『桜吹雪』

よかった、よかった、よかった‥‥
こてんぱんにやられて弟連れてかれたんだぜ、全然よくねえじゃん、といくら言ってもこいつは聞いてない。
よくこんだけ涙があるなあと変に感心しちまうぐらいぼろぼろ涙をこぼして、同じ言葉をくりかえすだけ。
お前それでも忍びかよ、そう泣くなよ。
‥‥だけど考えてみりゃ、強気なこいつがこんなに泣くのは初めて見る。

久しぶりに出た外は桜吹雪。
こいつの涙も桜の花びらみたいに次々舞い落ちてくる。
黙って二人ベンチに腰掛けたまま。
もういいって、わかったじゃん、心配してくれてありがとな。
小刻みに上下する肩をまだ少し痺れの残る手で抱き寄せてつぶやく。

俺が倒れてから回復するまでの間、見舞いに来たくても里全体が警備を強化している都合上、
上忍のこいつも持ち場を離れる訳にはいかず、ようやく今日隙間を縫って俺に会いに来てくれた。
病室へいったらもぬけの殻なんで血の気がひいたんだと。
フン、勝手に殺すなよな。
中庭でぼ〜っと座ってる俺を見つけるなり、この有様。
混乱してる里の状況ではいろいろ情報が交錯してて、俺の容態もまったくわからないまま。
極度の緊張の糸が切れたってとこか。

さくら散る、か。
俺の実力もこんなもんか。
「‥‥今は、自分の体のことだけ考えて‥‥たまには人に任せなよ‥‥」
俺の心を見透かしたようなつぶやきが聞こえた。
「カンクロウが無理矢理追っかけたおかげで追跡も容易になったんだから‥‥
みんなを信じて、今は待つのがあんたの役目だよ。
‥‥風影は‥‥帰ってくるよ」
春風に髪をなぶられながら、赤い目をしたこいつが言う。
返事はしなかったけど、その言葉はすとん、と抵抗なく俺の心に収まった。
頬がスースーする。
へん、柄にもない。
花吹雪があいかわらず俺たちを取り囲むように渦巻いてた。

 

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