老守り(おもり)

砂隠れの里にはめったにない桜。
じゃあ花見もないのか、というとどっこいそれがある。
人数限定のご招待制ツアー、わざわざ緑豊かな他の里まで遠征して行われると言う。

「ホントご老体ばっかだな」
ボヤくもののカンクロウは、このツアーへの招待もとい強制招集は初めてではない。
「しょうがないだろう、砂の老人会恒例慰労企画なんだからな」
あたりに目を光らせながら答える、これはなんと風影様。

チヨバアやエビゾウの例をとるまでもなく、長寿なことで結構有名な砂隠れの里。
彼らシニアの忍びは、さすがに体力面での衰えは隠せないもの、案外技のキレはよかったりもする。
しかし、一般人が混じる花見の場で、思い出話が自慢話に発展、そのついでに得意技を繰り出されて忍界大戦を再現されてしまっては、
里の今後の任務依頼にも支障がでるというもの。
そこで考案されたのがボディーガードという名の付き添い。
ハイレベルのご隠居相手には上忍以上のレベルは必須。
というわけで、砂兄弟ここにあり。

春爛漫、宴たけなわである。
気の早い桜が花びらを散らす中、一杯きこしめした参加者たちはすこぶる機嫌が良い。
あちこちで昔話や武勇伝に花が咲く。
「おい、ちょっとそこの若いの!
こっちへ来んか〜」
「遠慮しときますよ、任務中に飲む訳にいかないでしょう」
慇懃無礼にご招待を断るカンクロウ。
バッキーにかつて一度だけ使っていた敬語はまだ忘れ去られた訳ではないようだ。
「なんじゃ、愛想のない。
お前んちはおやじの代からかわいげがないのぉ〜」
「ホッ、ホッ、ホッ」
「まあまあ、若いのをからかいなさんなって〜」
なんだよ、おやじの代からって。
つぶやくカンクロウに我愛羅が言う。
「覚えてないのか、春になると親父が憂鬱そうに言ってたろ。
『じき花見だな』って」
「ああ、そういえばそうだったかな」
強面の4代目もやはりご長寿クイズならぬご長寿花見は苦手だったのだろう。
なんせ守るべき方々はへたをすると自分がおむつをしていた時代を知っているのだ。
ひょんな拍子に何を言われるかわかったもんじゃない。
バッキーも
「今年は行かなくていいのだな」
と、やけに嬉しそうにしていた。

「だいたい、な〜んで花見にスーツなんだよ。
窮屈でかなわねえじゃん」
ボディガードはスーツ着用が義務。
普段ユルい格好ばかりのカンクロウにはこれは苦痛以外のなにものでもない。
「どうせ酒の席なんだし、別にラフな格好でいいじゃん」
ネクタイを引っ張って首とワイシャツの間に少しでも隙間を作ろうとしながら文句を垂れる。
「仕方ないだろう、怪しまれない地味な格好といえば昔からスーツと相場は決まっている。
それに年長者に失礼な格好もできん」
しらっと心にもないことを言う我愛羅はしかし、どう見てもイレギュラーな白スーツ。
「そういうお前は怪しさマックスなマフィアもどきの格好だな」
言い放つカンクロウを睨んで我愛羅が言う。
「これは効果を計算しての事」
「一体なんの?」
「フン、わからんのか。
年寄りと言うものは病院から縁が切れないものだ」
「それとこれとどういう関係があんだよ」
「そして老人は医者を偉いと思っている」
「そりゃセンセイだからな」
「医者といえば白衣だ」
「・・・・」
「これを着ている限り、俺の事をとやかく言う輩はいない」
「まあな・・・・」
「言い寄られているのはカンクロウだけだと気がつかなかったか」
そう言えばさっきから言い寄られると言うか、からまれているのは自分だけのような気がする。
風影だから遠慮されているのかと思ったが、そんな予防線が張ってあったとは。
「チッ、早く言えよ。ならオレも次からは白スーツにしよっと」
「カンクロウではだめだ」
「なんで?」
「お前が白ではリハビリ担当の力持ちの看護師にしか見えん。
余計人気者になれるぞ」
そんなことで枯れた方々にもてても嬉しくもなんともない。
ダークスーツに納まってやり過ごす方が賢そうだ。

