日を追うごとに、蝉がうるさくなってきた。
全く、そんなにメスの取り合いが大変なのかよ。
そういや、 、どうしてるかな。
ここんとこ任務がつんでて、御無沙汰じゃん。
今日あたり、早く終わりそうだから、夕方にでもちょっとからかいに行ってみるか。

「よっと」
まだまだ暑さの残る夕暮れ時、おれはの部屋の窓へ足をかけていた。
「じゃまするじゃん♪」
カラスを窓際において、額当てつきのフードをとれば、OFFモード入力。
は‥‥寝てる。
まだおねんねには早すぎるんじゃないのか、それとも、昼寝が長引いてんのかよ。
ったく、ガキじゃあるまいし、起きろよ。
覗き込むと、顔が随分赤い。
手を額に当てると、うわ、こりゃかなり熱が高いぜ。
「うう〜ん」
目覚ましたか、おい、大丈夫かよ。
「あれ〜、カンクロウ?夢見みてるのかなぁ」
何寝ぼけてるんだよ、ひどい熱じゃん。
「別にたいしたことないよぉ、ほら、ちょっと寝てただけだもん‥‥」
起き上がろうとして、ふらっと倒れそうになり、おれがあわてて支える。
いつからだよ?
「ん〜、今朝、かなあ。夕べ窓開けっ放しで寝ちゃったから‥‥」
砂隠れの里は昼と夜の気温差が激しい。
こいつはいい年して、そのへんの認識が甘い。
「また、ばか、って言おうと思ってるんでしよ」
え、なんでわかったんだ。
「ふ〜んだ、ばかって言う前、カンクロウ、すんごくインケンな顔するもん」
へっ、悪かったな。
そんなことより、家にはだれもいないのかよ。
こんだけ高い熱出してるのに。
「昨日からお父さんは出張中だしぃ、お母さんは里帰り中で〜す。
へへへ、チャンスだよぉ〜、カンクロ〜」
お、おい、何言ってんだよ。
、お前いつもとちょっとキャラ違うぞ、熱のせいかな。

って、おい、‥‥
人に支えてもらったまま、眠るなよな。
とりあえずベッドに寝かせて、氷枕でももってくるじゃん。
あれ、なに、こら、服つかんだまま寝てやがる。
きたねえぞ、任務帰りだって。
しょうがないなあ、ちょっとこのまま寝かしといてやるじゃん。
まだ寝入りばなだから動かすと起きそうだしな。
あーあ、汗かいて息もだいぶ荒いな。
ホントは着替えた方がいいんだろうけどよ。
ちょっと、いくらおれでも、そこまで勝手にするのは気がひけるじゃん。
「んん〜‥‥」
な、なんだよ、どきっとするじゃんかよ、妙に色っぽい声出しやがって‥‥
良く見たらパジャマ着てねぇよ、こいつ。
こんなへそだしTシャツ着て寝てたら腹冷やして風邪引くの当たり前じゃん。
のやつ夕べ何してたんだ、着替えもしないで。

今はどっちにしろ聞けないし、とにかく手を離させてっと。
俺もシャワーでも浴びて着替えたいんだけどな、今日は暑かったし、かなり汚れちまったからな。
なんかこいつの服で、でかいTシャツとかねえかな。
勝手に物色させてもらうぜ。
えーとこの引き出しは、っと、いきなり下着かよ、大当たり!って違うか。
へえ、けっこうカワイイの持ってるじゃん。
あ〜、これは見たことあるな、これも。
別に脱がせなくったって、この季節じゃちらちらみえるんだよなあ♪
お、これ、いいね〜、上の方へ出しといてやろ。
いけね、目的を忘れるとこだった、Tシャツ、Tシャツっと。
あった、あった、ありゃ、まだ新品じゃん。
え?なんでこんなに何枚もあるんだ?
用にしちゃ、でかすぎるじゃん。
まあ、いい、これもコイツが起きてから、聞き出すか。

おれはTシャツを一枚持って行って、下の風呂場でシャワーを浴びた。
えーと、メイク落とし借りるぞ、隈取りおとしたいからな。
ふ〜ん、こんなの使ってンのか、いいにおいじゃん。
なんかあいつのにおいがかすかにする‥‥
やべ、さっきの のやらしい声、思い出しちまった‥‥
ん?誰だ?!
おい、なんで が来るんだよ!?
「汗びちゃびちゃで気持ち悪い〜、カンクロウ?そこにいんの〜?」
い、いるの、って、いるよ。
「入らせてよ〜」
ちょ、ちょっと、待てよ、まだ何も着てないんだからよ、こら、待てって!
「こら、いれろ〜、あたしんちのシャワーだぞ〜、なんで遠慮しなきゃいけないのよお」
ばかやろ、そういう問題じゃねえじゃん?!こら、戸を叩くな!
おれはダッシュで脱衣場へ出ると、入れ代わりに を風呂場へおしこみ、戸を閉めた。
「なによ〜、あたしまだ、服脱いでないのにい〜」
脱いでどうすんだよ、全く。おれは何も着てないんだから、わかってんのかよ。
なんでおれが逃げるのか、変と言えば変だが‥‥

