*ハンカチ王子*

「‥‥ハンカチがない」
現在砂兄弟は出勤のため最寄り駅に向かって爆走中。
「なんだ、初日からだめじゃん」
社会人先輩のカンクロウがここぞとばかりに兄貴風を吹かす。
「‥‥売店で手に入れればすむことだろう」
不満げな我愛羅。
「でもラッシュ時の売店はすげえからな〜。
ま、オバちゃんに優先してもらうコツを伝授してやるよ」
ネクタイを締めながら兄は言う。
「なんだ、オバちゃんという人種は特殊なのか」
自分もネクタイをまっすぐにしながら弟。
「これほどえこ贔屓の激しい人種もめずらしいぜ。
逆にうまくとりいればなんでも一番にしてもらえるけどな」
よくわからない、という顔の我愛羅。
兄弟は息を切らせることもなく駅へ滑り込む。

売店は大盛況。
「ホレ、見てろよ」
カンクロウはすっと人ごみへ入り込むと
おねえさん!コレちょうだい!」
と、明らかにオバさん以外の何者でもない売店の女性に呼びかけた。
効果抜群、彼女は他の客に見向きもせず
「ハイ、200円ね」
と順番をまるで無視してカンクロウに商品を渡した。

「ホラ、こうやるんだよ」
不満げな我愛羅の背中を押して、
はやく買えよ、おくれるじゃん、と急かすカンクロウ。
「‥‥俺は嘘をつくのは嫌いだ」
「嘘も忍具じゃん」
「‥‥フン」

しばらく腕組みをしていた我愛羅はやおら声をあげた。
「オイ!」
凍り付く群衆。
「オイ、女!」
頭を抱える兄。

「すまんが‥‥ハンカチをくれ」
お金をクマちゃん財布からとりだしながらぼそっと我愛羅が言う。

すると。
少女のように頬をそめた店員はハンカチを差し出した。

所詮女性というものは年齢に関係なく、
『かっこいい』『あんた何様オレ風影様』タイプの
タカビーでヘタレなこの手の行動に弱いと証明された瞬間だった。

電車の中で兄がブンムクレになり、一言も口をきかなかった原因を
張本人たる我愛羅はわかっていない。

*閉じてお戻り下さい*