出陣前
「次はいつこれるか、わかんねーよ、
」
珍しくカンクロウがこぼした言葉。
彼はめったに仕事のことを話さないし、私も聞かなかった。
どうせ、何も手助けできないし、危険な話なんか聞いて心配ばかりしてるのもいやだったから。
「なによ、カンクロウったら、もう二度と来れないみたいに〜」
不安な心を悟られまいと、わざとちゃかしていってみた。
「それも、ありじゃん」
氷水の中に投げ込まれたような気がした。
「う‥そ‥でしょ?」
「最悪は、な。
まあ、いつだって、任務には危険がつきもんだけど、今度のは、マジで命がけだかんな。」
あっさり言うカンクロウだが、普段なら絶対にこんなことは言わないので、本人も相当覚悟してるのがわかった。
「‥‥ちょっと、やだよ‥‥」
なんとか言葉を絞り出した結果がこのまぬけなセリフ。
「しかたねえじゃん」
表情が読めない。
感情の片鱗でも、とカンクロウの顔を凝視したけど何もわからない。
いつもと変わらない、薄緑の薄情そうな瞳と、高くてちょっと大きな鼻、への字にむすばれた口。
言葉がつげず、かといって、目を離すこともできず。
ありゃ、なんか、視界が曇ってきた。
「‥‥だから、言うのはいやだったんじゃんか。泣くなよ」
え、あたし、泣いてるの?
ホントだ、鼻水まで出てきてる、やだ、なんでよ、全然意識してなかったのに‥‥
「ご、ごめ‥‥」
声が震えてるのが自分でもわかった。
ああ、もうだめ。
どわ〜っと津波のように押し寄せてくる感情の波に思いっきり呑み込まれてしまった。
無理矢理涙を止めようと目をつむり、口をおさえて嗚咽を飲み込もうとするけど、うまくいかない、いくわけない。
「‥‥言っても無駄だけど、‥‥泣くなよ‥‥」
困ったようなカンクロウの声が聞こえて、しゃくりあげる私のからだが彼の腕の中におさまる。
カンクロウの心臓の音が聞こえてきそう。
世界で一番安心できるところ。
それがなくなるかもしれないなんて‥‥
あり得ない、考えられない、信じられない、許せない‥‥
「‥‥い、行かないで‥‥やだ‥‥カンクロウが‥‥なんで‥‥かわってもらってよ‥‥だめ‥‥」
支離滅裂に混乱した言葉をぽろぽろ口から取りこぼしていくしかできない。
その口がカンクロウの口で塞がれた。
‥‥鼻水でうまく呼吸ができないので、正直苦しい。
でも、言葉でなんだかんだ言われるより、カンクロウの思いがストレートに伝わってきてずっと嬉しい。
歯列を割って入ってきた舌先を私の舌先で受け止める。
正直ここまで、深いキスなんてあんまり覚えがないけど、今はそれが心地いい。
カンクロウが私のそばにいるんだという確たる安心感に満たされて。
もっと、一緒にいたい、ずっとこうしていたい、そんな気持ちになるような、キス。
カンクロウが口を離す頃には私の涙もとまっていた。
しかし、糸、ひきすぎ‥‥私の鼻水のせいかも、きったない、ごめん〜。
ハンカチを今さら取り出して、カンクロウの顔をわしわしと拭く。
その手をがしっと、掴まれた。
「‥‥(俺に、‥お前を‥‥くれ)」
目で訴えてくる。
以下、目と目の会話。
「‥‥(あ、あ、その、え〜と、きかれると、どう言えばいいのかしら)」
「‥‥(どうなんだよ)」
「‥‥(い、いや‥‥)」
「‥‥(いやか)」
「‥‥(い、いや、‥じゃない‥‥)」
「‥‥(じゃ、いいんだな)」
「‥‥(か、かな‥‥)」
「おい、はっきりしろよ!?」
堪忍袋の緒が切れたカンクロウが声を出す。
いや、でも、こんなこと、はっきり言え、と言われても、その、なんとなく、の流れしか考えてない私は‥‥
「ずるいんだよ、
は。
もう、いい。じゃあ、帰るじゃん。」
「え、うそ、なんで、会ったばかりじゃない」
「‥‥押し倒されたいのかよ。
このままいたら、そうなるじゃんよ。
やなんだろ、なら、帰るしかねーじゃん。
‥‥‥
次があるかどうか、知らねーけどよ」
うっ、そうきたか。
く、くそっ、痛いところをつかれた。
何か言わなきゃ。
「あの、その、えーと、だから、い、い、い、‥‥‥」
カンクロウの緑の瞳と私の瞳がかち合う。
憎たらしい三白眼。
酷薄そう、とか、目つきが悪い、とかいわれてるけど。
私に取っては、この意地悪な視線がなくなることは、死ねといわれたも同然で。
待って、ほら、いっちゃうよ、こら、
、何か言うんだ!
