チャレンジャー

ずっと待ってるだけなんてつらすぎる。
あたしもついて行きたい。

「そりゃ、どうも」
三白眼が面白そうに薄ら笑いをうかべる。
「でもな、忍者には適性ってもんがあるからな。
、お前はだめだよ。」
「なんでよ、一応昔修行したこともあるのよ、これでも。」
「で、落ちこぼれたんだろ?」
「うるさいわね。今ならやる気でカバーできるわよっ」
「さあねえ‥‥
方向感覚ゼロ、運動能力ペケ、体力のみかろうじて可、ってとこか。
足手纏いなんて、いらねえじゃん」
言ったわね〜、人の気もしらないで!

「まあまあ、カンクロウ、せっかくこう言ってくれてるんだから、次の任務ぐらい、連れてってやったら?」
まあ、天使のようなテマリさんの声!
「次の任務って‥‥、あれかよ?!」
「‥‥テマリ、お前‥‥」
あら、我愛羅くんまで。
いったいどんな任務なのかしら。
「はい、決定。次の任務は4人でするわよ」
「あ、ありがと〜vvv、テマリさん!」
「いえいえ、人数が多い方が助かるし。こっちこそお礼をいいたいわ、 vvv」 ニコ。
え?人数が多い方が助かる、の?
心無しか、男2人は責めるような目つきでテマリさんを見てるけど。
ま、気にしない、せっかくカンクロウと一緒に任務につけるんだから!

当日。
予定を説明された私は、先日男どもが何か言いたそうにしていたワケが分かった。
本日のメニュー
其の一:風の国の大名の宴会の下準備及び買い出しの手伝い
其の二:農作業の手伝い
其の三:宅配の手伝い
「こ、これって、任務なの??」
初めて聞く『任務』の実態になかばあきれながら尋ねる。
「そ。けっこうこういう手合いも多いのよね。
あのばか大名がまた、うちの里に仕事を依頼し出したのは結構なことなんだけど、うちの里は少数先鋭でしょ。
わけわかんない仕事も結構まわってくるのよ、一応まだ下忍だしね」
と、テマリさん。
はあ、そうなのですか。
もっと、血なまぐさい仕事を予想してたんだけど‥‥
「露骨にがっかりするなよ。
こっちだって、こんな仕事やりたかないけど、仕方ないじゃん。
だいたい、お前を誘った段階で、仕事のレベルなんてわかりそうなもんだがよ」
言ってくれるわね〜、でも、私のような初心者が、血沸き肉踊る(?)戦場へ駆り出されるわけないか。
「‥‥だが、なめると、痛い目をみるぞ‥‥」
え、我愛羅くんがそういうことを言うととっても迫力あって、ちょっと、びびるんだけど。
「さ、ではとりかかるとするか」
テマリさんの言葉が合図となって、今日の任務が開始された。

宴会の下準備及び買い出し、なんだ、ちょろいじゃん、なんてひそかに思っていた私は、しょっぱなから足をすくわれた。
ただの宴会じゃない、大名の、がついていたのだった。
呼ぶ客の人数が半端じゃない。
ざっと300名以上。
しかもフルコースの。
買い出しなんて、自分ちの夕飯か友だちとのコンパのための分ぐらいしかしたことない私。
量が多すぎるから、お店なんか通さないで、直接農家や酒屋さんと取引するらしい。
「ほれ、ぼーっとしてないで、荷台に積むぞ!!」
「あ、は、はいっ」
テマリさんと我愛羅くんは城内で宴会の下準備を、私とカンクロウは買い出しという分担。
はっきしいって、ただの人夫です。
あらかじめ予約してあったらしい食材を農家へ出向いて、どんどん、荷台へ積み上げて行くだけの肉体労働。
まあ、しっかしカンクロウの作業の早い事。
慣れてるだけあるわ〜、などど感心してたら、ばしっと頭に一発おみまいされた。
「なにしにきたんだよ、見学か?」
う、すみません‥‥手加減ないなあ。