急いでTシャツをきて、バスタオルを巻く。
シャワーの音。
ゴク。
しかし、一向に動く気配がない‥‥‥‥
「おい、 ?!聞こえるか?おい?」
思いきって戸を開けると、予想通り、 はシャワーの下で服を着たままぺたりと床の上に座り込んでいた。
「あ〜あ」
何やってンだよ、全く。
また寝てんのかよ、信じられない奴じゃん。
いったい誰がお前の世話すんだよ!?!
おれだぜおれ、へ・ん・た・いのカンクロウだぞ?!
わかってんのかよ、おい!!!起きろ〜〜〜!!!
耳もとで叫んでも反応なし。だめじゃん、こりゃ。
このまま放っとくわけにはいかないよなあ。
この、びしょぬれの、服がいやらしく肌に纏わり付いた姿。
はっきし言って非常にそそられるシチュエーションだが、
病人相手に手を出すわけにもいかないだろ‥‥、
‥‥‥くっそ〜、おれの理性を試す修行かよ!?!

‥‥はー、とりあえず、目を閉じたまま脱がすしかないな。
言ってるだけで下半身が爆発しそうじゃんか!!!
シャワーの湯気がまだこもった浴室にいるせいもあって、混乱したおれの頭は暴発寸前だ。
なんとか濡れた服はぬがせたらしい。
手探りでバスタオルをとると、 をくるんだ。
ようやく目を開ける。
このアマ、ぐーすか寝やがって、正気にもどったらただじゃおかねえ!!!
腹立たしさもあって、ちょっと乱暴にぐるぐるまきの を肩に担ぎ上げる。
ふわりといい匂いが鼻をくすぐり、熱く柔らかな の身体がタオル一枚隔てて、すぐそこに感じられる。
‥‥こういうのを、お預けってんだよな‥‥

2階に を運び上げ、ベッドにそっと置く。
盛大にため息をつくと、下着とパジャマを取る。
目はさっきと同様きつく閉じたままだ。
よし、着せ終わったな。
目を開けてみると、ありゃ、ボタンをかけちがえたか。
ボタンのすきまから、さっきオレが選んで引き出しの上の方へ出しておいた下着が覗きやがった。
コンチクショー!!!!

肌掛けを にかけると、氷枕をつくりに再び階下へ降りた。
おれも頭を冷やしたいぜ。冷やせば。冷やした時‥‥
何動詞活用してんだよ、頭混乱してるな。
ああ、そういえば、腹も減ったじゃん。
なんか簡単にできるもの、といえば、あった、あった。
夏の定番、素麺。
手早くゆでる。
こういうことは結構うまい。
母親なしで育ってきてるからな。
勝手に冷蔵庫の中を覗かせてもらって、適当に残りものをひっぱりだす。
めんつゆも拝借して、と。

‥‥うそだろ、こいつ、背後霊かよ?!
「カンちゃ〜ん、おなか、へったあ〜」
‥‥もう、何も言わん。
ほれ、座れよ、お前も食え、どうせ今日は何も口にしてねえんだろ。
「ヘへヘ、当ったりい〜」
向かい合ってそうめんを啜る。
「ハンクロー、はべんのはやすぎ〜」
は?ああ、食うのが早すぎるってか?ばかやろ、忍者が食うの遅くてどうすんだよ。
「ほっか、ははは」
お前が遅すぎなんじゃん。
「んなこと〜ないも〜ん、早食いは身体によくないんだよお〜」
お前見てる方が身体に毒だよ、おい、いい加減前のボタンの掛け違い、直せよ。
正面から見てる方の立場も考えてくれよ、ったく。
「え〜、あれ〜、いつ着替えたんだろ〜。
あ〜、このブラ、かわいいでしょ〜」
こ、こら、み、見せんなよ、んなもん。
「な〜んでえ〜、あ〜照れてるんだあ、か〜わい〜い、カンクロー///」
今日はいったいどうなってんだよ、こっちの調子狂いっぱなしじゃん。

