芸術の秋

ということで、柄にもなく名作絵画鑑賞中の3人。
なに、デパートのセールの手伝いに駆り出されたついでに、
タダ券で最上階の美術展をのぞいているだけなのだ。

趣味が植物観賞だけあって美術鑑賞も楽しんでいる様子のテマリ。
だいたい挙動物言いがおじんくさい我愛羅は古典がよく似合う。
‥‥つまりカンクロウ以外は浮いてないという事だ。

「‥‥なあ」
「うるさいなあ、人がせっかく芸術作品に見入ってるのに、なんだよ」
「この絵、なんか、我愛羅に似てねえか」
カンクロウが指差したそれは‥‥モナリザ。
「‥‥‥」
「ほら、この薄ら笑いといい、眉毛ないとこと言い‥‥
まあこれは女だけどさ、似てるじゃん」
「‥‥‥」
「ほれ、背景もさ、なんかいかにも荒れてて砂の里と似てるじゃんよ」

まんざら当たらずとも遠からずではあったが
芸術音痴のカンクロウの言う事をすんなり聞くようでは姉弟はやっていられない。
「全く、カンクロウには芸術は向かないな」
「フン、ほっとけ、先に売り場に行ってるじゃん」

自分でもこの手の芸術には向かないと自覚しているカンクロウが
その場から立ち去ると同時に、我愛羅がこちらへやってきた。
と、くだんのなぞの微笑みを浮かべた女性の前で足を止める。

「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」
一体何を考えているのか、その乏しい表情から
内面のトークを読み取るのは至難の技だ。

「気に入ったのか?」
ほっておいたら休憩時間全部をこの絵の前で過ごしかねない様子の我愛羅に
テマリがおそるおそる話しかける。

「‥‥表情が素晴らしい‥‥‥。
‥‥このいわくありげな微笑みが‥‥‥
彼女の隠された過去を知りたいと言う欲求を‥‥‥
見る者すべてに起こさせずにはいられない‥‥」

我愛羅は真剣に語っているのだが、さっきカンクロウが
「我愛羅に似てる」発言をかましたために
テマリも彼の言葉を素直に聞く事が出来ない。
まるで自画自賛を聞いているような錯覚に陥いってしまう。
荒涼とした背景が、また、砂の里を連想させる。
見ようによっては姉弟が向かい合っているようにも見える。

「ぷっ」
つい、吹き出してしまったテマリに不審な眼を向ける我愛羅。
「‥‥どうした‥‥」
「な、なんでもない‥‥くくくく」

抑えようとするとさっきのカンクロウの「眉なし族」発言が蘇り
また笑いが漏れてしまう。
眉間にしわを寄せ、我愛羅がため息をつく。
「‥‥しょせん、お前らにはわからん世界だ‥‥くだらん」
我愛羅もぷいっとそっぽを向いて出て行ってしまった。

取り残されたテマリは、申し訳ないと思いながらも
モナリザの微笑みを見ると対照的な弟二人の事を考えてニヤケがおさまらず
自分も早々にその場を引き上げたという。

‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
‥‥‥‥お気づきの方のいるでしょうがモナリザも実はちょっぴりひび割れてます

 

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