「‥‥おい、そこの女」
  呼びかけられた女性が戸惑う。
  手にもっている買い物メモからすると子供のためにパズルを選びに来たらしい。
「こっちだ、目の前にいるのに見えんのか?
  眼鏡までかけてるくせに、その眼は飾りなのか?」
  その偉そうな物言いにむっとする彼女。
「誰なの?まるでナルトの砂隠れの、あの‥‥
  おでこになんか愛とか描いてある眉のない‥‥」
  「我愛羅だ、ナルトを知ってるなら俺の名前ぐらい覚えておけ」
  「すいません‥‥」
  「どこを見て謝ってる、俺はここだ」
‥‥‥‥‥
  我愛羅は陳列棚にいた。
  カカシと並んで。
  もちろんこれはパズルの話。
「‥‥アナタ、なの?」
  「そうだ、お前の目の前にいるだろうが」
  「ハア‥‥」
  「子供向けのパズルを探しているんだろ、だから呼んでやったんだ」
ずいぶんとタカビーな言い方だ。
  箱の絵柄も見るからにオレ様、正面向いて客をねめつけている。
「俺はラージピースだし、子供でも丁度いい仕様だぞ」
  「あれ、でもこのカカシも同じ初心者向けじゃないですか」
彼女、我愛羅の事はうろ覚えだったくせにカカシの名前はすっと出た。
  さすが木の葉一の色男である、主婦でも名前を知っている。
焦った声が返ってくる。
  「そんなただの上忍より俺の方が絶対いいぞ、
  なんといっても今旬の砂隠れの里のトップだからな。
  そうそう、組み立てた後ピースをばらばらにすると、砂分身を使ってる気分になれるぞ」
  「ふ〜ん、そうなんですか。
  でも、カカシは1箱しか残ってないけど、我愛羅は3つもありますよ」
女の返事に少ししょげたような声が聞こえる。
  「‥‥世の中違いの分らない人間が多いものだ、うちの上役どもと同じだ」
  「ん?なんの話‥‥」
  「‥‥忘れろ。ともかく俺を持って行け、絶対お買い得だからな」
  「そうですか‥‥」
  「くどい、さあ、早く手に取ってレジに行け!」
  「わかりましたよ、もう!」
「ありがとうございました〜」
  女は一体今の会話は何だったのかしら、といぶかりながら店を出て行った。
「これであと残り2つだ、もうちょい物まね頑張るじゃん!!」
  売り場の影から風影の兄のひとりごとが漏れ聞こえた。
このパズルが売れてしまえば、砂隠れの里からのパズル肖像権枠がもう一つ増えるのだそうだ。
  果たして次の候補が誰かは‥‥サソリという説が有力だが‥‥敢えて触れないでおこう。
  弟思いの兄のためにも、まさか抜け忍がポスト風影とは言えまい(あくまでパズルの話だが)。
いや、彼が果たして本当に『弟のため』にこのばかばかしい任務をこなしているのどうか。
  それこそは、触れてはならない禁断のテーマなのである。
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