熱は、と額に手をあててみる。
ああ、ちょっと下がったみてえだな。
じゃあせっかく起きたんだから、尋問させてもらうとするか。
おい、夕べ何してたんだよ、パジャマにも着替えねえで。
「ん?夕べ?え〜とね〜、起きて本読んでた。」
何の本だよ。
「へへへ、恋占い」
なんとまあ、乙女チックなもん、読んでたんじゃん。
「乙女だもん」
へいへい。で?
「おまじないしてたの、もっと積極的になれるようにって」
‥‥どうして?
「だってさあ〜、いっつもカンクローにばっか、リードされてさあ、いいようにあしらわれてるんだもん。
あたしだって、ちょっと、やり返してみたかったの」
‥‥そーかよ、じゃあ大成功じゃんよ。
「え〜、そうなの?嬉しい〜」
‥‥全く、自分じゃわかってないのかよ。意味ねえじゃん。
で、そのまじないってどうやんの。
「あ〜、カンクロウもやりたいの」
バッカヤロー、違うじゃん‥‥
「イーよ、イーよ、照れなくても〜、教えたげるね。
あのね、好きな人のもの、服とか、アクセとか、なんでもいいから手に入れて、それ自分が身に付けて、魔法の飲み物飲むの」
‥‥マジかよ、乙女過ぎじゃん‥‥ついてけねー。
その魔法の飲み物ってのは、なんだよ。
「ふふふ、カクテルつくんの、シロップとお酒でぇ」
‥‥それって、チューハイじゃん。
見るからに酒に免疫なさそうなくせに、そんなもん、飲むなよ。
「え〜、でもおいしいんだよ〜、作ったげよか」
いらねえよ。
今もまだ酔っぱらってるみたいな口調だな、まあ、これは熱のせいだろうが。

え、何だよ、急に、な、泣くことないだろ、おい。
「‥‥だって、いっつも、そんな風にカンクロウだけ、大人なんだもん‥‥。
ずるいよお〜。
このおまじないだってさ、私、カンクロウのものなんて、何にも持ってないから、適当にTシャツ買ってきてさあ、それで間に合わせてるんだよ。」
‥‥Tシャツ?
「そーだよー。ほら、今カンクロウ着てるのもそうだよ。
カンクロウのってことにしてんの。
彼氏ならアクセ交換とかしたいけど‥‥
カンクロウ、してくれないでしょ。
忍びは身の回りのものを、やたらあちこちにおいてちゃ足がつくからだめだ、とか言っちゃってさあ‥‥
片思いの頃ならいざ知らず、付き合ってるはずなのになんか、もう、寂しいよ‥‥」

いやはや、こいつがそんなオトメチックな奴とは知らなかったじゃん‥‥
ていうか、女は多かれ、少なかれ、そんなもんなのか。
Tシャツ、5枚はあったな‥‥弱い癖に、アル中になっちまうぞ。
て、おい、また寝てやがる。泣き寝入り、か。
しょうがないなあ。
再び を2階まで連れて行く。
今度は、例のお姫さまだっこってやつ。
眠ってる にはわかりゃしないんだけど、俺自身悪い事した気になってたから。
さっきのじゃ、カラス持ってるのとかわらねぇからな。
『付き合ってるのに片思いの頃みたい』は、ちょっとこたえた。
別に粗末になんか、してねぇんだけどな‥‥

窓の外はすっかり闇に覆われている。
じき真夜中だもんな。
もう、熱もさがってきてるし、帰っても大丈夫そうにも思うが、さっきも何回も起きだしてきたし、一人っきりにしとくのはやはり不安じゃん。
2人でいたって正直、あぶないが‥‥おれが‥‥
のそばでなんか、眠れねぇじゃん‥‥
寝返りを打たれる度にぎょっとする。
コイツは横向きに寝るのが好きらしく、こっち向いても、むこうを向いても必ず、横を向いている。
それが、眼の毒だっつーんだよ。
肩からウエストへ下がっていき、また腰へと上がってカーブを描くS字曲線が表になったり、裏になったり‥‥
胸はねえんだけど、妙にウェストから腰にかけてが色っぽいんだよな。

‥‥そうだ、忍服めちゃ汚かったな、洗っとくか。
俺は我慢できずに階下へ逃げた。
洗濯機のごろごろまわる音を聞きながら思う。
今日はまったく、俺らしくないじゃん。
の一言、一挙動にハラハラさせられっぱなしだ。
まだ2時前かよ…
このまままんじりともできずに、夜を明かすしかなさそうじゃん‥‥

けど、昼間の任務の疲れがでたのか、うとうとしてたらしい。
なんか、重たくて目を覚ましたら‥‥
また、コイツじゃん!!
勘弁してくれよ、何のために1階にいると思ってるんだよ!!
ソファでうたた寝してたおれのひざの上に、頭を載せて寝てやがる。
あのまじないとやらは全く効果抜群らしいな!!
こんなに積極的な ははじめてじゃん!!
もう、どうなってもしらねーぞ!!

