あつあつ
「どう?」
「う〜ん、微妙、だな」
味見をしたあと、カンクロウとは2人して湯気の立つ小鍋を見つめている。
いっこうに箸がすすまない。
味付けに失敗したのだろうか。
「カンクロウ、せっかくなんだから食べてよ」
「いや、こそ食えよ」
「だって、これはあんたのためにしたんだから」
「いや、俺は普通の方がよかった・・・イテテ!
グーで殴んなよ〜」
「だって、これになったのも、もとはといえばカンクロウが悪いんじゃない!」
「え〜、俺のせいってか?ま、まあそうか・・・」
鍋を前にして何をもめているのかというと。
が作ってくれたチョコをカンクロウがうっかりズボンのお尻のポケットに入れたまま、こたつに入って溶かしてしまったのが事の発端。
「どんだけ苦労したと思ってんのよ!」
台所中べたべたにして作ったというトリュフは見るも無惨なマーブル模様の板チョコに変化。
が激怒するのも無理はない。
しかしカンクロウとて悪気はゼロ。
近頃下火のバレンタインにお手製のチョコをもらえただけでも恩の字なのは重々承知だった。
だからこそ、こないだコマーシャルでみた『チョコフォンデュ』なるものをしようと提案したのだ。
こたつにのった小鍋の下ではろうそくの炎がゆらめき、暗くなり始めた窓の外では雪がちらついていて、ムードは満点。
しか〜し。
甘い。
ものすごく甘い。
いっそゲロ甘(失礼)。
甘いもの大好きのカンクロウでも音を上げるぐらい甘いのだ。
熱が加わるとだいたい、甘みというものは増加する。
もともと甘党のカンクロウのために、とがミルクチョコを選んだのも災いした。
その遠慮ない甘さに、一口食べてギブアップ気味の彼ら。
「やっぱ無理じゃん・・・」
と言いかけて、カノジョの表情にその言葉を飲み込む。
さっきまでの剣幕はなりをひそめ、本当に悲しそうだ。
漢カンクロウ、ここは死ぬ気で食べるしかない!!
(あ〜あ、カラスつれてくればよかったじゃん、代わりに食わせたのに)
とか腰の引けた事を思いつつも再度箸でドライフルーツをつまんで、とけたチョコにつける。
とろり
木の葉の医療忍者に飲ませられた煎じ薬もたいがいだったが、この溶けたチョコというやつもそれに負けず劣らずたいがいだ。
苦みと甘みは度が過ぎると表裏一体だと悟ったカンクロウだが、そんな悟りはこの際なんの役にも立たない。
また、このドライフルーツというのもいけないのかもしれない。
もともと甘い果物を乾燥させる事でさらに糖度を高め、保存するシロモノなのだから。
ちらり
が目の端でカンクロウの口元を見ている。
食べないと世紀の恋も破綻を来す、と警告しているかのようだ。
ええい、ままよ!
ぱく、ごっくん
やっぱり当然過激に甘い。
あと何回ぐらいこれを食べればこのチョコはなくなるだろう。
食べ終わる頃にはオレは心労で我愛羅ばりのクマができてるかもな、クマドリ不要じゃん、などと思っていたらが声をかけた。
「・・・もういいよ、無理しないでも」
優しい言葉。
しかしこういう状況下でもなぜかカンクロウの『なめられたくない』根性が発動してしまった。
というのも彼女のあきらめ顔の下のケーベツを敏感に感じ取ってしまったから。
「いや、ちゃんと頂くじゃん」
「いいよ、気分悪くなるよ」
「・・・・工夫すればいいんだ」
「くふう?もう一回固まらせるの?」
「いや、辛い物につける」
「え?」
こたつを一旦出たカンクロウが戻って来た時手にしていたのは、柿ピーだった。
「マジ?あんた何考えてんの?!」
「マジもマジ、大マジじゃん」
あきれるを尻目にチャレンジャーはブツにチョコをからめる。
「ちょ・・・・」
ぱく
「・・・・」
「ど、どう?」
無言でもぐもぐ、ごくんと飲み込んだあと、カンクロウの片ほおが持ち上がり、三白眼がにやける。
「なかなか、いける」
「え〜っ?ホント?」
「ああ、もやってみな」
半信半疑のもカンクロウが嘘をつかない男(バカ正直とも言う)なのは百も承知。
こうなった以上、いつまでもすねて誘いにのらないのは無粋というもの。
カンクロウの彼女という道を選んだ段階で、今日のような展開も覚悟の上、というと言い過ぎか。
ともかく食べてみる。
ぱく
「どう?いけるだろ」
「・・・そうね、案外オツかも」
「他にも辛いもんねえかな」
「あ、ポテチある」
「お〜、それいこうぜ」
「明太子は」
「・・・ばらけるだろ、さすがに、一粒ずつひろうのは勘弁じゃん」
「そっか、じゃあ唐辛子は」
「う〜ん、試してみる価値はあるかもな、市販品でも唐辛子チョコとかあるし」
さっきまでの険悪な空気はどこへやら、湯気のあがる鍋を前に和睦成立のようだ。
「・・・もう怒ってねえ?」
チョコつきポテチをくわえたまま、上目遣いでカンクロウが聞く。
「・・・怒ってないよ」
そ〜んなツンデレな格好で聞かれたらこうとしか答えられないでしょ、とはボヤく。
「ハア〜、よかった」
「でも、もう手作りチョコはあげない」
「え〜」
「どうせ溶かすんなら割りチョコでいいじゃない」
「・・・さびし〜っ」
「反省しなさい」
「へ〜い」
がっくりと頭をうなだれたカンクロウ、それを見てちょっと同情したが顔を覗き込んだとたん
チュッ
「さんきゅうな、チョコ」
「・・・ん」
こたつの中でカンクロウの足をつつきかえして返事する。
唇が燃えてるのは、唐辛子味のキスのせいだけじゃないようです。
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蛇足的後書き:バレンタインによせて。
近頃はあまり盛り上がらないとかいう話ですが、まあカンクロウは甘いもの好きそうなので遅れてもスルーは避けたいと無理して頑張りました(笑)。
チョコフォンデュは実際にやって死にそうになりました(^^;)、子供にはそこそこウケたけど。
チョコつきポテチはまあまあ、でも柿ピーや唐辛子は好き嫌いあると思います(当然か)。