非力ながらもせっせこ、荷物を積み込む。
一台いっぱいになってやれやれと思ったら、次のがきて、また同じ事の繰り返し。
合計5台に野菜や鶏や卵なんかを積み込んだ。
ぜーぜーいってたら、
「おい、次行くぞ!」
ひえ〜、まだあるの?
今度は酒屋さん。こんなに飲むのかよ、というくらい、焼酎やら、ビールやら、シャンペンやら、もうありとあらゆるアルコールを運ばされて、もう飲んでもいないのに、酩酊状態。
任務に参加したいなんて言わなきゃ良かったかなあ、なんて思い始めた途端、
「なんだよ、もうギブアップか?口ほどにもないじゃん」
と、顔を覗き込まれ、
「な、なにいってんのよ、まだまだ!」
と、つい売り言葉に買い言葉、後悔先に立たず。
「イイ根性してんじゃん、 。じゃ、次のメニューも大丈夫だな」
ニヤニヤ笑うカンクロウ。くそ、はめられた〜。

昼食をかき込んだ後、第二ラウンド開始。
う〜ん、この見渡す限りの棚田の、雑草引き、ですか。
もう、嬉しくて泣けてきますね。
今度は4人で黙々と中腰作業。
なかなか進まないなあ、と思って周りをみると、あれ〜、他の3人はもう、はるか上の方の棚田にいらっしゃる。
完全に遅れてるよ〜、もう、なんでこんなにスピードに差がでるのさ、忍術でもつかってるの?
影分身とか、雑草抜きの術とか(そんなもんあるわけないか)。

はあ〜、と、おおきなため息を吐いたら、
「ちょっと、ひと休みしたら?」
あ、テマリさん!
え、今上にいたんじゃ‥‥
「風分身参上〜。
うそ、ちょっと、さぼり。
あんまり分身なんか使って無駄にチャクラ使いたくないし。
ちょっと、 とも話したかったから。」
え、なななんでしょうか、お話って。
「ははは、そんなかしこまんないでよ〜。
年だって全然かわんないじゃん。
‥‥でも、あんたも物好きね、カンクロウみたいな変人が好みなんてさ。」
えっ、そ、それは、その、え〜と、/////
「いや、姉としては、嬉しいんだけど。
どうせ、あいつのことだからいつも、えらそーにしてんだろ。
今なら聞かれないし、他の任務の時の様子とかおしえてやるよ。」
え、なになに?

それは、つい最近の任務でのこと。
珍しく、幼稚園での仕事があたり、あまり子供が得意でない彼らはしぶしぶ出掛けた。
幼稚園の門を入るなり、一人の子供が
「あ〜!!だるまちゃんがきた!」
「おむすびまんだ!」
「本当だ!!」
「わーい、遊ぼう、遊ぼう」
カンクロウはいきなり子供に囲まれてしまった。
「だるまにおむすびかよ、まいったじゃん、おれ、ガキって、苦手‥‥」
ぶつぶついいながら、鬼ごっこ希望の子供を、カラスを使っておっかけまわしてやったんだって。
(ちゃんと、毒針は抜いてあったよ:テマリ談)
自分でおっかけるんじゃなくて、カラスをつかうあたり、カンクロウらしい。
ちなみに、包帯をほどく時も大歓声だったらしく、けっこうノリノリだったそうな。

我愛羅はその様子を無表情に見てたらしいが、気が付くと、女の子が一人、彼のズボンをつかんでいた。
「‥‥なんだ(なんだじゃないよね〜、遊ばすためにやとわれてんだから:テマリ談)」
「おにいちゃん、お砂遊び、上手なの?」
「(砂遊び‥‥)まあな」
「じゃあ、あたしと遊んで」
どうも、彼女は集団で鬼ごっことかいうのができないようだった。
一人でぽつんといるこの子に同情した我愛羅は、結局この子につきあって、砂場でいろいろ作ってやっていた。
ミニサイズの砂分身をつくると大ウケで、たちまち、砂場にも子供の輪ができたそうだ。

「で、テマリさんは?」
「あー、あたし?面倒だから、紙飛行機つくらせて、それをちっこいカマイタチで飛ばしてやってたな」
「へえ〜、なんか意外な一面をきいたわ〜。」
「こんな平和な任務ばっかじゃないけど、そんなのは、 には教えたくないだろうからね。」
「え〜、でも聞きたいな。」
「‥‥必要なら人も殺すんだから、あんまり知らない方がいい」
諭すような口調に、思わずひるんだ。

