ〜ん、ビール追加お願い!
おつまみメニューももってきて〜!!」

うっかり墓穴を掘った負け犬気分のカンクロウは、打ち上げ花火の勢いが増すのに同じように、
どんどん積極的になるを尻目に、身を縮めながら相伴に預かるのだった。


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蛇足的後書:まんまバトンでお話を書いてしまいました。
だって、こんな素晴らしいシチュエーションはそうないですよ、アーンド、バトンなら堂々と書けます!
リキマルさん、ありがとうございました!私はトラじゃないです、念のため!