とばっちり 

「忍具ならいざ知らず、スポーツ用品なんて何選んだらいいのか、かえってわかんねえな」
「提案したのはカンクロウのくせに、無責任なこと言うな」

テマリの誕生祝いを選びにスポーツ用品店へやってきた砂兄弟。
運動神経抜群(あまりにも当然)の彼女向けの商品がきっとあるだろうと思っての行動だったが、いざ一点にしぼろうと思うと何にすればいいのかわからない。

「無難なところで、トレーニングウエアとか」
「・・・・お前はテマリの好みがわかるのか」

つい先日忍び装束を新調したばかりのテマリ。
上忍になってコンサバ路線へ転向したのかと思いきや、一気に過激なミニ(おまけにノースリ)に返り咲いた姉の好みを、正直弟どもは計りかねている。

ミニを求めてテニスのスコートやゴルフ用のショートパンツの売り場をウロウロ。
「道具を振り回すって意味じゃ似てるしな、機能的には問題ねえだろ」
「・・・・あいつの技はそんな優雅なものじゃないと思うがな」

しかし、これを着たテマリは任務に行くより、デートついでに木の葉のゴルフ場かテニスコートにでも行ってしまいそうだ。
「貴重な戦力をみすみす木の葉にとられる訳にはいかんな」
「じゃあトレーニングウエアはやめて、レジャーに目を向けようぜ」
「というと」
「やっぱ夏だし、水着かな」
「俺は女の水着なんぞ余計わからんぞ」
「俺だってわかんねえよ、いっそ上にはおるものでいっか」

あたりさわりのないパーカを選んだ。
義務は果たしたので時間つぶしに店内を物色してまわる。
「おい、いいものあったぞ」
筋トレ用品を見ていたカンクロウの嬉しそうな声。
ピーナツのような形のフィットネス用のボールを背負い、片手を突き出してパー。

「砂漠の我愛羅参上〜♪」
「・・・ばかばかしいと思わんか」
「そう言うなよ、我愛羅といえばやっぱ、ひょうたんだろ」

ぽんぽんボールを叩いていると今度は我愛羅が「カンクロウ」と呼ぶ。

「なんだよ___」

言いかけて絶句。
背中にマネキンをのせ、傀儡師お得意のマリオネット操作ポーズを決めている。

「・・・わかったからやめてくれ、我愛羅」
「せっかくカンクロウにもトレードマークを見つけてやったのに」

不満そうにマネキンを戻す我愛羅。
いぶかる店の人に頭を下げつつ、汗をかくカンクロウ。

「トレードマークはもういいから、自分用の水着でも見るか」
「いいだろう」

水着を物色する二人。
「しめつけるのやだし、まあこのセンかな」
カンクロウが選んだのはごくありきたりなサーファー風の海パン。
「お前も選んだのか___」
我愛羅が凝視しているのはレーザーレーサー。
「我愛羅、お前競泳用だぜ、それ」
念のため注意を喚起する。
「別に何用でもいい、泳ぐわけでなし」
「泳がないでなんでそんな水着が必要なんだよ」
「万が一入水しなければならなくなった時、砂の鎧はいかにも不便だからだ」
「・・・別にそれは鋼鉄製でもなんでもねえけど」
つまりはみてくれの問題らしい。
「好みの問題だし、まあいいか」
支払を済ませて帰路についた。

思いがけず木の葉から海水浴のお誘いがあったのは数日後。
前倒しで渡したパーカをテマリは思った以上に気に入ったらしく、当日も持って行くと言ってくれた。

「俺たちも水着買っといてよかったな」
「ああ」
準備しながらふと不安になり我愛羅に尋ねるカンクロウ。
「・・・でもあれ着ねえよな、別の持ってるだろ、普通の水着」
「着ない物を買うほど、俺はばかじゃない」
「いや、そうじゃなくて、あれはちょっと違うだろ」
「カンクロウは時々わけのわからないことを言う。
日に焼けすぎないし、機能的だし、貫禄もある」
「ん、まあ、なんだ、競泳プールでならいいんだろうけどさ、海辺でそれは」
「海だって水がある事には変わりない」
「でもな、TPOというものが・・・って、お前、ヒョウタン!!持ってく気か?!」
「忍者たるもの常に忍具をそばにおくのは当然」
「いや、そりゃそうなんだけど、ちょっとそれは目立ち過ぎ___」

ずずっとカンクロウに詰め寄る我愛羅。
「お前が店で俺のトレードマークと言ったんだろうが」
「・・・そりゃそうだけどよ」
「どこに居ても砂の忍びは砂の忍びだ、忘れるな。
で、カンクロウの傀儡は」
「・・・持ってかねえよ、レジャーに傀儡はむかねえもん」
じっとカンクロウを凝視する我愛羅。
「・・・なんだよ」
「カンクロウには、他にもトレードマークがあったな」
ガン見され、それが隈取りだと気がつくカンクロウ。
「ええ〜っ、海パン姿で隈取りかよ?!」
「俺一人に砂を背負えと言うのか」
「・・・誰もそんなこといってねえじゃん」
「なら描け」
「なんでオレだけ?テマリだって扇子持っていかねえだろ」
「あいつはいざと言うときは奈良という忍具を行使できる」
「いや、でも、へんに日焼けするじゃんよ」
「常時描いていれば日焼け跡等誰にもわからん」
「・・・・」
「いいな、裏切るなよ」
風影を裏切る等言語道断。
ましてや、それは「ウチの我愛羅」である。

「なんだよ、その中途半端なかっこ」
海水浴場で、テマリが笑いをこらえて隈取りに海パン姿のカンクロウに言う。
「ほっとけよ。兄としては弟との約束を守る義務があんじゃん」
「はあ?何わけわかんないこと言ってんだ?
まだらに日焼けしても知らないぞ」
痛いところをつかれた。
「次来るときはUVカットのサンバイザーもってこいよ、頭巾よりは海パンにあうだろ」
「ほっとけよ!」
「で、なんで我愛羅はあんな水着着込んでるんだ」
「・・・砂の鎧のかわりだろ」
しかも赤。
確か俺が見たときは黒いのを手にしていたのに、いつの間に入れ替えたんだ。
「まったく、変な弟どもだよ」
複数形で言ってくれるな。
「テマリに誕生日プレゼントなんか選ばなきゃよかったぜ」
「は?」
「なんでもねえよ」

砂の忍びも泣きたくなることもある、とぼやいたカンクロウだった。

 

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