「さ、じゃあ、もう一頑張りするか。早く終わったら、手伝うから」
気分を引き立たせるように明るい声で言うテマリさん。
「あ、ありがと〜」
へばってる私をさりげなく助けに来てくれて、情報もくれるなんて、さすがお姉様よね。
よっしゃ、頑張るぞ〜。
身体を思いっきりのばして、と。
あれ今、何かブーンって‥‥ハチ?
ギャー、スズメ蜂〜〜〜〜〜!!!!ちょっと、勘弁してよ、いや〜〜〜〜!!!!
たんぼの中を逃げ回る私に一番に気が付いたのは意外にも我愛羅だった。
かなり離れた所だったんだけど、さっと、土を動かしてハチを巣ごと始末してくれた。
おかげで、私はすこしも刺されることなくすんだ。
ああ〜、よかった、腰が抜けちゃった。
人のことなんて無関心に見えるんだけど、本当はやさしい子なんだよね。
しかし、我愛羅の動かしたのが、田んぼの土=泥だったので、私は返り血ならぬ跳ね泥をあびて、みるも無惨な有り様ではあった。
すっと、気配がして、我愛羅がそばに立っていた。
みんなさすが、忍者だなあと、感心していると
「‥‥おい、大丈夫だったか。」
「う、うん、ありがとう、助かっちゃった。
あたしハチアレルギーなんだよね、さされたらショック症状だしてぶっ倒れてたかもしれない。」
「‥‥そうか。しかし、泥だらけだな、‥‥すまない」
「そ、そんな、命びろいしたんだから、汚れくらい全然オッケーよ!!!」
と、今度はカンクロウが姿を見せた。
「ひゃ〜、泥だらけじゃん。ちょっと、落としといた方がいいな、次の任務じゃ、人と顔合わせるんだから。
あと、頼んだぜ、我愛羅」
「ああ。」
「え、でも、田んぼむちゃくちゃじゃない、これ一人でやらせるのは‥‥」
「大丈夫、土のことは我愛羅に任せとけばいい。
それより、ホレ、下へ行って川で顔洗うぞ。ひどい有り様じゃんか。」

ぐいっと私の腕をひっぱって自分の肩へかけさせると、と、跳んだ!!
棚田のかなり上の方からすごい勢いでぴょんぴょん跳ねながら下の方へ移動して行く。
うわ〜、ちょっと、これ、ジェットコースターなんて目じゃないよ、まじで怖いっ!
好きな人にはこたえられないんだろうけど、わ、私は‥‥
景色がびゅんびゅん飛んで、下へ下へと落ちてゆく。
目の前が暗くなって‥‥‥
「おい、おいっ、しっかりしろよ!?」
ばしっ
いった〜い。
「お、目覚ましたか。」
へ?なんなの、確かさっきまで、ジェットコースターしてたような‥‥
、お前、マジで忍者には向いてないな、三半規管全然だめじゃんか。
あれくらいの跳躍で気を失うなんてよ。」
え、ああ、私ってば気を失ってたのか、って、ちょっと、かなり‥‥情けない。
また、コイツは手加減と言うものを知らない。
もう少し、優しく起こしてくれたっていいじゃない。

「さっさと洗えよ、ひでえ顔してんじゃん」
「え、そう?」
急いで川の水でばしゃばしゃ顔を洗う。
気が付くとみんな、揃ってる。
「もう終わったの?」
「ああ、 の分も終わってるから、安心しな」と、テマリさん。
「ありがとう‥‥、なんか、あたし、あんまり役に立ってないような‥‥」
「そんなことないさ、初めてにしちゃ、上出来だよ。」
そして、わたしの耳に口を近付けてささやいた。
がいると、張り切ってくれるしね、普段さぼりの誰かさんも」
え。そう‥‥なの?

「じゃあ、最終任務にいきますか。」
テマリさんが言う。
「‥‥もう、 は外した方がいいんじゃないか。かなり消耗してるようだし。」
と我愛羅くん。
え、そ、そんなことないよ。
「そうだな。大体方向音痴のやつに宅配もないだろうしな」
これは当然カンクロウ。
このやろ〜、人が気にしてることを!
私を気づかってくれてるのはわかるけど、ムカつく言い方すんのよね〜。
「やる!絶対!途中でやめるのなんか、いやだもの!」
自分でも子供っぽいとは思ったけど、やっぱり、自分で言い出したのに、中途半端なとこでやめたくなんかなかった。
「しょ〜がないなあ。じゃあ、一番簡単なとこ割り振ってやろうぜ。」
なんか、ひっかかるけど、方向音痴は本当だし、あまりおおきなことは言わない方がいいと自制した。

