*策士*

デート前なのか鏡の前で出発前の準備に余念がないテマリ。
彼女のチャームポイントである目元をいかにうまく強調して、
メヂカラUPするかに腐心しているご様子。

開かずの扉を横目で見ながら、廊下で順番待ちの弟達がうわさ話。

「なんだよ、どうせ任務の時にひでぇ格好もみせてんだから今更、じゃん」

夜中の任務帰りで、くずれかけのクマドリを早く落としたいカンクロウが
いらいらしながら文句。

「‥‥自称『女心に詳しい』はずのお前がえらくつれないな」

弟というものは、だいたいにおいて兄の言動で突っ込める所は
スキなく突っ込まなければいけないと思い込んでいるフシがある。

「な、なんだよ、そんなことねえじゃん」

あっさりスキを見せるのも兄の兄たる所以か。

「‥‥まあ、俺にもここまで時間をかける必要があるのかどうかは、
正直なところ、はなはだ疑問だが」

我愛羅の目のまわりのクマは洗ったってとれないのだが、守鶴がお留守になって以来
眠気というものを覚えてしまったので、実は彼も顔を洗いたいらしい。

めいめいあくびをかみ殺す。

ガラッ

目元パッチリのテマリが出てくる。

黙ってりゃいいのにここで突っ込んでしまうのが、
兄であり弟であるカンクロウの悲しいサガ。

「ちょっと化粧濃いじゃん。
厚化粧は癖になるぜ」

ジロリと彼らを一瞥するとテマリが言い捨てる。

「あんた達2人は天然にしろ、人工的にしろ、
ぐりぐり遠慮なくアイラインが引けていいね。
女はそうはいかないのさ」

「‥‥俺とカンクロウを一緒にするな!
俺はやんごとなき理由でこうなっているだけだ、趣味で厚化粧をしている
コイツと十束ひとからげにされるのは迷惑だ!」

「なんだと?!
これは装束とセットの隈取りだ、女々しい化粧とは違うんじゃん!
それに俺は素顔になったらお前みたいななじじむさいクマなんかねえぜ!」

さっきまでのなごやかな雰囲気が一気に険悪なものに変わる。

自分への非難を、弟同士のもめ事に見事にすりかえた張本人テマリはとうにいない。

弟二人は、今日も姉の策略にきれいにハメられた事に気づかず
不毛な兄弟喧嘩を繰り広げるのだった。

 

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