「行かないで!」
自分でもびっくりするぐらい大きな声がでた。
カンクロウも予想外だったみたいで、ぎょっとした顔をする。
「急にでかい声だすなよ、びっくりするじゃんか」
私だって驚いたわ、OKといったのと同じ答えに、口を手で塞ぎながら恥ずかしさで全身火がついたよう。
ニマッとカンクロウが笑って言う。
「では、勇気ある
ちゃん、参りますか」
ひょいと私を持ち上げる。
ああ、もう、恥ずかしい、恥ずかしい、恥ずかしい‥‥
お姫さまだっこされた、耳元でカンクロウが囁く。
「‥‥ついに、いただき。」
ベッドの上にそっと置かれたと思ったら、上に上半身裸になったカンクロウが覆いかぶさってくる。
す、素早い‥‥いつ脱いだのよ‥‥
「もう、逃がさねえぞ」
私の首筋に顔をうめて、低い声でささやく。
それだけで、もう、なんか、ぞわっとしちゃった。
でも、きっと、おびえた顔をしていたんだろう。
私の顔を覗き込んで、
「怖がらなくてもいいじゃん、‥‥やさしくするから。」
そう言って口を塞いだ。
また、あの、しびれるみたいな深い深い口付け。
舌と舌がからまって、ざらざらする感触に、胸がきゅんとなって、お腹の奥の方がぎゅっと疼く。
あ、ボタン外してる‥‥
やだな、私、胸ないから、ま、そんなこと、カンクロウは百も承知だろうけど‥‥
そっと、つつみこむみたいに胸にさわってくる、カンクロウの手。
いかつい外観からは想像しにくいけど、カンクロウは傀儡師だけあって、すごく繊細で器用な手を持ってる。
口では憎たらしいことばかり言うけど、ちゃんと私のコンプレックスわかってくれてるからこその優しい愛撫‥‥
うわ、こそばいのとは違う、なんかぞわぞわする感じが胸を覆う。
え、なんかエロい声がしたけど、これ、私?
やっだ〜、はしたない〜。
口を塞ごうとしたら
「‥聞かせろよ、もったいない」
は、そう‥‥もったいないですか‥‥
でも、もったいながる必要もなかった。
乳首を指でもてあそばれたり、口に銜えられたり、キスの雨を降らせられたりしてたら、もう理性なんてふっとんじゃって、自分の声なんか気にしてられなくなっちゃった。
「感度いいなあ、おまえのおっぱい」
そ、そういう赤面ものの台詞言わないでってば!
「ふふん、恥ずかしがるから面白いんじゃ〜ん」
ああ、も、完全になめられる一方だわ。
でも、こんなふうに、間近にカンクロウの裸をみるのは初めてで、なんか、こわいものみたさで、じろじろ見ちゃう。
いかついのは知ってたけど、筋肉ついてるんだなあ〜と、感心しちゃう。
さすが忍者家業長いだけあるなあ。
胸板なんかすごく厚くって、かっくいい////
腕に筋肉の筋がびしっとはいってて、あたしこれに弱いんだ〜。
ああ、この逞しいヒトの腕にだかれてるんだわ、なんて思ったらそれだけでとけちゃいそう。
接近戦は苦手、とかいってたけど、この接近戦はどうよ?
「
、お前、手出さないけど、視姦してるって、わかってんのかよ」
ちょっとあせったような、カンクロウの声。
い〜じゃない、おあいこ。
「逞しいのね、カンクロウさんはvvv」
へへへ、おちょくってやれ。
こうするとヘタレるのぐらい、私だってしってるんだから。
「
、てめー、それで逃げようったって、今日はそうはいかねえじゃん。」
あれ、強気ですよ、カレ。
うわっ!急に下にカンクロウの顔がきてる!