私が担当するのは一軒のみ。みんなは‥‥幾ら聞いても教えてくれなかったけど、荷物をみたところ、それぞれ20件はあったかな。
なめられたもんだわ、でも実力の差はもう、いやというほど思い知らされたから、大人しく決定に従った。
だいたい、みんなとでは、移動の速さからして違うし。
こっちはローテクテクテク、あっちはハイスピードビュンビュン、だもんね。
はあ〜、でも結構遠いなあ。
カンクロウいわく、
「このわかりやすい場所を間違ったら、お前、忍者の見習いどころか、普通の人間失格」だって!
へ〜んだ。
さあてと、そろそろ、この辺のはずなんだけど。
あ、ありましたよ、よかった〜、見つからなかったらあまりにもふがいないもの。
「すみませ〜ん、お届け物です〜」
し〜ん。
「すみませ〜ん」
だめだ。ボリュームアップしても返事なし。
ありゃ、でも鍵はあいてるみたい。
ちょっと、おじゃましますよ〜、もしかしたら、耳の遠いおばあちゃんとかがいるのかも‥‥

私は戸を開けたことを心底後悔した。
なんで虫の知らせとか、第六感とかが働かないの、こんな時に!!
玄関のたたきには血の海。
人が2人倒れていた。
声も出せないまま、視線をあげると、みるからに悪そうな男がニヤニヤしながらこっちを見てる。
悪夢だ‥‥
「‥‥なめると、ひどい目にあうぞ‥‥」
我愛羅くんの警告が耳にがんがん鳴り響く。
じりじりうしろに下がってダッシュで逃げようとしたら、
振り向いたすぐ目の前にソイツが立っている。
そんな、ばかな。
コイツ‥‥忍者?!
「御名答、お嬢さん。おれはいわゆるお尋ね者の抜け忍、ってヤツだよ。
まあ、そう急いで帰ることもないだろう。
せっかく何か持って来てくれたらしいから、上がってゆっくりしてきな」
固まったままの私の腕をつかんで、中へとひきずっていく。
う、動けないっ、怖さだけじゃなく、何か術をかけられたに違いない。
助けて!!カンクローッ!!!

「‥‥おそいな」
「ああ、おそすぎるな。 の奴、どうしたんだろう。何かあったのかな」
「また、道に迷ったんじゃないか。どんくさいやつじゃ‥‥チッ」
「どうした、カンクロウ」
「‥‥ が危ない!いくぞ!!」
テマリと我愛羅があっけに取られている間にカンクロウは目にも止まらない速さで、 がむかった先へ移動し始めた。
「聞こえた、確かに。空耳なんかじゃねえ、 になにかあったんだ」

「おじょうさん、年の頃は14,5才だろ、少女と女の境目ってとこかな。
ククク、一番おれごのみの年令だな。
手間取ったおかげで、とんだいい拾い物したぜ。」
冗談じゃない、こんな変なお尋ね者に私の操を拾われてなるものか!
なんとかしなきゃ、なんとか。
「大人しくしてりゃ、悪いようにはしないぜ。
ああ?
結構かわいい顔してるじゃないか、そうびびりなさんな。
おれがたっぷり、かわいがってやるよ。」
馴れ馴れしい手で私の顔を触る。
い、いらん、いらん!!さわらないで!!
や、やだやだやだ、やだ〜〜〜っ!
離せ〜〜〜〜〜!!!!
「おとなしくしてろっ、このアマ!」
バシッ
目から火花が飛んで、一瞬目の前が真っ暗になった。
どすっと、身体が床に叩き付けられた。
意識がもうろうとする。
男の手が伸びてきて、上着が悲鳴をあげて、切り裂かれる。
頭ががんがんして、身体が言うことをきかない‥‥
助けてーっ、いやだーっ!!!!