なかばキレたオレは、無言で立ち上がると をひっつかんで移動。
2Fのベッドに彼女を放り出して、上に覆い被さり、強引なキス。
口の中を蹂躙する。
「ん、ん、うぶ、‥‥」
同時にパジャマの上着を剥ぎ取ると、薄暗い中に華奢な の上半身があらわになる。
やっと目を覚ましたらしい。
「ん?んん〜!?ぷはっ、はあ、な、なに、カンクロ‥‥」
「なに、じゃねえ!」
びくっ
「オレが理性総動員してるのに、からかうのもたいがいにしてくれ!
オレがそんなに気が長い方じゃないのは もよく知ってるじゃん!
お前が焚き付けたんだぞ、消えるまでつきあえ!!」
どなりつけると、 の両手をぐいっとまとめ、ベッドに押さえ付ける。
噛み付くように唇を塞ぎ、声を消す。
もう片方の手で、ブラの上から、乱暴に の胸を弄ぶ。
じきにホックがはずれて胸があらわになる。
口を離すと、胸を攻めてた手で口をふさぎ、今度は胸にキスを降らせる。
とんがったピンクの乳首をくわえ、舌でころがし、吸い付く。
「ん〜、ん〜、うう‥‥」
今頃抗議してもおせえんだよ、ただの雄になっちまった俺は聞く耳なんかもたねぇぞ。
のやわらかな匂いに酔ったみたいだ。
首筋へ舌をはわせ、耳に息を吹き掛けながら甘噛みする。
「う、ん、んーっ‥‥」
知るか。
煽るだけだぜ、そんな声出したら。
知らず知らず、パジャマの下の方へ手がのびて‥‥
うざいな、おまえがどんどん叩いて引き離そうとしても、かなう相手じゃないぞ。
手で塞いだ口がもごもごなんか言ってたが、途中から、声が涙まじりのくぐもったものにとって変わってきた。
はっとして口から手を離した。
「や、やめて、お願い、こんなのいやだ、う‥‥」
ぎゅっと閉じてた目が開いたかと思うと、涙がぼろぼろこぼれてきた。
さすがの俺もうしろめたくなって、のしかかってた身体をおこし、 の両手を解放した。
「私が、悪いんだ‥けど‥、ご、ごめんなさい‥‥、カンクロウの気持ちも考えないで、ごめん‥‥
でも、こんな風に、いや‥‥、モノみたいに‥‥」
にここまで言われてなお、襲い掛かれるほど、おれはケモノには徹しきれない。
不完全燃焼決定じゃん、くそ。
仕方ない、 の方が大事じゃん‥‥甘いなあ、おれって。
任務だと非情冷酷、なのによ。へっ。
ため息をついて、 の横に寝転んだ。
腕をのばして抱き締めると、びくっとする。
「こわがんなよ、もう襲わねーよ。悪かったじゃんよ」
「う、うぐ、ひっく」
俺の胸に顔をうずめてなきじゃくる。
「ご、ごめんなさい、ごめん‥‥」
わかってるって。

「なんで、1階に来て寝てたんだよ?」
「‥‥のどが乾いて水飲みに行ったの。
そしたらカンクロウがソファで寝てたから、一緒にいたいなあって思って‥‥。
寝顔見てるうち、寝ちゃったみたい」
まあ、ね。やっぱ、こいつは男がわかってないじゃん。
「あのさ、男ってのは狼な部分が大きいんだから、あんまり刺激すんなよ。
タガが外れたらさっきみたいになっちまうじゃん」
引かれるのを承知で警告。
「それって、こういうこと?」
指差す先には、タオルごしに、臨戦体勢になってるオレが‥‥
「わ〜っ、何見てんだよっ。」
「なによ、私だってそんなお子様じゃないんだから、過剰に反応しないでよ」
オトメチックな割に冷静だな、お前はっ。
「お風呂場でだってちゃんと‥‥もごっ」
みなまで言うなっ。
お前を乙女扱いするのは、今日でおわりだ!
「あ、洗濯物、干しといたから。
黒のボクサーブリーフなんて、渋いね〜」
口おさえてる俺の手を払いのけて言う台詞がこれかよ?
さっきの涙はうそなのかよ?!
「‥‥うそじゃない。‥‥カンクロウ‥‥怖かったよ‥‥」
よし。男の怖さがわかったか。
「‥‥どうせなら、もっと優しくしてよ‥‥ね‥‥」

