『不正乗車』
      
  「おい、なにぐずぐずしてんだ、はやく出て来いカンクロウ!」
  テマリの容赦のない声が改札口に響く。
  
  改札口付近の人の目があせるカンクロウに集中する。
  「うるせえんだよ、俺だって好きで鳴らしてんじゃねえじゃん。
  なんだってこの自動改札はチンコンカンコン鳴るんだよ、ええい黙れ!」
  怒鳴りながらえいっと今一度カードを通すと、今度はなぜかすんなり扉が開く。
  
  先に改札を出てカンクロウを待っていた二人のところへ足早に駆け寄る。
  「ハー、まったく失礼な機械じゃん、ちゃんと新しいカード通してんのによ」
  
  「‥‥‥ちょっと、そのカードを見せてみろ」
  我愛羅がカンクロウの手からカードを取って裏返す。
  ショッキンググリーンを背景にマッタをする大男の絵が見えた。
  「‥‥なんだ、このカードは?どう見ても乗車カードじゃないぞ」
  あきれ顔の我愛羅とぎょっとした表情のカンクロウを尻目にテマリが大笑いする。
  「お前バッカじゃないの、こないだ買ったデジ音用プリカじゃないか。
  カード入れ違えたことに気がつかなかったんだな。
  どおりで警報が鳴りまくるはずだよ」
  
  姉にバカよばわりされて、しかし、やったことは本当にバカなので反論できず、むくれるカンクロウ。
  しかし彼の性格上、何か言い返さずにはすませられない。
  「ま、気合いで通れたんだから知らないってことは強いジャン」
  「何言ってんだよ、アタシは知ってて通ったんだから、一枚うわて」
  見ればテマリの手にもピンクのカード。
  「テマリッ、おまっ、わざとやったのかよ?信じられねえ奴じゃん‥‥」
  「フン、度胸を付けるには日常不断の訓練が必要だって、
  ホレ、車内の英会話学校の広告にも書いてあるじゃないか」
  なにかが違うのだが彼女がそう言ったら、そう受け取るしかない。
  砂三姉弟、波風をさけるの法則。
  
  「‥‥‥フン、お前達何か俺に隠してるんだろ」
  「「え?」」
  きょとんとする二人に不機嫌丸出しで我愛羅が愚痴る。
  「人が里を助けようとして大変な目にあっていたというのに、仲のいいことだ」
  何かが違うのであるが、3匹目のコブタ我愛羅がすねたらどうしようもない。
  上の二人は大慌てで、プンプンしながら先を行く我愛羅をなだめに走っていった。
  
  改札口のおじさんは、我愛羅が通った時に子供用ランプがついたのに気がついていたのだが......
  取込み中の砂三姉弟に話しかける勇気は、持ち合わせていませんでしたとさ。
    
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