「そこまでにしな、この変態ヤロー」
遠のく意識のなかで、懐かしい声を聞いた。
すごい怒ってる声‥‥
ああ、カンクロウが助けに来てくれたんだ‥‥‥
「なんだよ、ヒトがお楽しみの最中に、じゃますんな、この‥‥
うわ、なんだ、‥‥貴様‥‥や、やめろっ、‥‥うぎゃーっ」
目の前が塞がれて何がどうなったのか、見えない。
「見なくていい、
あれ〜、カンクロウだあ、どうなってんの‥‥こっちは分身なの?
「なんでもないじゃん、忘れな」
妙に優しい声に抱き締められていると、まぶたがおりてきて、私は意識を手放した。

「‥‥派手にやったな‥‥カンクロウ」
「フン、こんな奴、生かしといたってロクなことしねえよ」
は?」
「幻術かけて眠らせてる。‥‥あとは、テマリ、お前がフォローしてやってくれないか」
「ああ‥‥。まかしときな」
抜け忍の身体は始末の必要がないぐらいに、ばらばらにひきちぎられていた。
カラスの力を最大限出して巻き付かせるとこういう結果になる。
だが、後始末が大変なので、カンクロウがここまでやることはまずなかった。
「オレが、死体処理しておく。カンクロウはカラスをきれいにしとけ」
と、珍しく我愛羅が先に声をかけた。
「あ、ああ、すまないな。じゃあ、たのむじゃん」
傀儡人形はつくりが非常に複雑で、関節が多いので、一旦ここまで汚れるとはやくその汚れを取り去らないと、次の使用に支障が生じる。
そのことを慮って、また、カンクロウの気持ちを考えての我愛羅の申し出だった。

「うん‥‥」
「目が覚めたみたいだね。」
「あれ?あたし、どうしたのかな。えっと、うわ、そうだ、へんな男に‥‥」
「大丈夫だ、カンクロウが間に合ったから、何もされてない。」
そ、そうだったよね。
でも、思い出すと身体がぞくっとした。
「しっかりしろ、 。犬に噛まれそうになっただけだ。それもあんたのせいじゃない。
運が悪かっただけだ。いいか、 には何の落ち度もない。」
「う、うん。」
「絶対に自分を責めるな。そんなことで精神的にダメージ受けたらカンクロウがうかばれないよ」
「そうだよね。すごくはやく助けにきてくれたもの」
頭がなんとなくふらふらする。
手をやると、包帯がまいてあった。
けっこうひどく殴られたみたい。
「あの抜け忍も今頃、地獄で自分のやったことを後悔してるだろうよ」
「え、地獄って」
「そうか、カンクロウが見せないようにしたから‥‥アイツはカンクロウが始末しちまったよ。」
「え?始末って、こ、殺したの。」
「どっちにせよ、抜け忍の運命だよ」
「‥‥」
「それだけ、カンクロウの逆鱗にふれたってことさ。
まあ、めったにそこまで、キレないんだけどね、アイツは。
今回は が絡んだから我慢できなかったんだろう」
「そ、そうなの」
「そうだよ。 のこととなると、冷静じゃないからね、カンクロウは(クス)」
気が付くと洋服も着替えさせられてた。
びりびりになった服が、私の目にふれないように、との配慮だろう。
テマリたちの思いやりが嬉しかった。

カンクロウは、と聞くと川でカラスをきれいにしてるとのことだった。
一言お礼言わなきゃ。
何か、まだ少し、ふらついたけど、すぐ近くの川辺へ歩いて行った。
いた、いた。
心無しか殺気立ってる。
思いきって声をかけた。
「カンクロウ?」
「うわっ、なんだ、 か、もう大丈夫なのかよ」
「うん、さっきは本当にどうもありがとう」
「礼なんていい。無事でよかったじゃんよ」
殺気立った空気がさっとなくなった。
カラスをあちこち拭いたり、分解してきれいにしていくカンクロウの隣に座って、それを見る。
「‥‥私の声、聞こえたの?」
「‥‥ああ、聞こえた。」
「私でも、忍術使えたんだ、アハハ‥‥」
笑ってるつもりなのに、なんか涙が出て来た。
こわかった。ただ、それだけ。
カンクロウは何も言わなかったけど、私の方に手ぬぐいが飛んできた。
その思いやりがうれしくて、また涙が出てくる。
「ごめん、何か、涙腺こわれた‥‥」
「いいじゃん、泣いてすっきりしたら、それでよ」

安易に任務に引っ付いて行きたいなんて考えていた自分の甘さを思い知らされた。
一見平和な任務に突然生じる落とし穴。いつも命がけなんだ。
こんな小さな事件で、ダメージをうけた自分の弱さを情けなく思う。
いつの間にかひざを抱えて号泣してた。
黙って横にいてくれるカンクロウの思いやりが心にしみた。