桜は古い木ほど見事な花を咲かせる。
「あたしたちだってね、同じなんだよ」
「そうそう、体力では若い連中にかなわないが、姑息さでは現役どもはとうてい太刀打ちできないさね」
「ギャハハハハ」
好き放題言っている老女たち。
うっかり目が合ってしまったカンクロウ、しょうがなく挨拶する。
怪訝な顔で見返される。
「どなたでしたっけ」
「何言ってんのさ、ほれ、あの」
「ああ、4代目」
そうそう、俺はその4代目のご子息だよ、と思う間もなく
「あんた加流羅とはうまくいってんのかい」
「なかなか落とせなかったからねえ〜」
どうやら本人に間違われている。
「あれ、でもそこにいるのは5代目だねえ」
「ほんに、おっかしいねえ、さては化けて出て来たのかい」
「まあ桜はあの世の連中も好きらしいからね」
時間軸がめちゃくちゃである。

「どうやら親子競演にされてるらしいな」
ニヤニヤする我愛羅。
自分が老け役にされたのは気に食わないながらも、なんだか現実とは違う楽しそうな世界にいるご隠居たちが、少々羨ましいような気もするカンクロウ。
「まあ激動の忍界大戦を生き抜いたんだ、少々ネジが狂ってもしょうがあるまい」
まんま、さめた医者のようなことを言う我愛羅。
「まあな、あんなふうならボケるのも悪くなさそうだな」
俺がぼけたらどんなになるんだろ、とちらりと思うカンクロウ。
「言っとくがストレスの多さもその引き金になるらしいから、風影の俺が先にボケる。
カンクロウは面倒見がよさそうだから後はよろしく」
「おいおいおい!」

「風影様〜、いっしょに飲みましょうよ〜」
「だめよ、アンタ、風影様は未成年じゃないのさ」
「失礼だね、あたしだって60年前はそうだったよ」
「そんな前ならみんなそうじゃろ」
例の元お嬢たちから声がかかった。
顔を見合わせる兄弟。
我愛羅が返事する。
「では、お誘いに甘んじてご相伴いたしましょう」
「さすが風影さね♪」
「わたしさあ、3代目様に憧れてたのよ、実は」
「まあ今日は5代目で我慢しときな、まだまだケツの青いガキだけどさあ」
「・・・・・」
しっかりなめられている、白スーツの威力もモトくの一には効果が薄いらしい。
「あんたもついでにどう、そこのダークスーツのお付き」
「なんで俺はお付きなんだよ?!4代目じゃなかったのかよ?!」
爺さんグループからブーイングが飛ぶ。
「おう、おめえさんたち、さっきはこっちの誘い断っといて」
「うるさいね、男はいくつになっても女が好きなんだよ」
(違う!)と心の中で叫ぶ兄弟。
「フン、フケ専かい」
(違う!)とさらに大きな声で叫ぶ。
「まああとでこっちにも来な、兄ちゃんたち」
「昔はなあ・・・・」

春の宴はまだまだ続く。
そして砂兄弟も花見が苦手になる日はそう遠くなさそうである。

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蛇足的後書き:大好きサイト様であるFADE TO BLACK様
アニナルで白スーツの我愛羅が登場と思ったら、管理人のアイコさんがちゃあんと彼と、嬉しい事に(期待通り)兄貴もセットで描いてくださいました。
それが嬉しくて調子こいてこんな妄想話を書いて、押し付けてしまいました。
花見のばあさんチームには私もいると思ってください(笑)。
看護師のカンクロウに「ばあさん、さぼんないでリハビリしな!」とか言われて憎まれ口ききたい@歪んだ愛(//^^//)。
VIVA、妄想ワールド〜!!皆さんご一緒に!!(笑)