*回転寿司*


「おい、高いのばっかり食うなよ」
「カンクロウこそ、子供じみた寿司ばっかり食うな」

平日の午後で客が少ないせいかU字型のカウンター席だけが解放されており、
それも現在のところこの2人のみという盛況ぶり。
お互いの指向を揶揄しながらも仲良く(?)遅い昼食を頬張っていると、
どうやら向かいに違う客、それも女性が来たようだ。


「‥‥オイ、覗くなよ、まったくガキみたいだなカンクロウは」
「悪かったな、好奇心が枯れたら人生終わりだぞ。
お、けっこうかわいい子みたいじゃんvv」。
なんやかんやいっても異性が気になるお年頃の砂兄弟。
「‥‥なんだ、連れがいるぞ」
「チッ、まあ寿司やでナンパもなんだしな」
わさびてんこもりのカッパ巻とサビぬきの穴子をそれぞれ口に放り込みながら様子を伺う。
カウンターを挟むとちょうど相手の口しか見えないが、
かわいらしい口もとと、ピンクのロングヘアーがなかなかいい感じだ。


が、彼女が口をきいたとたん、その幻想はもろくも崩れた。
「お前には2人分食わせなきゃなんねえんだろ?
不経済だってんだよ、おまけにネタが悪いとか文句ばっかりいうゲスチンだしよ」
相手の男が言い返す。
「うるせえな、今日はオレの番だからサコンは出てこねえよ、
お前こそおごってやるとか言っといて、しみったれたことピーコラ言うな」
この口調、間違いない、第一部で共演したあの双子及びそのグループの紅一点だ。
「‥‥まあ、別にこんなとこで戦う必要もないだろう」
「まあ、そうだな」
素知らぬ振りをして食事を再開。


しかしこいつらが現れてから、風下に座っている我愛羅とカンクロウのところへはご贔屓のネタが全く現れない。
見ればコンベアー上のそれらは、向こう岸の2人組がことごとくさらっていく。

卵焼きの一連隊が出て来た。
5個も並んでいるから、いくらなんでも全部はかっさらわれはしないだろうと思っていたらごっそりだ。
「オイ!」
我愛羅が制止する間もなくカンクロウが立ち上がる。
その声にありゃ、と顔を上げたウコンの口には卵焼きが。
前回は黒秘技を食らわされたが、今回はちゃんと目的のものを食らうのに成功したらしい。
「なんだ、黒装束デブか、ウコンと同じガキ寿司派らしいな」
ちらっと冷たい目で『デュエル対決』姿勢の二人をねめつけ、タユヤが吐き捨てる。

我愛羅が敵ながらうまいことを言う奴だとつぶやく。
しかしその余裕も、出口からでてきたイクラがあっという間にタユヤの口に消えた瞬間もろくも崩れた。
「‥‥あとから来たくせに先達の食事をじゃまするとはけしからん」
「な〜にジジむさいセリフかましてんだよ、ボケダヌキが。
弱肉強食の世界で先だ後だとうるせ〜んだよ」

まったく音の書店では『美しい日本語』が販売されていないのだろうか。
領主は不必要に敬語を使うというのに。


カウンターが険悪な雰囲気に包まれたあたりからコンベヤーはまわるものの、
肝心の寿司はまったく出てこなくなった。
従業員一同ご退散あそばしたようだ。
この事実に寿司屋のカウンターで火花を散らしあう彼らはいつ気がつくのだろうか。

 

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