「気にすんな、 なりに、今日も頑張ったじゃん。」
「うん‥‥そうかもね。」
泣くだけ泣いて、顔は腫れぼったくなったけれど、心は軽くなった。
「まあ、正直言って、俺は には安全なとこにいてほしいからな。
もう、一緒に任務に行くのは勘弁じゃん」
ちぇっ‥‥、でも心配してくれてるんだ。
それに、カンクロウが十分強いことも、よくわかった。
悔しいけど、待ってる方が世のため、人のため、私のため、カンクロウのため、みたい。
めずらしくまじめな調子でカンクロウが言う。
「忍者の任務ってのは、体力的にもそうだけど、精神的にキツいから、耐えられない奴も結構いるんじゃん。
仲間が目の前で殺されて自分だけ生き残ったり、拷問しなきゃならなかったり、その逆もある。
食うか食われるかの世界だからな。
でも誰かがやんなきゃならない仕事でもあるんだ。
俺達は、生まれた時から忍者になるべく育てられたから、 とは違うんだよ。
‥‥だけど、その俺だって任務のことなんか忘れたいこともある、違い世界にも足つっこんでいたいんじゃん。
‥‥正気でいたいからな。」
じゃあ、その足場に私がなってあげられたら、いいのかな‥‥?
待ってるだけなんて、と、正直一般人でいることを恥ずかしく思ってたんだけど、今のままでいいんだよね?
はそっちの世界で違う技術を磨けよ。
世の中の人間がみんな忍者になっちまったら大変じゃん。」
そうだよね。
今は素直に頷けた。

「さ、もう帰るぞ、今日の任務は完了じゃん。」
いつのまにかカラスもきれいにされて、あっという間にテーピング完了。
はあ〜、確かに、忍者界のエリートだけあるわ。
え、何よ、背中向けて何手招きしてんの。
「なにぼ〜っとしてんだよ、ホレ、おんぶしてやるよ、その怪我じゃ歩いて帰れねえだろ。」
ええ〜っ、ガキじゃあるまいし、おんぶって‥‥おまけにカラスしょってるじゃない、いいよ、てか、やだよ。
「わがまま言うなよ、たどり着けねえじゃん、この方が早いんだよ」
‥‥‥なら、だっこの方がいい‥‥
「ハア?」
ほら、お姫さまだっこってやつ。いっぺんやってほしかったんだ〜。
「マジかよ‥‥」
い〜じゃない、手負いのかわいそうなカノジョを連れてったげてよ。もう、任務でご一緒することはないんだからさ。
「ったく、しょうがねえな、 は」
へへへ、やった〜/////
「しっかりつかまってろよ、落ちてもしらねえぞ」
うわっ、早いっ!!
三半規管がどうとか言ってた割に、容赦ないスピード‥‥でも今度は2回目だから大丈夫、しっかり掴まってるし。
待ってばっかりのソンな役割決定なんだから、こういうおいしいとこもたまには味見させてもらわなきゃね。
向かい風に身をまかせてる私の耳にカンクロウのささやくような声が聞こえた。
は一般人でいたらいいんだよ。オレが守ってやっからよ。」
え?
ちょっと、それ、もう一回聞きたい!
「だ〜め、一回で聞き取れないようなヤツは聞かなくていいんじゃん。」
こころなしか赤くなって、そっぽむくカンクロウ。
ふーんだ、しっかり、聞いたわよ、ただ、そんなうれしい台詞は耳に焼きつけときたかっただけよ。
「空耳、空耳、ほれ、ついたぞ、じゃな」
てれてんのか、さっさと私を家まで送り届けると、あっという間に姿を消してしまった。
「ふん、いいわよっ、私があんたの足場になってやるから〜っ、地割れ起こされないように覚悟しといてよっ」
星空に向かって大声で叫んでやった。
明日から出直しだ、立派な一般人めざして頑張るゾ!

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蛇足後書:カンクロウの彼女って、どうしても一般人ってイメージがあるんですよね(自分がそうだからか?!)。
忍者の彼女もいずれは書きたいんですが、術とか思いつかなくて。
どちらにせよ一見カンクロウがリードしてるように見えてその逆、という感覚です。