きゃあっ、お腹にキスなんて、しないで、は、恥ずかしいよっ!!!
「きもちいい〜なあ、やわらかくって」
え、ちょ、ちょっと、そこから下はだ、だめ、や、やめて、お願い!!
「なんでだよ、今さらいいじゃん」
や、やなの、キタナイじゃない‥‥
「ハァ?何言ってるんだよ、ぜんぜんきれいじゃん‥‥」
でも、やなものは、やなの、お願い、お願い、お願いだから。
「ちぇっ、まあ、いいや、今回はじゃあ、やめとくじゃん。
‥‥はじめてなんだから、いやなことしたくねえもんな」
こういうとこ、やさしいのよね、カンクロウは。
おっと、真正面に顔が来た、なんか照れちゃうな////
この人の気持ちを見透かすような緑の三白眼で見つめられると弱いのよね‥‥
また、キスで口が塞がれて‥‥
すうっと手が胸から、お腹を通って、足の方へ‥‥
びくっとからだが勝手に反応する。
あっさり下着、脱がされちゃった。
今度は逆に足の先からひざ裏へ、太ももへと、だんだん手が上がってきて‥‥
思わず自分の手で遮ろうとしたけど、ちゃんとカンクロウが押さえてる。
今まで他人が触れたことのない部分にカンクロウの指が泳いで。
執拗な愛撫に、頭に血が上るような羞恥と経験したことのない快感の波にあえぐ。
ひゃあ、今度は口で耳や首筋をせめられて、頭が真っ白。
息を吹きかけられたり、舐められたり、甘噛みされたり、ああ、ここ、わたしすごく弱い。
上と下とで、もうなんか、自分が自分じゃないみたい。
私の口から、映画できいたような声がきこえてくる、信じらんない‥‥
「気持ちイイか?」
そんなこと、返事できないわよっ、見りゃ分かるでしょっ、ああん‥‥
薄緑の眼でじっと見てくるから恥ずかしくて眼を閉じちゃう。
真っ赤になってるのが自分でも分かって‥‥涙がつーっと出る。
カンクロウがそれをぺろっと、舌でなめとった。
「俺も、見てるだけは、もう限界じゃん‥いいか」
眼を閉じたまま、首を縦にふる。
「‥‥ちょっと、慣らすぞ‥‥もう、十分濡れてるみたいだけど‥‥」
指が入ってくる。
1本、2本と数をふやされて、中を掻き回されて、もうなんか、体が勝手にガクガク揺れてる。
カンクロウが私の手をとって、カンクロウの雄へと触らせる。
「大丈夫か、これ、入るんだぞ」
大丈夫よ‥‥わかんないけど‥‥のびるんでしょ、赤ちゃんの出口なんだから‥‥
「‥‥処女の発言じゃねーじゃん‥‥」
とかなんとかブツクサ言ってるけど、正直もう私は嵐の渦中なのでわけわかんない。
うわ、急にカンクロウのからだの重みがのしかかってきて、きゃあ、なんか、はいってきたっ!
「き、きつい、もちょっと、リラックスしてくれよ‥」
カンクロウのかすれた声になんかくらっとくる。
すんごい官能的。
ぐいぐい、棒みたいなものが、入ってきて、痛い、けど、これがカンウロウなのね?
