*ナイトクラブ我愛羅への珍客*
いつにもまして暗い「ないとくらぶ我愛羅」。
    中には沈みきった表情のマスターとバーテン。  
「‥‥なあ、俺たちってじき出番おわるのかなあ‥‥」
  「‥‥わからん。神のご意向ひとつだからな」
  「ま、お前はなんやかんや言っても、主役に好かれてっからよ。
  こないだだってチョードアップだったじゃん。
  俺なんか、行ってきます、っつってから久しいじゃん。
  本当に登場できるのか自信なくなってきたぜ」
  「‥‥若い身空でデスマスクをさらされて何が嬉しいものか」
チリンチリン。
  「お、客じゃん、明るく、明るく」
  「‥‥俺の売りは暗さだ」
  「ったく!いらっしゃいま‥‥何で、お前らがこんなとこくんだよ?」
  カンクロウのけんか腰の声に我愛羅が顔を上げると、
  忘れもしない、あの芸術コンビがマントを翻し入り口に立っている。
  
  「‥‥何の様だ」
  「可愛い後輩が店を開いてるって聞いて、一杯やりがてら視察に来た訳だ」
  「思ったよりはいけてるなあ、うん。
  オイラが装飾した方が良かったとは思うが、まあ砂ならこの程度だろ、うん。」
  
  元暁の彼ら、出番が終わって暇になったからここへ来たらしい。
  勝手知ったる、といった風でさっさとカウンターに陣取る。
「‥‥ご注文は?」
  陰険な声で我愛羅が、それでも注文を聞く。
  
  「うん、そうだなあ、秋空のように美しいカンパリソーダでももらおうかなあ」
  「あいかわらず軟弱だな、俺はテキーラ」
  「そんな強いの飲んで、ホットミルクにでもしといた方が顔にあってるよ、うん」
  「やかましい!だいたいなんだ、さっきの言い草は。
  『砂ならこの程度』だと?『岩なら』の間違いだろうが」
たのしく盛り上がる二人にカンクロウが割って入る。
  「一体、何の用なんだよ、お二人さん、え?
  単に飲みに来たとは思えねえじゃんよ」
  「さすが後輩だな、筋がいい」
  「だんなの身びいきには呆れるよ、全く」
  
  ‥‥ドンッ‥‥
  我愛羅が注文の品をはでな擬態音とともに彼らの目の前に置く。
  
  「まあ、もったいぶることもなかろう。
  早い話があぶれもの同志、新しい秘密結社でも作らねえかと思ってな」
  「‥‥秘密結社?(あぶれものだと?!)」
  「うん、そうなんだ。暁はもうクビ、おっと、脱退したからさ、
  なんか面白そうなやつらと組もうかと思ってさ、うん」
  「冗談キツいじゃん、お断りだぜ。
  いつ俺たちがあぶれたってんだよ、まだこれからあんたんとこの残党やら、
  音のヘビ(メタ?)男と一戦交えようと思ってるとこなんだからな」
  「まあ、そう強がるな。チーム名ももう考えてある」
  「‥‥なんだ、それは」
  「「チーム黄昏」」
  「「でてけ〜っ!!!」」
砂だらけになった室内を掃き清めながらカンクロウが言う。
  「全く芸術家ってのはやっぱ、理解できねえじゃん」
  「‥‥ギャグセンスはお前といい勝負かもな」
  「何だって?」
  「‥‥何でもない。カンクロウも案外芸術家かもな、と言ったんだ」
  「そっか?」
  
  一転して楽しそうに作業を続ける兄を横目で見ながら
  「‥‥仲間なら誰でもいいって訳じゃない‥‥俺は一人暗闇でいい‥‥」
  そうつぶやく弟だった。
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