うっ、くそ。
潤んだ上目使いできたか。
ああ、一気に形成逆転じゃんか。
だめじゃん、おれって、受けは基本的に。
いや、無理強いが好きなわけじゃねえけど、反対に相手から迫られると引けちまう。
「わ、わりいけどよ、明日も、いや、今日も早朝から任務じゃん。
帰るわ。」
「え〜、ひっど〜い、病気のカノジョを放っとくの?」
もう、ほぼ、なおってるじゃん。
「もう!パンツ返してやんない」
そうくるかよ!いくらなんでも、パンツなしで帰れるかよ、返せよ!
「やだっ!」
なんなんだよ、一転して、このバカバカしい展開は!?
しかし、こいつも意地になると引かないからな。
しょうがない、奥の手じゃん。
おれはひらひらっと手を動かした。
部屋の角で何かがすっと動いて、窓から出て行き、また戻ってきた。
カラスだ。
俺の忍装束と問題のブリーフを持っている。
仕込み傀儡の名が泣くなあ。

「‥‥!ずる〜いっ!!」
へっ、しょうがねえじゃんか、非常事態じゃん。
「‥‥どこがよ‥‥。もう、つまんないことで忍術なんか使っちゃってさ‥‥。
‥‥また、一人になっちゃう‥‥カンクロウのばかやろー!!
帰ればいいわよっ!!帰っちゃえ!!!帰れ!!!」
今日はよく泣く奴だな、しかし。
熱がまた出るぞ。
「いいじゃない、どうせカンクロウには関係ないんでしょ!!」
おい、関係ないわけないじゃん。
誰彼かまわず、さかったりしないぞ、おれは。
「そ、そんなことと、これは関係ない‥‥」
あるんだよ!!
好きでもない奴にちょっかいだしたりするほど、俺はひまじゃねえ!
好きだから、抱きたくなるんじゃん!!
わかったら、もううだうだ言うな!!
眠る迄ついててやるから、もう、寝ろ!
次来る時は寝かしてやんないぞ!って、しまった、口が滑った。

「//////えっち/////」
ふとんに潜り込んだ がぼそっと言う。
「‥‥でも、‥‥カンクロウは‥‥変態でも、好き‥‥」
もう少しいい言い方ねぇかよ。
「‥‥じゃあ、すけべ‥‥」
布団を頭からひっかぶって言う。
もういいじゃん。
おい、ちゃんとパジャマ着てからねろっつーの。
あれ、なんでいまさら、着替えるのにうしろむくんだよ?
「だって、恥ずいもん‥‥」
おっ、こういうのがいいんじゃん、これなら俄然おちょくりたくなっちゃう。
恥ずかしそうな後ろ姿に抱き着いて、首筋にきつくキス。
「ひゃあっ、っつ!?」
出来上がり〜、次来る迄の記念じゃん。
「あ、あほっ、こんなとこつけたら、ハイネックしか着るものないよ〜」
まあまあ、いいじゃん。
なんなら、マジックペンで「カンクロウの」って、書いとくか。
「も〜〜〜〜〜!!!!!知らない!!!!!」
ひゃははは、楽しいなあ、やっぱ おちょくるのは辞められないじゃん。

なんだかんだ言って、 が眠りに落ちたのはもう、空が白んできたころ。
ふぁ〜あ、ねそびれちゃったじゃんよ。
まあ、十分遊べたし、これでしばらく会えなくても元気でいられるだろ、 もおれも。
コトのほうは、またしても未遂に終わったが、まあ、あせることもない。
もうちょっとまめに様子みにくるか、また、へんなまじないされても困るし、アル中になってもらっても困るからな。
ちょっと迷ったが、Tシャツを下にきたまま、忍服に着替える。
すーすー寝息をたてている にそっとキスすると、
「Tシャツ、もらってくぜ、次来る時にやるよ。
せいぜいまじないにでも使ってくれよ、じゃな」
カラスを背負うと朝焼けの中を出発した。
気の早い蝉が鳴き出してた。

 

*閉じてお戻りください*

 

蛇足的後書:2004年7月の作。ドリーム書き始めたばかりのころの脳内暴走の赴くままに書いたシロモノです。
これって別に裏じゃないような気もおおいにしますが、手を出してるんで一応、ね。
そこらへんの迷いがこの中途半端な背景色に現れてます。ヘタレは私だよ、ったく。