じゃあ、なんとか受け入れなくっちゃ‥‥
それで、カンクロウが気持ちいいなら‥‥
「痛いか‥?」
「ちょっと、‥‥でも、だいじょうぶ‥‥」
「悪いな、多分最初は痛いって‥‥またよくなるらしいから‥‥」
「カンクロウ?」
「なんだ、つらいのか?」
「大好き‥‥」
面食らったようなカンクロウの表情。
でもすぐに、ニヤッと口を歪めて、
「
、オレだけのものでいろよな」
肩をがしっと掴まれて、ぐいっと貫かれた。
「‥‥!!‥‥」
涙がにじんできた、痛い〜、でも、なんか、うれしい、カンクロウが私の中にいるんだ。
「ああ、すんごくいいじゃん、夢の中みたいだ‥‥」
カンクロウの切ないような切羽詰まったような声。
あら、もう夢では私と経験済みのようで‥‥
ちょっと、てれちゃうわ。
「悪い、動くぞ‥‥」
痛い、としか言えない、初体験なんて、こんなものなのかな。
好きな人だから我慢できるのよね、うっ、いつかこれがよくなるのか‥‥
無言でリズミカルに揺れる体。
けっこう動物的な動きでちょっと変な感じ。
やっぱり男と女じゃ違うんだなあと実感する。
こんな動きするなんて、少女漫画じゃわかんないよ。
カンクロウが『さかる』とか、自分でいってたけど、確かに本能的ではあるなあ。
でも陶然としたカンクロウの表情をみてると、‥‥そんなにいいのかな。
あ、私の手に自分の手を重ねて、指を絡ませてきてる‥‥
これって、けっこうぐっときちゃうな、痛い思いが、愛しい感情にすりかわっちゃうみたいな。
私の中にも甘い疼きとでもいうような感覚が生まれる。
これ、なのかな、う、でも、まだ痛い方が勝ってるけど‥‥
どんどん、きつくなってきたかと思うと、‥‥すっと出ていった。
あ、中へ出さないようにしたんだ‥‥冷静だなあ、カンクロウは‥‥
「ふわあ〜、
、最高じゃん!」
どさっと、わたしの隣へ倒れ込んできた。
ふふ、なんか、かわいい〜。
つんつん立ったかたい髪の毛の中へ手を入れて、なでる。
「‥‥カンクロウも‥‥」
「ん?」
「ありがと、やさしくしてくれて」
「まあ、な。
最初にいい思い出なきゃ、次もないだろ。
‥‥いずれ、いろいろやらせてもらうじゃん」
「何よ、いろいろって‥‥」
「そりゃ〜、色々、だよ。
男のファンタジーっつーもんがあるじゃん」
やな予感。
あたし、SMとか、趣味ないからね。
あっ、カンクロウのことだから、包帯でぐるぐるまきとかにされちゃうのかな。
「ま、ご想像にお任せするよ。」
でも、‥‥それなら、絶対、帰ってきてよね。
あたし、幽霊なんて信じないし、霊感もないから!
「はは、死んでも帰ってくるじゃん。との、この瞬間のためにさ。」
もう一度、ぎゅっと抱きしめられてなんか、とっても嬉しかった。
「けっこう出血してるけど、大丈夫かよ。初めてだとこんなになるもんなのか‥‥」
心配してくれてる。
大丈夫、毎月あることなんだから。でも、カンクロウはなんでそんなに慣れてたのよ‥‥
「バカ、自分でやってただけだよ。
お相手は頭の中のオマエだよ。」
げっ、そ、そうなの。
なんか、そういえば、そんなこと、言ってたっけ、夢よりイイとか。
「女と違って、生理的に必要なんじゃん。
って、女はどうなのか、よく知らねえけどよ。
俺がやりたくなる度に本番やってたら、
、お前こわれんぞ」
ひえ〜、なんと露骨な‥‥でもカンクロウらしい表現。
「‥‥ありがとな、
。
初めては痛かったかもしんないけど、これから、どんどんよくなるはずだからよ。」
い、いえ、なんか、そんなに張り切られると恐いな。
私、結構淡白だから‥‥
「いやいや、もっと、開発したら、絶対よくなるじゃん。なんなら、今から‥‥」
きゃあ、うそでしょ、もうあたしへろへろなのに。
正直ひりひりするんです、痛い、勘弁して〜。
「残念。まあ、帰ってきたら一晩つきあってもらうじゃん。」
ああ、さっき、逞しくてうんぬん言ったけど、失言だったわ‥‥
体力あるのも考えものね。
ほんとに壊さないよう、お取り扱いにはご注意下さいませね‥‥
そう言ったら笑って頭をこづかれちゃった。
名残惜しそうに帰っていったカンクロウを、ひきとめたいような、でも、今日くらいあっさりしとかないと、これからこわいと真剣に悩みながら、見送る
であった。
*閉じてお戻り下さい*
蛇足的後書:’04年の夏に作ったものですので、今ならこうは書かないというとこも満載なんですが(いいわけくさい)。
初めてでこの落ち着きはカンクロウといえども絶対あり得ない、と今更思う私でした(ーー;)
「実はできてるはずのアノ作品が見たいです」とリク下さったヨーコさん、こんなものでよろしければどうぞ、お持ち帰り下さいませm(_ _)m
18歳以下で読んじゃった人、忘れましょう、これはドリームですから!