悪夢


夢を見た。
ベッドの上で金縛りにあったように動けない私の目を見透かすように濡れた黒い瞳がのぞきこんで言う
‥‥僕が‥‥やさしいから は‥‥雄ってこと、忘れてないかい‥‥
薄く笑って唇をむさぼる
いつもみたいにやさしい触れるだけのキスじゃない。
噛み付くような、貪欲なくちづけ。
歯列をわって、強引に舌をからめてくる。
息をするのがやっと。
ずっと唇が塞がっているのになぜか声がきこえる
・・・幻術だよ、 は忍びじゃないから知らないね
思考が読まれてしまう事に驚いて目を見張る
‥‥びっくりした?
内側から裸にされたようで思わず頭に血がのぼる
‥‥ふふふ、顔が赤い。正直だな
私を抱き締める腕に力がこもる。首筋に顔を埋めてつぶやく
‥‥柔らかいな、それに甘い香がする‥‥
耳に息をふきかけながら続ける
‥‥気持ちがすさんでると
私の背中へまわっていた手が後ろから離れ、片手で私の両腕を上にまとめあげ、もう一方の手で今度はゆっくりボタンをはずしていく
‥‥無条件で受け入れてくれる場所がほしくなるんだよ‥‥.
パジャマのなかへひんゃりする骨張った手がはいってくる
‥‥クノイチはだめだ、忍びに関係がない がいい
はだけてあらわになった、私の胸をそっと触る。
脇の下のくぼみから乳房のふくらみをなぞりあげていく。
ぞくぞくするような初めての感覚と羞恥心でびくっと体が反応する。
‥‥かわいいね
いとしそうに手で円を描くようにして愛撫する
口で乳首をころがすようにして弄ぶ
息が乱れる 羞恥で目をあけられない
‥‥ 、目、閉じないで
胸からウエストへと手がおりてきた
繊細な指先で腰へと続くラインをたどる
いきつもどりつ、次第に下へ下へと
思わず自分の口からもれる甘い吐息と見知らぬ声にとまどい、声がもれないよう唇をかむ
‥‥声を押さえる必要はない
また目をまっすぐ見て言う
‥‥夜はまだ始まったばかりだよ‥‥

はっと目が覚めた。
風でカーテンがはためいていて、ベッドには私一人。
なんて夢を見たんだろう。
願望にしても、あまりにも生々しい感触。
まだ彼の手が肌にあるような。
くちなしのねっとりした、からみつくような香りがどこかからする。
湿った蒸し暑い夜の中。
甘い疼きがほてった体に残る
初めてじゃないような、デジャヴのような感覚
いつか、同じ夢を見た事がある

その瞬間闇の中に赤い炎がゆらめいた

私はまた、先ほどの夢のなかへいた
今度は自分の姿を見下ろしている自分がいて、そのわたしもまた、同じように横たわっていて
まるで二つの鏡を合わせたかのように同じ映像が私を取り囲んでいる。
どの私の上にも彼がいた
覆いかぶさってくる男への正体のない恐怖と、本能的な期待
言葉はなく、でも私に触れる手も唇もさっきの夢と寸分違わない
のしかかる重みがこの行為が今度は現実であることを告げる
繊細で冷ややかな、でも女とは違う男の手
しなやかな、ひきしまった、かすかに汗と血の匂いのする体
執拗に私をむさぼる唇
今度は目が覚める事はなく
夢が途切れることもなく
理性の必要無い感覚だけの世界へひきずりこまれる
私は自分の知らないもう一人の自分へとってかわる
私ではない私の声が響く
目を閉じても、顔をそむけても自分の姿態が何十にも重なり脳裏にうつる
その動物のような、欲情的な姿に涙があふれる
生理的な涙なのか、動揺しての涙なのか、判断できない
そんな私の耳もとで悪魔がささやく

、君は美しいよ、なぜ泣く、怖がる事はない
素直に身を委ねればいい、自分に正直になって

寄せては返す波のように
やさしく荒々しく肌を合わせ、内側からわたしを侵食して行く
羞恥心が消え去り、心が解放される迄
執拗にくり返される愛撫
漆黒の闇の中

夜明けはまだ遠い

掴まってしまった、この美しい、紅い目をした悪魔に

 

*閉じてお戻りください*

 

蛇足的後書:裏だからまあいいか、といれてしまいました。
ひいきキャラじゃないんで冷たいです、ごめんなさい、でも彼ってそれが魅力だから、と逃げる。